転生先で行き倒れを拾った結果。   作:如月雪見

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霊術院に戻るまでの間、惣右介に平子家の生活習慣を身に付けて貰う日々。


観察再開。



取り敢えず分岐6/先に誰かが拾ったけど…の後3

 

 

惣右介を家族に迎えて早7日。

 

「…おはようございます」

「お早うさん」

 

…今日も余り眠れていないな

 

惣右介が自室で寝るようになってから3日経った。

日に日に目の下のクマが濃くなって来ている。

それでも彼は一度も寝坊する事無く、起床時間には必ず起きて来る。

 

…惣右介にとって、此処が安心出来る場所だとはまだ思えていないんだろうな

 

日中、欠伸を噛み殺しているのも何度か見ているし。

 

…そろそろ寝不足で倒れるんじゃ無いだろうか

 

 

 

懸念していた通り、睡眠不足の惣右介は片付け中に手を滑らせて拭いていた陶器を割った。

 

ガッシャァァァン!

 

「っす、すみません!」

「触んな!」

「ひっ…」

 

ビクッ!

 

硬直した惣右介を抱き上げて割れた陶器から離れた。

台に座らせて、足を隈無く調べた。

 

「怪我無いか!?」

「…え?」

「…切り傷が1ヶ所だけ…他は…無いな、うん…取り敢えず手当てが先や。道具持って来るさかい、此処に座っとき。えぇな?」

「…はぃ」

 

手当てを終えて、俯いている惣右介の肩に手を置いて話しかけた。

 

「…これでもう大丈夫や。さっきは大声出してスマンかったな。驚いたやろ?」

「ぇ…い、いぇ」

「割れた陶器は危ないからつい、な」

「…ひらこさんはわるくないです。そもそもぼくがおとさなければよかったんです。ごめんなさい」

「形あるモンはいつか壊れる。ってか、ちょうど良かったわ。あれ他のと違ぅて棚に仕舞い難かったもんなぁ~。これで惣右介の食器がすんなり入れられるわ」

「…ぇ?」

 

惣右介から理解出来ないものを見る目を向けられた。

 

…まぁ、陶器が割れて良かったとか言われたら、困惑もするか

 

「さて、片付け再開しよか。割れたのはウチがやるさかい、惣右介はこっちのやっといてや」

「は、はい」

 

 

 

片付けを終えた後、惣右介の部屋に布団を敷いた。

 

「…ひらこさん?なんでふとんを?」

「お昼寝するからに決まっとるやろ」

「え…そうじは」

「1日くらいやらんくても死なんわ。ってか、もっと早くにお昼寝導入すべきやったなぁて、反省中や」

「…え?」

「惣右介が余りにも優秀やからなぁ…教えた事直ぐに覚えるもんやからつい、あれもこれもって詰め込んでもうたわ。惣右介の体力の事そっちのけでなぁ…いやぁ、ホンマゴメンなぁ」

「いえ、ひらこさんはいずれしんおうれいじゅついんにもどらなければならないんですから、それまでにぼくにいろいろとおしえておこうとするのはあたりまえだとおもいます」

「それで惣右介に無理させたら本末転倒やで。良ぇからほれ、お昼寝するで」

 

手招きして惣右介を布団に寝かせた。

 

「…眠れんくても、横になっとるだけでも大分違うからなぁ…寝れたら御の字くらいに思っとき…ふぁ…お休み」

「…お、おやすみなさ…ぃ」

 

惣右介は、恐る恐る私の袖を掴みながら目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

藍染惣右介視点。

 

平子さんの部屋で毎晩眠るのは流石に拙いと思い、与えられた部屋で寝る事にしたものの、殆ど眠れない日が続いている。

…また、眠れなかった

その所為で頭が上手く回らず、身体の動きも鈍い。

ぼくの状態に気付いているだろう平子さんだけでなく、お医者様や助手さんにも心配された。

…平子さんは後半月もしないうちに真央霊術院に戻ってしまう

…その間に覚えなければならない事はたくさんあるのに

…こんな様では平子さんに呆れられる

…そうしたら

ツルッ…

「ぁ…」

ガッシャァァァン!

…しまった!

