聖剣伝説3 TRAILS of MANA   作:モティ

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第十一話「ルガー、猛攻」

 

 

 拳ほどの大きさのホーリーボールでした。

 

 それが、中空に軌跡を描く数、まずは八。

 

 それぞれが直進、じぐざぐ、弧を描く、回り込む、上下に高低をつける。

 

 それぞれに独立した軌道で動き回り、緩急すらついて獣人たちを翻弄、そして着弾!

 

 一発ずつが獣人をひとりずつ昏倒せしめ、それを目の当たりにした誰もが驚愕します。

 

 これこそ光の司祭の放つホーリーボル!

 

 究極と言える熟練度の光の魔法ではありませんか!

 

 しかしそれだけでは終わりません。

 

 次々と光の司祭はホーリーボールを生成しては、花咲かせるように展開します。

 

 その数は八。

 

 いいえ、十六!

 

 いいえ、いいえ、三十二!

 

 さらに増える!

 

 都合六十四発のホーリーボールが、弾幕のごとく戦場に乱舞します!

 

 ただの乱射ではなく、それぞれが精密な挙動をする神業!

 

 もうひと押しでウェンデルになだれ込めたはずの獣人たちが、光の司祭たったひとりに圧し返されているのです!

 

「す、すごい……」

 

 ホークアイに支えられ、その光景を見たケヴィンが呆然と言葉を漏らします。

 

「だいじょうぶですか?」

 

 そんなケヴィンに、神官のひとりがかけつけて治癒を施してくれます。

 

「すまん、こいつを頼む。たぶん、ここが獣人を圧し返す絶好の戦機だ」

 

 ホークアイがケヴィンを神官に引き渡すと、再び戦場に駆けていきます。

 

 リースも、ここが戦機だというのを肌で感じているのでしょう、

 

「私も行きます。ケヴィンさん、無理なさらないでくださいね」

 

 ケヴィンに一言だけかけて、ウェンデルを守る防衛線へと戻っていきました。

 

 さて、戦線では激昂したルガーが前に出ます。

 

「老いぼれがぁ!」

 

 怒号と共に、一足飛びに光の司祭へと襲い掛かります。

 

 勢いよく殴りかかってくるルガーに対して、

 

「むうん!」

 

 光の司祭は両手を突き出しそれぞれの手の周囲に八ずつ、合計十六のホーリーボールを展開!

 

 ホーリーボールが円を描くように高速回転を開始します!

 

 すると、どうしたことでしょう!

 

 双つの円に強力な斥力の力場が生じ、ルガーの攻撃を……いえ、ルガーそのものを弾き返してしまいました!

 

「なにぃ!?」

 

「ビーストキングダムよ、なぜウェンデルを攻め滅ぼさんとする!」

 

 大いに後退したルガーへと、光の司祭が厳しい声をつきつけます。

 

 拳を握り構えながらルガーも吼えました。

 

「黙れ老いぼれ! これは人間に迫害された、獣人の正当な報復だ!」

 

 光の司祭が鋭い瞳で獣人たちを見渡します。

 

 そこにいるのは血気盛んな年若い獣人ばかり。

 

「若き獣人たちしか見当たらぬのう。おぬしら自身、己が迫害をされたと言う者はおらぬのでないかな?」

 

 この喝破で、獣人たちに小さな動揺が走ります。

 

 世界が種族ごとの分断を決断し、円滑ならざる領土の取り決めをしてからずいぶんと時が過ぎました。

 

 光の司祭すら、当時を知る最後の世代と言える年齢です。

 

 いわんや、青年期といった頃合いの獣人たちが当事者であるはずありません。

 

 ルガーが怒りのまま戦場に吼え猛ります。

 

「耳を貸すな! 古老どもの怨嗟を思い出せ! 獣人には、奪われた土地を取り返す義務がある!」

 

「よさぬか! かつてそれぞれの種族が別たれた時、誰もが納得したわけではなかった。それでも未来へ進もうと痛みを分かち合ったのじゃ。その未来を、このような形で血に塗れさせるでない!」

 

「老人の理屈が!」

 

 ルガーが闘気をみなぎらせ、光の司祭に襲い掛かりました!

 

 対する光の司祭は、即座に十六のホーリーボールを展開、射出!

