地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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四十話 感謝祭に向けて

 

 アメリカより帰還を果たした私ではあるが、帰国の余韻に浸る間もなく会議漬けの生活を送っていた。

 それは近々、大規模イベントがあるからに他ならない。

 前年度より企画していたファン感謝祭。又の名を聖蹄祭。

 その調整のために西へ東へ奔走していたのである。

 

 国内ではオグリキャップがクラシック三冠レースの二冠目までを制し、笠松に期待が高まっている。

 マーチもアメリカ遠征にて負けず劣らずの成果を持ち帰ってきており、ファン感謝祭で交流を図りたいと考える者も多い。

 国内だと海外レースを制しても実感が湧きにくいが、現地では握手するだけで長蛇の列が並ぶほどに人気だったのだ。

 海外レースにも目を向けるコアなファンならマーチの偉業も分かる筈。

 

「露店の呼び込みは終えましたからね。

 売り上げの5%を上納するよう、各屋台には伝達してあります」

 

「うむ、仕事が早くて助かるよ」

 

「しかし、集客予想規模が凄いですね~。帰って来てばかりなので話半分でしか耳にしていませんでしたが……

 学園に収まりきりますかね?」

 

「オグリキャップ君もそうだが、マーチ君の活躍も目覚ましいものがあったからね。

 二人の活躍が相乗効果を生んでいる気がするよ。

 少なからず、海外からも人が雪崩れ込んで来るだろうしね」

 

 オグリキャップの活躍が目覚ましいのはメディアでも知る所にある。

 地方から突如として舞い上がった異才として、シンデレラストーリーのように語り継がれている。

 

 田舎から出て来たウマ娘が中央を圧倒する。

 下剋上のようなストーリーは日本人の好む展開だからね。

 

「……それと、この企画案なのだが……

 本当に通していいのかね?」

 

「はい。勿論ですとも。

 学園生徒たちからの要望を熱いですよ。

 

 いや~ノリが良いですよね、本当に」

 

 理事長が懸念する企画書。

 初日の感謝祭の終わり際に開催予定の

 

 ——トレーナー陣によるウイニングライブ

 

 普段歌って踊る姿を外から眺めているトレーナー陣にも、担当ウマ娘の気分を味わってもらおうという企画である。

 ウイニングライブはレースに勝利したウマ娘にしか立つことが許されない。

 しかし、今回ばかりはその制約を取っ払ってトレーナーたちにも踊りを強要するのである。

 

 踊るのがウマ娘だけの特権だと勘違いしてはいけない。

 普段は外から後方面して眺めているトレーナー陣にも、歌って踊ってもらおうではないか。

 

 なに、担当ウマ娘が普段からやってることをなぞるだけに過ぎない。

 大丈夫! 大丈夫! 大人のトレーナーならきっといける筈! 

 これを機に、ウイニングライブの素晴らしさを是非とも共有しようじゃないか! という趣旨の内容である。

 

 まるで悪魔が考えたと言ってもおかしくない提案。

 

 大の大人に歌って躍らせるとか、普通に鬼畜外道の所業である。

 理事長はコイツ、人の心ないのでは? と若干思っていた。

 

「事前にトレーナー陣には秘密で生徒たちにもアンケートを取りましたが、満場一致で開催しましょうと届きましたよ。

 生徒の要望に応えのも我々の役目です。

 これだけは気合を入れて取り組みましょう」

 

「ま、まあ……生徒のためなら致し方無い……のか?」

 

 裏方に徹しているトレーナーにも光を浴びてもらいましょうと言われては、反論の余地もない。

 

 ちなみにトレーナー全員がウイニングライブのステージ上に上がる羽目になるので、当然彼女も対象となる。

 しかし、彼女はウマぴょい伝説を公式記録上、一番経験してきたウマ娘。鋼の精神を会得しており、人前で踊る程度は造作もない。

 たづなもその点では歌い慣れているので除外して大丈夫だろう。

 

 割を喰うのは他のトレーナー陣である。

 女性トレーナーが躍る分にはまだ花があるが、男性トレーナーにとっては地獄だろう。

 

 むさい男どもの踊りとか、誰が見るんだ……

 絶対需要ないだろ……

 

「そうですね、選曲は「めにしゅき♡ラッシュっしゅ」でいいでしょう。

 笠松のオリジナルソングを世に広める良い機会です」

 

 理事長は静かに十字架を切った。

 笠松のトレーナーたちに冥福を祈る。

 

 これ、男性トレーナーの場合だと来場者にトラウマを与えるんじゃなかろうか。

 

 早くも幸先が不安になってきた理事長。

 彼は、トレーナーたちに特別手当でも出した方がいいだろうかと裏で思い始めていた。

 

「ちょ、ちょっと待った。流石に男性トレーナーにめにしゅきはハードルが高すぎます。

 歌った後に再起不能になってしまいますよ」

 

「さ、流石に手心を加えて上げましょう。

 そうだ、先日加わった「U.M.A NEW WORLD」なんてどうでしょう。

 あれなら男性陣が歌っても格好よく踊り切れる筈です」

 

 流石に可哀想なのを見かねてか、上層部の誰かが代案を提示した。

 ナイス提案! 

 君たちが男性トレーナーたちを救ったと言っても過言ではない。

 

 理事長は彼らを褒め称えたくなった。

 

 彼女は何やら不満な顔をしているが、流石に尊厳破壊はちょっと……と言わざる負えない。

 

 多数決の末、過半数以上の意見でもって男性トレーナーの尊厳は守られた。

 あの表情を見るに何か仕出かしそうな予感がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

「まあ、気を取り直して二日目の日程に移ろう」

 

 二日目は、生徒主体の学内レース──チャンピオンズミーティングを開催する。

 

 初日の盛り上がりを持続させるための目玉企画だ。

 

 参加者は笠松の生徒のみに絞っており、生徒同士の白熱したレースが見れることだろう。

 流石に本格化前と後の子でクラス分けを行うが、それでも盛り上がりのある催しになるのは間違いない。

 

「高級人参も既に発注しましたしたからね。

 物で釣るのもあれですが、生徒たちの士気を高めるにはもってこいでしょう」

 

「違いない」

 

 新造後、学園主体の初めての大規模イベント。どうせやるなら盛大に、それでいて来場者の記憶に残るイベントごとにしたい。

 

 それは学園生徒たちにも同じで、初日は屋台巡りを楽しんでもらい、二日目からはレースにて観客たちを盛り上げてもらう。

 まだ日の目を浴びていないウマ娘たちにとってもファン獲得のチャンスとなるだろう。

 来場者視点でも無料でレースを拝める上、早い内から推しを見つけられる機会ともなる。来年度以降、入学を希望するちびっこたちにも笠松を知ってもらうきっかけにもなる。

 

「やることは目白押しですからね。サクサクと進めていきましょうか」

 

「うむ、そうだな。この学園の名に恥じぬ催しにしようではないか」

 

 笠松の生徒たちや来場者のためにも思い出となるイベントを企画すべく、奔走する大人たち。

 彼ら彼女らの影の頑張りで生徒たちが何不自由なく生活を送れているのだ。

 

 表舞台に立つのはウマ娘たちであるが、その裏で汗を流す者がいることも努々忘れてはならない。

 

 




沖野トレーナーたちに漂う不吉な予感……
何事も無ければいいが……
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