藍染惣右介が観察対象の平子真子(♀)に心を開くようになった。
長期休暇終了まで残り半分を切った平子(♀)と惣右介はどう過ごす?
観察再開
惣右介との距離が少し縮んだと感じてから更に数日経った朝の事。
「おはようございます、しんじさん、フミさん。ゆうすけくんおきましたよ」
「…ふぁ~ぁ…おふぁよぉ…」
「お~、おはようさん」
「ちょっ、友介、何やのその頭は!」
「ん~?」
「どない寝方したらそない寝癖付くん?後ろ髪は無事やのに前髪がエラい事なっとるで。帯は…また惣右介にして貰うたなぁ?せやろ?」
「ん~…」
「あぁもう、手の掛かる子やなぁホンマにもう!」
まだ目をショボショボさせている友介の寝癖を直す為に手拭いを濡らして直すついでに、顔も少し乱暴に拭くフミさんを見ていた惣右介が口を開いた。
「…はなしかければへんじはするし、てをひっぱればじぶんであるくからだいじょうぶだとおもったのですが…おびのことよくわかりましたね、しんじさん」
「…まぁなぁ。友介が結んだらあぁはならへんからなぁ…それはそうと、友介連れて来てくれておおきにな。連れて来ぉへんかったら絶対二度寝したやろうし…さて、惣右介は食卓これで拭いてくれへん?それ終わったら、もうちょいで朝食出来るん先生に教えて来てや」
「はい、わかりました」
友介をフミさんに任せた惣右介は濡れ布巾を手に、茶の間へと向かって行った。
…挨拶以外の会話にも、ちょいちょい加わるようになってきたし
…良い傾向だわ
朝食後、片付けの最中に惣右介が少し躊躇いがちに聞いて来た。
「…しんじさんって、なにかをするとき…おもいものをもつときとかに、なにかつぶやいてからもちあげたりしますよね?あれ、なんですか?」
「…耳良ぇなぁ惣右介…」
前々から…それこそ蔵掃除の時から気になっていたらしい。
…最初から気付いてたんだ
…流石は藍染だなぁ、うん
「あれはなぁ…」
私だけが使える特殊な能力で、幼少からお世話になっている人達はみんな知っているものだと教えた。
「例えば…〈軽量〉…よっと」
「えっ!?し、しんじさん!?」
まだ中身が半分以上残っている台所で1番大きな水瓶を、胸元まで難無く持ち上げた。
「ほれ、持ってみぃ」
「え!?む、むりですよ!」
「良ぇから、ほれ」
「うわっ…!?え?かるい?」
「その壺に〈軽量〉っちゅう魔法をかけてあんねん。魔法をかけられた対象は言葉通り軽ぅなるんや」
「…それは、いきものにもかけられるんですか?」
「出来るで」
「…す、すごいです!」
目を輝かせる惣右介から水瓶を受け取って、元の位置に戻してから魔法を解除した。
「続きは片付けの後にな」
「はい!」
片付けの後、洗濯と掃除では〈洗浄〉でしつこい汚れを取り除き、時間短縮する為にと洗濯物を〈乾燥〉でしっかりと乾かして見せた。
「すごい!すごいです!この〈まほう〉、ぼくにもできますか!?」
「う~ん…素質があれば出来るよぅなれる思うけど…」
「けど?」
「今は教えんよ」
「え…」
明らかにガッカリ顔になった惣右介の頭を撫でながら、教えない理由を説明した。
「あのな、意地悪言うとるんやのぅてな、単純に教える時間が足らんのや。素質があれば誰でも使える〈基礎魔法〉だけでも全部身に付くのに数年はかかるんやで?あと数日で霊術院戻らなアカンのに中途半端に教えて、惣右介に何かあったら、それこそ悔やんでも悔やみきれんくなるわ」
「あ…」
「せやから、教えられんのや。堪忍な」
「いえ、それならしかたないです」
残念がりながらも、理由が理由だからと納得してくれた。
「では、それとはべつに、もうひとつおねがいしてもいいですか?」
「ん?」
「…真央霊術院に行ってみたい…なぁ」
「だめですか?」
「ん~…ウチは構へんけど…休みっちゅうてもそれなりに人居るで?大丈夫なん?」
「う…でも、どんなところなのかしりたいです」
「…さよか。無理やったら我慢せずいつでも言い。この約束守れるんなら連れてったる」
「…はい!」
「ほな、準備せなな」
「じゅんび?」
「場所が場所やさかい、ウチ1人でも途中で泊まらんとアカン所にあんねん」
「え…そうなんですか?」
「せや。さ、荷作りするで」
「あ、はい」
昼食の時、急遽真央霊術院に行く事にした事を先生達に伝えた。
「惣右介君が?」
「はい、きょうみがあるので」
「…家主は真子やからなぁ。ウチらは真子の決定に従うけど…大丈夫なん?」
「ん~…まぁ、何とかするわ。〈奥の手〉はあるしな」
…寮に戻る日を逆算して
…ギリギリ、どうにか間に合わせるとなると
…最悪、〈転地〉を使うかなぁ
…一応、セットはして来たし
…こっちでもセットしてけばどうにかなるでしょ