 

 直進、曲射、偏差射撃どころか、ルガーの背後にまで回り込む軌跡が混ざるという異次元のコントロールでルガーへ殺到しました。

 

 一発、二発、三発と、いくつかはルガーも叩き落すことに成功しますが全ては無理です。

 

 進んだ分だけ圧し戻され、したたかに聖なる衝撃を喰らって体を痛めます。

 

「まだだ!」

 

 それでも双眸を爛々と輝かせ、不屈の獣心のままに光の司祭へと愚直な突貫を繰り返します。

 

 光の司祭は、油断なくホーリーボールの嵐で応戦しました。

 

「光の司祭さん、つよい……」

 

 神官のひとりに治癒をしてもらいながら、ケヴィンはその攻防を見守り驚嘆していました。

 

 ルガーはビーストキングダムのナンバーツー。

 

 それが手も足も出ないのですから、世界の広さを知った思いです。

 

「まずいな……」

 

 しかしケヴィンの治癒をしている神官は焦燥のつぶやきを零しました。

 

「なんで? 光の司祭さん、勝ってる」

 

「確かにあの隊長は抑えられている。けどほら見て」

 

 神官が指さすのはウェンデルの街の方角。

 

 見れば、煙が上がっています。

 

 獣人が少しずつ街にまで侵入して、火をつけ始めているのです!

 

 光の司祭とルガーを欠いた両陣営は、わずかにビーストキングダムの侵攻が勝っているようでした。

 

 おそらく、まだ致命的な状況には陥っていません。

 

 しかしルガーが光の司祭を釘付けにすることで、徐々に獣人の優位が確定していく予感がしました。

 

 ドガァンッ!

 

 折しも、大きな破壊音が響き渡りました。

 

 城壁の一部が、また破壊されたのです!

 

 こうなるとさらに獣人が入ってくる量も増える。

 

 再び光の司祭とルガーの攻防に目を向ければ、ルガーが手も足も出ないながら、光の司祭と徐々に距離を縮めています。

 

 その瞳に映る炎の闘志は、もはや執念の炎。

 

 ルガーは己の頑強さを恃みに光の司祭の攻撃を耐え抜いて、息をついた暇に爪をねじ込もうとしているが分かりました。

 

 年老いた光の司祭もその狙いに勘づきましたが、ルガーを食い止められる者は他にいません。

 

 顔にこそ出さないものの、ホーリーボールの操作に焦りが見て取れました。

 

 ルガーも光の司祭の感情の揺らぎを感じ取ったのでしょう。

 

 勝負に打って出ます!

 

「うおおおおお!!」

 

 光の司祭が、もう何度目かのホーリーボールの迎撃を放った瞬間!

 

 ルガーが裂帛の気合で自身のエネルギーを全方位に放射したのです!

 

 青白い光が四方に広がり、ホーリーボールを弾き飛ばしてかき消します!

 

「青竜殺陣拳!」

 

 ケヴィンが声を上げます。

 

 獣人の奥義ともいえる必殺技のひとつです。

 

 とはいえ距離が遠い。

 

 ルガーが放射したエネルギーは、ホーリーボールの弾幕を打ち消しましたが、光の司祭には届きません。

 

 しかし、

 

「むう!? どこへいった!?」

 

 青竜殺陣拳の光が止んだ時、そこにいたルガーの姿がいなくなっているのです!

 

 左右に素早く視線を巡らせても見当たらず、さしもの光の司祭もその顔に狼狽を浮かべます。

 

「上だ! 朱雀飛天の舞!」

 

 ケヴィンの絶叫に、光の司祭が咄嗟に両手を掲げます。

 

「ぬぬ!?」

 

 咄嗟に展開したホーリーボールの円回転による防御力場の形成。

 

 それと、炎と化したルガーが天空より飛来したのはほとんど同時でした!

 

 天空に翔け上がり、高度からの急降下による必殺奥義!

 

 これぞ朱雀飛天の舞!

 

 ルガーもはじき返されましたが、光の司祭の左腕が、力なく垂れ下がっております。

 

 ケヴィンの声によって、寸前で直撃を免れましたが、捌き切れなかった威力が光の司祭の左腕を折ってしまったのです!

