地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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四話 有望株

 

 上層部を交えた定例会議は、定期的に催される運びとなった。

 

 会議室にはかつての諦観がほとんど残っておらず、皆がやたら前のめりな姿勢で取り組んでくれている。

 

 私も発破をかけた甲斐があったものである。

 

 学園の方針は取り敢えず「高慢ちきな中央を張り倒す!」に定まったものの、まだまだ解決すべき事案は多い。

 

 中央との差別化を図るためにも、向こうとまったく同じ施設を建造する訳にもいかない。

 未だ知名度では圧倒的に劣っているところで「同じ設備を用意しましたから来てください!」と宣伝しても効果は薄い。

 

 ──じゃあ中央でいいじゃん。

 と向こうに流れるのは目を見るより明らかである。

「うちもセブンと同じ商品置いてます! だから、寄っていってください!」と叫ぶ個人商店くらい分が悪い。

 

 私としても譲れない部分は口出しするつもりではあるが、細部まで首を突っ込むつもりはない。私がやりたいことはトレーナーであって現場監督ではない。

 

 口は挟むが、建設計画は基本的に理事長と上層部にお任せする運びとなっている。

 幸いなことに、彼らのやる気は本物だ。

 資金があり、時間もある。

 そして、何より「今やらなければ終わる」という危機感がある。

 

 まず酷いことにはならないだろう。

 資金調達の第一人者として、都度定例会議で報告を受けるので、余程のことでなければ施行前にストップすることもできる。ダメな案は会議室で葬り去ればいい。

 

 支度金が膨大なので、大規模工事を施工するのは確定済みだが、中央に負けず劣らずの建設計画を打ち立てていきたいものである。

 

 

 さて、設備面は一旦置いておくとして、次に着目すべきは──生徒の質である。

 

 笠松トレセンの新造に合わせて生徒募集のレベルを引き上げたい。

 理想論としては簡単だが、現実はそう甘くない。

 

 私がトレーナーに就任することで入学希望者が増える可能性は高いが、「中央を蹴ってまで笠松に来るか?」と言われれば、話は別だ。

 

 熱狂的なファンなら「あなたの下で走りたいです!」と来てくれるかもしれないが、進路というのは感情だけで決めるものではない。

 

 ブランド、将来性、実績、環境。

 それらを天秤にかけ、進路を選ぶのが常識である。

 

 現在もスカウト活動を行っている最中だが、色よい返事をくれた所は

 

 大手海運会社代表取締役の幸の薄そうな娘に

 

 スナックを営んでいる夫妻の娘

 

 北海道の牧場の娘に

 

 仲良し三姉妹の末っ子

 

 霊感娘

 

 二重人格娘

 

 あとは海外出走したときに熱烈なラブコールを叫んでいたアイルランドのご息女に

 ずぼらそうなフランスのウマ娘

 

 ……あれ? 割かし多いぞ? 

 

 もしかして、私の知名度って思っていたより高かったのか……? 思わず指折り数えてしまったが、数は間違っていない。

 

 なんだか笠松の未来は明るい気がしてきたが、気を抜いてはいけない。油断は禁物である。

 

 入学を希望してくれる彼女たちのためにも、初年度は好成績を残すことが求められる。

 

 笠松からスターを誕生させるのは既定路線であり、それを足掛かりとして振興を推し進め、延いては中央に宣戦布告する予定なのだ。

 

 スターウマ娘の確保は、最優先事項とも云える。

 

 まあ、笠松はオグリキャップの故郷だと云うし、最悪は彼女を祀り上げれば済む。

 

 未だに出会えていないが、中央トレセンに途中編入したとアプリでも話していたし、笠松で待ち構えていればいずれ必ず会える。

 

 ……なのだが

 

(アプリ通りに中央編入とかされたら困るんだよなぁ)

 

 そこだけが不安要素ではある。

 

 本人の自由意思に委ねるつもりではあるが、折角誕生した笠松からのスターが、即座に中央に移籍しましたとか笑い話にもならない。

 

