地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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十八話 保養鬱散(ほよううっさん)

 

 

「……よし、マーチ。

 この所トレーニング続きだったし、今日から養生して身体を休めろ」

 

 訝し気な様子でこちらを窺う私の愛弟子。

 休みを命じたというのにこの態度。

 失礼な奴である。

 

 私とて日がな一日、教え子をトレーニングに励ませるほど鬼ではない。周囲からはそう思われている節もあるが、それはさておき。

 身体を休めるのもまたトレーニングの内。

 疲労を溜め込んだままではいずれ限界が来る。リフレッシュを挟み、気分を一新させるのも大事なことだ。

 

 だというのに、マーチからの視線は「何言ってんだこの人」と物語っている。

 

 トレーニング漬けにしてきた弊害だろうか。私のポジションが、練習ばかりさせる鬼教官に固定されているかもしれない。

 

 まあ、ここ最近のマーチの頑張りは私も認めるところだ。

 

 デビュー戦のウイニングライブから立ち直り、私の組んだハードメニューを歯を食いしばってこなし、食事に誘ってくるオグリキャップに付き合って胃袋を限界まで酷使させたり。

 並のウマ娘なら音を上げててもおかしくない内容を乗り越えてきた。

 

 時を見計らって鍼灸師のところに放り込んで強制的に疲労を抜かせているが、偶には労わってあげるべきだろう。私なりの計らいでもある。

 

 それに──私自身も疲労が蓄積している。

 

 半年ほど休みなしで働いたツケがやって来た。

 マーチとの並走に指導、雑務に書類仕事と、少しばかり身体に鞭を打たせ過ぎた気がする。

 ロードワークと労働ワークをやりすぎて身体にガタが来ている。

 

「私も休養したいんだよ、マーチ。いい加減身体に疲労を貯め込み過ぎた。

 ちょっとばかし、身体の凝りを解消してくる。

 じゃないと、仕事にも影響しそうだしね」

 

「……そうか。なら、分かった。

 私も羽を伸ばしてくる。先日から一緒に遊ばないかと誘いを受けていたし、折角の誘いを断る必要もなさそうだ」

 

「そうしな、マーチ。友人は大切にするんだよ。

 私は温泉でも行って身体を癒してくるから」

 

 そんなこんなで、私は久々の休暇を取った。

 働き詰めだったので有休も腐るほど溜まっていた。早く消化しろと理事長からもせっつかれていたので、一週間くらいのびのびと過ごしてもいいだろう。

 

 私はマーチと別れてから車に乗り込み、ついでに沖野を拉致してから温泉へと向かった。

 沖野? あいつに人権はないので、どう扱おうが私の勝手である。

 

 突然連れ去られて喚く沖野を適当に黙らせ、車を走らせる。

 

 かれこれ二時間。

 そうして辿り着いた場所は──ゆこま温泉郷だ。

 

 温泉郷と名の付く通り、色々な源泉を味わえる温泉施設である。

 かつては賑わいを見せていたURAの保養施設であったが、時代の流れと共に寂れ、存続の危機に瀕していた場所だ。

 私が来る以前の笠松と、どこか似た状況だった。

 

 だが、私が私財を少しばかし投じた影響もあり、経営破綻は免れている。

 今は観光客が細々と立ち寄る程度だが、私はこの場所を気に入っていた。

 

「ユノハナブルーム。それに女将さんも、久しぶり。唐突に押しかけて悪いね」

 

「……はあ、連絡くらい寄越して欲しかったですが、突拍子もないのは慣れてますからね」

 

「全くだ。中央に居た頃から変わってないね。

 で、沖野も連れてきたのはどういう風の吹き回しだい?」

 

「私が無理矢理連れて来た。

 独りぼっちだと、話し相手がいなくて退屈だから」

 

「ええ……オレ、そんな理由で連れてこられたのかよ……」

 

 ここの女将さんと、その補佐をしているウマ娘は昔からの知り合いだ。

 彼女たちは元々中央の関係者である。元中央のトレーナーとその担当ウマ娘。

 

 私と同期でもあり、彼女たちとの付き合いも長い。

 温泉郷を開いたと聞いてから、足繫く通う程の仲だ。所謂マブダチ。

 今でも定期的にやりとりをしている。

 

「……アンタには感謝してるよ。こんな潰れかけの温泉宿に私財まで投じてくれちゃって。お陰様で経営もなんとか持ち堪えれてるよ」

 

「私の好きでやってることだから、気にしないで。

 私としても、こんな極楽な療養所を潰してほしくないからね」

 

 鍼灸師の登場や医療技術の発展により、ウマ娘の怪我のケアには事欠かなくなった昨今。

 態々温泉で休養を図る意味は、薄れつつある。

 

 遠くまで足を運ばなくても、最寄りの病院で診察すればいい。

 時代が進んだ証拠でもある。

 

 しかし、私は温泉が齎す効果に期待を寄せている。

 

 医療施設でリハビリに励んでも息が詰まる。温泉に浸かるような、リラックス効果は持ち得ない。心休まる地で休息を取ると得られる充足感は、温泉ならではの魅力だ。

 

 源泉の種類によっては、傷の回復を促進する効果もある。美肌にもいいし、疲れ切った身体を解すのも、温泉ならではの効能と云える。

 

