この【世界線】の平子(♀)と藍染の着地点は?
件のドラ息子が死んだ後も仕事が立て込む日が続き、家に帰れず2人共隊首室に缶詰状態、仕事以外の話は必要最低限の挨拶がやっとの状態だった。
それも漸く目処が立ち、何とか徹夜は回避出来るようになった。
そして何だかんだ夜更けになったものの、漸く数日振りに家に帰る事が出来た。
「…あ~、疲れたぁ…」
「ホンマになぁ…ふぅ~」
ぐぅ~きゅるるる
2人の腹が同時に鳴った。
「…もうこの辺の店、何処も閉まっとるよなぁ…どないしょか?」
「…確か、米と蕎麦ならあった筈やで…後は、この頂き物の卵と干物に…せや、ずっと帰れへんかったけど、庭の野菜はまだ無事やろか?」
「あ~…庭はご近所さんが世話してくれとる筈や…う~ん…取り敢えず月見蕎麦にでもしよか。米炊くよりは楽やし」
「ほな、汁頼むわ。蕎麦茹でんのは任しとき」
「お~」
※普段は意識して標準語を話す藍染だが、平子と2人きりもしくは余裕が無い状態だと関西弁になる。平子の喋り方が移った影響によるもの。
「ふぃ~、ご馳走さんと…なぁ、時間が時間やし…久し振りに一緒に風呂入らん?」
ゴッ!!
「…っう~」
「…何しとん?惣右介」
「こっちの台詞やでそれは…何言うとんのや真子…」
「いやぁ~…ここのところずっとマトモに話でけへんかったやんか。しっかも傍迷惑な事に巻き込まれたしなぁ~…色々とモヤモヤしとるやろ?お互い。折角やし、垢と一緒に流そぅや」
「…はぁ~…ほんなら布団敷いとくさかい、お湯頼むわ」
平子からのおもわぬ不意打ちに動揺して、足を勢い良くぶつけた藍染は、ジト目を向けながら布団を敷きに寝室に向かった。
藍染惣右介視点
あの傍迷惑なドラ息子の件について、無事に情報共有を済ませた後、真子に強請られるままに背中の流し合いに髪の洗いっこをした。
…僕の気も知らないで
こういう時、未だに子ども或いは弟扱いされていると思わざるを得ない。
とても腹立たしい事だ。
「ふぃ~、サッパリしたなぁ~」
「あぁもう、髪ちゃんと乾かしぃや。畳に水滴落ちとるやんか」
「ん~?あ~…惣右介頼んだわ~」
「…はぁ~」
完全にだらけきった彼女は、こうなると後はそのまま勝手に寝てしまう。
案の定、髪を乾かし終えた頃には
「…う~…ふぁぁ…ん~…」
僕に背を預けたまま眠ってしまった。
…今日も無理か
…否、そうやって先延ばしにして来たからこんな状況になっているんだ
…今日こそ強行突破させて貰う
「…ほな、僕だけで月見酒と洒落込むかぁ」
(滅茶苦茶小声で囁いた)
「…さけ?酒!?」
ゴッ!!
「がっ!?」
酒に目が無い彼女は、目を輝かせて勢い良く飛び起きた。
僕の顔に頭突きをして。
「っう~…」
「あ…スマン惣右介」
惣右介に髪を乾かして貰っているうちに何時ものウトウトが始まった。
疲れもあって本格的に寝落ちる寸前で、惣右介が聞き捨てならない事を言った。
…私を差し置いて自分だけ楽しむのは許さない!
