聖剣伝説3 TRAILS of MANA   作:モティ

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第二話「人の心、獣の心」

 

 

 自分をかばうように立つその人物の名乗りに、ケヴィンは嬉し気な声を上げます。

 

「ヒース! あなたがヒースさん! オイラ、ヒースさん、探してた!」

 

「え? 私を?」

 

 見知らぬ異邦人にそんなことを言われて、さしものヒースも戸惑います。

 

 しかしそんなふたりのやりとりなど、マンティスアントには関係ありません。

 

 両手のカマをぶんぶんと振り回し、ヒースとケヴィンを切り刻もうと襲ってきました!

 

 ふたりは凶悪な刃から逃れるように飛びのいて、ヒースが叫びます!

 

「話は後にしよう! 君は逃げるんだ!」

 

「オ、オイラも、手伝う!」

 

 先ほどはヒースを探す時間が惜しかったから戦闘を避けたかったのです。

 

 ならば、当のヒースがここにいる今、逃げ回るなんてできるはずがありません。

 

 ずいとヒースの前に立ち、

 

「うおおおおお!」

 

 自慢の拳で、マンティスアントのカマの腹をぶっ叩いては、はじき返してしまいました!

 

「オイラ、ビーストキングダムから来た、ケヴィン! ヒースさんこそ、逃げて! オイラ、ヒースさんに、お願いが、ある! だから、モンスターは、オイラが倒すよ!」

 

「ふふ、頼もしいね。でもウェンデルの神官として、他人任せにはできない仕事だ。ここは共同戦線といこうか!」

 

 ケヴィンの剛腕を警戒してか、様子をうかがうようにケヴィンの間合いから離れたマンティスアントを、ヒースが指さします。

 

 親指を立てて人差し指で、マンティスアントを示すような形です。

 

 瞬間、ヒースの手首の回りを衛星のように公転していた、ホーリーボールたちが連続して発射されました!

 

 がががががががが!

 

 八を数える聖なる光の弾丸は、マンティスアントの装甲を抜くことはできませんでしたが、確かなダメージを与えます!

 

「ヒースさん、すごい!」

 

「君のパワーも相当だね。申し訳ないけれど、前衛は任せていいかな」

 

「うん!」

 

 再びヒースがホーリーボールの充填に魔力を練り始めると、ケヴィンはマンティスアントに殴りかかります!

 

 ホーリーボールの威力にひるんでいたマンティスアントの懐に飛び込んで、ケヴィンは拳打を何発も叩き込みます。

 

 しかしマンティスアントのタフなこと!

 

 ひるんだ体勢を立て直せば、さっそくケヴィンを斬りつけようとカマを振り回してくるのです。

 

 その鋭利さは、まともに喰らえばケヴィンとてひとたまりもありません。

 

 ケヴィンは紙一重で右のカマを潜り抜け、左のカマを掌打で弾き飛ばし、

 

「せいッ!」

 

 マンティスアントの腹に、ずしんと重い蹴りを突き刺しました!

 

 しかしマンティスアントの装甲もさるもの!

 

 ケヴィンは手応えを感じてはいますが、決定打は遠い感触を覚えます。

 

 そして、少しばかり深く踏み込み過ぎたと気づきます。

 

 マンティスアントのカマが、左右から迫りくるのに気づくと、逃げ場がないと悟ります!

 

 鋭いカマの軌道を冷静に見て取り、ダメージを覚悟しなければならない!

 

 ケヴィンがそう考えた瞬間、再びホーリーボールの連射がマンティスアントに殺到!

 

 この威力にマンティスアントはバランスを崩し、ケヴィンは容易に危険から脱出してしまえたのです!

