地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

21 / 48
二十一話 勝負服

 

 私は今、困惑に包まれていた。

 その困惑の原因は、笠松から一足先にGⅠレースへと駒を進めた、オグリキャップの勝負服にあった。

 

 あれ? 

 オグリキャップの勝負服ってこんなデザインだっけ? 

 

 必死に記憶を漁るが思い当たる節がない。アプリ版でこんな衣装、登場していただろうか? 

 通常衣装なら無論覚えている。

「月に代わってお仕置きよ~!」とか言い出しそうな衣装であった。

 初期の頃から実装されてたので、見間違える筈がない。

 

 しかし、現在オグリキャップが身に纏っている勝負服は、私の知るものとは全くの別物である。

 

 彼女が一歩前に出て、くるりと軽く身体を回した。

 

 初めて目にする衣装だが、その出来栄えは驚嘆に値する。

 均整の取れたトモが黒スパッツで強調され、シューズもシンデレラの靴を意識したのか透明感がある。

 白を基調としたシャープなデザインも相まって、彼女の存在感をより際立たせている。

 

 膝下を覆うマント状の布地も、強者としての風格を漂わせている。

 

 端的に言って凄く格好いい。

 オグリキャップ、案外センスいいな。

 

 失礼な話だが、正直に言えば意外だった。

 ウイニングライブで笠松音頭をセレクトするくらいだから、てっきり勝負服のセンスも皆無だと思い込んでいた。

 

 どうやら私の認識が間違っていたらしい。

 

 そんな私の内心を他所に、彼女の回りに集まった友人たちも次々と感想を口にしている。

 

「オグリちゃん、とっても似合ってるよ! 

 なんていうか……こう、主人公感がすごい!」

 

「……想定以上の出来栄えだな、オグリキャップ。

 私のライバルとして、恥じない仕上がりだ」

 

「……いやはや、キラキラしてますな~

 私も勝負服作る時の参考にさせてもらおうかな」

 

「ら、ライスもとっても素敵だと思うな。

 ガラスを模した靴なんか、シンデレラさんみたいだよ」

 

 口々に投げかけられる賛辞。

 マーチだけでなく、オグリキャップも交友関係が広いようでなによりだ。

 

 遠巻きにこちらを覗き見している生徒たちも居り、皆一様に興奮している。

 中にはオグリキャップの勝負服を見て、鼻血を出して倒れる者もいる。

 

 あのウマ娘、なんか見覚えあるな……

 あ、偽アグネスデジタルじゃんか。

 マーチだけじゃなく、オグリキャップのファンもしているとは……

 オタクの血が騒いだのだろうか。南無三。

 

 まあ、人気者であることに越したことはない。

 何せ、笠松トレセンからトゥインクルシリーズ初めてGⅠへ出走するウマ娘なのだ。

 注目を浴びるのも至極当然のことと云えよう。

 

 彼女は笠松トレセンの看板を背負った、云わばこの学園のエース筆頭格。笠松を代表する顔役だ。この学園での人気も高く、すれ違えば誰もが挨拶するくらいには人気を博している。

 

 先日、学園側から公表したランキングで二等星の地位に君臨したウマ娘でもある。

 笠松のみならず、岐阜県民の多くも彼女を応援している。理事長や上層部からの期待も厚く、背負うものも大きい。

 

 もっとも、当人はマイペースな性格なお陰か気にも留めてないようではあるが。

 

「オグリキャップ。

 お前さんの勝負服のセンスの良さには驚かされたよ。

 マーチの勝負服を作る際も、よかったら力を貸してやってくれないか?」

 

「?? 別に構わないぞ?」

 

 マーチがおいっと食って掛かるが、私は知っているんだぞ。

 マーチお前、美術の成績「2〛だろ。

 五段階評価で「2」って、お前……

 先生のお情けで最低評価免れてるだけじゃねえか! 美的センス皆無だぞ。

 

 私もマーチの勝負服を監修したのだが、原案を見たときは絶望しかけた。

 ブレザーぽい制服を意識したのだろうが、もう服としての様相をなしていなかった。

 小学生が描いた方がまだマシなレベルだ。

 

 言語化するのも一苦労な原案を提出してきやがったのだ、こいつは。

 

 私の苦労も偲ばれるというものである。

 恥を忍んで、オグリキャップにデッサンしてもらえ! と命令したくなる気持ちも理解してもらえる筈だ。

 

「オグリちゃん、どう? 

