「街を、閉鎖?」
ホークアイがジャドに降り立ち、最初に聞かされたのはそんな布告でした。
一緒の船に乗っていた者たちも港でザワつきます。
「黙れ、これは決定である! ジャドの中でおとなしくしていれば危害は加えん! さぁ、散れ!」
イカつい獣人の威圧的な命令に、納得できる者などひとりもいません。
「ここから出られないってのかよ!」
「いつまで閉じ込められるってんだ!」
何人も抗議の声を上げますが、獣人たちがその襟首を捻り上げて黙らせていきます。
──こりゃ黙って従った方がよさそうだ。
ホークアイは冷静に人の流れに沿って歩き、ジャドへと入っていきます。
閉鎖されたジャドの街は、重い空気が漂っていました。
住人はうつむいて過ごしており、獣人たちが我が物顔で歩き回っているのです。
ひとまず適当に歩き回り、ホークアイは街並みを把握しにかかります。
変な街だな、というのがホークアイの率直な感想です。
ジャドは三階層に別れた街です。
船着き場や城壁の出入り口がある一階層と、店舗が多く並び、城壁の中に入ってメンテナンスする出入口がある二階層。
そして領主の館があり、城壁の歩廊がある三階層です。
三階層は獣人たちが占領して巡回しており、許可なく上がれば直ちにつまみ出されそうな様子です。
「こいつは、抜け出すのに難儀しそうだ」
ホークアイはそうつぶやきますが、内心はやってできないことではないな、という気持ちでした。
獣人は数も多いし、ところ構わず睨みを利かせていますが、動きも配置も真っ当すぎるのです。
厳重な警備を潜り抜けて盗みを働いてきたホークアイの目から見れば、マニュアル通りでは隙間だらけです。
とはいえ、知らない街のこと。
まずは情報収集が重要でしょう。
ホークアイは見かけた酒場にふらりと入って、適当な席に腰を掛けます。
客はまばらでしたが、一様にふさぎ込んでいるようでした。
「いらっしゃい。残念だけど、出せるものは少ないよ。獣人たちに取り上げられちまったからな」
マスターが肩をすくめます。
ホークアイが小首をかしげます。
「災難だったみたいだな」
「ヤツら、急に空から襲い掛かって来たのさ」
「空から?」
「でかい鳥に乗って来た少数精鋭が、この街に降下してきたんだ。領主の館はあっという間に制圧された。それから悠々とビースト兵たちの船を招き入れて、支配下に置かれてしまったんだ」
「なるほどね」
堅牢な城塞都市のこと。
どうして陥落したのか気になっていましたが、まさか空からとは。
ホークアイは感心半分を飲み込みながら、棚に並ぶ酒瓶へ視線を巡らせます。
「ナビードはあるかい?」
「いや、置いてないな……砂漠から来たのかい?」
「ああ、ちょっとウェンデルに用があってね」
エールがあるならそれを、とホークアイが続けます。
すぐにエールが一杯、ホークアイの前に差し出されます。
「お兄さん、とことんツイてないな。獣人の連中、ウェンデル侵攻を企んでいるらしいぜ」
「……なんだって?」
「このジャドを占領したのはその足掛かりだってハナシさ」
マスターの話に、ホークアイの表情が一気に険しいものになります。
「オレの故郷でも戦争を始めようとしていた……」
「砂漠でも?」
「……どこもかしこも戦争だらけか、か。いったい世界はどうなっちまってるんだ……」
深刻な顔をするホークアイに、マスターが少しだけ首を振ります。
「だけど、どうも獣人のヤツら足止めをくらってるらしいんだ」
「どういうことだ?」
「詳しくは分からないんだが、ウェンデルに通じる道が塞がってるってウワサだ」
「ってことは、ここから脱出してもオレも足止めになるってことか……いや、そうとも限らないか?」
ホークアイが背もたれに体重を預けて天井を仰ぎ、ふと思いつきます。
「あれ? 獣人連中、鳥に乗ってウェンデルに行けばいいんじゃないのか?」
ホークアイのアイデアに、マスターが首を振ります。