折角、総隊長に直談判して私達2人の休みを明日丸1日もぎ取ったんだ。
ちょっと深酒したって問題は無い。
すっかり目が覚めた私は、嬉々としてぐい呑み用の器を取り出した。
「「乾杯(!)」」
ゴクゴク…
「…っはぁ~、美味いわぁ~」
「…うん、流石は京楽隊長、えぇ酒やわ」
「京楽隊長?」
「真子が書類提出行っとる間にな、差し入れ言うて置いてったんや」
「あ~、せやったら明後日お礼言わんとな」
「後これ、ようやっと完成したわ」
「お~!試してえぇか?」
「ん」
遂に惣右介が完成させた楽器(この【世界】だと竪琴の形状が1番近い。但し、弦の数と長さが違う)を受け取り、弦を弾いては調律し直して、嘗て前世で最も弾いた課題曲を奏でた。
…うん、寸分の狂い無く弾けたな
「…どや?おかしなとこあらへん?」
「完璧や。流石やなぁ惣右介!」
「さよか…あ~、良かった。これでよぅやっとこれも渡せるなぁ」
「ん?」
惣右介が取り出したのは、常に肌身離さず持ち歩いている祖母の形見の宝箱。
その中から、母の形見である鼈甲細工の簪を取り出した。
「ちょお待ち、何で今それを出すん?」
「僕としてはようやっと出せた思ぅとるんやけど?」
「え…」
たじろぐ私の左手を取った惣右介は、逃がさないと言わんばかりの、決死の覚悟を浮かべた表情で話を続けた。
「僕にとって、初めて会うた時からずっと貴女だけが特別なんや。けど貴女はずっと僕を弟としてしか見とらんのも知っとる。せやけどな、貴女の隣に僕以外の誰かが居るのを想像するのすら嫌や。絶対に耐えられんくて、その誰かを全部手に掛ける自信があるわ」
「なっ…そないな自信今すぐ捨てろや阿呆ぅ!」
「せやから、そうならんように僕を選んでや」
…必死過ぎて怖いし目ぇ据わってるよ
…彼的には一世一代の大告白なんだろうけど
…私にはただの脅迫にしか聞こえないんだよ
…自分以外を選んだらその相手全員消すなんてさ
チラッと簪を手に返事を待っている彼を見遣る。
私の顔に穴が開きそうなくらいこっちを見ている。
心なしか、少しずつ目のハイライトが消えて来ている気がする。
…いや、ひょっとしてとは思っていたけどさぁ
…思ってた以上にとんでもない独占欲を持ってたんだなぁ、この人
…今までの関係に終止符を打ちたいと?
…そんでもって、私達の関係を姉弟から夫婦に変えて欲しいと?
…まぁ、それで彼のやらかす確率を少しでも減らせるんなら、それも有りなのかなぁ
…多分、周りも同意しそうだし
…でもなぁ、その手綱が重た過ぎるんだよなぁ
…かと言ってなぁ
…あ~もう!
思考が堂々巡りし始めそうになるのを無理矢理振り切って、彼の手から簪を引っ手繰った。
「…真子?」
「はぁ~…しゃあない。他人様に迷惑かける訳にも行かんしなぁ、夫婦がえぇならなったるわ。そんかしなぁ、そのヤキモチ焼きどうにかせんと、ウチに面倒かけたり尻拭いさせたら即離縁やからな!」
そう返答した直後、惣右介は私が潰れない程度の強さでギュウウウ~っと抱き締めて来た。
「…おぉきに…ヤキモチは…善処するわ」
「…せめてそこは善処やのぅて、改善するん頑張るわくらい言えやボケ…全く」
その後、だいぶ前に見付けた亡き両親からの〈もしえぇ人見付けて添い遂げる事になったら2人で呑みや〉と書かれた文が括り付けられた小さな瓢箪酒を惣右介と飲み交わし床についた。
翌日、動けない平子の代わりに左頬に平手打ちされた藍染が、上機嫌で家事を全て請け負った。
そして休み明け。
仏頂面の藍染を引っ張って歩く平子の姿を、京楽が見掛けて声をかけた。
平子は差し入れのお酒へのお礼と、藍染と結婚した事、それによって呼び方は変わらないが、書類上必要だからと、名字変更等の手続きをしに行く事を告げた。
「そうかい、それは目出度いねぇ。なのに、当の旦那さんは何でそんな不機嫌なのかな?」