 

「ヒースさん!」

 

「装甲が硬いけど、このまま攻めていけばきっと突破できる。このままいこう、ケヴィンくん」

 

 ヒースの微笑みにケヴィンが力強く頷きます。

 

 しかしマンティスアントもこのままでは済ませません。

 

 ケヴィンから距離を取る間合いに逃げたかと思うと、両手のカマをぶんぶんと振り回し始めます。

 

 最初は威嚇かと思ったヒースですが、ハッと気づいてケヴィンに叫びました。

 

「ケヴィンくん、逃げるんだ! 真空の刃が来る!」

 

 見れば、マンティスアントのカマから円月のような空気の刃が弧を描いて飛び出してきたではありませんか!

 

「うわっ!?」

 

「クッ!?」

 

 ふたりは襲い来る真空の刃をとっさに躱しますが、その隙を縫ったマンティスアントがケヴィンに肉薄してカマを振り下ろしてきます!

 

 さしものケヴィンもこの二段攻撃を躱す術がありません!

 

 なんとか身をよじるくらいはしますが、胴体を両断されかねないカマの軌道!

 

「当たれ!」

 

 ヒースもこのカマの軌道を変えるため、ホーリーボールの速射を撃ち込みます。

 

 充填が完全ではなかったため、その数は三発。

 

 ヒース自身も真空の刃を躱しながらで、狙いがブレてしまいましたが、どうにか一発がマンティスアントの腕に命中!

 

 このおかげでケヴィンは直撃を免れます。

 

 しかし肩から胸にかけて、ざっくりと斬り裂かれてしまったではありませんか!

 

「ぐぅ!!?」

 

「ケヴィンくん! 待っていろ、すぐにヒールライトを!」

 

 ヒースが冷静に、しかし急ぎ呪文の詠唱と共に、癒しの魔力を練り上げます。

 

 ケヴィンは片手で傷を押さえ、膝立ちの体勢でした。

 

 片腕が傷のせいで上手く動かず、咄嗟に動けない状態。

 

 そんなケヴィンへと、マンティスアントのカマが致命的な太刀筋で降ってきました!

 

「ケヴィンくん、逃げるんだ!」

 

 それよりも一拍だけ早く、ヒースのヒールライトがケヴィンに届きます。

 

 みるみるケヴィンの傷が塞がり、間一髪で致命的な太刀筋を回避できるだけの力が回復します。

 

「ウウウ……」

 

 しかし当のケヴィンは肩を押さえたまま動けませんでした。

 

 血の熱さと匂いに、今にも噴火しそうな激情を抑え込んでいたのです。

 

 すなわち、獣人と化す衝動!

 

 マンティスアントという思わぬ強敵の出現に、ケヴィン自身も人間の姿のままでは突破しきれないと薄く感じていました。

 

 しかしヒースとの共闘でならば押し切れる。

 

 そう考えられる状況の推移だったところに大きなダメージを負うに至り、ケヴィンの野性が目を覚ましてしまったのです!

 

 また己の意思がねじ伏せられる嫌悪感。

 

 衝動のまま暴れてしまう忌避感。

 

 そして、己の命が失われかねない危機に対する恐怖。

 

 これらの感情の渦に心が塗りつぶされて、ケヴィンはフリーズしてしまっていたのです!

 

 そこに浴びせられたヒールライトにより、肉体の活性に引きずられたケヴィンの野性はついに爆発してしまったのです!

 

 あわや、ケヴィンの命がカマに刈り取られると思った瞬間!

 

 バキンと何かが砕ける音がしました。

 

 見れば、なんとケヴィンの手が、マンティスアントのカマを掴んで止めてしまっているではありませんか!

 

 真正面から刃を握っているのです!

 

 しかもその五指がカマの刃に食み、握り砕いてしまっているではありませんか!

 

 さらにケヴィンの肉体がメキメキと膨張して、沸き上がるように体毛が増していきます。

 

 森を震わせる咆哮と共に、獣人の姿に変貌したケヴィンがマンティスアントに逆襲を開始します!

 

「グルルルルアアア!!!」

 

 力任せの叩きつけ!

 

 それがマンティスアントの装甲をベギンとヘコませて、その巨躯を押し返してしまったではありませんか!

 

 マンティスアントが絶叫と共に後退し、ケヴィンがそれにあっという間に追いつきます!

