感謝祭。
それは日頃の感謝を込めて、学園側がファンとウマ娘たちとの交流の場を設けるために取り計らった一大イベントである。
この日ばかりは無礼講。
多少羽目を外しても、多めに見てもらえる特別な日である。
いつもはトレーニングに明け暮れる生徒たちも、仕事に忙殺される一般人たちも、皆一様に時間を忘れてイベントを楽しんでいた。
射的や金魚すくいに始まり、人参クレープ、はちみードリンク、ばくだんむすび、ロイヤルビタージュース、食べ物も色々と充実している。
「む? 人参焼きか、
それでは、今ある在庫を全部頂けないだろうか?」
「も~駄目ですよ! オグリキャップさん!
お店の人に迷惑が掛かりますから!せめて在庫の半分くらいにしておかないと」
「ら、ライスも人参焼きは食べたいから、20本買おうかな?」
笠松が誇る大食い三銃士。
彼女たちもまた、このイベントを満喫していた。
屋台を巡っては次々と平らげ、食べ歩きを敢行していた。
その勢いはまさに脅威的と言うほかない。
この三人だけで学園敷地内の屋台を食べ尽くしそうである。
運営本部からも悲鳴が飛んでおり、慌てて材料の追加発注をしている。
限度ってものがあるだろ……と呟かずにはいられない。
「ふむ、悪くはない雰囲気だね。
学園主体の催しというのも風情があるじゃないか」
「して、どの屋台へ行くのだ?
余は別に何処でも構わんぞ」
「そうだね~。なら金魚すくいでもどうだい? 丁度金魚鉢を買い替えたんだ。
新しい住人を迎えるのも悪くないかなって」
ステイゴールドとオルフェーヴルは二人揃って祭りを巡っている。
これが本来の正しい祭りの楽しみ方だ。
普通、食べ歩きと称して屋台の在庫を喰らい尽くしたりはしない。
並んで歩いている最中、オルフェーヴルは一つの屋台から不躾な視線が注がれていることに気が付いた。
そこでは葦毛のウマ娘がにんまりとした笑顔でこちらを見ており、早く来いと催促しているような気がした。
ウマソウル的なものから運命的な何かを感じ取ったが、どうみても嫌な予感しかしない。
関わってはならぬと本能が警鐘を鳴らしていた。
関わったが最後、奇天烈な行動に付き合わされて一日を無駄にする気がする。
こういう直感を無視すると碌なことにならないと、彼女は過去の経験から学んでいた。
「ん? どうしたんだい、オルフェ??」
「……いや、気にするでない。
少々、嫌な予感を感じ取っただけだ」
焼きそばを売っている葦毛のウマ娘の屋台を華麗にスルーしたオルフェーヴル。
向こうは話しかけてくれオーラを放っていたが、見事なスルー技術である。
直感に従ったお陰なのか。
はたまた、こいつと関わったらマズイと思われたのかもしれない。
まあ、話し掛けたが最後、絡まれるのは明らかであるので彼女の行動は正しかったのかもしれないが。
「ちょっと、待ったあああ!!
このゴルシ様を無視するなんざ一万年はやいんだよ!!
早くこっちにk…」
「あ、見てください! 焼きそば売ってますよ!!
探した甲斐がありました~!!!」
「腹ごなしに三十人前頂こうか」
「ライスは二十人前でいいかな?
え~と、お金はあるので特急でお願いします」
割り込むようにして現れた三人のハングリーモンスター。
金の不沈艦は彼女たちによって話し掛ける機会すら与えられず、あえなく撃沈した。
実に哀れである。
というか、いつの間に学園に忍びこんだのだろうか……
素性の知れないウマ娘を招くほど、チェックは甘くなかったはずなのだが。
甚だ疑問である。
「じゃじゃ~ん!! 私が入学してからできたお友達だよ♪
どうどう? シュヴァちに似てない??」
「あら? 本当にそっくりさんね」
「……瓜二つだ」
仲良し三人姉妹で知られるヴィブロスたち姉妹。
末っ子であるヴィブロスは、中央に入学している姉二人を招いてまでこのお祭りの案内を申し出ていた。
ついでとばかりに、ヴィブロスは入学してできた新たな友達を姉に紹介していた。
この友人がまた曲者であり、背格好や髪型を見比べても、姉であるシュヴァルグランに瓜二つだ。
360°見比べてもまるで見分けがつかない。
帽子というトレンドマークが無かったら、一般人では区別がつかないだろう。
本当にそっくりさんである。
まあ、だからこそヴィブロスが懐いた経緯もあるのだが……
「……も、もういいか?
