地方トレセンを舐めるなよ!   作:鼻毛王

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九話 過渡期

 

 

 笠松トレセンの新造計画は、既に佳境を迎えていた。

 今や最終工程に突入し、連日連夜、トラックや作業員がひっきりなしに出入りしている。

 

 これも偏に、笠松、ひいては岐阜県の建設会社が総出で協力してくれたお陰である。笠松の復興のためにと共感を示してくれたのが大きい。

 

 県議会委員も我々のプロジェクトに理解を示し、ここぞとばかりに協力を申し出てくれた。

 電車の本数は増え、バスの路線も見直され、笠松駅周辺の再開発計画まで動き始めている。

 

 多方面からの協力を仰いでおり、笠松トレセンのみならず、岐阜県全体を巻き込んだ一大プロジェクトに昇華していると言っても過言では無い。成功すれば、岐阜に人を呼び込むチャンスともなるし、この一大工事で雇用も生まれ、就業者も多く雪崩込んできている。

 

 このビッグウェーブに乗ってくれた各方面の協力に報いるためにも失敗はできない。

 

 そして、新たなスターの誕生に向けた準備も抜かりはない。

 

 笠松出身のウマ娘が地方勢の刺客として、牙を剥く準備が着々と進んでいる。

 

「がんばえ~、マーチ。

 これを乗り切れば更に強くなれるよ! 

 ほらほら、まだ半分も行ってないよ?」

 

「……っ、くそっ! 

 坂路十本とか、どう考えても普通のウマ娘がやる練習じゃないだろ! 

 先生は私を何だと思ってるんだ!」

 

 新たに新設された坂路コースを使い、練習に励んでいる。

 悪意の塊しかない凶悪な傾斜が、彼女の体力を削り取る。

 

 高低差五十メートルのバケモノコースであり、普通のウマ娘なら2本も走ればバテる。無論、初心者用の親切コースも用意しているが、マーチが走り込みしているのは上級者用である。

 

「無理、無茶、無謀。

 そんな言葉はただのまやかしだよ~。

 マーチなら走り切れる! ファイト~!!」

 

 フジマサマーチ

 先生と呼ぶ師と出会うまでは地元では負け知らずだった。彼女と出会ってからは価値観を変えられ、強者のプライドをズタズタに引き裂かれてからは更なる成長を遂げている。

 

 並走相手としても付き合ってくれ、レース知識も教授してくれる。

 理想的なトレーナーが真横にいる彼女の環境は、強くなるのに最適であった。

 

「因子継承じゃおらっ」とか「マーチ、プロフェッサーになれよ!!」とか意味の分からない言動をしてくるトレーナーではあるが、既に慣れてしまった。

 

 適応力の高さがマーチの長所でもある。

 

 彼女はメキメキと能力を引き上げ、その肉体はどんどん高みへと登っている。

 それこそ、今のマーチなら中央にも片手間で入学できてしまうだろう。それほどの仕上がりだ。

 

 だが──まだ足りない。

 彼女にはまだまだ成長の余地がある。

 ケンタッキー・ダービーのような世界の大舞台で脚光を浴びる為にも、立ち止まってはいられない。

 

 海外にはラビットと呼ばれる、ペースメーカーや妨害役が存在している。チームとして徒党を組んで来る彼女たちをまとめて薙ぎ払うためにも、更なる成長が不可欠である。

 

 今の日本に必要なのは飛びぬけた個の存在だ。

 ペースメーカーが居ようと、周囲を囲まれようと、実力で相手を木っ端微塵に粉砕できなければならない。

 

 唯一抜きん出て並ぶものなし、なんて生温い。

 飛び抜けすぎて、誰も追いつけないところまで仕立て上げるつもりだ。

 

 マーチの受難は終わらない。

 

 ウマ娘だけではない。

 トレーナー組の成長も著しい。

 

 技術指導講習を始め、意見交換会、日々の情報共有が日夜問わず行われている。

 元々在籍していたトレーナー含め、彼らは必死に知識を吸収している。

 

 勉学に疎かった北原トレーナーなどはかつての面影もない。参考書やメモ帳片手に歩き回る姿が散見されている。

 

 意識改革も進み、トレーナーたちの意欲は向上しつつある。

 スターウマ娘の入学を待つだけではない。

 自らの手でスターウマ娘を育て上げるのだという意識の変革が起きていた。

 

 果報は寝て待てではない。果報は自らの手で掴みにいくのである。

 

 沖野も、この状況を心から歓迎している。

 彼らの情熱だけをみれば、既に中央にも比肩しているだろう。

 ウマ娘の人生を預かる立場としても、これ以上ない成長だ。やる気を漲らせる彼らの様子は、実に好ましいものであった。

 

「……たまには、息抜きも必要だな」

 

 本の虫と化している北原や融通が利かないくらい真面目な柴崎を息抜きに連れ出してやろうと考えるくらいには、沖野も彼らを気に入っている。

 

「最近見つけた穴場のバーにでも連れていってやるかぁ」

 

 先輩らしく、後輩をお店に連れて行ってやろうとする沖野。

 彼の財布は常に暖かく、後輩に奢るくらいわけはない。財布の中が空っぽで皿洗いを申し出る彼の姿は、この世界では確認できない光景なのである。

 

 お気に入りの二人を連れ、バーへと連れ出す沖野。成長著しい彼らを連れて、二日酔いになるまで飲んだくれにいく。

 

 そして、夜のお店に突入しようとして。

 何故か居た元担当に首根っこを掴まれる。

 

「楽しそうだな~沖野。

 酔い覚ましにジャーマンスープレックスでもその身に味わわせてやろうか」

 

「ちょ、ちょっと待て! なんでお前が此処にいr」

 

「あ、いたたた、ぐぎゃあああああ」

 

 夜の街に汚い悲鳴が響いたりもしたが、特段問題はない。

 沖野が全治2週間の怪我を負ったとか、北原と柴崎の顔が蒼くなっていたらしいが、ノープロブレムである。寧ろ、昔から口酸っぱく行くなと宣告されていたのに夜のお店に突貫する沖野が悪い。

 

 ウマ娘パワーでぼろクズにされた沖野を見て、北原と柴崎は担当には細心の注意を払おうと心に決めた。

 沖野は反面教師としても、彼らに教訓を与えてくれた。まさに指導員の鑑である。

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって理事長室。

 

 この学園の長である理事長もまた、変わりゆく笠松トレセンの景色を眺めていた。

 

「昔とは違い、活気に満ち溢れている」

 

 彼女が来るまで、笠松の状況は酷い有り様であった。

 レースを見に来る観客は少なく、ライブステージなんてパイプ椅子で鑑賞するスタイルであった。生徒の質も年々低下し、将来に陰りが見えていた。

 

 だが今は違う。

 新築同然の校舎に屋内プール。芝のコースも整備されている。

 

 笠松に差し込んだ新たな光明。

 天から下って来た一本の蜘蛛の糸が、笠松の未来を変えつつある。

 

 新たな風が吹き込んだことで笠松は今、過渡期を迎えている。

 ここから始まるのだ。新生笠松としての新たな物語が。

 

「我々は彼女のお陰で生まれ変わることができた。

 ならば人命を賭してでも成し遂げて見せようじゃないか。

 我々笠松の誇りを日本に、そして世界に知らしめてやろう」

 

 




ムッシーさん、トントロラーメンのトントロ抜きさん、コメント有難うございます。

トントロラーメンのトントロ抜きさん、ごんぞうさん、トド丸さん、Jhonny-Gさん、白鞘侍さん、マーミンさん、ハイネセンさん、評価有難うございます。

執筆の励みになってますm(__)m

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