過去のトラウマから対人恐怖症その他色々を患う藍染と平子(♀)+α達の日々。
観察再開
4番隊で診察を受けさせた藍染の現状を5番隊全員と私個人が交流のある者達に共有し、彼に対するNG行為(御法度)についても周知を徹底させた。
「「「「「平子の姐さんが連れて来たのなら!」」」」」
「「「また始まったか。真子のお節介」」」
「「まぁ、何かあった時は何時も通り、な」」
みんなの理解と協力を得て、藍染惣右介の社会復帰を目指した計画は始動した。
先ずは住、自分専用の部屋を用意された事に凄く驚いて、折角用意した寝台を使わずに、部屋の隅っこに丸くなって寝ようとするのをどうにかしようと、私や他の隊士の部屋を見せたり、彼の所持品を寝台に置いたりして、自発的に寝台で眠るようになるまで半年以上かかった。
…ちゃんと寝てくれるようになって良かったぁ
次に衣、清潔さを保つ為に毎日着替えさせようとすると、着た切り雀だった期間が長過ぎて、何処も汚れていないと言い張り、中々着替えない。
…いや、怪我や疲労からくる高熱で、汗たくさんかいてるでしょうが
結局、怪我が治ったと4番隊から診断されるまでは従って欲しいと頼み込んで、渋々だが着替えてくれるようになった。
そして食、基本は1日3食時々2食を身体に覚えさせる事から始めた。
湯冷ましにお茶、果実水や葛湯といった胃に負担がかからない物から始めて、少しずつ流動食の量を増やして、殆ど噛まなくても良いくらい細かくした物へと移行させ、次第に固形物に慣れさせていった。
他にも、人が居ると食が進まないだろうと、1人部屋で時間を決めて食べさせた。
が、ある日から殆ど手を付けなくなった。
取り敢えず食事を持って行き、何で食べないのか聞いてみた。
彼は布団を被ったまま、躊躇いがちに口を開いた。
「どしたん?」
「…たべる…ねる…ずっと…ゴクツブシ…いらない…」
「…はぁ?誰がそないな事言うたんや?」
どうやら、食っちゃ寝生活に不安を覚えたらしい。
何時だったか忘れたが、とある男女の言い合いの中でゴクツブシと言う単語を聞いたのを思い出し、今の自分がそれに該当すると思ったとか。
健康体になる事が当面のすべき事だと伝えたのだが、ある程度動けるようになった=もう大丈夫と認識している藍染からしたらこの状況は不可解でしかないらしい。
それに加えて、安定した食事で増えた体重と伸びた身長にも戸惑っていたらしい。
…いや、痛覚とかにも個人差はあるけどさ
…これやっぱり色々と麻痺してるよね?
…極限状態から脱しただけなのに
私達にとっての治療とは何なのかを改めて教えたら、凄く困惑された。
…本当はもう少し回復に専念して欲しかったけど、仕方ない
…集団生活の下準備として、読み書き算盤を覚えて貰うかな
何とか説得して食べて貰い、筆記用具と箸と小鉢に皿、小豆を持って来た。
怪訝な表情の藍染にいずれは集団生活を送って貰う日が来るから、その下準備をしていく事を説明した。
食っちゃ寝生活を脱してやる事が出来たと安堵した藍染は、熱心に箸の練習、書道の指南書通りにいろは唄の書き写しや写経をして、四則演算と算盤の使い方もあっという間に覚えた。
…やっぱり頭を使う作業は直ぐに覚えるなぁ
…地頭の良さと仕事中毒はこの状況でも健在なのか
予想以上に早く覚えたからと、日本昔話を幾つか見繕って渡した。
知らない事を知るのは楽しいらしい。
他にも、無理の無い範囲内で寝台の上で出来る柔軟体操等を教えた。
身体を清潔にする為に欠かせない湯浴みに関しては、流石に他の男性隊士に任せるべきだと言われ、話し合いの結果、要とギンが担当になった。
全盲と子どもが相手ならそこまで警戒される事は無いだろうし、全盲の相手だとどんなに拙くとも話さざるを得なくなるから、滑舌を鍛えるのにちょうど良いのでは?と進言されたから頼む事にした。
が、彼は幼少期のトラブルが原因で、湯浴みは大の苦手らしい。
…トラウマの克服、出来るかなぁ?
