聖剣伝説3 TRAILS of MANA   作:モティ

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第十話「ウェンデル防衛戦」

 

 報告に来た神官へと、光の司祭が厳しい声をかけます。

 

「状況はどうか?」

 

「城門前で交戦中です! 今は持ちこたえていますが……あの攻勢にどれほど保てるか」

 

「分かった、次の指示まで待機をしていなさい」

 

 光の司祭は礼拝堂内にいた神官たちへ、手早い指示を次々と飛ばし始めます。

 

 緊迫する空気の中、リースがホークアイとケヴィンに目配せをすると、ふたりとも頷きで返します。

 

「司祭様、我々も出ます」

 

「なんと。そうしてくれるとありがたいが……」

 

 リースの提言に、しかし光の司祭は逡巡してしまいます。

 

 この三人は、世界を救うために旅をせねばなりません。

 

 ウェンデルよりも、世界の方が重いのは理の当然。

 

 とはいえ、ウェンデルの戦力だけで心もとないのも事実。

 

 光の司祭は間を取るような案を示します。

 

「……ビースト兵団を追い払う秘術の準備がある。少し時間やタイミングを要するものでの。それまでの時間稼ぎをしてくれればよい。決して無理をするでないぞ」

 

「オイラ、無理するかもしれない」

 

 光の司祭の言葉に、正直な反応をしたのはケヴィンでした。

 

「アストリア、すごくひどいことになった。ウェンデル、同じ目にあわせちゃいけない。世界のどこの国だって、あんなこと、起きちゃいけない!」

 

 その真っ直ぐなまなざしに光の司祭がハッとした顔になります。

 

 そしてやわらかに微笑みました。

 

「……そうじゃな、ケヴィンよ。その通りじゃ。しかし、おぬしらが無理はせんでくれ。ウェンデルに住む者たちが、力を尽くすべき状況なのじゃ。準備が完了次第、すぐに戦場に向かう。獣人たちを追い払う術のタイミングを、おぬしらに必ず伝わるようしよう。頼んだぞ、三人とも!」

 

 ケヴィンとホークアイ、そしてリースが力強く頷き、礼拝堂を駆け去りました。

 

 光の神殿を出ると、遠巻きに戦いの音が聞こえてきました。

 

 三人がウェンデルの街を駆け抜けると、まさに城門が破られた瞬間を目撃したのです!

 

 わっと獣人たちがなだれ込んできます!

 

 神官たちは城門の内側にこそ厚く陣を敷いています。

 

 しかし獣人たちの勢いに気を飲まれかけているのが見て取れました。

 

「食い止めましょう!」

 

 リースが率先して槍を構えて、ウェンデルの陣に駆けてくる獣人へと突っ込みます。

 

 まさに一番槍。

 

 先陣を切った獣人をひとり、またひとりとその槍でなぎ倒し始めたのです!

 

 その勇壮さに、ウェンデルとビーストキングダムどちらの陣営の誰もが驚きを隠せませんでした。

 

 さらにホークアイ、ケヴィンも続いて獣人たちと接敵。

 

「なっ!? ケヴィン!?」

 

「裏切っていたというのは本当だったのか!」

 

 意気揚々と攻めてきた獣人たちですが、動揺が広がります。

 

 なにせ獣人王の息子がウェンデル側でこちらに拳を向けてくるのです。

 

 アストリアでの顛末はビースト兵たちに伝達されていたのでしょう。

 

 しかし本当に戦場で敵対するまで、あの夜を目の当たりにしていない者たちは信じ切れていませんでした。

 

「ははっ、いるだけ効果的だな、ケヴィン!」

 

「ウウ……オイラはフクザツ……」

 

 ホークアイの軽口にケヴィンは唇をすぼめます。

 

 この動揺の伝播でビーストキングダムの士気が鈍り、逆にウェンデルは士気を盛り返します。

 

 精神的に見れば五分。

 

 そんな展開でウェンデルとビーストキングダムの戦士たちが衝突と相成ったのです。

 

 ウェンデルの神官たちがフレイルで獣人たちを迎撃し、後衛から次々にホーリーボールが飛んできます。

 

 獣人たちも負けじと拳を叩きつけてきました。

 

 最初のぶつかり合いは、拮抗と言えました。

 

 いえ、むしろウェンデルがやや有利な形に持ち込めたのです。

 

 それはリースの切り込みと、ケヴィンの存在が大きな要因でした。

 

 そうして生じた余力で、ウェンデルの神官たちは結界を展開し始めます。

 

 破れた城門に代わって、防御の帳を降ろしてしまったのです!

