地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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三十四話 特大スポンサー

 

 フジマサマーチは煌びやかなドレスに身を包み、パーティ会場へと来ていた。

 

 フォーマルな格好での催しであり、会場に居る人間も皆が皆、小奇麗な格好をしている。

 格式高い雰囲気が漂っており、一般人が気軽に踏み込めないような場所でないことは明らかであった。

 

 そんな場所へと飛び込んできてしまったフジマサマーチ。

 彼女の心情を覗いてみれば

「……や、やばい。場違いな場所へとやってきてしまった……」

 と今すぐにでもUターンしたい気持ちが隠し切れなかった。

 

 会場は広く豪華であり、集った者たちがパーティを楽しんでいる。

 

 それ自体は問題がない。

 ないのだが、列席者の顔ぶれがちょっと異常である。

 

 アメリカの大手IT企業のCEOや世界長者番付にも名を刻む大富豪。

 

 世俗に疎い者ですら耳にしたことのある顔ぶれが、この会場にて談笑している。

 

 何このメンツ?? 

 もしかして、会場入りするのに金持ちしか参席できないとか条件があるのだろうか。

 

 マーチが浮いてしまっていると思い込むの無理はなかった。

 一般人が何も知らずに踏み込めば、卒倒するようなメンツが集まっている。

 

 そんな中に放り出されてしまったフジマサマーチ。

 当然、心境は穏やかではない。

「……おうち帰りたい」と弱音を吐くほどに、気が気ではない。

 

 そんな様子を察してか、近くに居たウマ娘が声を掛ける。

 

「やあやあ! 随分と顔色が悪いね? 

 元気が足りてないんじゃないかい?」

 

「……元気どころの話じゃない。

 胃に穴が空きそうだ。

 ああ、どうして私はこの場に来てしまったのか……」

 

 やけに体格の良いウマ娘から気遣いの言葉が飛んでくる。

 それに対し、流暢な英語にて返答するフジマサマーチ。

 

 賢さUは伊達じゃない。

 

 本調子であれば会話に乗ってやりたいところなのだが、生憎、それどころではない。

 会場入りしてから緊張しっぱなしであり、胃がきりきりしている。

 

 先生から誘われた際に軽く了承するべきではなかったと、今更ながらに後悔している。

 

「アメリカはパーティーが盛んだからね。

 この間のレースの、ジェフルビーステークス*1勝った際に招待状届いたから。

 慣れとく意味でも今回参加してみない?」

 

 と軽いノリで云われたのでOKしてしまった。

 あの時の自分が恨めしい。

 

 しかも、直前になって「正装で行くよ」とか言わないで欲しい。

 

「……気持ちは分かるけどね~

 ぶっちゃけ、私も気丈に振る舞ってるけど内心は冷や汗が止まらないよ」

 

「……胃痛仲間が居て良かった。本当に」

 

 マーチは名前も知らぬ彼女と硬い握手を交わした。

 これが、国を超えた友情である。

 同じ心情の者が近くにいるだけで、これほど心強いことはない。

 

 残念ながら、雲の上にいるようなお偉方に話し掛けにいけるほど、彼女たちは強かではなかった。

 

 社会のトップに君臨しているような連中に、どうやって話し掛けろというのか。

 会話の糸口すら掴めんわ! 

 

「私たちは目立たずのんびり過ごしていよう」

 

「その言葉には賛成だね。

 周りに目を向けるだけでも頭が可笑しくなりそうだ」

 

 頷きあう二人。

 出自は違えど似たような境遇を感じ取り、自然と心が通じ合う。

 

 シンパシー◎ 絆ゲージマックス。

 今なら友情トレーニングができそうである。

 

「……うう、ストレスで胃が痛い」

 

「あとで君にも効きそうな胃痛薬を紹介しよう。

 ……勿論、僕も服用するけどね」

 

 二人してビュッフェとして提供された人参をぽりぽりと齧る。

 なんかやけに高級な味がするな……と思いつつも食べずにはいられない。

 

 気分を紛らわせるには、常に口に何か含んでいた方が良いという。

 

 積もる話もあり、二人はなんだかんだ会話に花を咲かせていた。

 

 

 

 

 そして、この会場にマーチを招待した下手人。

 彼女はといえば―

 

 教え子とは対照的に、お偉方ともフレンドリーに会話を交わしていた。

 

 これが年長者の余裕。

 

 年の功とか言ってはいけない。

 言ったらその場でジャーマンスープレックスが炸裂する。

 

 ある程度場数を踏んでいる彼女からしてみれば、この程度は緊張すら感じない。

 社交の場として、リラックスしながらおしゃべりに興じている。

 