「そんなにたくさんいるわけじゃないんだ。指揮官だとか精鋭が乗るくらいだな」
「それじゃジャドは落とせても、音に聞くウェンデルには通用しないってわけか。しかし人を乗せるほど大きな鳥か……想像するだけでぞっとするな」
「街の外の森につながれてるらしいよ。見に行くかい?」
「外に出られたらね」
笑ってエールを煽るホークアイに、マスターが声量を落としてささやきます。
「とにかく外に出たいってんなら、ねらい目は夜だ」
「……どういうことだい?」
ホークアイの声も自然と小さくなります。
「……獣人たちは夜になると変身してじっとしてられなくなるんだ。領主様の館に集まって、好き勝手に騒いでる。見張りも少なくなって、おまけに注意が散漫になる」
「なるほどね」
ホークアイが思案します。
ウェンデルの道が塞がっているようですが、塞がり方を見てホークアイひとりなら入り込めるのではないか。
まずは状況をこの目で確認したいところでした。
エールを飲み干して、ホークアイがグラスをマスターに返します。
「ありがとう。参考になったよ。もう一杯もらおうか」
「まいど」
二杯目のエールを飲み干せば、再び街に繰り出しました。
そしてさりげなく街の全容を把握していきます。
城門、城壁、歩廊と三階層に別れた構造。
例えば城門の開閉の機構。
例えば第三階層へ足掛かりになりそうな、第二階層の屋根。
ホークアイはぐるりと一周する間に、抜け出すための算段を組み立ててしまいました。
次にふらりと道具屋へと足を運びます。
「いらっしゃい。品ぞろえは最悪だよ」
道具屋の店主は、不機嫌そうな声でした。
腰の曲がった偏屈そうな老人で、カウンターで頬杖をついてつまらなさそうな様子です。
「オヤジ、魔法のロープは売ってるかい?」
「魔法のロープ? 魔法の品は一番に取り上げられたよ」
「なら、普通のロープでいい」
「それならあるが……長さは?」
「二十メートルあればいいかな」
ようやくホークアイに意識を向けた道具屋の店主が目を細めます。
「……脱出する気か」
ホークアイが軽くウィンクをして、さらに注文を続けます。
「それに、木炭と硫黄と松脂と……後は、刺激がある香草なんかも置いてるかい?」
「煙玉か……おまえさん、外から来たな。その肌の色は、砂漠の出だな?」
道具屋の店主はじろじろとホークアイを見つめました。
「おいおい、オヤジにじろじろ見られても嬉しくはないぜ」
「ロープや煙玉を使うなんて、おまえシーフか……ん? 砂漠のシーフ……砂漠……ま、ま、まさか!?」
砂漠の嵐!?
そう店主が口走る前に、ホークアイが己の鼻先に人差し指をあててほほえみます。
「金なら払うからさ、さっき言った品を頼むよ」
「ツラの皮が厚い野郎だ、オレが獣人たちに通報でもしたらどうするんだ?」
「しないだろ、アンタは。偉そうに商売道具をかっさらっていった獣人となんて、話をするのもゴメンだって顔してるぜ」
「ふぁっふぁっふぁっ、その通りだ!」
道具屋の店主がしわくちゃの顔をほころばせます。
「いいぜ、用意してやる。獣人どもの鼻を明かそうって段取りを助けねぇ手はねぇ! こりゃ面白くなってきたぜ」
こうして道具屋の店主がウキウキと注文の品々を用意してくれれました。
物によっては船乗りに融通してもらわねばならない物もあり、全部がそろうのは夕方を待たねばなりませんでした。
一度、外に出て頃合いを見て戻って来たホークアイは、店の中でさっそく材料を組み合わせて、いくつもの煙玉を手早くこさえてしまいました。
さらにロープの先端に、外でくすねてきた熊手を軽く変形させた鉤爪を取り付けます。
準備万端になった時には、外はすっかりシェイドの刻。
道具屋の店主が支払いを数え終えれば、ホークアイに親指を立てます。
「気を付けて行けよ」
「ああ、オヤジも達者でな」
こうして外に出ると、もうすっかり暗くなっていました。