慌てて割れた陶器を拾おうとして、平子さんに大声で叱責された。

…やってしまった

…平子さんに怒られてしまった

…このままじゃぼくは

   ま た す て ら れ る

思わず青ざめた。

が、ぼくの予想に反して平子さんはぼくの足の怪我の手当てをして、怒鳴った事を謝って来た。

ぼくが陶器を割らなければ良かっただけなのに、その事に関して何ひとつ怒らなかった。

寧ろぼくが優秀で、何でも直ぐに出来るものだからつい、ぼくが子どもなのを忘れて休む事を教えていなかったと謝られた。

…何で怒らないのだろう

…物を壊したのに、ぼくの怪我の心配をするなんて

…まるで、おばあちゃんみたいだ

そんな考えに至ったと同時に、ぼくを置き去りにしたあの人の顔が浮かんだ。

…平子さん、貴女はどちらですか?

…ぼくは、貴女を信じても良いのですか?

布団を敷いて、お昼寝をする平子さんの袖を恐る恐る掴みながらそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「…漸く眠ったようやな」

 

予想以上に惣右介の精神状態は宜しくない。

だって、彼はまだ人生経験の少ない子どもなのだ。

本来ならば守られる立場なのに、身勝手な大人達に振り回された所為で、人と関わる事に躊躇いと恐怖を覚えてしまっている。

頭が良いのも相まって、より強いトラウマになっている様だ。

 

…霊術院に行ってさえいなければ、惣右介のケアに専念出来るのに

 

自分は現役の隊長達に期待されている特待生。

どんな理由だろうと、入学して半年も経たずに長期休暇なんて出来る訳が無いだろう。

太鼓判を押した京楽と浮竹だけでなく、回道の特別講師に来た卯の花の顔にも泥を塗る事になる。

※彼女から直々に「卒業後は我が隊に是非」とまで言われた。

 

…休暇申請を出せない以上、残りの期間で、どれだけ惣右介をフォロー出来るかにかかってるよなぁ

 

現状、惣右介の心の拠り所は祖母の形見の宝箱だけである。

 

…新しい拠り所が出来れば良いんだけどなぁ

 

先生達はあくまでも診療所の建て直しが終わるまでの居候。

惣右介もその辺りを理解して、明らかに線引きして接している。

そして、同年代の子との交流も無かったのか、友介と遊ぶ事はおろか、会話すら殆どしない。

友介も、そんな反応しか出来ない惣右介とは無理に距離を縮めようとしない。

ご近所さんにも惣右介の事を頼んで行くけれど、当の本人が彼等と上手く接する事が出来るまで、かなりの時間を要するだろう。

何せ、ご近所さんが来たら会釈はするものの、直ぐに部屋に引っ込んでしまい、ご近所さんが帰るまで出て来ない。

特にガタイの良い男性は駄目らしく、その場で硬直して過呼吸を起こしてしまう。

 

何度思い返しても、今まで一緒に過ごした子達の中で、此処まで繊細で難儀な子は居なかった。

 

…真央霊術院に戻るまでの間に、少しでも打ち解けてくれたら良いんだけどなぁ

 

「…今は目一杯、ウチや周りの大人に甘えて、自分が大きゅうなった時に困ってるジジババや、小っちゃい子に手を差し伸べられる人になってくれたら嬉しいんやけどなぁ…」

 

袖を掴んだまま眠る惣右介の頭をそっと撫でながら、自分にとって都合の良い夢物語を呟いた。

 

 

 

 

 

 

藍染惣右介視点。

 

久し振りに夢を見た。

祖母と2人で良く行った小さなお店の帰り道。

祖母の手、しわくちゃだけどとても温かい大好きな手を握り返して歩くこの時間が、掛け替えの無いものだったとは知らなかった。

不意に祖母が居なくなり、暗闇の中にひとり佇んでいる事に気付いた。

…おばあちゃん?どこ?

暫くの間、只管周囲を見回していたら、仄かな光が見えた。

…だれかいる

…おばあちゃんだ!

見覚えのある後ろ姿に駆け寄った。

おばあちゃんは誰かと話をしている。

…だれ?あかるくてみえない

…おばあちゃん、だれとおはなししているの?

ー惣右介ー

…おばあちゃん?

ーおばあちゃんね、もう行かないといけないのー

…え?どこに?

ーずっとずぅっと遠い所なのー

…ぼくもいく!

ー惣右介がね、おばあちゃんと同じ所に来れるようになるにはね、もっと大きくなって、おばあちゃんみたいに長生きしないと駄目なのよー

…そうなの?