要とギンの協力のおかげで、身体を拭くのは直ぐに慣れて、足湯も何とかなったものの、案の定、半身浴そして全身浴に至るまでかなりの時間を要した。
髪を切るのも結構な時間がかかった。
どうやっても櫛を通せない程こんがらがっている部分を切るだけだと説明したが、人の顔を直接見るのが恐いと全力で抵抗された。
何度も話し合った結果、毎月毛先を一寸くらいのところを切ってはその長さに慣れて貰い、1番の難関だった前髪は、最終的に鼻が隠れる長さをキープする事で漸く妥協して貰えた。
そして1番危惧していた対人関係についてだが、集団行動等と聞けば反射的に身を硬直させるものの、私が対応出来ないところを補助してくれる要とギンとは自発的に話せるまでに成長した。
通りすがりに他の隊士にも挨拶をされれば、小声だが返せるようにもなった。
5番隊隊舎の書庫と言った静かな場所なら自主的に行くようにもなった。
ひよ里や白みたいに声が大きい或いは凄くマイペースにグイグイ来る相手だと、直ぐに怯えるか狼狽えてその場で固まるか逃げ出してしまうが。
…いや、本当に手強かったなぁ
…これまでの人生がハードだったから仕方ないんだけど
「…平子さん?」
「ん?あぁ、用意出来たん?ほな行こか」
「はい」
日中の外出は相変わらず人の目を恐がって出来ない藍染を、少しでも外出させるべく週に1~2回、月光浴に誘う事にした。
彼の部屋から直接外に出られるようにしてあるから、誰にも見られずに2人でゆっくり散歩を楽しんだ。
相変わらず、私の左手をしっかり握って視線を彷徨わせながら歩くものの、人を見ていきなり逃げ出す事はなくなった。
時々、夜空を見に出かける要も交えての天体観測も出来るようにもなったから、藍染からしたらかなりの進歩だろう。
月光浴から帰って来て解散する時に、藍染が部屋の前で日光浴をしてみたいと私と要に言ってきた。
焦らず、無理をせず、藍染のペースを守っての社会復帰は確実に前進していると実感出来た瞬間だった。
藍染惣右介視点
平子真子さんが後見人となり、真央霊術院?に入学する為に、ぼくに足りていない物を身に付ける為の生活改善とやらが始まった。
そこからは驚きしか無かった。
先ずはぼく専用の部屋が用意された。
全て新品の寝台に布団が敷かれ、服、下着の入った立派な棚、草履に下駄まである。
作業をする為の台とは別に食事用の小さな台も備えられた。
…めまいがする
良くて空き家、廃屋の片隅で息を潜めて休むか、野宿が当たり前だったのに、与えられた環境が余りにも違い過ぎて、部屋の隅で丸くなるのが精一杯だった。
(様付け以外なら好きに呼んで良いと言ったので)平子さんは怪我の治療に最適な環境だからと、寝台で寝るようにと説得して来たが、無理なものは無理だと拒否した。
百聞は一見に如かずだと、布団を被ったままで良いからと、平子さんの部屋に連れて行かれた。
彼女の部屋は、ぼくのよりもずっと広くて色々な物が置いてあった。
他の隊士の部屋も見せながら、ぼくの部屋は1番狭くて最低限の物しか置いていないのだと説明された。
そして、まだ処分されていなかったぼくが身に付けていた物を枕元に置いたら寝る気にならへんか?と提案されて、取り敢えず横たわる事に慣れる事から始めた。
…ボロボロで既に捨てられたと思っていたのに
…洗っただけでなく、縫い直してくれたなんて
破れてそのままだった裾は勿論、あちこちに開いた穴も綺麗に塞がっている。
宝箱とその戻って来た物を抱き締めて漸く落ち着く事が出来た。
そして何故か毎日着替えさせられた。
夜着ているのは寝間着で、起きたら服に着替えるよう言われたので取り敢えず従うが、下着も替えろと言うのは本当に意味が解らない。
何処も汚れていないと言っても、
「ぎょうさん汗かいとるんやから背中とか気持ち悪いやろ?」
と聞かれても背中や脇がいつも濡れているのは当たり前だから、気持ち悪くないのかと聞かれても何が気持ち悪いのか解らない。
平子さんは毎日着替えて欲しいらしく、せめて怪我が治るまではと頼んでくるので、従う事にした。
…彼女を困らせるのは良くないだろうし
何もしなくても出て来る食事は温かいけど、味とやらが全く解らない。
そして、足りていなかった栄養を与えられたから身体が大きくなったのだと、体格に合わせて新しい服と下着を渡された。
…まだ着れるのに取り替え?
