お母ちゃんへ
お母ちゃん。北海道で元気にやっていますか?
私は笠松トレセンでも元気に過ごしています。
偶に地元が恋しくなることもあるけど、毎日が新鮮で、精一杯学園生活を満喫中です。
学校には私と同じウマ娘が何百人といます。
こんなの地元じゃ考えられません。
学園自体もとっても大きくて、最初は本当にびっくりしました。
それに——なんと、食堂も食べ放題で、おかわりも自由です!
美味しいご飯も好きなだけ食べられて、私、とっても幸せです。
もちろん、トレーニングも頑張ってます!
トレーナーさんも付いてくれて、毎日練習に励んでます。
トレーナーさんは脚を触ってくる、ちょっと変わった人だけど……いつも真剣にトレーニングメニューを考えてくれます。
今は力を付けてる最中だからレースには出られないけど、いずれ大きなレースに出走して、お母ちゃんの元にも胸を張って報告できるよう頑張ります。
日本一のウマ娘になるまで、見守ってて!
お母ちゃん!!
スペシャルウィークより
◇
スペシャルウィークが此処、笠松に来てから半年が経過していた。
最初は校舎の大きさに圧倒され、最新設備に戸惑い、食堂の存在に感動していた彼女も今ではすっかり慣れたものだ。
最新のトレーニングコース。
整備の行き届いた施設。
食べ放題の許された食堂。
彼女にとってはまさに天国に近しい。
のびのびとやっていける環境が整っていた。
偶に時をみては母へと手紙を書いている。
スマホで連絡を取ることもできるが、あえてペンを取っている。
こういうのは気持ちが大事である。直接文字を書くことでお母ちゃんを安心させたい、スペシャルウィークなりの気遣いだった。
「あれ~、スぺちゃん、誰にお手紙書いてるの~」
「あ、スカイちゃん。ちょっとお母ちゃんにお手紙出そうと思ってて」
「お~。スぺちゃんは母親思いですな~。
私も最近連絡とってないし、手紙でも送ろうかな~」
笠松に来てから友人も増えた。
セイウンスカイもその一人だ。
のんびりマイペースな性格をしているけれど、決して侮れない。
しばしば一緒にトレーニングを積み、その実力を身をもって知っている。
「おや、スペシャルウィークさん!
お手紙とは随分古風ですね!!」
「バクシンオーさん!
これ、お母ちゃんにお手紙出そうかなって」
「なるほど!!!
母親思いのウマ娘ですね~!
この学級委員長、感心しました! 花丸を上げましょう!!!」
「あ、あはは~」
彼女もまた、笠松へとやってきたウマ娘である。
中央トレセンから合格通知を受け取りながら、笠松トレセンを選んだ一人。
実は、このような同級生は結構多い。
セイウンスカイもそうだし、隣の教室のオルフェーヴルもそう。
彼女ら曰く、将来性を感じたとのことである。そう直感が囁いたらしい。
中央への切符を捨ててまでやって来たことに、後悔はないらしい。
寧ろ、その充実具合に満足しているのだとか。
「中央もいいけどさ~、笠松の方が実力伸びそうなんだよね~」
セイウンスカイはそんなことを言っていた。……まあ、中央を蹴った人は、皆似たようなことを言っているが。
「ところで話は変わりますが、来年度からのチャンピオンズミーティング、楽しみですね~!
この学級委員長も今から身体がウズウズしてます!!!」
「一般の人にも開放して、大々的にやるらしいからね~。
笠松トレセン内々のレースらしいけど、凄く盛り上がりそうだね~」
チャンピオンズミーティング。
先生より通達のあった、来年度開催予定の学内レース。
距離別、バ場別に分かれて勝者を競う。
学園生徒のみならず、一般人にも見学が許可される予定である。
勝者にはトレーニング施設の優先使用権や、高級ブランドの人参一年分が贈呈される。
参加資格はこの学園の生徒であることのみ。
レース日程の都合で強制ではないが、何もなければ基本的には参加が推奨されている。
「高級人参……雪の中で育てた雪人参とかかな?