これで満足だろ??
付き合ってやったんだからそろそろ解放しろよな!」
「あ~! なら私も行くね♪
一人よりも二人でやった方がきっと楽しいってば!」
「ちょっと待って頂戴。
一回だけ、一回だけでいいから“お姉ちゃん”って呼んでみてくれないかしら?」
「……僕はこんな男っぽい口調じゃない」
遠路はるばるやってきたヴィブロスの姉たち。
彼女たちは驚くしかなかった。
世界にはドッペルゲンガーレベルで似た人が三人居ると言われているが、その真実味が増してしまった。
長女であるヴィルシーナは、お姉ちゃんと呼ぶよう何度も催促している。
目が本気と書いてマジであった。
どう見ても内々に妹に加える算段である。
姉妹図は書き足せないのだから早く諦めて欲しい。
笠松以外の学生たちも皆、満足げに屋台や出し物を見て回っている。
最近はスポンサー企業も増えて、資金のやり繰りに困らなくなった面もあるのだろう。
大々的に学園主催のイベントを開催できるほどに、経営が右肩上がりを示している証拠でもあった。
過去の笠松とは天と地ほどの差が生まれている。
これも偏に、学園を裏から支える人員の頑張りがあるからであろう。
「ねえねえ、お兄ちゃん!!
この学園凄いわね! これだけの規模の感謝祭を開催するのなんて、きっとお金持ちなのね!!」
「ははは……アイ、あまりお金の話を大声で話してはいけないよ。
昔は苦労していたようだしね。
だからこそ、過去を取り返すように盛大にやってる部分もあるんだろうね」
やたらとキラキラした眼を持つ少女。
おめめに綺麗な椎茸できてますよ? と言いたくなる程に特徴的な眩い瞳をしている。
少女に随伴する形で付いて来た青年も、離れ離れにならないよう仲良く手を繋いでいる。
しかし、青年の方は内心では、これほどの規模の催しを行える資金力に感嘆していた。
お金はあるところにはあるんだな~と考えさせられてしまう光景だ。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
「ん?
どうしたんだい? アイ」
「私は……いつかきっと
この場所で輝いて見せるわ!!」
「……ああ、そうだね。
その為にも僕は勉強。アイはトレーニングを頑張ろうな!
二人揃えばきっとどんなレースにも勝てるさ」
仲睦まじい様子の二人組。
トレーナー志望の青年と才気溢れた少女。
二人揃って笠松トレセンに入学してくる日も、そう遠くないのかもしれない。
◇
祭りも後半に差し掛かり、初日を締め括るライブイベントが催される。
その名も
—トレーナー強制参加型 ウイニングライブ
この日を待ち望んでいた学園生徒たちも多くいることだろう。
学園生徒たちは密かにそのイベントの存在を知らされており、この日を楽しみにしていた者も大勢いる。
何せ、普段は教える側のトレーナーが立場を入れ替えて歌って踊るのだ。
見物としては、これ以上ない娯楽である。
来場者たちも笠松のトレーナーが歌って踊るのだと噂を聞ききつけ、態々遅くまで残っている者もいた。
ライブの初頭。
最初を飾ったのはうら若き女性トレーナーたちによる
めにしゅき♡ラッシュしゅ
地方とはいえ最近の笠松のトレーナー陣はエリート揃いである。
中央資格試験に合格できる基準にまで達したトレーナーも数多く、地方ではあり得ない水準を誇っている。
教え子にできてトレーナーができないなんて事態は有り得ない。
それはダンスであろうとも同じであり、若さを武器にする新進気鋭の女性トレーナーたちは学生顔負けのパフォーマンスを披露してみせた。
たづなを筆頭として、彼女たちは素晴らしい歌と踊りを魅せつけた。
キレッキレのダンスと可愛い歌声は反響を呼び、アンコールが鳴り響く程であった。
「なあ、あれ、トキノミノルじゃね???