 

 ガンガンと後続の獣人たちが結界を叩こうとしても、不思議な抗力に弾かれてしまっているのが良く見えました。

 

 これでウェンデルに入り込んだ獣人と後続とを分断して対処できます。

 

 獣人を捌きながら、ホークアイが口笛を吹きます。

 

「ウェンデルもやるもんだ」

 

「ううん、たぶん、ダメ」

 

 その隣で獣人を迎撃するケヴィンが結界を一瞥して闘気をますます高めます。

 

 見れば、結界がひどくひずんでいるのが分かりました。

 

 獣人たちの力が、結界を破ろうとしているのです!

 

 どうもヒースが張った結界のレベルにはほど遠いようで、結界を維持しようとしいてる神官たちは、必死で祈りの姿勢を保ちながら苦し気です。

 

 パァンッッ!!

 

 やがて、盛大に破裂するような音と共に、結界が破られてしまいました!

 

 結界を維持しようとしていた神官たちが、たちまち鼻血を噴いて倒れてしまいました。

 

 術を破られたフィードバックによるダメージでしょう。

 

 それを介抱する者、獣人たちに改めて当たる者。

 

 城門は敵味方が入り乱れる混戦の様相を濃く深くしていきます。

 

 獣人たちの爪が振るわれれば血しぶきが舞い、神官たちのホーリーボールがあちこちで炸裂していきます。

 

 圧しては引く、非常に微妙な均衡でお互いが消耗する我慢の時間がしばし続きました。

 

 しかし、音が聞こえてきたのです。

 

 それは城壁を打ち壊そうとする音!

 

 城門は門をこそ破られましたが、未だ門構えが健在と言える状態でした。

 

 つまり、獣人たちは一穴から入り込んでいる様相を呈していると表現できます。

 

 その穴を穴たらしめている、城壁をこそ撃ち破って拡張しようとしているのです!

 

 そうなってはウェンデル側はより厳しい状況に陥ってしまうこと必定!

 

「打って出ます! ついてきてください!」

 

 それを見たリースが果敢に前に出ます。

 

「おい!? 出過ぎだ!?」

 

「そうしなければ手遅れになります!」

 

 ホークアイの制止の声に、リースが良く通る声で叫びました。

 

 ケヴィンも本能的にそれが正しいと理解しているのか、リースに続きます。

 

「クソッ……おい、待てよ!」

 

 ホークアイも遅れながら続きます。

 

 部外者の三人の、こうも勇敢な姿を見てウェンデルの者たちも黙ってはいられません。

 

 己を鼓舞するように雄たけびを上げて、何人もの神官たちもそれに続きました。

 

 リースたちが獣人たちの布陣へ、錐のように突っ込んでいきます。

 

 粘り腰で打ち倒すのではなく、ただひたすらに通過するための鋭い攻め。

 

 獣人たちも圧殺せんと殴りかかってきますが、リースの軽妙な突貫とケヴィンの重厚な突撃が組み合わさった尖鋭は、やがて獣人たちの層を突き破ります。

 

 そして城門の外へ飛び出ると、獣人たちがひしめいている有様を目の当たりにするのです!

 

 城門の内に侵入してきた数でも対処に四苦八苦しているのに、まだまだ入り切れていない数の暴力は絶望的とすら言えるでしょう。

 

 つっかえているところに姿を現したリースたちに、獣人たちが嬉々として襲い掛かってきます。

 

「やあああああ!」

 

 ひしめく獣人たちの圧殺を、リースは懸命に槍を振るい打ち倒していきます。

 

 その勇姿、その華美、まさに戦場の花!

 

 もはや血にまみれた戦禍の姿でありながら、輝くような威風を放ち後に続く全て者の士気を大いに奮わせました。

 

 あの戦乙女に遅れてはならない!

 

 あの戦乙女を殺されてはならない!

