地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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十一話 オグリキャップ

 

 

 私にとって、学園生活は未知に溢れていた。

 

 母が勧めてくれた笠松トレセン。

 特待生枠が空いているから受けてきなさいと云われ、受験したら合格することができた。

 

 今年から枠が増えたから私にもチャンスが巡って来たのだと、母が話していたのを覚えている。

 中央と同じくらい設備も整っているとのことで、テレビで報道されているところを何度か見掛けた。

 

 笠松のトレセンに来てからは驚かされてばかりだ。

 食堂も全品無料だし、おかわりも自由。

 遠慮なくおかわりを申し出たが、食堂の人は遠い目をしながらも差し出してくれた。

 

 私と同じくらい山盛りの料理を頬張ってる子もいたので、彼女とは仲良くなれそうな予感がする。

 

「りょ、料理長! 失神しないでください! まだ初日ですよ!! 

 それに、まだ物足りなそうな目でこっち向かって来てますよ!」

 

「……タ、タスケテ。ダレカ……タスケテ……

 腕が腱鞘炎になっちゃう……」

 

 昔から食費が嵩んで迷惑を掛けていたので、有難い限りだ。

 これから毎日利用させてもらうことにしよう。

 

 そして、初めての友達も作ることができた。

 ベルノライトというウマ娘で、この学園には一般枠で来たのだという。

 

「オグリちゃんも一般枠で来たの?」

 

「いや、私は特待生枠で来れたんだが。それがどうしたんだ?」

 

 そう正直に答えれば、彼女の笑みは引き攣っていた。

 今年の受験者は全体的に質が高かったらしい。

 特待生ともなれば、地元じゃ一番は当たり前。小学生の頃からレースで優勝を掻っ攫うようなエリートたちが集まっていると彼女から聞いた。

 枠が増えたのに受験者数自体が多かったせいで、熾烈な争いが発生したようである。

 

「私は一般枠でもギリギリだったのに……

 特待生なんて、正直、雲の上の存在というか……。

 オグリちゃんみたいな子と、私が友達になっていいのかなって……」

 

 ナーバスになっていたベルノを慰めるのに苦労した。

 友達になるのに優劣もなにもない。

 速く走れるかどうかと、友達になれるかどうかは別問題だ。

 

「ベルノは私の初めての友達だ。そんなに自分を卑下しないでくれ」

 

「お、オグリちゃぁあん!!!」

 

 感極まったベルノが抱きついてきたので、反射的に抱き返した。途中から「ち、力が強い……ギブ、ギブ……!」とか聞こえてきた気がするが、気のせいだろう。

 ベルノとはこれから長い付き合いになる予感がする。

 

 笠松トレセンの周囲も走りやすいランニングコースが整備されていて、朝のトレーニングには持ってこいだった。

 

「ああっと! ここで大外から北原ジョーンズ! 

 大外から一気に仕掛けてきたー! 

 北原ジョーンズ! 今一着でゴオオオール!!!」

 

 朝っぱらから一人で盛り上がっている大人もいたが、色んな人が居るのだといい勉強になった。

 

「……見られたぁぁ……。

 穴があったら入りたい……」

 

 その後、ストレッチをしているところで、その北原ジョーンズ? という男に話しかけられ、身体の柔らかさを褒められた。

 幼い頃から、母に手伝ってもらってきたお陰だ。

 少しだけ嬉しくなった。

 彼は良い人かもしれない。

 

 独り言はどうにかした方がいいと思うが。

 

「オグリキャップだったか? 

 朝早くからトレーニングとは、なかなかいい根性してるじゃねえか。

 見た目はこんななりだが、これでもトレーナーをやっててな。

 良かったら、トレーニングメニューのアドバイスくらいしてやろうか?」

 

 やはり、良い人だ。北原ジョーンズは。

 私が練習内容を伝えると、彼は少しだけ眉目を寄せた。

 

「うーん……。

 悪くはない。悪くはないんだが……これ、自分で考えたんだよな?」

 

「確かにそうだが……?」

 

「ジョギング10キロ、腿上げダッシュ、両足ジャンプダッシュ、1000メートル五本、最後に筋トレ10セット。

 構成自体は真面だし、根性もある。

 ただな、ジョギングが長すぎる。ウォームアップならもう少し短くていい。

 