 これなら力……出せそう?」

 

「ああ、バッチリだ。

 身体の底から、力が湧き上がってくる感じがする」

 

 ウマ娘にとって勝負服は、ただレースで着用するための衣装に収まらない。

 ウマソウルとも深く結びついた、戦装束である。

 

 意識を切り替え、能力を引き出し、調子すら底上げする。

 パフォーマンスを向上させる一種のドーピングアイテムといってもいい。

 

 そのせいもあり、ウマ娘にとって勝負服は憧れの対象となる一方で、GⅠでしか着用が許されないという制限が設けられている。

 

「北原も感想を教えてほしい

 ……って、北原? 

 何泣いているんだ?」

 

「いやよお……

 お前の勝負服姿を見たら、前が見えなくてよぉ……」

 

 北原にとっても彼女の勝負服姿は堪えたらしい。

 涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。

 彼からしたらよっぽど感慨深いのだろう。

 

 一念発起を決めて勉強を開始し、沖野の下で知識を詰め込み、指導法を学び、日が明け暮れるまで努力を重ねた。

 

 それが功を奏し、僅か一年足らずでGⅠの舞台に立っているのだ。

 少々出来すぎな気もするが、感動もひとしおなのだろう。

 

「……あの食欲の権化みたいなオグリキャップが、こんな立派になって……

 オレは成長が喜ばしいよ……」

 

「あ、あはは……。トレーナーさん。

 いつもお財布、空にされてましたもんね……」

 

 なにか別の意味でも感動を禁じ得ないっぽい。

 

 まあ、北原とオグリキャップが二人三脚で頑張ってきた結果だ。いや、ベルノライトを含めたら三人か。

 彼女たちの積み重ねがあったからこそ、GⅠという輝かしい舞台に立つことができたのだ。

 

「オグリキャップ。

 私からの激励は不要だと思うが、敢えて言おう。

 ——必ず勝てよ!!!」

 

「……ああ。

 マーチに挑むまで、負けるつもりはない!!」

 

 私の愛弟子が、これからGⅠへ挑むオグリキャップへと喝を入れていた。

 これぞ青春の一ページ。眩しい光景だ。

 私の時は……うん。青春の欠片もなかったな。素直に羨ましい。

 

 オグリキャップ陣営も準備は万全だ。

 調子も絶好調で、GⅠへ挑むに相応しいコンディションである。

 彼女なら問題なく勝ち上がってくれそうだ。不慮のハプニングが起きても、難なく乗り越えて勝利を手にできるだろう。

 

 笠松の名を世に刻み込む。

 その目的の為に、彼女のレースは譲れない一戦になると思われる。

 

 新聞に勝利を飾るのは中央ではない。

 私たちだということを、レースで示してきてほしい。

 

 期待しているよ、オグリキャップ。

 

 




オグリキャップの衣装が知りたい方は『オグリキャップ 新衣装』で検索を。

アプリで実装されたとき、カッコよすぎて石溶かしちまったよ……



crazyDさん、トントロラーメンのトントロ抜きさん、ノワールキャットさん、ムッシーさん、葛葉さん、SYO034さん、コメント有難うございます。

道魔 幽さん、たけなかさん、評価有難うございます。
執筆の励みになりますm(__)m

ちなみにですが、次で一編はラストです。
二編目は執筆中ですので暫しお時間を頂きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。