ラスティングアンセムのSS 作:Masasi
フィカル「ルルベルさん、どうかしたの? こんなところで」
ルルベル「あっお姉さま」
治安官詰め所から少し離れた場所でウロウロしていたらお姉さまに声をかけられた。
ルルベル「ちょっと入りづらくて……詰所に落とし物を届けようとおもったんだけど……」
詰所の前には、新しい治安官さんがたっている。
それを見たお姉さんは何かに気づいたように言った。
フィカル「新しい治安官さんは苦手?」
ルルベル「それは……あの人がってわけじゃくて……あたし、男の人が……ちょっと……」
フィカル「いつもルルベルさんが男性を避けているのは知っていたけれど、
そんなに怖がることなんてないと思うわ」
ルルベル「それは……」
そういえばお姉さまにもちゃんと言っていなかった。
あたしが男性嫌いの理由。
フィカル「よかったら聞かせてもらえる?
もしかしたら相談に乗れるかもしれないわ」
あたしは思い切ってお姉さまにあの日のことを話すことにした。
あれは今から325日前のこと……
あたしは魔法使いになるため、修行の場所を兼ねて、この町でしばらく暮らしていこうと決めた。
その日から7日経ったある日……ようするに318日前のこと。
あの日だけはどうやっても忘れることができないだろう……
あたしは占いも少しできるので、それで生計を立てることにしたのだけど
元々、人見知りをしてしまう方なのでかなり不安でいた……
ルルベル「……お客さん、来なかったらどうしよう」
お店を開くのも初めてのことだから、不安でしかたがない。
気持ちも落ち着かず、ただウロウロと小屋の中を歩き回っていた。
きっと……このまま誰も来ないんだ……
そして、あたしに借金ができて……返せなくなって悪い大人に捕まって……
どこかに売られていくんだ。
そこであたしは……延々とお茶くみや肩たたきの仕事をさせられてしまうんだ……!
フィカル「お茶くみや肩たたき? ふふっ、それはちょっと違うと思うけど……」
ルルベル「あ、あたしも悪い人って何をするのか、よく知らなくて
お姉さまはしってる?」
フィカル「う~ん、わたしもよく知らないわ
それよりも、お話の続きをしてもらっていいかしら?」
ルルベル「あ、うん。えっとそれでお客さんを待っていたんだけど……」
背の高い青年「ごめんください」
自分でもわかるくらい心臓が飛び上がった。
いつの間にか目の前に、大きい男の人が立っていた。
もう……借金とりがやってきてしまった……
ルルベル「え、えっと……ご、ごめんなさい!お金ならありません……!」
背の高い青年「お金?いやいや、払うのはオレのほうだろう?」
ルルベル「えっ……?」
言われて思い出す。そういえばまだ借金難でしてなかった。
じゃあ、この人は……
ルルベル「お客さん……?」
背の高い青年「そうだよ、キミが占ってくれるんだろう?」
ルルベル「あっ、う、うん……」
あたしがいきなり変なことを言ってしまったのににこやかに笑っている。
なんだかとてもいい人みたい……
初めてのお客さんなわけだし……しっかりがんばらないと……
ルルベル「あたしのはカードで……えっと……名前を教えてもらいたいんだけど…
あと占って欲しい内容も……」
クラヴィス「オレはクラヴィス・グレイ。クラヴィスと呼んで欲しい
そうだな、今日の運勢でも占ってもらおう」
ルルベル「う、うん、わかった。それじゃあ……始めるね」
占いに使うカードを取り出す。
クラヴィスって人はあたしをじっと見つめている。
すごく……緊張するんだけど……
クラヴィス「………」
何をこんなに熱心に見てるんだろう……?
クラヴィス「それで占えるなんで知らなかったな」
ルルベル「え……?」
クラヴィス「いや、トランプで占いをするみたいだからさ」
自分の手元にあるカードを見てみると占い用のカードではなく、ただのトランプだった。
ルルベル「あ、これは……ご、ごめんなさい!