 

 拳打、蹴撃!

 

 荒々しい連打は、一撃ごとにマンティスアントの装甲を砕き、苛烈なダメージを与えていきます。

 

「す、すごい……!? これが獣人の真の実力なのか……」

 

 そんなケヴィンの様子を、ヒースは呆然と眺めるしかできません。

 

 一方的になぶられ、マンティスアントが甲高い金切り声を響かせました。

 

 その悲鳴に、ごぼりと濁った音が混ざったかと思うと、なんとマンティスアントは口から緑色の霧を吹きだしました!

 

 毒を含んだ、アシッドブレスです!

 

「グアッ!?」

 

 この変則技に、ケヴィンはとっさに顔面をガードします。

 

 しかし酸性の毒を含んだブレスは強い毒性を含んでいるのです!

 

 体毛が溶けて表皮が焼け付き、さらに少し吸い込んでしまったおかげで、ケヴィンは猛毒に侵されてしまいました!

 

「グルルルルアアア!!」

 

 苦しみ始めるケヴィンへと、マンティスアントは急いで地中を掘り抜いて、一目散に退散します。

 

 猛毒による苦痛でもがくケヴィンは、マンティスアントを追うことなどできようはずがありません!

 

「いけない!」

 

 ケヴィンが暴れているのを見守るしかできなかったヒースも、今はマンティスアントよりも猛毒の対処です。

 

 手早く呪文を詠唱し、

 

「ティンクルレイン!」

 

 ケヴィンの頭上に癒しの雨を降り注ぎます。

 

 光のマナを多分に含んだ、優しい雨がケヴィンの体内の毒素を浄化していきます。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 毒気が抜けたケヴィンは、肩で息をして肩を落としている様子でした。

 

 ヒースがそのそばへと駆け寄ります。

 

「ケヴィンくん、だいじょうぶかい?」

 

「グルルル……アアアアッ!!」

 

 しかしそんなヒースに、ケヴィンは五爪を横薙ぎにして襲いかかってきたではありませんか!

 

 そうです、獣人としての姿に目覚めたケヴィンですが、その制御を未だ成し得ていないのです!

 

 マンティスアントとの戦いも、全ては野性のまま、本能のまま、力任せに破壊衝動をぶつけていただけ。

 

 さらに言えば、近くにいたから破壊しにかかっただけで、その標的は誰でもよかったのです。

 

 それがヒースでも!

 

「なっ!? なにをするんだい!?」

 

 間一髪、後方に身を引いて五爪を躱したヒースは、戸惑いの声を上げます。

 

 もちろんケヴィンは止まりません。

 

 血走った目で、唸り声を上げながらヒースを引き裂かんと手を伸ばします。

 

 ウェンデルの神官はある程度の護身術を会得しているもので、ヒースは寸前でケヴィンの爪を掌打で凌ぎます。

 

「ガアアアア!!」

 

 掴みかかり、八つ裂きにするつもりで襲い掛かってもなぜかヒースに届かない。

 

 そんな思い通りにならない不快感で、ケヴィンの手数がさらに加速します。

 

 力任せに、技もなにもあったものではありません。

 

 しかし獣人の膂力を全開にした力任せです。

 

 ウェンデル随一の使い手であるヒースをして、徐々に爪に傷つけられ始めました。

 

「こうなっては……! ごめんよ、ケヴィンくん!」

 

 ヒースは八を数えるホーリーボールを展開して、右手首の周囲に衛星のような公転をさせました。

 

 そして、ケヴィンが振り下ろす爪に……その手に、自分の掌をぶつけるように迎撃を繰り出したのです!

 

 パァンッ!!

 

 衝突と共に、炸裂するような音が響きます。

 

 なんと、ケヴィンが押し返されてしまっているではありませんか!

 

 見ればヒースが装填したホーリーボールのうち、ふたつが減っています。

 

 ヒースは掌打の瞬間、ホーリーボールの威力を打撃に上乗せしたのです!

