終末世界でTS吸血と妹が旅をするようです   作:西春江

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二話 『これが国連配達屋のお仕事ですよヴァンプさん(どやっ)』

 ――国連配達屋。

 滅びに向かうこの世界において、文字通り『生命線』であった。

 国が物資を支給するためには人類圏外を渡り歩く必要がある。当然、素人が死地に踏み込んだら死ぬだけだ。

 だからこそ、我の妹は、我の誇る配給シスターは優秀なのである。

 

 そして、この職には利点が多い。国からの直接的な支給、コロニーでの優先的な物資の交換、情報の独占、思骸(バイオキルン)の支給に無償での製造。

 まぁ端的に言えば「夢のある公務員」というやつだ。

 

「配達屋……それは夢のある聖職、滅びゆく世界で死地に身を投じ、救いを待つ民のために――」

「さっきからうるさいです! 歩けるようになったのなら早く立ち上がってください!」

 

 ガスっと遠慮のない衝撃が我を襲った。痛む腹部を抑え、ゆらりと立ち上がる。

 

「うぐっ……。負傷者、しかも肉親への扱いがなっていないぞ配給シスターよ……」

 

 現在、グリフォンを討伐した我は血液の消耗で身体が麻痺。隠れながらビルの隙間を縫い歩いていた。

 

「次からはあの大技は禁止ですからね」

「安心せい。もうあの大技は使わん。ていうかできん」

「は?」

「いやぁ、お前に良いところを見せようとして――殆どの血液を消耗してしまった」

 

 呆れた瞳で我を眺める配給シスター。

 い、いやだって、久しぶりに妹に会えたのだぞ?兄として多少の虚勢を張りたくなるのは、種族を超えた本能ではないだろうか。

 

 呆れを隠そうともせず、彼女は鞄をゴソゴソと漁り始めた。

 

「本来、童話生物にこれを横流しにするのは禁止されているのですが、背に腹は代えられません」

 

 ポイっと無造作に投げ渡され――空中で鮮やかにキャッチ。流石我。

 だが、手の中に納まったそれを見て、我は眉を顰めた。

 

 ――ナイフだった。

 

「あっぶ!? 主何を考えてナイフなど投げておる!?」

「とりあえず、この都市から脱出するまではそれでお願いします。本当ならあのグリフォンの核も取り出したかったのですが……あれ以上はあの場所にいるのは危険すぎますからね」

 

 独り言をぶつぶつと呟きながら、空を仰ぐ。

 数秒して、こちらに多眼を向ける。

 

「……実際、ヴァンプさんってどれぐらい強いのでしょう。見た目は可愛いだけで、格としては『伝説』ぐらいはありそうですけど」

「ほぉ、そこが気になるのか。よかろう。高貴なる吸血鬼の真髄、妹とあらば特別に語ってやっても――」

「やっぱり大丈夫です。なんか言い方がムカつくので」

 

 冷めた態度で、配給シスターは歩き出す。

 

 我もそのあとに続き、投げ渡されたナイフに改めて興味を移す。

 ただの鉄塊、というわけでは無い。

 

 ――思骸(バイオキルン)

 童話生物の体内に存在する核を加工、精製した物品、それらをまとめて思骸(バイオキルン)と呼ぶ。

 所持するだけで身体能力が跳ね上がエル者、物理法則から逸脱するもの、あるいは天変地異を引き起こしたことがある思骸もあると聞く。

 衰退した人類が、地獄となったこの世界で生き残れている理由の一つだった。

 

 新たな相棒を天に掲げながら聞いた。

 

「配給シスターよ。この思骸(バイオキルン)にはどのような力があるのだ?」

「ありません」

 

 目もくれず、即答された。

 

「何を言っておる。思骸(バイオキルン)には異能が付与されていると……」

「それは神話や伝説から回収された思骸(バイオキルン)のみです。民話にもならなかった世間話、能力が付くことは稀です」

 

 じゃあ何だ。これは外れということか?アンコモンということか?

 

「ちなみに……この元になった童話……物語は何なのだ?」

「私が住むコロニーにボブという名の男性がいたんです」

 

 配給シスターが語りだす。

 

「ボブにはメアリーという名の妻がいました。ですが、ボブは飽きてしまったのかヒンドリーという名の新たな女性に靡かれ」

「まさか」

「はい、その時にできた世間話、ていうか不倫への陰口から発生した童話生物の成れの果てです」

「ボブ!」

 

 最悪だ、不倫が元の思骸(バイオキルン)を我の新たな相棒とか言ってしまった。なんかもっとこう、かっこいいのが欲しかった。伝説とか神話……赤竜とか黒龍とか!

 

「コロニーに到着するまでの辛抱です。それでまでに童話生物を討伐する機会も幾らかあるでしょうし、そのうちボブとは別れられますよ」

「我の思骸(バイオキルン)をボブと呼ぶな!?」

 

 せめて名前だけはかっこいいのにしたかった。止まらない強欲、沸き立つ色欲、不滅の欲……不滅のボブ……?

