地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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十四話 とあるウマ娘ファン

 

 

「……なあ、笠松の新入生デビュー戦、良かったら見に行かないか?」

 

「どうした急に」

 

「いや、テレビや新聞でもあれだけ取り上げられていたんだ。

 気になるのがウマ娘ファンの性ってもんだろ?」

 

 笠松トレセン学園。

 最近やたらと名前を聞くようになった、地方のトレーニングセンター学園だ。

 一年程前に大規模改修や最新設備の導入を行い、中央に引けを取らない環境を設立したという。

 

 一時期はネットニュースで大きく取り上げられた。

 メディアへの露出も積極的で、笠松トレセンへの入学を大々的に集っていた。

 

 世間に大きく名を轟かせたウマ娘が関わっているとも聞く。

 かの有名なウマ娘がトレーナーとして地方に就任した。これだけでも大きな波紋を呼んだ。

 理事長も中央に押し負けないトレセンを作り上げると声高らかに宣言しており、気合の入り用が伺えた。

 

「……でも、地方だぞ? トゥインクルシリーズと比べたら、一も二もレベルが落ちる。

 行く価値あるのか?」

 

「まあまあ、一ウマ娘ファンとして、一度くらい現地を覗いて行くのも悪くないだろ? 

 それに……気にならないか? 笠松トレセンの生徒が、どんなレベルなのか」

 

「……いや、真に受けるなよ。

 幾ら設備が整ったからって、中央にそう簡単に勝てたら苦労しないだろ? 

 大言壮語な話だって、批評もあったんだ」

 

 中央と地方。

 その差は歴然だ。

 歴史と実績を積み重ねてきた中央と、生まれ変わったと豪語する地方のトレセン。

 どちらが優れているかなんて、云うに及ばず。

 実際、口の悪いコメンテーターの中には「話題作りだろう」「どうせ一時的なブーム」と切って捨てる者も多かった。

 

 笠松がリニューアルされ、半年が経過している。

 一時の盛り上がりが嘘だったかのように、ニュースで取り上げられることもない。

 相変わらず話題の中心は中央が搔っ攫い、中央出身のウマ娘ばかりがプッシュアップされている。

 

「……それでも一回でいいから、足を運んでみないか? 

 お試しでもいいから。もしかしたら、とんでもない逸材に出会えるかもしれないぞ」

 

「はあ……わかったよ。

 お前の情熱に免じて、今回は付いて行ってやるよ。

 名古屋駅から電車一本で行けるしな」

 

 早い者はデビュー戦へと臨む時期だ。

 笠松のニュービーたちが、世間へと羽ばたく。

 新聞の一面を騒がせた笠松トレセンの生徒がどこまで成長を遂げたのか見守るチャンスである。

 将来、中央へ進出できる可能性を持つ子も拝めるかもしれない。そうなれば、早い内からファンになることもできる。

 

 彼らはデビュー戦へ観戦に行く約束を交わした。

 男の友情に嘘はない。

 そして、当日はカッパや水筒を持参し、準備を整えてから出発した。

 

 

 ◇

 

 

「……思ったより、人入りが激しいな」

 

「……ああ、そうだな」

 

 レース場から最寄りの笠松駅は異様な熱気に包まれていた。

 手前の名古屋駅でもそうだったが、笠松へ向かう人でごった返している。

 電車は満員。

 バスは途中乗車を拒否されるレベルだ。

 レース場へ到着してからは混雑が更に激しくなった。東京や京都のレース場と、遜色ない程人で溢れかえっている。

 

「地方のデビュー戦だぞ? こんなに集まるものなのか?」

 

 想像以上の人混みで、困惑を隠しきれない二人。

 地方の一レース。しかも、デビュー戦にこれだけの来場者が集まるのは稀だ。

 裏を返せば、それほど注目を集めているとも言い切れる。

 

 法被姿の地元民や家族連れも多く、彼らにとっても楽しみにしていたイベントなのだと伺える。

 笠松魂と書かれた法被を着ていれば、地元民か否かを見分けるのも容易い。

 

 二人のように、好奇心に釣られて遠くから足を運んだ人も大勢いる。

 あれだけメディアで取り上げられていたのだ。二人と同じ考えを持つ者も少なくない。

 全国各地から、マニアックなウマ娘ファンたちが集っていた。

 