なんで笠松居るの?????」
「幻のウマ娘の筈なんだが……消息が掴めないかと思えば、こんな場所に居たのか。
まさか笠松のトレーナーとして働いていたとは……
これはニュース記事に乗るレベルでは?」
幾人かはたづなが踊っている事実に困惑していたが、些細な問題だろう。
そして—
次は大トリを務める男性トレーナー陣たちによるライブ。
学生と来場者からの盛り上がりも最高潮で、過度な期待を寄せられていた。
しかしながら、当事者たる男性トレーナー。
彼らの表情は決して明るくない。
「すみません、あの、なんでオレたち躍る羽目になんてなってるんですか??」
「……オレにも分からん。
気が付いたら舞台に連れて来られて、いつの間にかステージに立たされていた」
最近はトレーナーとしても顔が売れ、巷で話題になりつつある北原。
世界一の育成手腕とも呼び声高い、沖野。
その他にも、堅物の性格として知られる柴崎や他のうら若きトレーナーたちも巻き込まれている。
錚々たる顔ぶれだが、彼らの心境は優れない。
まるで、生贄にでもなった気分である。
「まあ、踊るといっても一曲だけだ。ここまできたら腹を括るしかない……
可愛い系の曲じゃないだけマシだと思おう」
「それだけは唯一の救いですね……
女性陣と同じ曲じゃなくて心底良かった」
事前説明では「U.M.A NEW WORLD」という、男性でも格好良く踊り切れる曲であった。
男性トレーナーたちによるウイニングライブ。
オグリキャップを始めとして、彼らの教え子たちも勿論見学しに来ており、注目の的となる。
オグリキャップもノルンエースより渡された応援団扇を振ってスタンバっている。
その姿を見ただけで、北原は気恥ずかしさで一杯であった。
さて、いざ曲が始まる。
というところで急に音源がストップする。
代わりとばかりに、大音量にて流れてきた曲は
ウマぴょい伝説
これには困惑するしかない男性トレーナー陣。
ちょ、ちょっと待て!
その電波ソングはお呼びじゃねえ!!
き、聞いてた話と違うじゃねえか!!
舞台裏に目を向ければ、黒マスクで顔を隠したウマ娘らしき人物が曲を差し替えていた。
見覚えしかない。
しかも、安心して逝ってこいとばかりに手でハンドサインを送ってきている。
「お前たちも、私たちが味わってきた苦しみを味わえ」
そんな幻聴が、マスク越しに聴こえてきた気がした。
そうして始まるメロディー。
男性トレーナーたちを暖かく出迎えるように、キューティクルな音声が流れてくる。
始まってしまったものは仕方がない。
こうなればやけである。
さあ、喰らうがいい。
大の大人による全力のうまぴょいを。
両眼を閉じたウインク。
見る者に吐気を覚えさせる投げキッス
この観客の手前、途中で止める訳にもいかず。
彼らは結局、あの羞恥心しかない電波ソングを踊り切る羽目になるのであった。
笠松の男性トレーナーによる うまぴょい伝説。
鳴り響く観客たちの悲鳴。
ウマ娘たちの笑い声。
文字通り伝説を残していく。
その後、無事に動画がYouTubeにてアップロードされ、ランキング入りを果たす。
理事長「嫌な予感が現実のものとなってしまった……」
主人公「ヒャッハー!これで仲良しこよしだな!」
ゴルシ「……ええ……この人、アタシよりヤバくねえか?」