地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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四十四話 NEW TRAINING

 

 笠松の中でも飛びぬけた実力者集団──

十芒星

 

 笠松トレセン学園に在籍するウマ娘の中でも、特に優れた実力を持つ者たちだけが名を連ねる。ランキング入りを果たした者は、生徒たちの間でも一目置かれる存在となる。

 

 彼女たちの殆どは本格化を迎えた生徒たちで構成されている。極星の名を冠するフジマサマーチを始めとして、二等星のオグリキャップや三等星のヤマノサウザン。そして、意外なところではノルンエースといったメンツが名を連ねている。

 

 レースの実績や安定性、精神力といった項目を加味した上で総合的な評価が下されており、一度の大勝だけでもランキングに上り詰められないのが肝だ。

 

 ちなみに、本格化前にも関わらずナンバーズ入りを果たしている猛者も居る。どこぞの金ぴかの暴君とかが、そのいい例である。

 

 君、本格化してないとか冗談だよね?? 

 

 生徒たちは一つでも上の地位を目指して、トレーニングに励んでいた。名を連ねていない者たちも、十芒星入りを果たそうと躍起になっている。

 

 ランキングは絶対ではないが、少なくとも対外的な指標として見られる。そこに名が刻まれることは、紛れもない実力者の証。

 

 しかし、例え首位に躍り出たからといっても油断していいわけではない。

 

 それは勿論、フジマサマーチも例外では無い。

 笠松の頂点(てっぺん)に立ったからといって、立ち止まってはいられない。足を止めていては、後続がどんどんと追い越してくることは目に見えているからだ。

 

 頂点とは、追われる立場。

 今この瞬間も、下の順位にいるウマ娘たちは彼女を超えるために走り続けている。少しでも気を抜けば、順位は簡単に入れ替わる。

 

 間近にも未だに高く聳え立つ存在(トレーナー)がいるので、トレーニングを欠かすことはない。

 実力を向上させるためならば、最新のトレーニング機材や研究論文も活用される。

 

 強くなるためには貪欲に己を磨いていかねばならない。

 必要であらば、別口からのアプローチも検討される。

 

 そして、此度。

 新たな試みが導入される運びとなった。

 

 縁のあるアメリカの企業より、試作品として新たなトレーニング機材が贈られてきた。

 

 そして、その機材を真っ先に体験する機会を得たフジマサマーチ。

 

 

 

 

 

 

「VRウマレーター……??」

 

「そうそう。アメリカのスポンサー企業が試作品として送ってきたものでね。

 フルダイブ型のVR機器だって。

 事前に臨床実験も済ませてあって、トレーニング効果も保証済みらしい」

 

 隣にいたトレーナーは軽い調子で答えた。

 

 トレーナーである彼女は、時代の進歩をひしひしと痛感した。

 VR技術なんぞ、現役時代には存在しなかった技術だ。

 

「笠松にも何機か導入予定らしい。

 同系統のVRウマレーターを日本のグループも開発しているっぽいけど、こっちのが最新鋭の機種だね」

 

「……そうか」

 

「……なんか反応薄くない?」

 

「いや、トレーニング効果が保証されているといっても、実際に身体を動かして鍛えた方が良いんじゃないか?」

 

 マーチがもっともなことを言った。

 所詮は機械を用いたトレーニング──とでも思っているのだろう。

 

 実際に身体を動かすに勝るものはない。

 

 そんな考えが見え透いていた。

 だが、トレーナーである彼女の反応は別だ。

 

 VRウマレーター。

 

 前世でも聴き馴染みのある単語であり、グランドマスターズシナリオでも活用されていたものだと“知っている”。

 

 無論、その有用性も。

 

「偏見はよくないな~、マーチ。

 百聞は一見に如かずだよ」

 

 装置が起動する。

 すると音声ガイダンスが流れ、私たちを電脳世界へとダイブさせた。

 

 目の前に広がる光景。

 それは―

 細部まで寸分違わず再現された笠松トレセンであり、現実世界とも遜色がない。

 

 校舎に坂路、トラック。

 リアルと区別するのが困難なほどの再現度だ。

 

 この光景に唖然とするフジマサマーチ。

 顎が外れんばかりに驚いている。

 

「……せ、先生」

 

「ん?」

 

「幾ら技術が進歩したからといっても、限度があるだろう! 