…これ以上大きくなるのが恐い
…何だか身体が重くなった気もするし
…何かあった時に動けなくなるんじゃ
…そう言えば、前に何処かで聞いた事がある
…食べてばかりで何もしないのはゴクツブシだって
食べる事に恐怖を覚え、飲み物すらも拒否するようになった。
毎回食事を持って来る平子さんに食べたくない理由を何とか説明したが、
「寧ろ全然足りてへん、この倍は食べれるようにならんとアカン」
と言われてしまった。
実際に平子さんが何時も食べているらしい食事を持って来て、見比べさせた。
確かに量が少ないのは理解した。
何とか食べた後、箸と小鉢に皿、赤っぽい粒に筆に硯、墨、文鎮に紙を持って来た。
「箸は食事に欠かせへんし、読み書き算盤は出来た方が良ぇからな」
そう言って、もう忘れてしまった箸の持ち方、おばあちゃんに教わる事が叶わなかった書道、算盤の使い方を教えてくれた。
箸の練習の赤っぽい粒…小豆と言うらしいそれを小鉢と皿に行き来させる作業は集中力が必要で、気付けばかなりの時間を使っていた。
「熱中するのは良ぇけど、根詰めてやるんなら没収するで」
流石に怒られた。
書道は正しい姿勢を保つのが大変だった。
墨を磨るのも結構大変で、それでも薄めの色で書くと反省点が解りやすくて良いと褒められた。
「1日の紙の枚数は此方でしっかり管理するからな。追加は無しやで」
平子さんがそう言ったから、渡された紙を無駄にしないようびっしりと書いて練習した。
ぼくと平子さん、それにぼくの世話をしてくれる市丸君という少年、そして盲目だという東仙さんの名前を書けるようになった。
いろは唄を全部覚えたぼくに、平子さんは子ども向けの絵物語を持って来てくれた。
桃太郎に浦島太郎、竹取物語…平子さんはぼくの知らない世界を教えてくれた。
他にも、寝台の上で出来る体操?を教えてくれた。
ずっと横になっていたからか、身体のあちこちがギシギシと痛かったけれど、その体操を始めてからは痛みがだいぶ無くなった。
…平子さんは本当に凄い
治療専門の4番隊?に居た訳でも無いのに、定期検診に来る人が即戦力として欲しいと望むくらい回道が上手なんだとか。
それだけでなく、怪我人や病人の治療が終わっても寄り添って、出来る限りの最善を尽くしてくれる。
そんな彼女を信じて行動すれば、必ず良い結果を得られるとも。
…流石にそこまで信じるのはまだ恐い
そして、湯浴みは凄く苦手な事のひとつだ。
おばあちゃんが生きていた頃に大衆浴場で溺れた事があって、それ以降湯船に入るのがずっと恐いのだ。
川に入るのは平気なのに、湯船が恐いのはおかしいと笑われるかと思ったが、ぼくの湯浴みの補助を頼まれた市丸君と東仙さんは、
「ほんなら、今日はお絞りで身体を拭きましょか」
「そうだな、それでもだいぶ違うだろう」
と無理強いはしないで、一緒に身体を拭く事から徐々に湯船への恐怖心が和らぐよう気を遣ってくれた。
彼等からも平子さんの話を良く聞いた。
どうやら彼等も平子さんに救われた過去があるらしい。
東仙さんは道を外しかけた自分を叱咤激励して、導いてくれたと。
市丸君は虚の群れに襲われて、大切な人を守れずに死にかけたところを助けられたと。
他にも、彼女のお世話になった人達は5番隊を始め、他の隊にも結構居るらしい。
…本当に凄い人なんだな
実際この数年間、彼女がぼくを叱る事はあっても、嫌悪や拒絶は一切しなかった。
どんなに上手く話せなくても、何を言いたいのか解るまで根気良く聞いてくれた。
交流のある人達の言う通り、平子さんはぼくに寄り添ってくれる。
髪を切る時だって、本当はばっさりと一度に切りたかっただろうに、時間をかけてぼくが受け入れられる長さを見極めてくれた。
…彼等の言う通り、平子さんは信じても良いかも知れない
日中の外出を恐がるぼくを、外出そのものに慣れる為にと月光浴に誘ってくれた。
最初は部屋から出るだけでも愚図るぼくに、
「其処からで構へん、ほれ、空を見てみい。今夜は満月やで」
と、外を見るところから始めて、片足を出しただけでも前進したと褒めてくれて、次は部屋の前に出て、部屋から少し歩いてと徐々に距離を伸ばして今では、平子さんの散歩道を一緒に歩けるようになった。
時々、東仙さんも一緒に散歩して、2人の共通の知人の話を聞かせて貰ったりもした。
…日中の外出はまだ恐いけど、部屋の前で日光浴なら出来るかも知れない
それを2人に伝えると、驚きながらも喜んでくれた。
…お日様はどんなだったかな
…今から待ち遠しい
観察記録XXX
藍染惣右介の社会復帰を目標とした生活改善開始。
観察記録XXXX
漸く平子真子(♀)を信用するようになった。
他の〈世界線〉とは違い、5番隊全員+αで藍染惣右介を支えるよう協力体制が整っている為か、平子真子(♀)への偏った執着は現時点では余り見受けられない。
観察続行。
結末をどうするか思案中…です。