家屋の明かりが漏れてこそいますが、人通りはほとんど見当たらず、誰もが息をひそめているのです。
しかしそんな静かなはずのジャドの方々で、獣の咆哮が聞こえてくるのです。
隠れながら周囲を見渡せば、獣の姿に変身した獣人たちが闊歩しているのが分かりました。
誰もが筋骨隆々で、ギラギラとした目をして落ち着かない様子です。
ホークアイは丸くまとめたロープを腕に通して、肩に引っかけ直して駆けだします。
影から影へ、音もなく疾走するホークアイは、第二階層の適当な屋根に飛び乗ります。
そして煙玉のひとつに火をつけ、風向きを見て第三階層の奥へと投げつけました。
煙玉は夜目でも分かるほどの煙を、あっという間に吐き出します。
刺激的な匂いも含んだ煙に、方々の獣人が迅速に集まってくる気配を察知します。
ホークアイは獣人たちの注意を潜り抜けるように、第三階層の風上へと躍り出ました。
そして城壁の歩廊の隅、突起に鉤爪を引っかけて素早く外へ身を躍らせます。
とん、とん、とん、とん、とぉん。
最後に大きく城壁を蹴り、掘りを飛び越え五拍で着地。
ロープをしならせて鉤爪の引っ掛かりを緩めて回収。
こうしてホークアイは見事にジャドを脱出してラビの森へと降り立ったのです!
ロープを近くにあった木の近くに埋めて隠せば、ホークアイはウェンデルを目指して南下を始めます。
いくつもの修羅場を潜り抜けてきたホークアイにとって、ラビの森のモンスターは相手になりませんでした。
およそモンスターが障害にならないと把握できれば、とにかく先を急ぎました。
なにせぐずぐずしているとウェンデルが攻められるかもしれないのですから。
数日の旅程でホークアイが滝の洞窟に辿り着くと、特に何かが塞がっている様子はありませんでした。
はて、酒場のマスターが話してくれた、道が塞がっているとはなんだったのか?
そう思いながら進んでいくと、
「うおッつ!?」
洞窟に入ろうとして、見えない壁に阻まれてしまいました!
したたかに鼻っ面をぶつけたホークアイが顔を押さえて、ははぁ、これがそうかと理解します。
「結界か。確かに、こんなモンをなんとかできる獣人はいなさそうだな……しかし見通しが甘かったか。シーフのオレでも、こいつの解錠はムリだからな」
砂漠からここに来るまで、ウェンデルへの道行に結界が張られているなんて話は聞いたことがありません。
つまりこれは、変則的な事態なのでしょう。
──ここで悩んだって仕方ないな。
そう切り替えたホークアイは、どこかで情報収集をする算段を勘定します。
となると、ここから最も近い湖畔の村アストリアしかないでしょう。
さっそく、ホークアイは来た道を引き返しました。
時刻はすっかりシェイドの刻です。
土地勘はありませんが、頭に叩き込んだ脳内の地図や、道中の立て札でアストリアへの道程はばっちりです。
ホークアイの脚ならば深夜にはたどり着ける距離のはずでした。
シェイドの刻を仕事時間にしていたホークアイにとって、暗いラビの森も問題になりません。
順調にアストリアへと進んでいくホークアイでしたが、あともう少しで到着というところで、ふと視界に違和感が映ります。
「……なんだ?」
赤い色です。
木々の向こうに、ひどく明るい赤い色が見えました。
それが何かを理解した時、ホークアイの背筋にぞわりと悪寒が走りました。
火です!
臨戦態勢となって木々に隠れて音もなく炎の方へと近づけば、湖畔の村が燃えているのです!
炎に映る影は、人の形をした獣たち。
村人たちをその爪で刻み、家屋に火をつけて吼え猛っているではありませんか!
「……ッ!?」
あまりに凄惨な有様に、ホークアイも言葉を失います。
助けられる者はいるだろうか。
そんな考えも頭によぎりますが、獣人たちの数も多く、無謀が過ぎると判断せざるを得ません。
それに……もしもホークアイが介入したとして、果たして生き残っている者はいるのでしょうか?
