地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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十五話 公開処刑

 

 

 私はマーチのデビュー戦をこの眼で見届けた。

 結果は語るまでもない。ただ、勝った。

 その一言に過ぎる。

 

 正しい努力には正しい結果が伴う。

 マーチの言葉を借りるなら、努力に見合った結果が齎されただけに過ぎない。

 

 実力に相応しい勝ち方を披露していたので、新聞の一面を飾ることになるだろう。

 今回のレースを通して、観衆の目にはフジマサマーチという存在が確かに刻み込まれた。

 口伝、或いはレース映像からでも徐々に噂が広がる筈だ。

 

 地方にもここまで完成されたウマ娘が居るのだと、世間に広く知れ渡るのも時間の問題だ。

 中央への反逆の日も、そう遠くはない。

 

 さて。

 見事レースで勝ち星を上げたウマ娘には、特権が与えられる。

 

 ウイニングライブ。

 勝者が、観衆に向けて応援への感謝を示す舞台だ。

 夢と希望を与える場所でもあり、このステージに立つために、厳しい練習を乗り越えるウマ娘も少なくない。主役を飾りたいがために、練習に励めるウマ娘もいる。

 

 ……私はと言えば、正直、あまりいい思い出がない。

 というか、苦い思い出しかない。

 昔は今ほど曲のレパートリーがなく、選択肢はほぼ一択だった。

 

 そう、うまぴょい伝説である。

 

 結果として、私は「うまぴょいマスター」などという不名誉な称号を得てしまった。

 当時は仕方なかったとはいえ、今思い出しても羞恥に悶えそうだ。くそが。

 

 今は違う。

 曲のレパートリーも増え、羞恥に耐えるだけのライブをしなくて済む。

 

 時代の変化に伴い、ウマ娘たちの要望に応え続けてきた結果だ。

 

 オグリキャップはカサマツ音頭を披露していた。

 数万規模の観衆を前に、あの踊りを披露できるメンタルは称賛に値する。

 私には無理だ。とてもじゃないが真似できない。あれは、鋼の精神を持つ者にしか踊り切れない。

 

 彼女は一体、何故あの曲を選択したのだろうか。

 選曲センスも独特だと言わざる負えない。

 踊りが複雑じゃないから、という理由で選択したとかあり得そうである。

 だとすれば、この先、ずっと笠松音頭を垂れ流すのか。

 北原トレーナーには後で一度相談しておこう。場合によっては、ダンス教室に通わせるか検討しよう。

 

 そして──

 問題はマーチである。

 

 彼女はどんな曲を選ぶのだろうか。

 そういえば、笠松トレセンが打ち出したオリジナルソングを歌ってほしいと、上層部から要望が届いていたような。

 私は当時、業務に追われていて、曲の内容まで把握していなかった。

 

 彼女が歌うのは恐らくその曲だろう。直接話を持ち掛けられていたし。

 上層部や理事長の期待は相当に大きかった。マーチを金字塔としてオリジナルソングを広めていきたい──そんな話も聞いた気がする。

 

 私も仕事が落ち着いてからマーチへ尋ねたのだ。

 歌と踊りの心得はあるし、指導くらいなら手伝ってもいいぞと。

 

 しかし、彼女は

「……大丈夫だ。問題ない。一人で練習できる……」

 と頑なだった。

 なので、この件は私の意識からすっかり抜け落ちていた。

 

 今思えば、この時点で嫌な予感を覚えるべきだったのだろう。

 

 会場入口で渡されたペンライトは、ピンク色だった。

 マーチのトレンドカラー……ではない。

 ウマ娘のライブ用ライトは、基本的に髪色を模したものだ。

 この時点で、既におかしい。

 

 そう考えていたのも束の間

 マーチのウイニングライブが始まった。

 

 

 

 

 なんかやけに可愛らしい衣装着てるね、マーチ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしの全力受け止めて♡」

 

 

 

 

 

 

 ……あのマーチさん? 

 キャラがおかしくなってますよ? 

 

 いつもの毅然とした態度は何処に行ったのか。彼女は可愛い仕草で可愛らしい歌を披露している。

 

 練習が過酷すぎてついに頭がおかしくなったのかと疑った。いや、私が知らないだけで、可愛い曲が好きだった線も有り得る。

 でもマーチ、その見た目と性格でこの路線はギャップが強すぎると思うんだ。先生驚いたよ。

 

 現に、マーチのファンっぽいギャルウマ娘がペンライトを抱えて気絶している。

 顔には「尊死」と書かれている。満足げに気を失っているようだ。どうでもいいが、アグネスデジタルと似た雰囲気を感じる。

 

 私は目の前の光景が信じられず、現実逃避気味にパンフレットで曲名を確認した。あの硬派なマーチが、一体どんな曲を選んだのかと。

 

 そして、紙にはこう書かれていた。

 

「フジマサマーチ 

 選択曲 めにしゅき♡ラッシュっしゅ」

 

 

 ……もうね。

 何も言えないよ。

 なにこの曲名。めにしゅきって何だよ……小学生だってもう少しマシなタイトル付けるぞ。

 うまぴょい伝説とメタ張るな! 対抗してどうするんだ。

 

 思わず頭を抱えそうになった。

 理事長たちが絶賛していた曲が、まさかの地雷曲だったとは夢にも思わなかった。著名な作曲家に依頼したのじゃなかったのだろうか? 

 

 これを学園のテーマソングに据える? 正気の沙汰ではない。うまぴょい伝説と同レベルの歌をプッシュアップしてどうするんだ。

 忙しさを理由に事前確認を怠った私も悪い。忙しいからと後回しにするべきでなかった。変な曲を推奨してくる筈がない、と高を括っていたのが悪かった。

 

 マーチも、上層部からの依頼を断りきれなかったのだろう。傲岸不遜のように見えて、案外礼儀を重んじるからな、マーチは。

 

 不運に不運が積み重なった結果、悲劇が起きてしまった。

 私はノーダメージだが、マーチの精神には多大なダメージを残している可能性が高い。

 やる気も下がりそうだ。後でフォローを入れておこう。

 

 大半の観衆や笠松のウマ娘たちの反応は概ね好意的だが、中には顔が引き攣ってる者もいる。オルフェーヴルなんて顔面蒼白だ。「……え? 余もこんな格好して歌うのか??」と顔に出ている。うん、そうだよね。私もそれは同感だ。似たような感性を持つ者がいて安心したよ。

 

「こんなに大きくなりました♡」

 

 ステージでは、マーチが口にするのも恥ずかしい歌詞を必死で歌っている。

 うん、マーチ。……大きくなったね、色んな意味で。なんかごめん。

 

 ただ、都合良く捉えれば、マーチのトゲトゲしさを払拭するいい機会になったとも考えられる。孤高の狼みたいな雰囲気の彼女が、こんな可愛らしい恰好で踊っている。

 そんな姿を見れば、近寄り難さも吹き飛ぶかもしれない。本人の意思に反するかもしれないが。

 

 それはそれとして、流石にこの曲を笠松の代表曲に据えるのは看過できない。可愛い曲を歌いたい子には歓迎されるだろうが、マーチのような性格の者には似合わない。

 一旦据え置きにしてでも、恰好いい系の曲もレパートリーに加えるべきである。

 

 私は、帰ったら必ず提案書を出そうと決めた。

 曲のレパートリー拡充は、全ウマ娘の安寧のために必要不可欠である。

 

 




SYO034さん、ムッシーさん、葛葉さん、コメント有難うございます。
ホワイトドラゴンさんも評価有難うございます。

執筆の励みになっておりますm(__)m

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