地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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四十七話 地方協賛練習会

 

「地方協賛練習会ですか?」

 

「うむ。我々笠松トレセンの勢いを見習って、各地の地方トレセンから選抜した生徒を派遣したい――そう申出が届いていてね」

 

現在、笠松トレセン破竹の勢いで名声を高めつつある。

 

ほんの数年前までは、一地方の田舎のトレセン学園だったと言っても信じられないだろう。

 

笠松トレセン“は”、たしかに飛躍を果たした。

 

だが、他の地方トレセンの状況は昔とさして変わらない。

 

経営は火の車。

生徒の質も、相変わらずのままだ。

 

「笠松トレセンという成功モデルがあるおかげで、地方レースの入場者数は若干増えつつあるそうだが……」

 

とはいえ、劇的に増えているわけではない。

笠松レース場だけが、例外的に満員御礼を記録しているだけである。

 

「他の地方トレセンの理事長たちも、ただ座して待っていていても状況は好転しないと分かっているのだよ。

我々の場合は、元手となる資金を持参してくれた君が居たから改革が成し得た。

 

だが、他はそうもいかない」

 

「……何をやるにも元手となる資金がいる。

世知辛いですが、それが世の理でもありますからね~」

 

何をするにも金がいる。

 

これは一般常識である。

 

レースを開催するにしても、設備を揃えるにしても、纏まった資金がなければ何も始まらない。

 

お金があれば大抵なんとかなるという言葉は、強ち間違いではないのだ。

 

資金に乏しい各地方のトレセンができることは、本当に限られてくる。

 

そして、蜘蛛の糸を掴む思いで考えついたのが――

 

勢いのある笠松トレセンに選抜した生徒を預け、鍛えてもらう

 

という、ある意味他力本願の施策であった。

 

しかし、背に腹は代えられない。

 

そのような経緯を経て、今回の提案が各地方トレセンから一斉に届いた。

 

笠松は、地方トレセンの星としてトレセン界隈の中では有名である。

 

似た境遇の中でこれほど飛躍的に成長を遂げたのだ。

注目されない筈がない。

 

各地の理事長たちが目を向けるのも、当然と云えば当然のこと。

 

幸いにも、地方レース自体の関心も少しずつ高まりつつある。

 

この流れに乗じて、地元のレースを復興させたいと願うのは不思議なことじゃない。

 

「今や我々は、地方の中では飛びぬけた存在にまで昇格できた。

だが、我々だけ成長するのでは勿体ない」

 

「ごもっともです。日本全体の競技レベルの向上を目的とするなら、他地方のトレセン学園を巻き込む方が断然効率が良い」

 

日本のウマ娘レース。

そのレベルを一段階引き上げるためなら、協力は惜しまない。

 

「それに私も誓いましたからね。

例え、ローカルシリーズであろうと――

トゥインクルシリーズに負けないレベルまで仕上げてみせると」

 

「……ほ、ほどほどにね?

手を加えるのはいいけど、あの、本当に加減してね??」

 

笠松の理事長は心配になった。

コイツなら、本気でやりかねないんじゃないかと。

 

しかし、問題はそれだけではない。

 

他校の生徒の質を向上させるということは、笠松の生徒がレースで勝ちあがる可能性を潰すことにも繋がる。

 

理事長にも懸念がないわけではない。

だが、“彼女”の考えは別だ。

 

笠松には覆せないほどの優位性があると信じ切っている。

 

最新鋭の設備に、充実したトレーナー陣。人数も質も申し分が無い。

加えて、沖野やたづなといった最上位クラスの指導者まで揃っている。

 

授業でも率先して身体能力向上のトレーニングを徹底させており、正直なところ、敗ける要素が皆無である。

 

仮に他校の生徒が少し滞在したところで、その優位性が崩れるとは思わなかった。

 

「期間も二ヶ月程度を希望しているようだ」

 

「少し長めの合宿のようなものですね」

 

「そういうことだ」

 

理事長は頷いた。

 

「こちら側の準備も、差したるものは必要ないと聞いている。他の生徒と同じように扱ってくれるだけで十分有難いと」

 

「それでしたら笠松側の負担も少なくて済みますし、問題ありませんね」

 

受け入れ態勢を多少は整える必要はあるが、費用は全て向こう持ち。

笠松側は普段通りに指導をこなすだけでいいという。

 

これで恩も売れるのなら、安いものである。

 

「では、この提案を受け入れる方向で各方面に通達しておこう」

 

期間は二か月。

決して長いとは言えない。

 

それでも――

天下の中央に匹敵する環境で学べる。

 

各地方ウマ娘にとっては大きなチャンスだった。

 

笠松側の生徒たちにとっても、他校のウマ娘から良い刺激を受けてくれれば万々歳である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それほど知られていない話ではあるが、ウマ娘世界において、強者とのトレーニングはとてつもない効果を生み出す。

 

「友情トレーニング」という言葉がアプリ内ではあったが、実はリアルでも存在していた。

 

未だ世間では知られていないが、ウマ娘にはウマソウルと呼ばれる魂が存在する。

 

その魂同士が互いのトレーニングで共鳴し、活性化することで能力が劇的に伸びるのだ。

 

特に――

飛びぬけた強者

 

そうした存在は、指導を行うだけでもウマソウルの活性化を引き起こしやすい。

 

幻のウマ娘とかつては謳われたたづなや、

フジマサマーチという逸材を育て上げてた“彼女”。

 

そんな人物たちが巣食う笠松の環境は、強くなるにはもってこいの場所だった。

 

たった二か月。

 

されど二か月。

 

ウマソウルを刺激するには、十分すぎるほどに長い。

 

この合宿に参加した生徒たちは、まず間違いなく劇的な成長を遂げるであろう。

 

 

地方ウマ娘の強化ステージが、始まろうとしていた。

 

 

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