※〈転地〉…目標地点にある物(者)と対象を転換させる。移動先に転換物を置いて発動する事で現在地から移動先へとひとっ飛び出来る。転換物は何でも良い。今回は瀞霊廷の門近くの木々に、使わない紐を巻いて来た。発動すれば、いずれかの紐と入れ替われる。
昼食後、後片付けその他を先生達に任せて家を出た。
藍染惣右介視点。
真子さんだけが使える魔法を教えて貰えない代わりにと、駄目元で真子さんが通っている真央霊術院に行ってみたいとお強請りしてみたら、どうにか了承を得られた。
…家に帰らず、寮に残っている人が居る可能性は考えていなかったけど
真央霊術院は此処からそれなりに遠い所にあるらしく、着替えと絶対に持って行きたい物だけを包んで出発した。
「…しんおうれいじゅついんはどんなところなんですか?」
「ん~となぁ、瀞霊廷の中にあるんや」
「せいれいてい?」
「此処からはまだ見えへん場所や」
「…そうですか」
「取り敢えず、あの大きな朱い旗目指すで。あれが隣の地区との境界線やからな」
「あ、はい」
その後もぼくの歩幅に合わせて歩き続ける事数時間後、真子さんがぼくを背負った。
「…しんじさん?」
「ちょいとウチだけの裏技使わんと、宿に間に合わへんかも知れんからなぁ…口閉じとき…ベロ噛んだら痛いやろ?」
「…?」
「〈凝視〉…目標捕捉…行くで〈滑影〉」
「…わっ!?」
※〈凝視〉…特定のモノの詳細情報を得る魔法。前世では、複数いる患者の手当ての優先順位を確定したり、患者ごとに必要な医療行為の特定をする為に使用していた。
※〈滑影〉…影の上をスピードスケートのように滑って移動して行く魔法。類似魔法として〈滑闇〉等がある。この魔法を使用中は影或いは闇と同じ存在になる為、他の何かにぶつかる事は無い。緊急事態の時等、目的地に急がなければならない時に使う。
シャァァァァ…シャッ、シャッ、シャァァァァ…
殆ど揺れる事の無い、生まれて初めての高速移動はとても楽しくて胸躍るものだった。
…これも真子さんだけが使える魔法?
…こんな景色が見れるなんて羨ましいな
…やっぱり、ぼくも使えるようになりたい
今夜泊まる予定の宿に到着するまでの間、本来なら絶対に経験出来ない光景を思う存分堪能した。
「着いたで惣右介。大丈夫か?」
「はい!やっぱりしんじさんはすごいです!」
惣右介が酔わないように注意しながら移動したつもりだったが、酔うどころか滅茶苦茶目を輝かせて楽しんでいたようだ。
…うん、流石は藍染
…この程度じゃ、ビクともしないか
〈凝視〉で見付けた、確実に2人一緒に泊まれる宿に泊まった。
翌朝、惣右介の体調チェックをして問題無さそうだから、再び惣右介のペースに合わせて移動を開始した。
「もぐもぐ…このおだんごおいしいです」
「せやろ~?此処の団子はウチの知る限り1番美味い店やで」
「ありがとうございます。此方、近々新商品として出す予定の胡麻餅の試作品です。宜しければどうぞ」
「おぉ~!おおきに!」
「わぁ…」
道中お薦めのお茶屋で休憩がてら、イチオシの団子を美味しくいただき、予定外の嬉しいオマケも堪能して再び〈滑影〉による移動を再開した。
「さて、今夜は此処に泊まるで」
「はい」
「ん~…この調子なら明日の昼過ぎには瀞霊廷に着く筈や」
「…ほんとうにとおいんですね」
「せや。全く…死神募集かけんなら、瀞霊廷の中だけやのぅて、流魂街のあちこちにも講習所建てれば良ぇのに思うわホンマ」
「…おいしゃさまがまんねんひとでぶそくだといっていましたが…たしかにじつげんできたら、もっととおいところのひとがたすかりますね」
「せやろ?…さ、明日も早いさかい。そろそろ寝るで」
「はい、おやすみなさい」
藍染惣右介視点。
翌日、真子さんの言った通りお昼に真央霊術院がある瀞霊廷に辿り着いた。
真子さん曰く、学院の長期休暇によって門の開閉が多くなる為、学院から担当者が来て門番の補佐をしているらしい。
「…では、お通り下さい」
「おおきに。ほな行くで、惣右介」
「は、はい」
真子さんの案内に従って寮に向かった。
寮には真子さんの言った通り、帰省していて留守の札をかけている部屋と帰省しなかった人達が屯している部屋があった。
「…ほんとうに、ここにはいろいろなひとがくるんですね」
「せや。今は少ないけど、休みが終わったらこの3倍くらいの人で埋まるで」
当然だけどすれ違う人達は皆僕よりも大きくて、しかも屈強な男の人が通り掛かる度に、思わず真子さんの左手を強く握り締めた。
…ぼくの方から此処に行きたいって言ったのに、情けない
…大体、あの人達からは何もされていないのに怖がるのはおかしいだろう?