それほどに、おぞましい惨禍でした。
木々に隠れて愕然としていたホークアイですが、ふと言い争う声が聞こえます。
どうやら獣人の間で同士討ちが起こっているようでした。
独りの獣人が、おそらくこの惨状を引き起こしたリーダーを糾弾しているようでした。
しかし、たった独りで反抗している獣人は徐々に追い詰められていきます。
燃える家屋を背に、包囲されて後がありません。
「この村……こんな風になる……理由……なかった……」
反抗する獣人の声は、果てしない悲しみと怒りにまみれたものでした。
「理由はある! 人間だからだ!」
獣人たちのリーダーがそれを一蹴します。
人間であるホークアイは、そんな理由でこんなことをされてたまるか!
内心でそんな怒りを覚えます。
そして。
「そんな理由で……そんな理由で! よそから来たヤツらが、穏やかに暮らしていた人たちを踏みにじっていいわけねぇだろうが!」
たった独りで反抗する獣人がそう吼えたのです。
その言葉は、ホークアイの胸の奥までを熱く貫き、脳裏にひとつの光景をよみがえらせます。
横たわるイーグルの屍。
嘲笑するイザベラ。
そして、ナバールの仲間たちに囲まれる己の姿。
今、獣人たちに反抗して独りで囲まれている彼の姿が、あの時の自分と重なってしまったのです。
気づけば、ホークアイは走り出していました。
──死なせたくないな
ただ、その衝動だけで動いていたのです。
反抗する獣人と、獣人たちを率いる獣人が激突するその直前。
「いいこと言うぜ。オレも同感だ」
ふたりの間に煙玉を投げ込んだのです!
「なんだこれは!? 煙玉!?」
盛大に噴き出る煙に慌てる獣人たちをすり抜けて、ホークアイは独りで反抗する獣人の元へと駆けつけました。
そしてそっと優しくその背に触れてささやくのです。
「こっちだ。逃げるぞ」
ホークアイが引く手に、獣人は素直に従ってくれました。
「ここで跳べ、大きくだ」
煙で視界が防がれていても、ホークアイは周辺の状態がおおよそ把握できました。
獣人たちの密集しているカタチを覚えて、ある程度どう変化するのか、だいたい予想もつくからです。
「左だ」
的確に逃げおおせれば、煙を抜けて村の入り口まで辿り着いていました。
獣人たちはまだ煙に混乱している様子です。
そのまま、ふたりでラビの森まで脱出しますが、安心できる距離まで走り抜けます。
やがて、ラビの森の奥深くでふたりは足を止めます。
「ふぅ、ここまでくればひと安心だろう。……おっと、そっちが人間の時の顔かい?」
気づけば逃げのびた獣人の姿が、人間の姿になっていました。
その顔は、目を白黒させて何が起きたかいまだに信じられない様子です。
「ウウ……なんで、助けて、くれた……?」
「……ああ……同胞に囲まれてる姿が、ちょっと放っておけなくてね」
ホークアイが肩をすくめました。
「あの……ありがとう……あの、あなたは……何者なの……?」
「オレはホークアイ。砂漠から来たシーフさ」
「オイラ、ケヴィン……」
「ケヴィンか。キミはアイツらの仲間じゃないのか?」
「みんな、獣人を迫害してきた人間に、復讐したいって、言う。けど、オイラ、迫害、もうないと思った……だから……」
たった独りでも、反抗した。
「そっか」
ケヴィンの朴訥な語り口を、ホークアイは疑う様子を見せませんでした。
「信じて……くれるの?」
「そりゃ、あんな風に取り囲まれちまってたんだから、信じるさ」
「あ、ありがとう……」
ケヴィンはうるうると感動したようなまなざしです。
「よせよ、オレが好きで勝手にやったことだ」
ホークアイがしっしっと手で追い払うような仕草をします。
「それで、キミは獣人の国に帰るのかい?」
「オイラ、ウェンデルに行きたい。けど、行く道に結界があって、困ってる」
「奇遇だな。オレもウェンデルに行きたいんだ」
しかし、結界。
ホークアイとケヴィンは、お互いがお互いに、相手がいい知恵を持っていないかと伺います。
お互いがお互いに、駄目そうだと判断した時のことです。
「……この音!?」
ホークアイがアストリアの方角に反応しました。
ケヴィンもほとんど同時に、そちらに視線を巡らせます。
かなりの速度で、接近してくる音があるのです。
形は人型。
しかしその足音の重厚感は普通の人間のそれとまるで違います。
ホークアイとケヴィンが、逃げる暇がないと悟り、武器と拳を構えたのと同時。
五人の獣人たちが木々を縫って踊り出てきました!