ーえぇ、また会える日を楽しみにしているわ。その時はたくさんお話しましょうねー

…うん

…あれ?

いつの間にか、自分の左手を優しく握る誰かが隣に立っていた。

…だれ?

ー惣右介の事を宜しくお願いしますー

深々と会釈する祖母に同じくらい深いお辞儀を返した人の顔が見えた。

…あなたは

「…う…ぅん…?ここは…?」

そこで目が覚めた。

 

 

 

 

 

「お、起きたん?どや、良ぅ眠れたか?」

「…ひらこさん?」

 

おやつの時間どころか、日が暮れ出すまで眠っていた惣右介が寝惚け眼でのそのそと起きた。

だいぶ顔色が良くなったのを見て、安心した。

 

…ちゃんと眠れたみたいね

…それにしても

 

「ぷっ…惣右介、凄い寝癖やで」

「え…」

「直したる、櫛何処や?」

「あ、はい」

 

…まだ寝惚けてるのかな?

 

素直に櫛を渡して、寝癖頭を此方に向けて来た。

今までは、こういった事で私の手を煩わせたくないと、自分でどうにかするのに。

 

「…良し、出来たで」

「ありがとうございます」

 

…気の所為かな?

…惣右介との距離が近くなった気がする

 

この日以降、惣右介は少しずつ遠慮する事を止めて、平子に甘えるようになった。

 

…何が切っ掛けかは解らないけど、良い傾向だわ

…願わくば、私以外の人とも良い交流関係が出来るようになれば良いな

 

 

 

 

 

 

藍染惣右介視点。

 

目を覚ましたら平子さんの袖どころか、右手を握っていた。

…ぼくは確かに袖を掴んで目を閉じた筈

…いつの間に平子さんの手を?

目を覚ましても手を離さないぼくの顔を見て、平子さんはホッとした表情を浮かべた後、寝癖を指摘して来た。

余程酷い寝癖らしく、平子さんは堪え切れず笑っている。

…そんなに酷いのかな?

直してくれると言うので、お願いする事にした。

ぼくの今までに無い反応に驚きつつも、嬉しそうに寝癖を直す平子さんを鏡越しに見て、先程の夢を思い返していた。

…おばあちゃんの夢を見たのはいつ振りだろう

…いや、夢を見る事そのものが久し振りだ

…ぼくにとって凄く都合の良い夢だったけど

…それでも、おばあちゃんがぼくを託した人がこの人なら

「…良し、出来たで」

「ありがとうございます」

…この人は、平子さんはあのおじさんとも、あの女の人とも違うって、信じても良いですよね?

「そろそろ夕食作らなアカンな。何にしよか?卵が手に入っとるから…茹で」

「ゆでたまごはいやです」

「お?そうなん?あれ?でも一昨日…」

「くちのなかでこう…はとかにくっつくのがにがてなんです。おとといのはおみそしるとおちゃでどうにかしました」

「せやったか…ん~…ほんなら、茶碗蒸しにでもしよか?」

「はい」

率先して自己主張を余りしなかったぼくがハッキリと意思表示をした事に驚いた表情を浮かべ、そして嬉しそうに笑う平子さんの左手を握って台所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観察記録XXX

藍染惣右介、別の観察対象からの仕打ちが強いトラウマとして記憶に残っている為、対人関係の構築に苦戦している模様。

観察対象の平子真子(♀)、何処まで踏み込んで良いか手探り中らしい。

 

 

 

観察記録XXX

藍染惣右介、祖母の夢を見た事で勇気付けられたのか、平子真子(♀)に思った事、言いたい事を口にする頻度が上がったように見受けられる。

観察対象の平子真子(♀)藍染惣右介の変化を読み取り、その都度、彼がありのままで居られるように余程の事が無い限り、肯定的に接するようになった。

 

 

観察継続。





今回、唯一の身内である祖母の夢を見て、躊躇いつつも大きな一歩を踏み出せた藍染。

オリ主が真央霊術院に戻るまであと約2週間、彼等はどう過ごすのだろうか。






気付けば3話に収まらなくなってしまいました。
〈オリ主よりも先に誰かと出会い、直ぐに置き去りにされた〉この要素を入れただけで、此処まで苦戦するものとは…。

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