地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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三十一話 万全の備え

 

 笠松トレセン内では、明朝から騒がしくなっていた。

 

「ねえねえ、聞いた? フジマサマーチさんの話!」

 

「おい、マーチ様って呼べよ、デコ助野郎。

 次はないから気を付けなさい。

 

 で、海外挑戦の話よね? 勿論、耳に入れてるわよ」

 

 フジマサマーチの海外挑戦。

 その話題は瞬く間に学内中へと広まっており、女子生徒たちの話題の中心となっている。

 

 トゥインクルシリーズではなく、アメリカクラシックへのまさかの転換。

 これには驚いた者も多い筈だ。

 

 学園でも多くの人気を獲得しているマーチ。

 その行く末は、誰もが気にするところにあった。

 

 国内でも格式高いGⅠレースを制し、笠松トレセンの名を全国へと広めている張本人。

 笠松学園に所属する生徒たちは、このままトゥインクルシリーズを荒らし回るのだと誰しも思っていた。

 

「私たちの学園から海外挑戦者が出るなんて、初めての事態じゃない?」

 

「そうね。

 でも、マーチ様なら海外の地でも活躍してくれるに決まっているわ。

 どんな場所であろうとも、颯爽とターフを駆ける姿が容易に思い浮かぶもの」

 

 涎を垂らしながら、妄想に浸る女子生徒。

 一緒に話していた友人は、若干ドン引きしている。

 

「あの凛々しいお姿が世界に露見してしまうのは赦せないけれど、国内で留まっていい器じゃないもの! 

 マーチ様には世界の舞台こそ相応しいのよ! 

 私もいっそのこと付いて行って、間近でご尊顔を拝見したいほどね」

 

「……うわぁ、こいつきもっ」

 

 教室ではその話で持ち切りであり、誰しもがその話題に触れていた。

 

 ギャル要素満載のウマ娘は、机に突っ伏して滂沱の涙を流している。

「あ~しを置いてアメリカへ行かないで~」と今生の別れのように嘆いていた。

 

 ライバルであるオグリキャップも寝耳に水の出来事だったのだろう。

 あまりの動揺に時間を過ぎても学食に居座り続け、食堂のスタッフを困惑させていた。

 

 学園各所でマーチショックが起こり、少なくない影響を与えていた。

 これも偏に、彼女がこの学園で慕われている証拠だ。

 

 

 そして、当の本人はというと、普段通りの様子でトレーニングに励んでいる。

 報道が出たからといって、彼女の練習に支障が出る訳ではない。

 

 呼吸を整え、綺麗なフォームで地を蹴り、走っている。

 

 常在戦場。国内から海外へ場所が移ろうとも、普段通りの実力を発揮するために、いつものルーチンワークをこなしている。

 

 正しい努力には、正しい結果が伴う。

 その言葉の体現者である彼女が、練習を怠ることはない。

 学園のトップとして、その振る舞いは模範的でもあり、ブレることはない。

 

 アメリカレースを見据えて、新設されたコースを力強く駆けるフジマサマーチ。

 その様子を見守るトレーナー。

 

 いつも通りの光景であったが、今日に限り、見慣れぬ人物の姿があった。

 

「いや~。あの子があんたの愛弟子かい? 

 随分とストイックに走るじゃないか」

 

「あの子本来の気質だからねぇ。にしても意外な人選だった。

 縁のある人が来るとは予想していたけれど、まさかメイだとは思わなかったよ」

 

 URAトレセン学園強化部門に所属する女性。名前を佐岳メイ。

 フジマサマーチのアメリカクラシック挑戦にあたり、URA本部から派遣されてきた人物である。

 

 過去の確執やグッズ販売を巡り、良好とは言えない関係性にはあったが、今回の海外挑戦ではサポートスタッフとして随伴してくれる。

 

 URAとて、ただ指を咥えて待ってはいられない。

 例え確執があろうとも、URAからも協力支援を行ったという形を内外に示す必要がある。支援すら行わなければ、URAの存在意義にも係る。

 

 海外挑戦を積極的に応援する立場としても、笠松トレセンとの関係改善を図りたい身としても、今回の遠征は正に渡りに船と考えており、仲の良い佐岳メイをサポート要員として送り込んだ。

 

 これを機に、笠松トレセンとは本格的に関係改善を図ろうとしている。

 

「欧州レース関連なら出張ってくると思っていたよ。

 ただ、アメリカのレースにも同伴するとはね」

 

「私様じゃ不満かい? 