 

「乱暴な手段だけど、これでおとなしくしてもらうよ!」

 

 さらに二発、ヒースが掌でケヴィンの体を打ち据えます。

 

「ギャオオオオ!」

 

 強靭なケヴィンの肉体ですが、ホーリーボールの威力が加味された掌打はてきめんの威力を発揮しました!

 

 身をよじって痛がる様子に、ヒースも心が痛みます。

 

 しかしこのままその牙と爪にやられるわけにはいきません。

 

 ヒースは心を鬼にして、最後の掌打をケヴィンに叩きつけようとした時!

 

 ふっと、ケヴィンから力が抜け、みるみる獣人の姿から人間の姿に戻っていくではありませんか!

 

「っと……!?」

 

 慌てて掌を引っ込めながら、ヒースがケヴィンを抱き留めます。

 

 それと同時、木の葉の向こう側から、朝日の光が差し込んできました。

 

 そうです、シェイドの刻からウィスプの刻になったのです!

 

 ヒースはかつて光の司祭に聞いた話を思い出します。

 

 曰く、獣人は月のマナに大いに影響を受けるから、月の出ているシェイドの刻に変身するのだと。

 

 だからウィスプの刻になり、ケヴィンの変身も解けたのだと悟ります。

 

「ケヴィンくん、ケヴィンくん、だいじょうぶかい?」

 

 抱き留めた態勢のまま、ヒースがケヴィンを軽く揺さぶり、背中を叩きます。

 

 ケヴィンの体は小刻みに震えていました。

 

「だ、だいじょうぶかい?」

 

 慌てて体を引き離し、ケヴィンの両肩に手を置いてヒースがその顔を覗き込みます。

 

 するとケヴィンは、滂沱の涙を流しながら、この世の終わりのような悲しい顔をしていました。

 

「ごめ……ごめん……ごめんよぉ……ヒースさん、ごめんよぉ……ごめんね……カール……」

 

 軽い錯乱すら入っているようで、ケヴィンは一心不乱に謝罪を繰り返しています。

 

「落ち着いて、ケヴィンくん! もうだいじょうぶだ、もう、安心していい……」

 

「ごめんよぉ……」

 

 ただひたすら泣きはらし、深く静かに罪の意識の沈むケヴィンに、ヒースの言葉はどうやら届かないようです。

 

 ヒースはただひたすらに優しくケヴィンを抱きしめて、その背中をさすりながらヒールライトを施します。

 

 立派な体格で筋骨隆々だというのに、ヒースの腕の中で涙するケヴィンは赤子よりも弱々しいものでした。

 

 すっかり夜が明けた頃。

 

 ようやくケヴィンは泣き止んで、正気も戻って来たようでした。

 

「あ、あの……ヒースさん、ご、ごめんなさい……オイラ、まだ獣人の姿に慣れてなくて……ああなると、暴れちゃうんだ……」

 

 ヒースから離れ、対面して木の陰で座りながら。

 

 ケヴィンがシュンと気落ちした様子で話をしてくれます。

 

 ヒースは穏やかに、ケヴィンを安心させるような語りかけをします。

 

「獣人の姿になれたのが、最近なんだね?」

 

「うん……オイラ……大切なトモダチに、襲われて……でもそれ、獣人王の作戦で……」

 

 ケヴィンは朴訥な話ぶりでこれまでにあった経緯をヒースに話しました。

 

 自分が獣人王の息子であること。

 

 カールという大切な友がいたこと。

 

 それを自らの手で葬ってしまったこと。

 

 それが獣人王の計略だったこと。

 

 そして今、カールの命をよみがえらせるためにウェンデルへ向かっていること。

 

「そんなことが……」

 

 ヒースはケヴィンの悲しみに沈痛な面持ちで言葉を漏らします。

 

「オイラ、カールを殺した獣人の血、キライだ! でも……抑えきれなかった……オイラ、もう、イヤだ……」

 

