地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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三十八話 満喫

 

 アメリカの遠征中は、ただ出走するレースの為に時間を割いていたわけではない。

 時には休暇を挟み、適度な休息を取っていた。

 

 前にも述べたことだが、休みの無いトレーニングは身を滅ぼし兼ねない。

 トレーニング効率を上げる為にも、時として適度な休息は必要不可欠なのである。

 

 それに、折角海外へと足を運んだからには観光の一つでもして帰らなければ不作法というもの。宿舎に籠って休むだけでは味気が無い。

 思い出の一つくらい作って帰っても何ら問題はない。

 捉えようによってはそれもまた、トレーニングの一部である。

 

 私たちは時間を縫ってはタイキシャトルやグラスワンダーに観光地や各地の名物店を案内してもらい、異国の情緒を満喫していた。

 

 マーチは特に、アメリカのハンバーガーがお気に召したらしい。

 ハンバーガーの発祥地とあってお店も多く立ち並んでおり、店選びにも時間が掛かる程であった。

 

 本場のハンバーガーは日本とは別格であり、サイズ一つとってもボリューム感が段違いだ。

 注文した品が運ばれてきた当初は、そのサイズ感に圧倒されていた。

 

 アメリカのウマ娘が巨体なのも、普段の食事量と相関関係があるのかもしれない。

 

「こ、これ、食べたら太らないだろうか?」

 

「まあ、食べ過ぎるようなら制限するつもりだけど……

 一つや二つ食べても問題ないでしょ。

 ウマ娘は身体が資本。それにマーチは線が細いんだから、御代わりしてでも食べなさい」

 

「むむ、それなら……」

 

 といった感じでおっかなびっくり、ハンバーガーに齧り付いていた。

 心配し過ぎである。

 

 スペシャルウィークやライスシャワーといった大食い戦士共なら流石にストップを掛けるが、マーチは平均的な食事量なので止める道理もない。

 マーチは元々サンドイッチ系列が好きだったこともあり、似た系統のハンバーガーも幸せそうな様子でモグモグしていた。

 

 モグモグマーチ。

 なんだかハムスターを見ているようで少しだけ癒された。

 

 気分的に体力が20回復した気がする。

 これを模したグッズ販売をすれば、きっと売れる。

 

 ピコンっ。

 私はグッズ販売のヒントを手に入れた。

 

 カメラにも収めているので、笠松に帰ったらマーチの友人に見せびらかしてやろうと思う。

 ノルンエースだったか。

 ヤツが見れば尊死は確定である。

 盛大に鼻血を垂れ流す姿に目に浮かぶ。

 見せる際は予めティッシュを用意させておくとしよう。

 

 マーチの可愛い一面を写真のフォルダに保存し、観光を満喫する。

 

 無論そればかりでなく、アメリカのトレセン学園でトレーニングも重ねる。

 

 時にはコース貸出しの御礼も兼ねて現地の学生にもアドバイスを送った。

 

 特にタイキシャトルやグラスワンダーはこれから笠松の学園生ともなるので、熱心に指導にあたった。

 

 やはりというかなんというか、彼女たちも筋がいい。

 マンツーマンで手取り足取り教えたせいもあるだろうが、技術的進歩が著しかった。

 マーチと併走をして刺激を受けた面もあるのだろうが、加速度的に成長を遂げている。

 

 中央に流れなくて心底安心するレベルである。

 これがもし中央に席を置くことになっていたら、脅威として立ちはだかっていたに違いない。

 

 あとは何気ない雑談というか、勝負服の話もした。

 

「タイキシャトル。お前さんにはカウボーイ風の勝負服も似合うだろうけど、可愛い系の服も似合う気がすんだよね」

 

「うーん? ソウデスカネ???」

 

「絶対似合う。

 具体的にはバレンタインを意識したデザインとか、どう?」

 

「うーん、そこまで言うんでしたらお試しで作ってみテモ……」

 

「大丈夫。

 私が個人的に見たいのもあるから、ポケットマネーから出すよ」

 

 タイキシャトルに勝負服のデザインを提案したりと何かと忙しく過ごしていた。

 

 その間も、幾度かマーチは公式レースを挟んでいる。

 

 しかし、マーチの牙城は崩れることがなかった。

 

 順調に勝ち星を重ね、アメリカ中へと名声を轟かせていた。

 マーチは最早、アメリカクラシックの主役と言わんばかりの活躍をしている。

 

「アメリカ国民にならない??」と正式に打診が来るくらいには大活躍である。

 道を歩けばサインの嵐、からのアメリカ式の豪快な挨拶。

 マーチは最初こそ戸惑っていたが、今ではぎこちなくも応じている。

 

 この姿勢こそが、マーチが好かれる所以なのだろう。

 マーチの人気は留まるところを知らない。

 

 この前のレースでは誰が考えたのか、現地の人々が「マーチ賛歌」とかいって悪乗りを披露していた。

 メジロ賛歌のパクリだろうか。

 

 異国のレース場にてまさかの応援歌を披露されるマーチ。

 しかもレース前に観客が一斉に歌い始めたものだから、新手の動揺策かと勘違いしてしまいそうになった。

 

「……コロシテ……もうコロシテ……」

 

 その後のレースでは勝利を掴んでいたが、マーチの羞恥心にクリティカルヒットを与えていた。

 

 おのれ、やりおるな! ……アメリカンども!! 

 

 歌というか、マーチの士気を高める儀式みたいな様相をなしていたけれど、見ている分には迫力があって面白かった。

 ラグビーのニュージーランド代表が躍るハカを想起させる迫力であった。

 

 とういうか、いつ間に歌詞が浸透していたのだろうか。

 スタンド全体で大合唱するって、一体どうなっているのか。

 

 ともあれ、アメリカでの遠征はマーチが心に大ダメージを負いながらも万事上手くいっていた。

 そう遠くないうちに、日本へと帰国することになるだろう。

 

「がはははは! フジマサマーチ! 

 お前さんのレースを直で観戦させてもらったが痺れたぞ! 

 よし、ワシと併走じゃ!!! 

 どちらが速いのか、白黒ハッキリさせてやろうじゃないか!!」

 

 上腕に刺青を入れた厳つめのウマ娘がマーチに絡んでいた一幕もあったが、平常通りだ。

 

「助けてくれ」と視線で訴えてくるマーチを無視したが、結局はレースでボコボコにしていた。

 やはりアメリカでは実力がものをいう。

 最後にはそのウマ娘も敗けを認めていたし、潔い。

 

 日常とはやや掛け離れた姿を眺めながら、成長を共にするマーチ。

 そんな姿を目にしながら、私は帰郷の念にのんびりと浸るのであった。

 

 

 




コメント、評価有難うございます。
最近はコメントしてくれる方増えて嬉しい。

それと、42話目で一旦休止します。
ストックが大分減ってしまった。
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