は~、考えただけでもお腹が空いてきちゃいます!」
「相変わらずだね~スぺちゃん。でも、私も高級人参一年分は欲しいかな。
この学園のことだし、一本数千円する人参とか用意してそうなんだよね~」
景品となる人参の値段をさらりと的中させるセイウンスカイ。
実際、笠松トレセン側は生徒のやる気を引き出すために、目が飛び出る値段の最高級人参を用意していたりする。
学園もこのイベントを盛り上げるために、ありとあらゆる手段を尽くすつもりだ。
露店誘致もそうだが、笠松のオリジナルグッズ販売も計画していたりする。
その辺りも抜かりはない。
「この学級委員長! 短距離では負けませんよ~!
最近の私は燃えに燃えてますから!!」
「バクシンオーさん! 私も中距離で参加予定ですけど、絶対勝って見せます!!!
人参一年分は、誰にもあげません!!!」
「お~、皆綺麗に分かれたね~。
私は長距離でいくけど、出るからには勝ちたいね~」
三者三様。
皆共通して、レースに対する思いは強い。
負けを前提で臨むような、廃れた根性は持ち合わせていない。
出走するからには必ず勝利を掴む。彼女たちの意気込みは、誰よりも高い。
それに、最近は別の意味でも火を付けさせられる出来事があった。
指導教員として働くウマ娘が見せた“領域”。
超集中状態においてのみ発揮出来るとされているが、ひとたび領域を発動すれば平常時よりも圧倒的なパフォーマンスを可能とする。
中央のトレーナーすらその事象を知るものは極僅かであり、知識として知っていても、教え子に直接指導することは叶わない。
ウマ娘が引き出せる超常的な能力なのだが、眉唾のように考えるトレーナーも多く居る。
都市伝説扱いされることすらある。
笠松トレセンでは、それを授業の中で普通に指導している。
まさか、領域の手引きを学ばせる者が居るとは誰も思わないだろう。
笠松に席を置く“彼女”だからこそできる荒行であり、中央トレーナーが見れば間違いなく発狂するだろう。
現に笠松のトレーナー陣も発狂している。
領域という、超常的現象を教わった彼女たちのモチベーションは高い。
これをモノにできれば、更に高みへと至れる。
「ウマ娘なら、誰でも至れる。
いいか、限界のその先へ行け。己の中の壁を打ち壊せ」
そう助言をもらった日から、彼女たちの心に火が灯っていた。
限界を超える。
言葉で云うのは簡単だが、実行するのは難しい。
だが、既にその領域をモノにしている者もいれば、掴みかけの者も居た。
領域という、まことしやかに囁かれる事象を目の前にして、彼女たちのウマソウルが活性化していた。
だからこそ、目の前のレースに懸ける思いも、熱く滾っている。
「私も領域を習得して、レースに出るぞ~!!!」
「スぺちゃん、負けないよ~!!
私も後少しで掴めそうだし、一足早く習得するんだから」
「はっはっは!!! お互い頑張りましょう!!!
この学級委員長も、皆さんに負けないよう励んでみせますから!!!」
笠松に入学を果たした彼女たち。
地方ながらメキメキと実力を蓄え、レースに向けて牙を研いでいる。
中央との差は既にない。
寧ろ引き離しにかかっている。
中央の関係者は、そろそろ本気で危機感を募った方がいい。
そんな段階まで笠松の生徒たちは成長を遂げている。
中央『さて、今日もトゥインクルシリーズで無双するぞ~』
笠松『さて、そろそろ胡座を搔いてる連中でも叩きのめしに行くか~』(オーバーキル予定)
どこぞの母親『さて、娘のトモ触る不埒者でも処しに行くか~』
ムッシーさん、ノワールキャットさん、crazyDさん、コメント有難うございます。
crazyDさん、カイザーレックスさん、ボールドさん、評価有難うございます。
最近は新顔の人からもコメント貰えて嬉しい