「………」
「京楽隊長、この簪どう思います?」
「…はぁ~…こりゃ中々…しっかり手入れがされてて…大分年季が入っているけど凄く綺麗で…うん、かなりの上物じゃないかい?」
「隊長の目利きは確かですやんね…こない上物、普段使い出来へん言うたら拗ねてもうてん」
「あらら」
「しかも、惣右介のお母ちゃんがお祖母ちゃんに託した形見言うやんか。うっかり落っことしたとか、壊したなんてなったら申し訳が立たへんやろ?せやから何時ものを使う言うたら…この顔や」
そっぽを向いて滅茶苦茶拗ねてる。
「せやから…」
遠慮無く惣右介の懐に手を突っ込んで、宝箱を取り出して中からある物を取り出した。
それは惣右介が以前購入したままの状態で仕舞っていた、白緑色の玉が付いた簪。
「この簪なら使うてやってもえぇわ。そんかし、ウチの使うとったこの簪(赤い蜻蛉玉付き)入れとき。それなら文句無いやろ?」
目を見開く惣右介。
無理も無いだろう。
こんな人通りの多い廊下で堂々と結婚した事だけでなく、知っている人は知っている、真子がずっと大切にしてきた母の形見である簪を、惣右介の宝箱にしまった事は京楽以外の通りすがった隊士達もしっかり見ている。
平子は知らないが、この2人が何時くっ付くのか賭けをしている連中も含めて、間違い無く今日中に多くの隊士達の耳に入るだろう。
旦那の独占欲をある程度満たす為だろう、彼女の思い切った行動に、満足したらしい藍染は何度も首を縦に振った。
「ほな、そろそろ手続き行かな仕事に差し支えるさかい、行くで惣右介。失礼します、京楽隊長」
藍染が中々渡せなかったもうひとつの簪を結い直した髪に挿して、彼の手を引いて平子は専用窓口へと去って行った。
少々(?)難儀な気質持ちの藍染に対して、何時もほぼ最適解を引き出す平子を満足気に見ながら
「…あの調子なら、これからも大丈夫そうだね」
そう独り言ちて京楽は自隊の隊首室へと向かった。
藍染惣右介視点
求婚を受け入れてくれた真子と、彼女の亡きご両親からの贈り物である瓢箪酒を2人で飲み交わし、そのまま初夜も無事終えた。
翌朝、床から起き上がれない真子から
「ちっとは加減っちゅうモンを知っとけや、このド阿呆!!ハゲ!!」
と怒りの平手打ちをされたが、この幸せの前には些細な事だ。
代わりに家事全てを完璧に熟して真子の世話をして、とても充実した1日を過ごした。
しかし休み明け、真子が何時もの簪を挿して出勤した理由に納得仕切れず、つい仏頂面になってしまった。
…僕の伴侶になったのだと、真子を狙う不届き者達に知らしめたかったのに
真子は第一印象で少々損をしがちな容姿だが、ある程度交流すると彼女の良さは直ぐに解り、良からぬ感情を持つ者が未だに後を絶たない。
…だから、目印代わりの簪を変える事で牽制出来ると思っていたのに
名字変更等の手続きをしに行くからと、引っ張られて渋々歩いているところで京楽隊長と会った。
僕が不機嫌な理由に苦笑する彼に少々居心地が悪くなったが、それも真子の行動で全部帳消しになった。
何せ、人の往来が多い廊下で堂々と僕の伴侶になった事を口にしただけでなく、ずっと渡したくても渡せずにいた、席官になったばかりの頃に購入して宝箱にしまっておいた簪と、母の形見だからと大切に使って来た簪を目の前で交換して、結い直した髪に挿してくれた。
平子真子は誰の妻になったのかを周知させる、彼女なりの意思表示だろう。
機嫌を直した僕を相変わらず引っ張りながら前を歩く彼女を見て僕は確信し、誓った。
…やはり、僕の生涯の伴侶は貴女しかいない
…僕の全てをかけて貴女を幸せに
…否、共に幸せになろう真子
これにて終幕。
さて、連載中の小説の執筆頑張ろう。
他にネタが思い浮かんだら、そちらを書くかも知れませんが。