聖女がネクロマンサーに進化した 作:純愛やぞ!
最初に比べるとこれから文字数が控えめになりますが、どうかお許しを……
一先ず、今の状況をセラに教えてもらうことにした。俺が眠っている間、どうやらとんでもないことが色々と起こってそうだからな。
するとセラは少し待っててください、と言って一旦部屋から出ると、何枚かの紙と羽ペンを持ってきてくれた。喉の調子がおかしい俺を気遣ってくれたようだ。相変わらず優しい聖女様だ。
「さて、どこから話しましょうかね。クイト、あなたの最後の記憶は何ですか?」
『武帝国の戦線にいたことは覚えている』
「なるほど……。わかりました。少々衝撃的な内容になるんですけど、落ち着いて聞いてくださいね?」
ある程度時間をかけて説明してもらった。少々の衝撃どころではなかった。愕然を通り越して放心した。
まず俺が死んで?その後セラが禁忌に手を出して?結果国に異端者扱いされて賞金首になったと?
「そして今に至るのですが……。これでもかなり省略した内容なんですよね。あなたを復活させるために私が開発した黒魔術の話でもしましょうか?」
『待て、待ってくれ。まだ理解が全く追いついていないんだ』
謎にウキウキしながら燃料を投下しないでくれ。余計に混乱してしまう。だいたい聖女だっただろうに、黒魔術なんて正反対のものをよく開発できたな。
「ええ、ええ。いつでも待ちますよ。時間は腐るほどあるんですから」
いつも朗らかな彼女だが、今の彼女は特に機嫌が良さそうだ。常にニコニコと可愛らしい笑みを浮かべ、こちらまで嬉しくなってしまうほど『私幸せです』という感情が伝わってくる。
『一旦整理するが、つまり今の俺は生き返ったということなのか?』
「はい!私が!生き返らせました!……完璧を目指したのですが、所々不具合があるのが申し訳ないです」
伏し目がちにセラは告げる。
『俺の死んだ記憶がないのは、それの影響なのか?』
「どうでしょうか……。理論上は完璧なはずなのですが、どこかで法則に引っ掛かってしまった?神め、呪ってやる……」
『どうした?』
何かぶつぶつと呟いていたが、よく聞こえなかった。理論の整理でもしていたのだろうか?
「いえいえ!少し考え込んでしまっただけです。ええと、直近の記憶が無くなったのは恐らく敵の魔術の影響だと思います。今思い返せば、あれは呪いの類いでした。それが脳にも負担をかけていた、というのが妥当ですね」
『なるほど……。やはり頼りになるな、セラは』
「クイトほどではありませんよ。あなたはずっと、私のことを守ってくれましたから」
『お互い様だ』
セラはこうやって直球に想いを伝えるから、こっちが照れてしょうがない。しかし、決して嫌ではない。純粋な想いは心に真っ直ぐ届くから。
「さて、大体のことはわかってもらえましたか?」
『大雑把だが、把握した』
「それなら、これからの話をしましょうか」
セラは少しだけ声のトーンを落とした。
そう、これからのこと。目を背けていたいが、セラが異端者として賞金首になっているのはどうしようもない事実。つまり、四六時中セラは命を狙われているのだ。まずはこれをどうにかしなければ……。
『ここは隠れ家といったが、具体的にはどの辺りなんだ?』
「ええと、少しお待ちを……。はい、これが現在地です」
俺が寝ていたベッドの近くの壁から、古びた地図を取り外すと机に広げた。くたびれた外見とは違い、地図はかなり正確のようだ。
セラの細い指が指し示す場所は、この国の東南。この辺りは湿地であり、あまり人が住むのには適していない。野生の生き物が数多く生息する場所だ。
『今はここにいるのか。人目を避けるにはうってつけの場所だ』
「他にも隠れ家はあるのですが、ここが一番安全だと判断しました。あなたに万が一の事があれば、絶望という言葉では済まされないので」
穏やかな顔からとんでもなく不吉な言葉が聞こえた気がしたが、気にせず話を続ける。
『しかし、それも時間の問題だろう』
「ええ、クイトの言う通りです。『執行人』は、必ず私たちの居場所を嗅ぎ付けてきます。私も現に何度か襲撃されたので」
執行人。それは異端者や逃亡者を追跡し処分する者たちの総称である。またこれは協会の組織の一つであり、在籍している誰もが一級品の実力を持つ。
「そして『賞金稼ぎ』も厄介です。彼等のしつこさには私も辟易しています」
賞金稼ぎは賞金首専用の冒険者みたいな奴らだ。普段は別の依頼も片付けながらやる者もいれば、専業のやつもいる。執行人に先んじて賞金首を仕留める必要があるので、誰もが一筋縄ではいかない。
『それを解決するためには、国外逃亡しか残されていないな』
「そうですね。私だけでは力が足りませんでしたが、今は違います」
