時が過ぎ去るのは早いもので、入学生が続々と願書を提出する季節となった。
今年度から笠松トレセンは、入学生の受け入れ人数を大幅に増員する方針を打ち出している。その結果、学園関係者は漏れなく全員多忙を極めている。
新聞、テレビ、ネットニュース。メディアを通して既に大々的な告知をしている。
「生まれ変わった笠松」「中央に挑む新たな挑戦者」など、威勢のいい見出しが並んでいる。
設備投資に大金を費やした甲斐もあり、国内でも屈指の環境を誇る学園となったことだろう。
密着取材なども全て受け入れ、国民に広く情報が行き渡るよう駆けずり回ったりもした。
私の就任もイメージ戦略として組み込まれており、民衆受けもそれなりに良い。
ファーストインパクトとしては、悪くないどころか上々だ。それなりに評判はいいんじゃなかろうか?
中央とダブル受験を希望する生徒も多く、嬉しい悲鳴と仕事が増えたことに対する悲鳴が交互に入り混じっている。
——そして
特待生枠の審査は既に始まっており、続々とウマ娘たちが笠松の門をくぐってきている。
「ええっ!! ちょっと待って!?
聞いてた話の十倍くらい豪華なんだけど!?
え、なにここ? 地方だよね!?
アタシほんとに受けていいの!? 場違いじゃない!?」
見覚えのある、やたらとボリューミーな髪を揺らしながら目を丸くしているウマ娘。
「ら、ライスじゃ無理だよ~……
こんな立派な学園に入る資格なんて……
やっぱりライスはひっそり目立たず、田んぼ道でも走ってた方が……」
青薔薇の髪飾りをした、自己評価の低いウマ娘。
「お、お母ちゃん……
地方って、こんなに栄えてるもんなんだべか……
スカウトさんに声かけられた時は嬉しかったけど、
いざ来てみたら、なんだか自信なくなってきたべ……」
田舎っぽさが抜けきらない、何処か愛嬌のあるウマ娘。
私が直接スカウトに赴いた逸材たちが、やってきてくれた。
彼女たちは第二、第三のスター候補である。
マーチに続き、笠松を牽引していける原石たち。中央でも十分やっていける才能の持ち主たちが、この学園に受験しにきてくれている。
それだけで、これまでやってきたことが無駄じゃなかったと実感できる。
入学してくれれば、栄光を手にしてくれること間違いない。
あ、沖野がトモ触り行った。
許可は取ってるっぽいけど、やっぱ欲望を抑えられなかったかぁ。
しかも、余りにしつこすぎて蹴りを喰らって撃沈してるし……
アイツ、やっぱり学習能力ないだろ。なんであんな俗物が中央ライセンスを取れたんだろう。
——それに
住まいが分からず、スカウトできなかった面々もチラホラ見える。
「ちょ、ちょわっ!?
な、なんとも立派な校舎ですね!
これは学級委員長として相応しい環境と言わざるを得ません!
よし、ここは一つ、合格目指して
バクシン! バクシーン!!」
「うーん……川も近いし、風も気持ちいいし、
釣りもできそうだし……
これはセイちゃん、ちゃんと受験しないと後悔するやつだね~」
「ふむ。
王たる余が通うに相応しい絢爛さだ。
どれ、余直々にこの地を見極めてやるとしよう」
彼女たちがわざわざ笠松まで受験に来てくれたのは朗報だ。
中央のついでかもしれないが、それでも構わない。
このトレセンに将来性を感じて在籍してくれれば御の字だろう。メディアに宣伝しまくった甲斐があったというものだ。
まあ、向こうに流れても惜しくはない。後々中央と立場を逆転させてやるだけなので、後悔のない選択をしてほしい。
我が愛弟子、フジマサマーチも特待生枠で受験に来ている。
私がマーチを受け持っていることは教職員たちも知る所にある。
一人だけ明らかに別格のオーラを放っており、悪目立ちしている。
笠松の期待の星。アイドルホースとして期待を託されている彼女ではあるが、受験自体は公平性を期して行う。
一応勉学も面倒見たので大丈夫だろう。これで不合格だったら坂路二十本でも走らせてやろう。
オグリキャップの姿も見える。
見た感じ、本格化を迎えているようだし、マーチと同世代になるのは確定だ。
シンデレラになれるかは彼女の努力次第だ。
灰色の怪物。それがどこまでマーチに喰らい付けるか見ものである。
ライバル関係まで発展してほしいところだが、今のままでは手も足も出ない。これからに期待である。
他にも名家出身の者や寒門出身なれど、素晴らしい素質を持った者たちが集まっている。
皆一様に、新しくなった笠松トレセンの姿に驚愕している。
内装にも拘っているので、彼女たちが心から満足してくれることを祈る。
「粒ぞろいのメンツが集まっていますね」
「……いやはや、まるで夢をみているようだよ。
ここまで来るのも、実に長い道のりだった。
我々の努力がようやく報われた気がする」
「理事長、泣くには早いですよ。
彼女たちが入学を希望してくれるかどうかは、まだ分かりませんから」
入学生にはこれから、筆記試験、面接、実走試験を受けてもらい、総合的な評価を下す。
ウマ娘なので走りを重視するが、文武両道であってほしいのが学園の総意だ。
レースを走り終わった後も彼女たちの人生は続いて行くのだ。
社会に出て、或いは大学に進学して困らない学力は否が応でも身に付けてもらう。
「では、私は面接と実走試験を担当して参ります」
「頼んだよ。
君の審美眼には大いに期待しているからね」
笠松トレセンは選ばれる立場であると同時に、選ぶ立場でもあるのだ。磨ける逸材は進んで採りにいくつもりである。
私は足取り軽く、試験会場へと向かった。
マーチには……
面接で無理難題でも出してやろうか。
過渡期はとうに過ぎ去り、次の段階へと進み始めている。
私は彼女たちを出迎えるとしよう。
それでは
ようこそ、笠松トレセンへ。
Amanatu TaruTaruさん、コメント有難うございます。
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