「見つけたぞ!」
「ぶっ殺してやる!」
「ケヴィンは殺すなよ!」
「あいつだ、煙玉を使ったヤツ!」
「ズタズタにしてやる!」
五人の獣人たちは、目をギラつかせて一気呵成に攻め立ててきました!
「クッ!?」
ホークアイは素早く両手にダガーを構えて応戦をします。
配分はホークアイに三人、ケヴィンにふたり。
ケヴィンを挟んだふたりは、どうにか気絶させたり、動けなくする程度の打ち方をしてきます。
しかしホークアイを取り囲む三人は、必殺の爪を突き立ててくるではありませんか!
獣人たちの攻撃は愚直とも取れますが、非常に力強いものでした。
技量で受け流そうとするにも腕には強い負荷がかかり、毛皮で刃の通りも悪い。
ホークアイは、防戦一方となってしまいました!
一方のケヴィンもアストリアで散々に打たれて消耗している手前、あっという間に押し込まれてしまいました。
「クソッ!」
ホークアイが、攻撃してきた獣人の爪を絶妙な受け流しで誘導し、別の獣人にぶつかるよう受け流します。
「ギャッ!?」
ダガーでは通りの悪い毛皮でしたが、仲間の爪は肉にまで食い込むようです!
しかし致命的なダメージにはならず、ホークアイを取り囲む三人はますます激昂してくるではありませんか!
ホークアイの緊張は最高潮に達し、集中力は針のように研ぎ澄まされます。
獣人たちの荒いフォーメーションの隙間を転がってくぐり抜ける。
木々で爪を阻害させる。
顔面にダガーを投擲し、避けられても木に突き刺さるように計算して、その柄を蹴って木に逃げる。
あの手この手で逃げに徹して、突破口を探します。
その甲斐もあってか、ホークアイは徐々に三人のクセのようなものを掴めてきました。
非常に危険な橋を渡ることになりますが、上手くハメることができれば逃げ切れるかもしれない。
木々を飛び渡りながら、獣人たちを俯瞰します。
三人はホークアイを追って木を登ってきます。
ケヴィンの方は? とチラリと視線を巡らせると。
なんと、ケヴィンは獣人のひとりに組み伏せられているではありませんか!
では、もうひとりは!?
最後のひとりを見失っていることに気づいたのと、直感的な危機を肌で感じ取ったのは同時でした。
「グルルァアア!!」
「うおお!?」
なんと、向かいの木から、ケヴィンを挟み撃ちにしていた獣人のひとりが飛び掛かって来たのです!
とっさに身を捻りますが、剛腕によって地に叩きつけられてしまいました!
「ホークアイさん!?」
ケヴィンの悲鳴が、痛みにチカチカする意識で耳に飛び込んできます。
そして、地に倒れた自分を取り囲む獣人たちの気配もはっきりと感じます。
「手こずらせやがって!」
「これまでだな」
「なぶり殺してやる!」
これまでか……!
そんな絶望が心を塗りつぶしながらも、それでもまだ!と足掻く意思でダガーを強く握り締めるのです!
ああ、しかし獣人たちの無慈悲な爪が、ホークアイに──
「ギャッ!?」
その寸前のことです。
突如ケヴィンを拘束していた獣人が突き飛ばされて、ホークアイに爪を振り下ろそうとした獣人にぶつかり、もつれて倒れてしまったではありませんか!
「なんだ!?」
「誰だ貴様ァ!?」
見ればケヴィンを助け起こす人物がいます。
槍を携えた清風の如きたたずまい。
凛とした眼差しが、獣人たちを睨みつけます。
「通りがかりの身ではありますが、人が死するに足る仔細か否か、聞かせていただけませんか?」
ローラントの王女リースの姿でした。