 腿上げとジャンプダッシュは悪くないな。地面を蹴る力も脚の回転も鍛えられる。

 

 1000を五本走るなら目標タイムを決めろ。インターバルも管理しないと意味が薄れる。

 

 あとは筋トレ。上半身が抜けてる。腕の振りは、脚を鍛えるのと同じくらい重要だぞ」

 

 想像以上のアドバイスで情報量が多い。

 頭がこんがらがりそうになる。

 だが、納得できる話ばかりだった。

 やはり、トレーナーというのは凄いんだな。

 

「北原は博識なんだな」

 

「そりゃあ、トレーナー名乗ってるからなあ……」

 

 北原は照れくさそうに頭を掻いた。

 彼の助言に従えば私はもっと早く走れる気がする。最近は勉強を再開したとか、憧れの人に追いつきたいとか話していたので、彼も努力しているのだろう。

 

「お前さんも朝練、頑張れよ! 

 お互い、切磋琢磨していこうな!」

 

「ああ。北原ジョーンズもな」

 

「……お願いだから、さっきの記憶は消してください……頼みますから」

 

 学園生活は思ったより楽しくなりそうだった。

 

 私と北原は、後でトレーニングメニューを詰める約束を交わし、河川敷で少しの間会話を交わした。

 予約すれば、芝やダートのコースも使用できると有益な情報ももらえた。気が向いたら私も申請してみることにしよう。

 

 学園関係者は良い人たちばかりだ。

 そういえば気になることもあったので、この機会に北原に尋ねることにしよう。

 

 入学試験で面接と実走試験を担当していたウマ娘のことだ。

 終始にこやかな笑顔だったが、得体の知れない怖気が走った。

 まるで、ウマソウルが、魂が震えるような感覚。其処に立っているだけで絶大な存在感を感じた。こんな経験をしたのは初めてだ。

 

 私が北原に尋ねれば、呆れた様子だった。

 

「……ああ、あの人か。

 いや、お前、世間知らずにもほどがあるぞ」

 

 そう言って、北原は彼女の正体を教えてくれた。

 やはり世界は広いんだな。

 私が知らないだけで、地方にもとんでもない強者が潜んでいる。

 

「あの人の教え子も丁度新入生として入学していたしな。

 もしかしたらお前ともレースでぶつかるかもな」

 

「そうか」

 

「……反応薄くね?」

 

 むしろ、胸が高鳴った。

 彼女ほどの存在が直接指導を施したウマ娘。

 そのウマ娘が将来、私とも矛を交えるかもしれない。そう考えるだけで、なんだか武者震いしてきた。

 

「北原ジョーンズ。

 私は強くなりたい。

 だから、トレーニングメニューもしっかり組んでほしい」

 

「いや、お前、自分のトレーナー探せよ!! 

 ……まあ、乗り掛かった舟だし、それくらいいいけどよぉ」

 

 トレーナー? 北原もトレーナーなんだから私の面倒くらい見てくれてもいいだろう? 

 

 この時、オグリキャップは普通に勘違いをしていた。

 トレーナーは通常、選抜レースの結果を見た上でスカウトを行う。

 一般常識であるが、常識の欠けた彼女は、トレーナーというのは無条件でウマ娘の面倒を見てくれる人だと思い込んでいた。

 

「それじゃあ、頼んだ北原。

 私はジョギングから始めてくる」

 

「うおおおい! ちょっと待てえええ! 

 クラスも分からねえのにどうやって迎えに行けって言うんだ!! 

 おーい! オグリキャップうぅぅ!! 戻ってこーい!!!」

 

 オグリキャップと北原は、このような形で邂逅を迎えた。

 

 笠松のシンデレラは原作より少し早く、パートナーを捕まえるのに成功したのである。

 

 

 




ムッシーさん、コメント有難うございます。

猫雛さん、シンシンさん、紙音さん、養蜂さん、farさん、ふくよかな体型さん、NYAKITIさん、評価有難うございます。

白鞘侍さんも誤字報告有難うございます。毎度助かってます。

コメント、評価は大歓迎ですのでいつでもお待ちしてますm(__)m
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