…それに、ぼくには真子さんが居るから大丈夫
…怖くない、怖くない
自己暗示をかけながら、ぼくに合わせてゆっくりと歩く真子さんに付いて行った。
自室に向かう途中、顔馴染み達に軽く挨拶を交わしながらも惣右介の様子を窺ったら、握っている惣右介の右手から緊張が伝わって来た。
まぁ、無理も無い。
惣右介はガタイの良い男に対する根深いトラウマがあるのだから。
…惣右介のお願い事とはいえ、やっぱり安請け合いしちゃったかなぁ
しかし、
「…だいじょうぶ、こわくない…こわくない…」
そうやって自分に言い聞かせるように呟きながら歩く惣右介を見て、その考えを改めた。
惣右介なりにトラウマと向き合おうとしているなら、止めるのは無粋というものだろうと。
「ほい、到着~!ようこそウチの部屋へ」
「おじゃまします」
「…う~ん…思ってた通りやな」
「…そうじ…ですか?」
「せや。ささっと終わらせて、寮の中を案内したるわ」
「はい」
薄らと埃が溜まり始め、締め切っていた所為で空気の循環が悪くなった部屋を〈換気〉しながら〈清掃〉〈収集〉でゴミを集めて塵箱に捨てた。
※〈換気〉〈清掃〉〈収集〉…文字通りの生活における〈基本魔法〉。1人きりの時にコッソリ使っては、「時短、時短~」とか言って楽をしている。
「…なんで、ぼくがしんじさんのいえにきたひに〈まほう〉をつかわなかったんですか?」
「…そりゃ、普通にビックリするやろ?惣右介が」
「う…」
「それにな、死神目指しとる人ならみ~んな出来るとか勘違いさせる訳にもいかへんし…と、ほな、寮の中案内しよか」
「あ、はい」
藍染惣右介視点。
寮の案内が終わって、部屋に戻って来た真子さんは机に向かって何かを書き始めた。
「…なにをかいているんですか?」
「院内見学の申請書や。今は長期休暇中やから錠が掛かっとる教室のが多いさかい、見学の許可自体出ない可能性のが高いんやけど…駄目元で出してみよ思てな」
「…ごめんなさい。れいじゅついんのきまりごととか、かんがえてなかったです」
「何のや。外からじゃ解らん事のが多いんは当たり前やから気にせんとき…っと、出~来た。さ、出しに行くついでに瀞霊廷内の行き付けの店とか紹介したるで」
「あ、はい」
真子さんはぼくのお願いを可能な限り叶えようと、あの手この手と頑張ってくれる。
…真子さんに何かあった時に、霊術院がどこにあるのかを知っておきたかったとはいえ、無茶をさせてしまっているのでは?
「寮の門限に間に合わせる為に、ささっと夕飯とお風呂に行くで」
今更後悔し始めたぼくの頭を撫でながら、あっけらかんとこの後の予定を話す真子さんはどこまでも楽しそうだった。
観察記録XXX
藍染なりに平子(♀)だけでなく、居候中の医者達との交流を深め始めた。
但し、外の人間、特にトラウマを刺激する容姿の者と遭遇すると、相変わらず発作を起こす模様。
平子(♀)、思った事をちゃんと口に出すようになった藍染に安堵を深めたようだ。
トラウマの克服を試みる藍染の努力を尊重し、見守りに徹するつもりらしい。
観察継続
藍染と平子(♀)の距離が縮まったのは良いのですが、終幕までが長いです。
どうやって話を纏めようか、ただいま試行錯誤中です。