「そういえば、君の教え子が次のケンタッキーダービーに出場すると耳にしているよ。

 意気込みはどうなんだい?」

 

「私の愛弟子ですからねぇ。

 一緒にトレーニングも積んできましたし、仕上がりも万全です……

 

 そうですね、皆さまには悪いですが、勝利は貰っていきますよ」

 

 堂々たる宣言。

 母国たるアメリカを差し置いて、トロフィーを奪い去っていくと言う。

 

 これには、周囲に集まっていた者や耳を傾けていた者たちからも感嘆の声が上がった。

 

「おおっ、それは楽しみだ! 私も現地で観戦する予定なのだよ。

 是非とも教え子の活躍を楽しみにさせてもらうよ」

 

「……素晴らしい自信だが、我がステイツのウマ娘たちも負けてはいない。

 偉大なる貴方の教え子であろうとも、栄光は我が国のウマ娘が掴んでくれる!」

 

 純粋な応援、或いは母国のウマ娘への勝利を信じる言葉。

 

 彼らの言葉には熱が籠っている。

 皆一概にして言えるのは、ウマ娘への関心が強いということである。

 

 この場に集ったのは経歴や企業問わず、ウマ娘界隈に少なからず関わりがある者たちである。

 彼らのウマ娘に対する情熱は凄まじい。

 

 彼女の言葉を境に、熱い議論が飛び交うほど、白熱していた。

 

 

 

 そんな彼らからやや距離を置いた場所。

 パーティ会場の隅にて、聞き耳を立てつつ、静かに会話に専念しているグループが存在していた。

 

 彼らこそ、人生の成功者。

 この会場に居る者の中でも、トップレベルの資産と影響力を誇る者たちだ。

 

 国家予算を一人で賄えてしまえる規模の資産家。

 或いは会社を創業し、一代にして巨万の富を築き上げた者。

 

 彼らは所謂“持っている側”の人間であり、先天的に産まれ持った頭脳と審美眼で、あらゆる分野で成功を納めてきた。

 

 そんな彼らも例に漏れず、ウマ娘に強く関心を抱いている。

 

 それと同時に。

 彼らにはとある共通点が存在していた。

 

 それは——

 とあるウマ娘のレースを観戦し、価値観を変えられる程の出来事に遭遇したということ。

 

 それ以後はまるで人が変わったかのように、ウマ娘業界に率先して出資を申し出るほど熱を上げている。

 独身の者はウマ娘の妻を娶るほどに、ウマ娘という存在に惹きつけられていた。

 

 極まったウマ娘のレースは、時として人生や価値観にすら多大な影響を及ぼす。

 彼らが見たレースはそれほどまでに鮮烈だったのである。

 

「……彼女の勤め先は笠松トレセンだったかな? 

 我が社からも、スポンサー契約を結べないだろうか」

 

「先行して開発を進めているウマ娘用VRゴーグル試作機も完成を迎えている。

 風の噂では、我が国のウマ娘もかの学園に入学できると耳にした。

 これを手土産に、アメリカ出身のウマ娘の入学枠を増やせないか交渉したい」

 

「彼女の愛弟子であるフジマサマーチだったね。

 あの子ならうちの看板を背負うに不足はない。

 是非とも広告塔として、うちの企業をプッシュアップしてもらいたいね」

 

 彼らは常に、先を見据えて行動している。

 実益と趣味を兼ねているのならば、動き出さない道理はない。

 

 先天的な才能を持つ彼らからしてみれば、“あのウマ娘”の教え子を見た瞬間から、次のレースの勝者を予感できてしまえる。

 

 起業家や実業家としての一面を持つ傍ら、ウマ娘大好きクラブにも所属する彼ら。

 

 使い切れない程の金を持つ彼らの行動力は凄まじい。

 莫大な資金や創業者の鶴の一声でもって、全力で支援に立ち回るつもりでいた。

 

 後日、笠松トレセンに世界で活躍するグローバル企業から続々とスポンサー契約が届くのだが、それはまた別のお話。

 

 

*1
ロードトゥケンタッキーダービーに指定されているレース。勝利するとポイントが貰え、ケンタッキーダービーへの優先出走権が得られる




スポンサー一覧
・岐阜県ウマ娘レース支援機構
・SPORTS LIGHT 国内大手スポーツ用品メーカー(ベルノライトの実家)
・大手海運企業(ライスシャワーの実家)
・世界を股に掛ける謎のグローバル企業(複数社)


笠松トレセン「……もうこれ、安泰じゃね??」
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