あたし、間違えて……! 本当はこれじゃなくて……」
クラヴィス「ははは、そっか。どうりでおかしいと思った。
なんだか緊張しているみたいだけど、そんなに肩に力を入れることはないよ」
ルルベル「う、うん……」
お客さんに応援されるなんてマズイよね……なんとか挽回しないと……
ルルベル「ええっと、占いのカードは……確かここにしまったはず……」
引き出しの中にあるカードを見つける。
ルルベル「ごめんなさい、待たせたりして……」
クラヴィス「大丈夫。キミみたいな可愛らしい子なら、ボクは何年でも待ってるさ」
ルルベル「な、ななっ!?」
いたって真顔でそんなことを言うものだから、あやうくカードを落としそうになる。
クラヴィス「どうかしたの?」
ルルベル「い、いえ……それより、あの……この中からカードを一枚選んでください」
クラヴィス「わかった。う~ん、そうだな……これにしよう」
ルルベル「きゃっ!?」
カードを取ろうとする手があたしに触れて、思わず跳ね除けてしまった。
ルルベル「ご、ごめんなさい、あの、大丈夫……?」
クラヴィス「オレなら平気だよ、なんともない」
ルルベル「本当に……?」
クラヴィス「ああ、むしろキミみたいな可愛らしい子なら、引っ叩かれるというのもわるくない。
もっとつよくてもいいくらいさ。そういうのが好きな人もいるからね」
ルルベル「え、ええ!?」
クラヴィス「さらに言うと、さすがに年頃の女の子だ。その反応も初々しくていい」
ルルベル「あっ、あの、な、何を言って……!?」
クラヴィス「おっと、わからないのかい?残念なことだ。
まあ、まずは何事も経験を積むべきってことさ」
ルルベル「うぅ……」
……ちょっと意味が分からないけど、何か得体の知れない危険なものを感じる……。
とにかく今は余計なことを考えないようにしよう。
気を取り直して、占いを続ける。
いくつかの質問に答えてもらい、占いに必要な前情報が出揃う。
ルルベル「えっと、あなたの今日の運勢は……あの、言いづらいんだけど、
そんなによくないみたいで……」
クラヴィス「ああ、気にしないでいいよ。実はここのところ調子悪くてさ。
だからここに来たわけだし。」
ルルベル「じゃあ、一応、運気をあげる方法も……教えたほうがいいかな?」
クラヴィス「もちろん、ぜひ聞きたいね」
ルルベル「あなたの家の水周り……少し濁ってるみたい」
クラヴィス「濁ってる?うちにある井戸の水なら普通に飲めるけど……」
ルルベル「水自体が濁ってるわけじゃなくて……何かよくないものが置いてあるのかも……
周りの掃除をすればよくなると思う」
クラヴィス「へえ、なるほど……そんなことまでわかるんだ?」
ルルベル「えっと……あたし、あまり慣れてなくて、だから
当たらないかもしれないけど……」
クラヴィス「いやいや、興味深い話だ、もっと聞かせて欲しい」
ルルベル「う、うん……あとは花瓶の手入れも怠ったりしてない?」
クラヴィス「ああ、言われてみれば確かに……なるほど、キミは素晴らしい」
ルルベル「ひゃっ――あ、あの! ……手……手!」
クラヴィスって人があたしの手を取る。
ちょうど両手で手を包むような形だ。
クラヴィス「ん? おっと、すまない、ついキミの占いに感銘してしまってね」
今度は触られてもなんとか我慢できたけど……なんて気安い人なんだろう……
クラヴィス「それに肌つやもとてもいい。まるでビロードのようだ。
手入れが行き届いているんだろうね。」
ルルベル「…………ビ、ビロード?」
クラヴィス「いや、今のは気にしないでいい」
ルルベル「はあ……」
今考えると……色々とおかしかったが、この時のあたしは占いに精一杯で