 また顔をくしゃりとゆがめ、ケヴィンは今にも泣き出しそうになってしまいます。

 

「ケヴィンくん、君がそう思うのも無理はない……ねぇ、獣人はみんながみんな、君のように暴走し続けるものなのかい?」

 

「う、ううん……むしろ、暴走するなんて、珍しい。きっと、オイラが、人間のハーフだから……」

 

「そうなのかい?」

 

「ウウ……オイラ、母親が、人間……」

 

「そうか……そうなんだね……」

 

 ヒースは身近にいる、エルフと人間のハーフである少女を思い描きます。

 

 その少女もまた、少しだけ成長の歩みが遅いことをコンプレックスにしていました。

 

「ケヴィンくん、よく聞いて欲しい。君が自分の生まれを呪う気持ちは、分かる。けれども、君の中で覚醒した獣人の心は、きっとまだ赤ん坊のようなものだ」

 

「赤ちゃん……?」

 

「そうだよ。獣人の君はきっと、生まれたばかりの赤ちゃんなんだ。それは本来、祝福されるべきものだった」

 

 祝福と聞いて、ケヴィンは顔をしかめます。

 

 カールの命を奪った呪われた血だ、呪われた心だ。

 

 そう思っていたからです。

 

 それを察して、しかし否定をせずにヒースが穏やかに続けます。

 

「カールについては、悲しいことだったね。でも、獣人王に利用された、獣人としての君もまた被害者なんだ……」

 

 ヒースの言葉に、ケヴィンがハッとした表情になります。

 

「ここでケヴィンくんが、獣人としての自分を見捨ててしまってはいけない。守ってあげなきゃいけないと、私は思う」

 

「守る?」

 

「そうとも。きっと君は、人間の心と獣人の心、ふたつ持って生まれてきた。先に成長した君の心は、お兄ちゃんのようなものさ……後から生まれた弟を、お兄ちゃんは守ってあげないと。こうするんだよ、これをしてはいけないよ、と導いてあげなければならない」

 

「……少し、分かる。獣人、生まれたら、すぐに月夜の森に放られる。そこで、ウルフたちに、狩りを教えられたり、危険なところに近づかないように教えられたりして、育つ……オイラの中の、獣人の心だけを、月夜の森に放れない……だから、オイラが、獣人のオイラに……しなきゃいけないこと、しちゃいけないこと……教えてやらないと、ダメ……?」

 

 ケヴィンはヒースの言葉を自分なりに咀嚼して繰り返します。

 

「でも……どうすればいいだろう……」

 

「獣人になった時、自分の意識はあるのかい?」

 

「ウウ……ある。けど、体が、自由にならない……オイラの中の獣人の心、すごく強い……」

 

「……話し合うことはできないだろうか?」

 

「話し合い?」

 

 ケヴィンが目をしばたきます。

 

 思い返しても、獣人としての自分は本能だけで動いていました。

 

 いつも、何かを破壊しようとしているのに引きずられてきたのです。

 

 そして独りの時は、必死で獣人の心のざわめきから目を逸らしていたのです。

 

 何かを壊すでもない、独りの夜。

 

 あるいは声をかけることができるのではないか。

 

 ケヴィンはふとそう思い至りました。

 

「話……できるかな?」

 

「すまない、もしかしたらボクは的外れなことを言っているのかもしれない。でも、自分自身の心を見つめること、自分自身に語り掛けることは神官たちも大切にしていることなんだ。だから人間の心と獣人の心、ふたつも心を持っている君ならば、ぼくたちよりも意義を見出せるはずだと思う」

 

 ヒース自身も、思いつきであることを否定しません。

 

 しかし、心をふたつ持っている。

 

 そういう風に考えてもいいのだ。

 

 そんな考え方もあるのだ。

 

 そう思い至っただけでも、ケヴィンにとって大きな進歩である気がしてなりませんでした。

 

「……オイラ、話し合ってみる。獣人の自分と」

 

 ケヴィンの真剣な瞳に、ヒースが優しく頷きました。

 

 

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