 

 はじき返されたルガーは城壁まで吹き飛んで体を叩きつけられながら、苦悶の表情の中でにやりと笑みを浮かべます。

 

 ダメージの量そのものはルガーの方が遥かに大きい。

 

 しかしダメージの比率では、光の司祭に勝っているといえる状態。

 

 ルガーは、ウェンデルを落とせると確信して笑んだのです。

 

「いけない、このままじゃ……」

 

 ケヴィンのすぐ近くの神官が真っ青になりながら声を震わせます。

 

 見れば、ルガーの熱闘に沸いた獣人たちが攻勢をより激しいものにしているのです。

 

 もうひと押しで、街を獣人が殺到してしまう。

 

 前線でリースとホークアイも懸命に戦っているのが見えましたが、獣人たちの勢いは留まるところを知りません!

 

「あの獣人がいなければ……光の司祭様の用意した術が使えるのに……」

 

「術? なに?」

 

「あ、ああ……獣人たちを、ラビの森まで転移させる方法があるんだ」

 

 神官の言葉にケヴィンは驚き、純粋無垢に尋ねます。

 

 「それ、やらなきゃ!? なんでしないの!?」

 

「時間が要るし、なにより光の司祭様の手が……」

 

「オイラが行く」

 

 神官のヒールライトは続いていましたが、ケヴィンはそれを押し留めました。

 

 回復は八割がたといったところでしょうか。

 

 しかし動くにはもう十分でした。

 

「回復、ありがとう!」

 

 神官の返答を聞くまでもなく、ケヴィンが駆けだしていました。

 

 ルガーが今、まさに光の司祭へと突っ込んでいく途中。

 

 その横合いにケヴィンが飛び込み、ルガーの顔面に拳を叩きつけてやったのです!

 

「がはっ……!?」

 

 さしものルガーも光の司祭との攻防で消耗しており、ケヴィンの一撃に大きく吹き飛ばされてしまいました。

 

「光の司祭さん! 術! 獣人たち、追い返す術! やって!」

 

「な、なんと!? しかしあの獣人のリーダーを放ってはおけぬ……」

 

「オイラが、なんとか食い止める! だから、やって!」

 

 一拍だけ、光の司祭は頭の中でルガーの強さと消耗度合い、ケヴィンの状態と、ウェンデルと獣人のパワーバランスを勘定します。

 

 そして光の司祭の判断は、

 

「……分かった。しかしケヴィンよ、この術は広域に効果を及ぼす。おぬしも巻き込まれぬよう、必ず退避するのじゃぞ」

 

「うん! ありがとう!」

 

 こうして光の司祭は、獣人がウェンデルを蹂躙する瀬戸際へと駆け戻ります。

 

 光の司祭もまた消耗をしていますが、その指揮は冴え渡り、あと一歩でウェンデルを踏み砕きかねなかった獣人たちを圧し返す兆しが見えてきました。

 

「ケヴィン! もう容赦せんぞ!」

 

 一方、立ち直ってきたルガーの怒気を、ケヴィンは真正面から受け止めます。

 

「ルガー、止める! 力づくで!」

 

「フンッ……そうだ、それが獣人として正しい! だがうぬぼれるな! 消耗したとて貴様ごときに止められるオレではない!」

 

 猛々しい踏み込みと共に、ルガーが剛腕をケヴィンに叩きつけてきます。

 

 それを両腕で受け止めて、ケヴィンは蹴りをルガーに見舞ました!

 

「グッ!?」

 

 言葉でこそ強がっていますが、光の司祭との戦いで、ルガーは大いに力が削がれていました。

 

 今ならば自分でも通用する!

