地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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三十七話 日本ダービー

 

 

 遠征にてアメリカで初勝利を収めていたフジマサマーチ一行。

 アメリカクラシックの主役を飾りつつ彼女。

 それにやや遅れる形で、オグリキャップも同じくダービーレースへと臨んでいた。

 

 ——日本ダービー

 世間では最も運の良いウマ娘が勝つと囁かれているレースである。

 

 十八人立てと大混戦が予想される中でスムーズに好位につけられる枠順か、不利を受けない展開か等々、運の要素が絡んで来るとまで言われている。

 

 ある種のジンクスにまで昇華されているが、“彼女”に言わせてみれば只の言葉遊びに過ぎないと受け流されてしまうだろう。

 

 最も運の良いウマ娘が勝つ? 

 んな訳ないだろ! いい加減にしろ!!! とバッサリ切られるのは想像にかたくない。

 

 レースに運なんぞ関係ない。

 実力が最も高い奴に勝利の女神が微笑むに決まっている。

 ジンクスに惑わされているような奴は二流どころか三流に過ぎないと断定されてしまうに違いない。

 どこぞの良家のウマ娘も涙目である。

 

 

 

 

 

 

「さあさあ、レースも終盤に入ってきました!! 

 各ウマ娘もデッドヒートを繰り広げています! 

 おおっと、ここでオグリキャップが抜け出したぞ!! 

 皐月賞でも見せた豪脚がここでも発揮されるのか!!!」

 

 オグリキャップがラストスパートと言わんばかりに、自慢の末脚を発揮する。

 全身全霊、今彼女の持てる全てを尽くして脚を動かす。

 

「オグリちゃーん!!! 頑張ってええええ!!!」

 

「オグリいい!!! そのまま突っ込めええぇ!!!」

 

 観客席からは北原とベルノライトの声援が聴こえる。

 それだけではない。彼女の同室でもあるノルンエースに、大食い仲間のライスシャワーやスペシャルウィークの声援。

 

 顔見知り程度だが、サクラバクシンオーやセイウンスカイ、傲岸不遜のオルフェーヴルの叱咤の声も聞こえる。

 新たに入学した生徒たちも口々に己を応援してくれており、レースの大歓声の中でも確かに耳に入ってきていた。

 

 託された想い、託された期待。

 オグリキャップはレース中にも関わらず、笑みを抑えきれなかった。

 

 ああ、ここまで己を信じてくれる人がいる。

 裏からもサポートしてくれる人がいる。

 笠松トレセンの期待を背負って、飛翔するかのように速度を上げていく。

 

 ピシり。

 と確かな音がした。

 

 ピシピシッとガラスが砕けた音が響き渡り、出走者の視線がオグリキャップへと集まる。

 

 バキリッ。

 それは、ハッキリと耳に聴こえるような形で会場中に響き渡り、観客たちの視線が彼女に注がれた。

 

 パリンっと完全に砕け散った音が響き、彼女の領域が姿を覗かせる。

 

 

 

 

 

 

 固有領域

 

 

 灰色の怪物

 虹天の怪物 〈レインボー・ファントム〉

 

 オグリキャップ

 彼女には支えてくれる笠松の皆が居た。

 

 熱心に指導を施し、トレーニングメニューを一から十まで考えてくれる北原が。

 

 日常的に蹄鉄やアフターケアをサポートしてくれるベルノライトが。

 

 いつも食事に付き合ってくれる大食いウマ娘たちが。

 

 陰から顔を覗かせて盗撮まがいのことをしているノルンエースが。

 

 そして、ライバルとして遥か高みにいるフジマサマーチが。

 彼女たちの存在が領域としての強度を高め、オグリキャップを成長させる。

 

 もう灰被りのお姫様(シンデレラグレイ)なんて言わせない。

 彼女はそれすら超越して、更なる深化を果たす。

 

「な、ななな、なんと!! 果たしてこれは現実か否か!! 

 今、我々の目には色鮮やかな虹彩が映し出されています!! う、美しすぎて思わず見惚れてしまいそうです!!」

 

 オグリキャップが領域を発動した。

 それに併せて、彼女が凄まじい速度で前方のウマ娘たちを追い抜かしていく。

 誰一人として追従することができない速力。

 一人、また一人と後続へと押し流されていく。

 

「あ、圧倒的なスピードだああああ!! なんたる末脚でしょうか!!! 

 これは誰も追いすがれない!! ああっと、先頭に立っていたサクラチヨノオーすら躱して更に伸びていく!!!」

 

 

「うぇえええ?!!!! いや、なにその加速!?」

 

「いや、トレーナーのお前さんも驚くのかよ……!!」

 

 観客席ではトレーナーである北原が、オグリキャップのみせる圧倒的な加速に心底驚かされていた。

 それに呆れた様子で沖野もツッコミを入れる。

 笠松の面々も皆口々に驚きを露わにしている。

 

「領域の深化……

 極めればそこらの一般人でさえ可視化できる光景を映し出すとは聞いてましたけど、まさかここまでなんて……

 やっぱオグリちゃんは凄い!」

 

 

「ッチ。気に喰わん。

 余でもあそこまで至れていないというのに、魅せつけてくれよって……」

 

「ムムム! これは凄まじい光景ですね!! 

 この学級委員長も感心です。私も精進しなければなりませんね!!!」

 

 先頭に立っていたサクラチヨノオーが追い縋ろうとしたが、哀しいかな。

 余りの圧倒的なスピードの前になすすべがない。

 領域にすら到達していない者では到底太刀打ちできない。

 

 勢いそのまま、圧倒的な力強さでオグリキャップはゴール板を駆け抜けた。

 

「い、今オグリキャップがゴールイ~ン!!!! 

 ラストスパートで凄まじい末脚を魅せつけ、見事勝利を飾りました!!!」

 

 他者をも寄せ付けない圧倒的な走り。

 皐月賞に続き、日本ダービーをも制して見せた。

 

 まさに、日本のトゥインクルシリーズの主役に相応しい走りである。

 灰色の領域から深化を果たしたオグリキャップ。

 名実ともにライバルたるフジマサマーチへと並ぶために、更なる飛翔を果たした。

 

「いやあ~終わってみれば横綱相撲でしたね!!! 

 まさに圧巻の走りを我々に見せてくれました」

 

 観客からも割れんばかりの歓声が響き、レース会場を覆った。

 

 誰もが認めるしかない。地方だから弱いという定説はもう古いのだと。

 地方からの刺客が中央のウマ娘を破る。

 この流れにのって、更に笠松トレセン側は躍進していくことだろう。

 

 この日本ダービーを縋るような目で観戦しにきていた中央の理事長。

 秋川やよい。

 

 彼女はこのレースの結果を見届け、泡を吹いて倒れた。

 

 その近くの席では、満面の笑みでオグリキャップに拍手を送る笠松の理事長の姿があったという。

 

 勝者と敗者。

 どちらが勝者なのかは、最早語るまでもない。

 

 




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