それどころではなかった。
それから細かな運勢の話をして、他にもいくつかアドバイスをした。
なんとか占いを一通り終えることができた。
クラヴィス「今日はありがとう、お代はこれくらいでいいかな?」
ルルベル「あ、ありがとうございます……で、でも、あの、これじゃ多すぎで……」
クラヴィス「いや、いいんだ。もらっておいてくれ。
今日は面白い話を聞かせてもらったからね」
ルルベル「えっ、でも……」
クラヴィス「いいんだって、それに今日はいいモチーフに会えたし」
ルルベル「モチーフ……?」
クラヴィス「ああ、言ってなかったね、実はオレは詩を創っているんだ。
本当は老若男女に読んで欲しいんだけど……
何故か男に人気なんだよね」
クラヴィス「で、今度のモデルは……占い小屋を営むエルフの
美少女なんてよさそうだと思ってさ」
ルルベル「それって……あ、あたし?」
クラヴィス「そうだよ、とても素敵だ」
ルルベル「え、ええっ!?」
あたしが……詩のモデルになんて……恥ずかしすぎる。
でも、せっかく来てくれた初めてのお客さんなわけだし……。
やめて欲しいと言うのも気が引ける。
うまく断りたいけど……。
クラヴィス「あ、よかったら、これもプレゼントするよ」
ルルベル「本……?」
クラヴィス「これがオレの詩集、落ち込んだ時なんかに読むと元気がでるよ」
ルルベル「え、えっと……ありがとう……」
結局、やめて、とは言えないまま……つい、その詩集を受け取ってしまった。
クラヴィス「それじゃあね」
お客さんを外まで見送る。
なんとか初めてのお客さんが無事に終わりほっと息をついた。
でも、これからうまくやっていけるのか……やっぱり不安だ。
なんとなく先ほど受け取った詩集を眺めてみる。
落ち込んだ時に読むといい、と言ってたけど……本当かな?
タイトルは……「狂おしい情熱の詩」……?
さっそくページをめくってみる。
ルルベル「ひぃっ!?」
そこにはなんて言っていいかわからないほど……
とにかく一言たりとも表現したくない言葉が書いてあった。
つまりその……徹底的なまでに卑猥な言葉が羅列してあったのだ。
なんだか少し変な人だとはおもっていたけど、すこしどころではない。
しかも、次はあたしをモデルにして書くと言ってた。
こんなもののモデルをあたしに……?
読んだショックで気が遠くなった。
実際気を失った。
……気が付くと夜だった。
あの詩集のせいで、何時間か意識が飛んでいた。
フィカル「ふふふ、そんなことがあったのね」
ルルベル「お、お姉さま~、笑わないでくださいよ、あたしには真面目な話で……」
フィカル「そうね、ごめんなさい」
お姉さまは少しの間、考え込んで口を開く。
フィカル「でも、クラヴィスさんだって、
悪気があってやったことじゃないと思うの」
ルルベル「それは……そうかもしれないけど……」
フィカル「急に考え方を変えるのは難しいとおもうけど、
今のままじゃルルベルさんにとってもよくないわ」
フィカル「ルルベルさんは新しい治安官さんに何かイヤなことをされたりした?」
ルルベル「ううん……」
フィカル「だったら治安官さんも、理由もなく嫌われたら、きっと悲しいと思うの」
ルルベル「うん……」
治安官さんがいい人なのか悪い人なのか、
それは、まだあんまり話したことがないからよくわからないけど……
お姉さまの言うとおり決めつけてるのはよくないと思う。
ルルベル「ありがとう、お姉さま」
フィカル「そんな……お礼なんてされたら照れてしまうわ」
お姉さまが微笑むのを見て、自然と頬が緩む。
あたしはお姉さまと別れると、落とし物を届けるために
治安官詰所に向かうことにした。