 

 ケヴィンは確信をもってルガーを攻め始めます。

 

 拳打に蹴技。

 

 タイミングを見て崩し技が混ざり、ルガーはそれを時に踏ん張りを利かせ、時に技に身を任せて受け身を取ります。

 

 ルガーの防戦に、獣人たちは「まさかあの弱虫なケヴィンがここまで強くなっていたのか!」と驚愕を走らせました。

 

 隙を見て反撃するルガーですが、やはり光の司祭との戦いで消耗して全力が出せません。

 

 ケヴィンの確かな技術に裏打ちされた防御は、甘い拳足をしっかりと防いでしまうのです。

 

 こうして互角以上の闘いに持ち込まれ、ルガーは心の中で唸ります。

 

 想像以上にケヴィンの腕が良いのです。

 

 せっかく獣人王からつけてもらえる修行を嫌がり、めそめそと戦いから逃げようとする臆病者。

 

 ケヴィンに好意的な者も、敵対的な者もこの評価は一貫していました。

 

 それが消耗しているとはいえ、ナンバーツーのルガーを相手取ってここまでできるのです。

 

 つまり、技術において大きな乖離がない。

 

 ケヴィンの評価を改めずにはいられない。

 

 獣人の誰もが、敵として戦っているはずのケヴィンに対してそう思わずにはいられませんでした。

 

 しかしルガーの心は怒りに満ちていきました。

 

 これほどにまで技量を磨いていながら。

 

 これほどまで獣人王から修行をつけてもらいながら。

 

 これほどまでの腕前を持ちながら。

 

 ビーストキングダムに何ひとつ利することのないケヴィンに対する怒りです!

 

「ふざけるな! ふざけるなよケヴィン! 貴様ごときに、足止めされることすら恥だ!」

 

 ルガーが憤怒をたぎらせて、反撃を繰り出してきました。

 

 ケヴィンは格闘技の技術に忠実な防御を行いますが、今のルガーはそれを突破するパワーが吹き荒れます!

 

「ッ!?」

 

 気づけばケヴィンが圧され始めたではありませんか!

 

「ウウ……つ、強い……!?」

 

 激情のルガーが繰り出す技は、その総てに鬼気がこもり、溢れかえる殺意で目がくらみそうです。

 

 防戦に圧し戻されてしまったケヴィンは、危機感を覚えながらも、頭の冷静な部分が非常に冴え渡る気分でした。

 

 獣人王は、怒りや憎しみで己のパワーを引き出そうと考えました。

 

 逆上したケヴィンとて一撃であしらわれましたが、今のルガーを見ていれば理解できます。

 

 獣人王が期待していたのは、ルガーのこの変容に通じるものだったのでしょう。

 

 格闘技の技術を越えて怒りを叩きつけてくるルガーを見れば、確かにこれをモノにして初めてスタートに立てるのだと痛感します。

 

 ケヴィンがルガーの攻撃を防御した際、大きく後ずさり、

 

「……何がおかしい」

 

 ルガーはすぐに追撃せずに、ふとケヴィンへと憎々し気な声をかけます。

 

 気づけばケヴィンは。

 

 笑っていたのです。

 

 自分自身でそれに気づいて、ケヴィンは思わず自分の頬を手で触れます。

 

 確かに唇がつり上がっていました。

 

 ケヴィンは自分でも不思議そうな顔をします。

 

「……分からない。でも、」

 

 ケヴィンが、構えなおします。

 

「オイラ、ルガーのこと、苦手。ルガーも、オイラのこと、嫌い……けど、今のルガーの嫌い、いつもの嫌いじゃない。負けないぞって、気持ちの嫌い……オイラ、ルガーのこと、苦手だけど、尊敬してる。オマエほど、修行に真剣な獣人、いない……だから、ルガーに負けないぞって、思われるの……たぶん、うれしい……」

 

 ケヴィンは思いのほか冷静に、自分の感情を言語化します。

 

 その言葉に、ルガーが意表を突かれたような顔をします。

 

 それから、みるみる顔を紅潮させて吼え猛りました。

 

「黙れぇぇえ!!」

 

 ルガーの絶叫と共に、範囲に存在することごとくを拒絶せんばかりにエネルギーがほとばしります!

 

 青竜殺陣拳!

 

「うおおおおお!」

 

 対するケヴィンが、拳足に渾身の闘気を乗せて、そのエネルギーへと真っ向から立ち向かいます!

 

 体を浮かせて転身し、天から地へと叩きつけるような蹴りをエネルギーに叩きつけました。

 

 圧し返されながらも、ひずむエネルギーの力場に、さらに拳の二連撃!

 

「夢想阿修羅拳!」

 

 蹴りと拳の三連撃コンビネーションは、ルガーの青殺陣拳を圧し返し、ケヴィンに殺到するエネルギーを打破してしまったではありませんか!