 

 城門の外に打って出た神官たちは、リースの武威に勇気づけられ、いつもよりも力を発揮して獣人たちと戦いました。

 

「リース、すごい! みんな、自分が持ってる力以上の力、出してる!」

 

「勇将のカリスマってやつだ」

 

 ケヴィンとホークアイは、自然と獣人王やフレイムカーンを想起します。

 

 しかしこのふたりの王のように己を信じる臣下や部下ではなく、見ず知らずのウェンデルの神官たちを率いているのですから大したものです。

 

 リースが致命傷を負わぬよう、ケヴィンとホークアイもがっちりとその脇を固めます。

 

 その甲斐もあって、神官たちは城壁に取り付いていた獣人たちを払いのけることに成功します。

 

 そしてその隙に、神官たちは城壁に重ねるように結界を展開。

 

 城壁の強度を倍するような補強を成すという、巧みな知恵を見せました。

 

 これで城壁は、光の司祭が来るまで保つはずです。

 

「すぐに撤退を! 急いで城門の内側へ!」

 

 状況の推移を認めるや否や、リースが素早い指示を神官たちに叫びます。

 

 無論リースはしんがりの形。

 

 神官たちは速やかに城門の内側へと逃げていき、リースも後退し始めます。

 

 後退する者に対して、獣人たちの攻勢は苛烈を極めました。

 

 リースひとりでは、すりつぶされていたことでしょう。

 

 ホークアイとケヴィンの助力を得てどうにかこうにか、あちこちに傷を負いながらウェンデルの陣営にまで戻ってきます。

 

「だいじょうぶですか!?」

 

「今ヒールライトを!」

 

 神官たちが慌ててかけつけては、リースたちの傷をみるみる治してくれました。

 

「ありがとうございます。城壁を破壊しようとする動きがあれば、また打って出ます。これで、かなり時が稼げるはずです」

 

 リースが槍を握り直し、城門の向こうにひしめく獣人たちを見据えます。

 

「これならきっと光の司祭様も間に合うはず……」

 

 近くの神官が希望を見出しながらつぶやいたその時です。

 

 ガゴォォォンッ!!

 

 なんと、強烈な破砕音と共に城壁の半分が破壊されてしまったではありませんか!

 

 城壁に重ねるように結界を展開していた神官たちが、その衝撃で次々とダウンしていきます。

 

 何事かと瞠目していれば、ひとりの獣人が悠々と城壁の瓦礫を踏み越えてやってきます。

 

 ケヴィンが叫びました。

 

「ルガー!」

 

 そう、人間討伐隊の隊長ルガーです!

 

「何を手こずっている。早く攻め落とせ!」

 

 ルガーの号令と共に獣人たちが怒涛のように殺到してきます。

 

 城壁の半分を破壊され、侵入できる獣人の数が遥かに増してしまったのです!

 

 その物量に、もはやウェンデルが明らかな劣勢!

 

 おまけに次々と撃ち込まれるホーリーボールや、高位の神官が渾身の力で放つセイントビームも、ルガーは拳で叩きつぶしてしまうのです。

 

 魔法を寄せ付けぬ圧倒的な強さに、獣人たちが勢いづきました。

 

 先ほどのリースと同じです。

 

 ルガーが戦場で威風を放つことで、獣人たちの意気がどんどん昂っていきました!

 

「まずい、ルガー! 倒さないと、取り返しつかなくなる!」

 

 ケヴィンが焦燥にかられて、ルガーに飛び掛かりました!

 

 ルガーは振り下ろされる拳を、余裕で受け止めながらケヴィンを鼻で笑います。

 

「また邪魔しに来たか、ケヴィン!」

 

「ルガー! アストリアでやったこと、繰り返しちゃいけない!」

 

「ほざけ!」

 

 ルガーが怒りのままケヴィンの腹部を蹴り上げれば、大きく吹き飛んでしまうほどの威力!

 

「っとぉ!?」

 

 ホークアイが俊足で落下地点へと滑り込めば、その身を受け止め……受け止めきれずに尻もちをついてしまいますが、どうにかケヴィンのダメージを緩和します。

 

 その隣を駆け抜けて、リースがルガーへと槍を突き入れました。

 

 それを半身になって躱し、ルガーは縦拳をリースにぶち込もうとします。

 

 リースはその反撃に対して槍をコンパクトに手繰り、石突を拳にぶつけようとしますが、

 

「きゃっ!?」

 

 その威力に押し返されて後退してしまいました。

 

「貴様が将だな! 叩きつぶして、一息にウェンデルを制圧してくれる!」

 

 一気呵成にルガーがリースを攻め立てようとすると、横合いからケヴィンの飛び蹴りがルガーに突っ込んできます。

 

 さしものルガーも強烈なこの蹴りを素通しできず、咄嗟に反応して両腕でガード!

 

 大きくバランスを崩したところにホークアイのダガーが皮膚を斬り裂きます。

 

「ッ!? 硬い……!? なんて筋肉だ!」

 

 しかしホークアイの刃では、ルガーの強靭な筋肉に痛打を与えるのは難しいようでした。

 

「小賢しい!」

 

 ケヴィンを押し退けて、ルガーが拳の乱打を繰り出せば、ホークアイは防戦一方!