 あ、明らかに100年は時代を先取りしてるぞ!!」

 

 マーチは思い切りツッコんだ。

 トレーナーである彼女も苦笑するしかない。

 

「そうだね~。

 これを作った連中、一体どうやって開発したんだろうね」

 

 学園の細部に至る所まで再現するとか、理解の範疇を超えている。フルダイブ機能もそうだが、VR技術の界隈は一歩も二歩も時代を先取りしている。

 

 トレーナーである彼女は前世より、そのようなオーバーテクノロジーじみたものが存在するのを事前に知っていたので、少しの驚きで済んでいる。

 

 グランドマスターズのシナリオに、そんなのあったなぁ程度の認識だ。

 

 当時は運営側が色々とやらかしていたとも耳にしたことがある。

 三女神事件とか。

 その時はまだウマ娘にノータッチだったので、巻き込まれなかったが。

 あの頃に始めなくてよかったと心底思う。

 

「このVR空間で学んだ経験はリアルにもフィードバックされる。

 

 ──つまり、ここで学んだ技術は無駄にはならない。

 すごいよね」

 

 フジマサマーチは、オグリキャップほど身体が頑丈なわけではない。

 

 先のアメリカクラシックでは短いスパンでレースをこなしてきた。

 短期間での連戦は、疲労を確実に蓄積させている。

 

 トレーナーとしてはこのVR空間を駆使し、少しでも身体の負担を減らしてもらいたいという願いもある。

 

「現実世界で走るに勝ることはない。

 それはマーチの言った通りだよ。

 ここで身体能力向上トレーニングをしても、その分がリアルに反映されることはないだろうね」

 

 トレーナーは正直に言う。

 

「でも、習得した技術は違う。

 技術(スキル)だけは、現実世界に持っていける」

 

 VR空間で得た知識や習得した技術は、脳の海馬を通して本人にフィードバックされる。

 これがVR技術の強みである。

 

 疲労感ゼロで技術の習得が叶う。

 これは革新的だ。

 

 流石にVR世界で身に付けた筋肉がリアルで適用されることはない。ないが、それを差し引いても余りあるメリットがある。

 

「……なるほど」

 

 それなら異論はなし──とマーチも頷いた。

 身体に負担を掛けることなく技術を磨けるのなら、それに越したことは無い。

 

 マーチ自身、自分の身体が無限にレースをこなせるほど丈夫でないことを理解していた。

 だからこそ、素直に納得することができた。

 

 そうして二人は早速VRウマレーターを用いたトレーニングを開始した。

 

 まだ試作段階ともあって三女神のような高度なサポートAIは実装されていない。

 しかし、それもおそらく時間の問題だ。

 

 アメリカの技術力は群を抜いており、今後の改良によって利便性が増すのは想像に難くない。

 中央に日本製のVRウマレーターが導入される頃には、もっと進展していることだろう。

 

 仮想空間の中で、マーチのトレーナーが現実と変わらぬ技術指導を行う。

 

 それを真摯に受け止め、技術(スキル)の習得に努めるフジマサマーチ。

 

 マーチの引き出しの中には既に幾つもの技術・技巧が詰め込まれており、膨大な技術を蓄えるまでに至っている。

 

 アメリカ各地に銅像が建つほどの、偉業を残した人物からの指導。

 マーチの学ぶ姿勢はいつまで経っても変わらない。

 

 驕りも慢心も抱いてはいられない。

 超えられぬ壁としていつまでも隣に立つ師に追いつくまでは、立ち止まってはいられない。

 

 日進月歩で日々成長を遂げていくフジマサマーチ。

 

 彼女の成長は、着実に師の領域へと近付きつつあった。

 

 





日本製のVRウマレーターは、サトノグループ開発のもの。

アメリカより贈られてきたのは日本産より一際早く製品化されたもの。
三女神より高度なAI実装予定。
随時、機能は追加されていく。

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