 だから私は、体調不全や身体の調子を戻すためによく訪れている。

 私財を投じても惜しくないと思える価値がこの温泉宿には眠っている。決して、友人が経営しているからとか、依怙贔屓してるわけじゃない。贔屓目なしでもこの温泉郷は素晴らしいのだ。

 

 だから、最近では笠松トレセンと提携を図らないかと色々と画策している。

 URAが見捨てたなら、私たちが貰っても構わないだろう。

 

 我が校の医療スタッフも派遣して、温泉の効能をその身で体験してもらっている。

 温泉だからと侮るなかれ。

 下手な医療施設で治療するよりも、この温泉に浸かった方が効能は確かなのだから。

 

「いつも通り満喫させてもらうよ。

 二人とも旅館のコースは、松コースでお願いね」

 

「いつもおおきに。それでは、ゆっくり温泉宿を堪能していってくだはれ」

 

「あ、あと笠松トレセンとの提携の件、考えておいてね?」

 

「……まったく、いっつも助けてもらってばっかしだね。

 前向きに検討しとくよ。お前さんたちには世話になってるからね」

 

 じゃあね~とゆっくり手を振り、彼女たちを見送った。

 彼女たちも仕事がある。長々と引き留めるわけにいかない。

 

 一直線に温泉宿へと向かう私と沖野。

 歩きながら、沖野が私に話しかけてきた。

 

「……情に厚いよな、お前も……」

 

「……さて、何のことやら?」

 

 私は自分のしたいことをやってるだけに過ぎない。

 提携の話だって、学園の生徒を思っての行動である。怪我の復帰やリフレッシュに最適だと思ったから、話を持ち掛けたに過ぎない。

 

 それが偶々彼女たちを助けることに結びついても、私には関係ない。

 

 それに、今日は身体を癒すために足を運んだのだ。

 あらぬ疑いをかけないで欲しい。

 

「……はあ……まあ、そういうところもお前さんの美点だしな」

 

 昔から変わらんな~ と呟く沖野を無視して、私は歩を進めた。

 マーチも今頃羽を伸ばしてるだろう。

 久々の休みだし、私も存分に羽を広げるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「……な、なあオグリキャップ。

 本気でその巨大パフェを食べるつもりなのか?」

 

「?? マーチも食べないのか? 

 このスカイツリーウマ娘盛りパフェ」

 

 オグリキャップは首を傾げ、不思議そうな顔で問い返した。

 純粋に疑問だと顔に出ている。

 

「あのね、オグリちゃん……

 ウマ娘が大食いって言っても限度があるんだよ。

 総重量4kgもあるパフェなんて、そう簡単に食べきれるものじゃ……」

 

「でも向こうで二人、食べてるウマ娘が居るぞ?」

 

 そう言われて、オグリキャップが指さした方向へ、マーチとベルノはゆっくりと視線を向けた。

 

 そこには、笠松トレセンの制服を着た生徒が二人。

 見覚えもある。

 間違いなく同級生だ。

 

 青薔薇の髪飾りを付けたウマ娘と、田舎から出てきたと噂のウマ娘。

 その二人が巨大パフェを前に、自然な動作でスプーンを運んでいた。

 

「ん~。やっぱ美味しいですね! 

 電車で名古屋まで来た甲斐がありました!!」

 

「そ、そうだね。ライスも大満足の味だよ。

 トレセン近くにも、出店してくれないかな?」

 

 バケモノ級のパフェを見る見るうちにお腹に納めていく二人。

 胃にブラックホールでも飼ってるのだろうか? 幸せそうな表情で食べ進めていく。

 

 そうして食べるスピード落とすことなく、満足気な表情で完食してみせた。

 

 フジマサマーチとベルノライトは啞然とするしかなかった。

 どうして私たちの学年は大食いばかりが集まるのか。疑問が潰えない。

 あれ? ウマ娘って大食いファイターだっけ? 

 

 そんな様子の二人を裏腹に、オグリキャップは注文をし始めた。

 彼女も待ちきれなかった。

 美味しそうに頬張る二人の様子を見て、食欲が刺激されない筈がない。

 

 ついでに心優しいオグリキャップは、マーチとベルノの注文もしてあげた。

 

 勿論スカイツリー盛りで。

 

 彼女なりの気遣いである。

 口を開けて呆けている二人がいつまで経っても動かなったから、気を利かせたに過ぎない。

 

 そうして、テーブルに運ばれてきた三つの巨大パフェ。

 オグリキャップは目を輝かせてスプーンを手に取り、マーチとベルノはいつの間にか運ばれてきたパフェを絶望的な表情で見つめていた。

 

 周りの注目も集めており、逃げ場はない。

 二人は泣く泣く、スプーンを握るしかなかった。

 

 




ドライブ中の会話

主人公「そういえばスペシャルウィークの保護者から鬼電掛かってきたらしいけど、お前何かした?」

沖野「いや、思い当たる節はないんだが…」(無自覚)

トレセン総務課「沖野さんよぉ!ワレ、何してくれとんじゃ!」


SYO034さん、ムッシーさん、サマーブックさん、コメント有難うございます。
ノワールキャットさん、レヴィ0910さん、SUJさん、SUGINAOさん、NEOさん、ゴレムさん、評価有難うございます。
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