 名称に悩んだ時だった。

 

 「ストップです。ヴァンプさん」

 

 配給シスターが制止の手を前に出す。

 その多眼が何かを発見したようだった。

 

「何かいますね」

 

 我らが歩いているのは崩壊した都市。亀裂に入るビル群に折れた街灯、そして舗装されていたはずの道路に、何か奈落のような陥没穴があった。

 覗いてみると。暗く巨大な空間が広がっていた。壁面には緑の苔が群生しており、ぽちゃぽちゃと水滴が落ちる音が反響していた。そして――深淵の奥深く、何か生き物もいる。

 血液を消費し、眼を強化する。すると、奥には苔の生えた巨躯、蛙のような異形がそこにいた。

 

「おそらく童話生物だの。無視でよいのではないか」

「いえ、この先に脱出口と依頼があるので」

「脱出口? 主、毎回この地下通路から来ていたのか?」

「以前までは……今回もここから来る予定だったのですが、使えなくなってたんですよねぇ……」

 

 不思議そうに地下を眺めていた。

 

「では、行きましょう」

 

 短く応じるや否や、配給シスターは躊躇なく深淵へと身を投げた。数秒の後、地下の水たまりへと着地する音が聞こえた。

 

「思い切りが良すぎるぞ配給シスターよ!」

 

 我もその間髪の無い行動に続き、暗闇へと身を投げた。浮遊感の後、数秒して水面へと着地する。

 

「あ、来ちゃったんですかヴァンプさん――正面、来ます」

 

 配給シスターが即座に銃を構えた。

 トリガーに指先をかけ、発射――響く轟音。マズルフラッシュが地下を刹那の朝へと変え、直後に蛙の断末魔が響いた。

 辺りには錆びた鉄の匂いと、生暖かい水の匂いで充満していた。

 

「――多いですね」

 

 一瞬だけ明るくなった世界には、片手で数えきれないほどの異形がいた。

 

「お主、一人だった場合マズかったのではないか?」

「いえいえ、私一人でも余裕でしたよ? ……本当です。そんな目で私を見ないでください」

 

 文句をいいながらも、彼女は次弾を放つ。着弾。

 

「ヴァンプさんは後ろで待機してください。私が倒――」

 

 配給シスターの弾幕を搔い潜った蛙が、我に向かって跳躍した。咄嗟に半身をずらし回避。着地した蛙が二度目の跳躍を叩きこもうとしていた。

 先ほど貰ったナイフ――基、ボブを構える。それを見た配給シスターが、声を荒げた。

 

「ちょ、ヴァンプさん!? 逃げてください! その思骸では」

 

 だがもう遅い。

 蛙は舌を伸ばし、我の獲物を奪おうとしていた。地面蹴り上げ、一気に距離を詰める。

 

「――童話生物を殺すことができません!」

 

 切っ先を蛙に向け、横一閃。

 溶けるようにナイフが食い込み、力任せに振り下ろし――真っ二つに分かれた。

 鮮血が宙を舞う。

 

「うそ」

 

 それを見た配給シスターが唖然としていた。

 おぉ、思ったよりボブが強い!これなら、我の貴重で高貴な血液を消耗しなくとも済む。

 

 だが、だ。

 

 やはり、かっこいい所を妹に見せておきたい。そういう欲があっても、当然なのではなかろうか?

 我は妹の視界に入りながら不敵に笑い。

 

「ふっ、ふはははははっ! 『怪談』にも成れん童話が、我の覇道を邪魔する出なっい!」

 

 蛙が何かを感知したのか、数匹の群れが地を蹴った。

 指先を蛙に蛙に向け、血液を凝固させる。体が高揚する感覚に心臓が早鐘を打つ感覚。紅の弾丸を解き放つ。

 紅い弾丸は蛙の胴を穿つち、鮮血が宙を舞っていた。

 

 わかる。わかるのだ。今後ろにいる妹が我を見る目、それはもう尊敬に満ちていことを。

 

「道を開けろ有象無象よ」

 

 天に手を掲げる。赤が収束し一になる。槍を解き放としたその直後――配給シスターから蹴りが入った。

 視界が世界を周回する。

 

「ふぐ!?」

 

 地を数度回転し、ようやく衝撃が落ち着く。慌てて上体を起こす。つい先ほどまで我がいた場所に、蛙がプレスしていた。

 その隣には配給シスター。発射、着弾。蛙の頭部から赤い霧が生まれる。

 

 彼女はピンクと白の振袖をぶんぶんと揺らし、叫んだ。

 

「血液は節約と何度も言っているじゃありませんか! 私一人でも余裕なので、ヴァンプさんは血液を節約! 今すぐ避難です!」

 

 ヘルメット越しの電子音は、声を荒げたせいか割れていた。

 

 

 数分して、炸裂音が収まった。

 『戦闘が終わったら来てください』と言われていたので、我は急いで配給シスターの元へと向かう。

 

 配給シスターは水溜りの上で立ち尽くしていた。

 周りには十を超える蛙の死体。死骸は血液を垂れ流し、水と紅が混ざり異質な匂いを充満させていた。

 我に気づいた彼女がゆっくりとこちらに視線をずらし、

 

「だから言ったでしょう?」

 

 配給シスターは多眼ヘルメットをスライドさせ素顔が露になる。額には薄っすらと汗が生まれ、呼吸が少し荒かった。

 

「私一人でもやるれると」

 

 どやっ――と効果音が聞こえてきそうなほどの自信に満ちた笑みだった。

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