 確かに専門は欧州レースだが、米国のレースだって精通しているつもりさ」

 

「不満はないよ。

 寧ろ、顔馴染みが来てくれて安心してる」

 

 トレーナーである彼女も、プロジェクトラーク発足以来の顔合わせだ。

 過去には欧州レースにてお世話になったが、今回は愛弟子の世話を見てくれるという。

 

 とはいえ、走り方のアドバイスや現地での身体慣らしは、トレーナーたる彼女の担当範囲。佐岳メイの出番は主に通訳やホテル手配、移動手段の確保など、裏方に回ることになる。

 

 佐竹メイは、熱心にフジマサマーチの走る姿を目に焼き付けている。

 日本を騒がせる実力の持ち主。

 笠松が誇る極星。

 

 噂にたがわぬ実力を目の当たりにして、満足げに頷いている。

 

「君の教え子は随分と優秀だな。

 ここまで完成度の高いウマ娘を見るのは、君やトキノ君以来だな。

 アメリカでも十分勝ちを狙える」

 

「嬉しい評価だね。

 教え子をそこまで褒めてくれるなんて。煽てても何も出ないよ」

 

 トレーナーである彼女は謙遜しているが、隠し切れない自信が見え隠れしている。

 

 佐岳メイは苦笑するばかりだ。

 群雄割拠の魔境と化しているアメリカのウマ娘たち。それに勝つ自信も算段も付いているということなのだろう。

 

 行き過ぎた信頼は時として呪いにもなり得るが、確固たる努力と積み重ねがあるなら話は別だ。

 全く……

 頼もしい限りだとメイは思う。

 

 

「……私も期待させてもらうよ。

 個人的にも、君のお弟子さんには勝利を飾って欲しいからね」

 

「マーチには気楽に挑ませるよ。

 Take it easyってね」

 

 精神的なゆとりをもって臨んで欲しい。

 それが、トレーナーである彼女とメイの共通見解である。

 

 マーチのトレーニングを終わらせ、その後は三人で軽く顔合わせを行った。

 雑談程度にアメリカ遠征中の流れや疑問点等を確認した。

 

 後日、空き時間でゆっくり詳細を詰めていく予定となっており、軽いブリーフィングに留まった形だ。

 

「それじゃあ、お疲れ様」

 

 そう言って去っていく佐岳メイの背中を眺める二人。

 

 トレーナーである彼女は「生ボのお疲れ様だ!」

 と何故か少しだけ興奮していた。

 

 その姿に呆れるフジマサマーチ。

 お疲れ様がどうした? と疑問が禁じ得ない。

 

「体力回復した?」とか意味の分からないことをのたまうトレーナーに、頭を抱えていた。

 時折、理解の及ばない言動をし、周りを当惑させてくる。

 今回とて、初めてのことではない。

 

 アメリカクラシックへと臨むにあたり、準備は万全だ。

 しかし、不安の種が横にいることに少々のストレスを抱えるフジマサマーチ。

 

 渡航前に一度、先生を精神外科に連れて行くべきか否か。

 フジマサマーチは至極真面目な顔で、そんなことを考えていた。

 

 

 




知らない人向けに

アプリでは佐竹メイさんの練習を踏むと体力が回復する効果がありました。
微量だけど。

佐伯メイ「あたし様のお疲れは全人類を癒す効果があるのだ!!!」


新シナリオ勢
カジノドライブ「あの……私の出番は??」

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