 

 リースが横合いから槍を突き入れてその拍子を乱してようやくホークアイが逃げ切れるという始末です。

 

 ケヴィンとホークアイとリース、三人が束になってようやくルガーを足止めできる。

 

 そういった力関係で均衡しますが、三人が全力を尽くしているのに比べてルガーには余力がありました。

 

 さらに、この三人を釘付けにしておけば、ウェンデル側の勢いが止まる。

 

 そうなれば他の獣人たちでウェンデルを蹂躙できるとルガーは勘定します。

 

 そしてリースたちは、ルガーがそんな戦場の計算をしているのだと直感しました。

 

 とはいえ三人のうち誰か一人でも抜ければ、他のふたりはあっという間にルガーに叩きつぶされてしまうでしょう。

 

 そんな焦燥の硬直に陥り、そしてウェンデルの神官たちはじわりじわりと獣人たちの侵攻に押され始めています。

 

 このままでは、家屋が焼かれ、隠れている女子供にも被害が及ぶ!

 

 アストリアの情景が、いやがおうにもケヴィンの脳裏に再生されました。

 

「があああ!」

 

 そんな焦りで、ケヴィンがしゃにむにルガーへと踏み込んで拳を繰り出します。

 

「未熟者がぁ!」

 

 ルガーはその渾身の一撃を鮮やかに叩き落し、ケヴィンを地に叩き伏せて後頭部を踏みつけてしまいました!

 

「この程度かケヴィン! 獣人王様の稽古は全て無駄だったようだな!」

 

 ルガーがいっそう踏みしめる力を込めれば、めきりとケヴィンの顔面が地に埋もれます。

 

「ぐうああ……!?」

 

「オマエなど、獣人王様の後継者として相応しくない! オレはずっとオマエが気に食わなかった!」

 

「やめなさい!」

 

「おっと、近づくな! 近づけばケヴィンの頭を踏み砕くぞ!」

 

 リースが眼を釣り上げて踏み込もうとするのを、ルガーはケヴィンの後頭部をぐりぐりと踏み捩じりながら制止します。

 

「クッ!」

 

「ケヴィン。なんのつもりで人間どもに加担していたか知らんが、このままウェンデルの滅びる様を見せてくれる。それからビーストキングダムに連れ戻して、獣人王様に裁いてもらおうか」

 

「ぐぐぐ……ルガー……人間たちが……オマエに……なに、した……」

 

「貴様……まだそんなことをほざくか!」

 

 ズシン! ズシン!! ズシン!!!

 

 ケヴィンが絞り出す言葉に、興奮したルガーがその後頭部を何度も踏みしめます!

 

「人間が、獣人を、迫害した歴史があったのだ! それが! オレたちの番になったという! だけの話だろうが!」

 

「オマ……エが……され……た……ちがう……」

 

 明らかにケヴィンは衰弱しながら、それでもその足に抵抗しようと力を振り絞り、かすれた声を出し続けるのです。

 

「ニンゲン……獣人……なかよ……」

 

「黙れえええ!」

 

 いよいよルガーの怒りが最高潮に達し、本当にケヴィンの後頭部を踏み砕かん激昂を見せた時です。

 

 リースとホークアイが介入するよりも早く。

 

 一条の閃光がルガーへと疾ったのです!

 

「ぬうっ!?」

 

 それはセイントビーム!

 

 高位の光の魔法ですが、その狙い、その威力、共にルガーをして冷や汗をかかせるほどの技量で照射されたのです!

 

 ルガーは辛くもこのセイントビームに対して防御を間に合わせます。

 

 しかし大きく身を仰け反らせざるを得なくなり、その隙にホークアイによってケヴィンを助け出されてしまいます。

 

 見れば、ウェンデルに侵攻していた獣人たちが神官たちに押され始めています。

 

 援軍の神官たちと共に、非常に巧みな指揮の元にまとまり、獣人たちを返り討ちにしているのです。

 

 その核となる人物こそは!

 

「光の司祭様!」

 

 城門付近で戦っていた神官たちから、歓声があがります!

 

 そう、ルガーを射抜かんと発射されたセイントビームも、まさに光の司祭のものだったのです。

 

「待たせたのう! さぁ、ビーストキングダムにはお帰りを願おうぞ!」

 

 光の司祭の、老いてなお力強い声が戦場に響き渡りました!

 

 

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