俺の右手を強く握ると、セラはその手に頬を擦り寄せた。
「クイト、あなたがいますから」
こちらを見つめる瞳には一切の曇りがない。全幅の信頼を俺に寄せているのがわかる。ここまで期待されて、なにもしないわけにはいかなかった。
「アぁ、万事任せロ」
久しぶりに起きるので剣を握るのは久しぶりだか、たった三年でセラの護衛騎士の腕が落ちるわけがない。何より俺自身が認めない。この世界で弱さは罪なのだ。
「ではルートを決めましょうか。といっても、実質選択肢は一つみたいなものなんですけど……」
苦笑いしながら述べるセラ。しかしそれに関してはどうしようもない。国内の地形的にルートはほぼ決まっているようなものだ。
『東南からの出発となると、まずは……北へ進むしかないか』
「南と東は氷竜山脈に囲まれているので、そこから脱出するのはいろいろと困難ですからね」
『それに西には山脈から北に向かって王都に流れている川がある。この川を利用した商品の運搬で、かなり栄えていたはずだ。当然、兵士も多くいることだろう』
「川を渡るのも難しいでしょうね……」
『ああ、無難だが一先ずはこのルートだ。確かその辺りは……森林地帯だったな。身を隠すのには丁度いい』
「私もそれがいいと思います。森林地帯は多くの魔物がいますし、追手が来たら撒くのに利用しやすいですから」
『最初のルートは決まったな。提案だが、次のルートは森林地帯に着いてからにしないか?』
「それはどうしてですか?」
セラは小首を傾げる。あざといが可愛い。
『最初からルートを固定すると、予想外の事が起こった場合不具合が起こりやすい。一応ざっくりと決めておくが、臨機応変にしたほうがリスクは下がる』
「確かに……私たちはいつどこで襲われるかわかりませんからね。考えを固定するほうが裏をかかれたときパニックになってしまいそう」
戦争で行われた作戦も似たようなものだった。指揮系統がまるでダメな時期があり、自分で考えて動くしか他なかったときがあった。その経験が活かされているとしたら、あの苦しみも無駄ではなかったのだろう。
「よし、決まりですね。ふふっ、これからあなたと二人で逃避行するんですね。なんだかロマンチックです」
『実態は血みどろになりそうだがな』
「もう!水を差さないでくださいよ!」
ぷんすかと怒るセラを尻目に、この逃避行の行方をぼんやりと考えていた。
森林地帯に行けば北、北西、西の三つのルートが出てくる。その内、西は王都に繋がるから論外。北西もできるだけ避けたいのだが、北には城塞都市があるのでここも厳しい。状況を鑑みつつ、その場その場の判断力が求められるな。
しかし、どれほど困難であろうと俺が諦める道理にはならない。一度死んでしまった身だが、今度こそセラを完璧に守りきってみせよう。
愛する者とは、共に生きていたいのだからな。
この後も、軽い逃避計画を話しながら一日を終えた。セラが作ってくれた料理は実に旨かった。異端者なんて言われているが、中身は聖女そのものだ。
時たまに漏れ出る黒い愛に、目をつぶればだが。
◇◇◇
食事を終えて、クイトはすぐに寝てしまった。復活した直後からいろいろ話したのだ。疲れが溜まっていたのだろう。
セラはベッド際の椅子に腰掛け、クイトの寝顔をうっとりとした顔で見つめている。
「昔から可愛い寝顔をしますね、クイトは」
当然のようにセラは耳を胸板に当て、目を閉じて心臓の鼓動を聞く。
「ちゃんと生きている。ちゃんと暖かい。ちゃんと私を見てくれている!これほど素晴らしいものはありません。あなたの命が一番尊いんですから」
かつて教会の聖女として神に祈りを捧げていたとは思えない発言をすると、体を起こしてクイトの頭を撫でる。
「あなたには伝えていませんが、私の魔術はただあなたを生き返らせたわけではないんです。ただ死と生を逆転しただけ。そして死は不変のもの」
愛おしくクイトを見つめる目には、なんら狂気と変わらぬ激情がこもっていた。
「つまりあなたは不老不死になったんです。そして私も
そもそも少し違和感のあることだった。三年経ったのに、セラの姿はクイトの知っている三年前の姿と全く同じだった。あの時の髪質、あの時の肌つや、なんら変わりのない体。
「だから追手が来たところでせいぜい困るのは捕らえられたときくらいです。あなたと過ごせるのなら悪くはないんですけどね」
セナは笑う。見た目だけならば慈悲なる女神が微笑んだのと遜色ないものだった。
「あなたとの逃避行、楽しみですね?」
一晩中、頭や頬を撫でたり寝顔をじっと見つめながらセラはクイトの側にいた。
簡単な説明
クイト……茶髪の青年。剣の腕は最上級。セラを愛している
セラ……白髪の少女。聖女の魔術と独自で開発した黒魔術なるものを使う。かなり強い。クイトをアイシテイル