 設備も人材も時間を掛けて揃えました。

 でも「中央に惹かれたので中央に行ってきます!」では、折角の投資も水の泡になり兼ねない。流石に泣く。

 

 それでは何の為に笠松トレセンを新造したのだという話になってしまう。

 

(中央に移籍したくなくなるほどの環境を、此方が用意すればいいだけの話なんだけどね~)

 

 それでも不安を拭えないのは、やはり中央からの引き抜きを警戒してのものであった。

 将来的には追い抜かす相手ではあるが、現状では中央の名声には手も足も出ない。

 

 知名度に月とスッポンほどの差があり、設備基準も変わらないとなれば、心移りしてしまう可能性もゼロではない。

 

 いっそのこと、笠松トレセンで骨を埋めてくれる。

 まではいかなくても卒業まで在籍してくれるウマ娘が欲しい。

 

 

 そう思考したところで、偶々近くを走り去った薄浅葱色の、ロングヘアーのウマ娘が目に入った。

 

 気の強そうなウマ娘だ。

 その赤い瞳の鋭い目つきは人を射殺さんばかりで、ストイックそうな印象を想起させる。

 

 地元の子なのだろう。

 知らず知らずのうちに彼女のフォームや走るテンポを観察していたが、悪くない。

 

 粗削りでまだまだ改善の余地があるが、長年走り込んでいるお陰か息も上がらず、スムーズに身体を動かせている。幼少期から走り込んでいなければこうはならない。

 

 私は頭の中で思考していた。

 

 ……あれ? 

 案外コイツ、よくね? 

 

 雰囲気から察するにはねっ返りの強そうな性格していそうだし、鬼畜なトレーニングを提示しても「強くなるためだ」と飲み込んでやり遂げてくれそうな予感がある。

 

 才能はネームドには一歩劣るかもしれないが、そこはトレーニングでカバーできる範囲だ。誤差の範疇である。

 

 まあ、才能なんて見た目で測れるものではないし、才能論ほど信用ならないものはない。

 

 GⅠ勝てたからお前には才能がある。勝てなかったから才能がない。とか意味不明にも程がある。

 

 新記録を量産しましたとか、世界記録余裕で更新しちゃいました、とかでない限り、才能なんて言ったもん勝ちに過ぎない。

 

 私は気が付けば、彼女を追い抜かし、肩をガシっとひっつかんでいた。

 

 ……うん、勢いって怖い。

 

 突如現れた謎のウマ娘に肩を儂掴みにされ、彼女は酷く混乱していた。

 が、現状を正しく認識し、私の顔を見るや否や引き攣った顔を披露してくれた。

 

 なんか釈然としない。

 

「な、何故貴方のようなウマ娘がこんな所に!? 

 それより、何故私の肩を—」

 

「おや、私の名前を知っていたんだ。それは好都合。

 君のようなウマ娘を探していた。

 均整の取れた身体つきに、ストイックに走り込みを行える姿勢。

 端的に言って惚れた。

 どうだい? この辺に美味いラーメン屋台があるそうなんだけど、話がてら付き合ってくれない?」

 

「え゛っ、ちょ、力強っ!! つ、連れ込まれる! 

 ちょっと誰かあああ! 助けてくれえええええ!」

 

 この時話し掛けられた少女、フジマサマーチはこう語る。

 

「バッドコミュニケーションなんてものじゃないでしょう、あれは。

 初対面で急に話し掛けられて、あまつさえ、均整の取れた身体つきに惚れたとか言われたら誰でも勘違いします。

 私も人の事は言えませんが、あの人程言葉足らずではありません」

 

 

「普通に貞操の危機を感じました」

 

 教え子第一号

 後のレース界隈で猛威を振るう存在となる彼女。

 そんな彼女とトレーナーのファーストコンタクトが勘違いを誘発し兼ねないものだったとは、まだ誰も知り得なかった。

 

 

 




Attemboroughさん、コメント有難うございます。
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