 

「……クッ!?」

 

 しかし渾身の夢想阿修羅拳を繰り出したケヴィンは、消耗に苦悶しながら膝を衝いてしまいます。

 

 そんな態勢で、ケヴィンは天を睨みつけたのです。

 

 そこには高度に飛翔したルガーが、ケヴィンへと照準した姿が!

 

「終わりだケヴィン!」

 

 朱雀飛天の舞!

 

 隕星めいて急降下するルガーを、夢想阿修羅拳で力を使い果たしたケヴィンが捌ける余裕なんてありません。

 

 このままでは、粉々に圧し潰されてしまう!

 

 そう思われた瞬間、ルガーの進路上にリースが飛び込んできます!

 

「旋風槍!」

 

 頭上に構えた槍を高速で回転させ、小規模の竜巻を発生させてルガーを迎撃!

 

 さしものアマゾネスの必殺技とて、今のルガーをはじき返すことはできませんでした。

 

 しかし急降下の角度を捻じ曲げ、明後日の方角へと不時着させることには成功したのです!

 

「ぐおおお!?」

 

「まだ終わらないぜ!」

 

 さらにその不時着地点に、ホークアイも背中から飛び込む形で乱入してきました!

 

 背から飛び込み、身を捻った勢いで叩きつける左右ダガー!

 

 その連撃に加えて、最後に刃の軌跡を交差させる大技を繰り出します。

 

 これぞナバール伝統の背面斬り!

 

 ガードに持ち上げたルガーの両腕が深く傷つき、大きく後退します。

 

 その隙に、ケヴィンに並ぶようにリースとホークアイが立ち位置を変え、ルガーに立ちふさがるように構えます。

 

「ケヴィンさん大丈夫ですか!」

 

「よくひとりで堪えたな!」

 

「リースさん、ホークアイさん!」

 

 助けに来てくれたふたりに、ケヴィンは感激して感極まった表情です。

 

「向こうは光の司祭様の指揮で盛り返しています」

 

「かなりしんどいようだが、この獣人の隊長さえ抑え続けられれば……」

 

「ビースト兵たち、追い返す術、やってもらえる!」

 

 ケヴィンは胸に希望が広がる思いで声を弾ませます。

 

 対するルガーは、どうやら少しばかり頭が冷えたようでした。

 

 獣人たちが攻め切れていない状況。

 

 ウェンデルの防衛の厚み。

 

 神官たちもまたすり減っている戦局。

 

 己のダメージ。

 

 光の司祭のダメージと老齢による疲労。

 

 そして、立ちふさがる三人。

 

 大きく、ルガーが息を吐きだしました。

 

 認めねばなりませんでした。

 

 臆病者と卑下していたこの男と、その仲間たちが最大の、そして最後の障壁であることを。

 

「──……どこまでも、邪魔をしてくれる」

 

 ルガーが、静かに笑ったようでした。

 

 その気配の変化に、ケヴィンが怪訝な顔をしながら拳を握り構えます。

 

「ルガー、ここから先、行かせない。行かせると、取り返し、つかない」

 

「……ふん、キサマも分かっているわけか。もう一度オレが光の司祭を攻めれば、形勢は獣人のものになるとな」

 

 ケヴィンもきちんと言語化して把握していたわけではありません。

 

 しかし、肌で感じ取っていました。

 

 ルガーを通すかと通さないか。

 

 それこそが分水嶺なのだと。

 

 ルガーが静かな眼差しでケヴィンをみつめていました。

 

 そして、どこか力が抜けたような、気安い声を零したのです。

 

「忌々しい男だ」

 

 大した男だ。

 

 ふと、そんな相反する響きがケヴィンの耳に届いた気がして、目をしばたきました。

 

「ならばこそ!」

 

 しかしそれが錯覚だったと思わせるほどのルガーの怒号が続きます!

 

 木々を揺さぶり、地に響くその声を発する男は、炎の闘志でケヴィンたちを焼き尽くさんばかりの気焔を放ちます!

 

「オレとオマエたちとの決着こそが! この戦いの結着だ!」

 

 ルガーがケヴィンに、ホークアイに、リースに!

 

 襲い掛かってきました!

 

「行くぞ!」

 

 

 

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