 それに“あのウマ娘”も見掛けた。

 遠目ではあったが、確かに確認できた。

 彼女も居るということは、笠松トレセンにとっても、肝いりのレースになること間違いない。

 

 パドックが始まり、ウマ娘たちが姿を現わす。

 

 これまで鍛え上げてきた身体を観客たちへとアピールし、レースへと果敢に挑む姿を見せつける。

 

「パドックでの姿が、今日のレース展開を予想させると言っても過言じゃない。

 トモの張り、体幹、顔つき。

 これまでのトレーニング成果を知らしめる絶好の場所だ」

 

「どうした急に」

 

「入場してきた、ウマ娘の顔つきを見れば分かる。

 緊張に臆してる子もいるが、厳しいトレーニングに耐え忍び、これまで積み上げてきたものを、ここで出し切るという表情。

 その証拠に、全員のウマ娘から溢れんばかりの気合を感じる」

 

 唐突に始まった解説。

 実況者顔負けの説明に、周囲は軽く引いている。

 

「デビュー戦にも関わらず、しなやかに鍛え上げられたトモ。誰にも負けないという闘争心。

 精神と肉体。二つが揃って一流のウマ娘と言えるが、地方でもこれほど高水準なウマ娘を拝めるとは思わなかった」

 

「つまり、何が言いたいんだ?」

 

「……これは所感だが、中央と遜色ないレベルかもしれない」

 

「まじかよ」

 

 その言葉は、冗談でなくなりつつあった。

 彼らの評価は正しい。

 デビュー戦に態々足を運ぶような熱狂的なファン。

 その期待を上回るほどの仕上がりに、興奮を隠せない。

 たかが設備を一新した程度で、ここまで質が向上するのかと疑ってしまう程だ。

 

「続く、五枠五番——オグリキャップ」

 

 葦毛のウマ娘が入場を果たした。

 直前までトレーニングをしていたのだろうか。或いは洗濯が間に合わなかったのだろうか。

 彼女の服装は、泥だらけであった。

 率直に言って、汚い。

 

「……お、オグリちゃん。せめて晴れ舞台くらい綺麗な格好で行こうよ」と後ろの観客席で嘆いているウマ娘が居た。

 知り合いなのだろう。顔を手で覆っていた。

 ついでにトレーナーらしき男性も、顔を覆っていた。揃いもそろって、仲が良さそうである。

 

「……おおっと、オグリキャップ! 

 何か取り出したー! 

 髪飾りだ! 髪飾りを装着しましたー!!」

 

 観客から一斉に笑いが生じた。

 彼女の独特な雰囲気に会場は大盛り上がりだ。

 始まる前から観衆の目を引くとは中々やり手だ。

 ウマ娘は客商売。こういったファンサービスは、喜ばれる要因になる。

 

「葦毛は走らない。日本にはそんな定説が囁かれているが、彼女はその常識をひっくり返してくれそうな気がするな」

 

「ああ、お前と同意見だ。彼女からは光るものを感じる。今日の活躍に期待だな」

 

 オグリキャップ

 未来の英雄豪傑に肩を並べる程の逸材だ。

 GⅠタイトルを幾つも奪取できるほどに才気に溢れたウマ娘である。

 

 北原の下で適切なトレーニングを組み、適切な努力を積んできた彼女は強い。

 ライバルに追いつこうと藻掻く彼女の能力は、原作よりも明らかなオーバースペックを誇っていた。

 

 彼らの予感通り、このレースで彼女の爆発的な末脚が発揮され、雄叫びにも似た歓声がレース場に響き渡った。

 

 その勝ち方はまさしく圧巻。

 数居るウマ娘たちを押しのけ、勝利を飾った。誰もが納得せざるおえない勝ち方だった。

 

 笠松に現れた、葦毛の怪物。

 その怪物が残した軌跡は、レース場へと確かな足跡を残した。

 

 だが、それも序章に過ぎない。

 その怪物すら凌駕する真正の怪物。

 笠松が生んだ、時代のスターが入場を果たす。

 そんなウマ娘の登場に、会場は更なる熱気に包まれることになる。

 

 

 




葛葉さん、トントロラーメンのトントロ抜きさん、SYO034さん、ムッシーさん、コメント有難うございます。

執筆の励みになっておりますm(__)m
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