聖剣伝説3 TRAILS of MANA   作:モティ

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第十四話「夜空の脱走路」

 

 ケヴィンたちが館から飛び出した時、外はもうすっかりシェイドの刻でした。

 

 あちこちから獣人たちの雄叫びが聞こえてきます。

 

「まずい、本当に間に合わなくなる」

 

 もしかしたら既に船が出ているかもしれない!

 

 三人は急いで三階層から港へと駆け抜けますが、道中には獣人たちがたむろしていました。

 

 どうやたら倒れている獣人たちを介抱していたようなのですが、デュランたちも強行突破したのでしょうか。

 

 勢いよく現れた不審者に、獣人たちがいきり立って襲い掛かってきます。

 

「どけ! どけぇぇぇ!」

 

 それを叩きのめし、突っ切って三人は港へ走ります。

 

 獣人たちが後を追いかけてきますが、船でデュランたちと合流して迎撃できればなんとかなるはず!

 

 そんな打算で港の桟橋へと飛び出した三人が息を飲みます。

 

 なんともう船がないのです!

 

 三人が視線を巡らせれば、既に沖を走る船が見えました!

 

「クッソォ! 間に合わなかった!」

 

 ケヴィンの遠目に、デュランが船から乗り出そうとして止められているのが分かりました。

 

 こちらに泳ぎ出そうとして、口論になっているのが見て取れました!

 

「ダメ! みんな! フォルセナへ、行かなきゃ!」

 

 いよいよ獣人たちも港へ殺到して、三人は船よりもその対処に追われ始めました。

 

 船でも、デュランが抑え込まれて悔しそうに港を睨んでいるのが分かりました。

 

 獣人をダガーで斬りつけながら、ホークアイがはたと思い至ります。

 

「おいケヴィン、あの三人はフォルセナに行くべきって分かってるんだよな!?」

 

 それにケヴィンはあっ!と大きな声を出しました!

 

 そうです、滝の洞窟でウィル・オ・ウィスプを見つけてから、デュランたちは光の司祭と再会することなく囚われてしまいました。

 

 つまり次の目的地が分かっていない状態なのです!

 

「ケヴィンさん! 叫んで!」

 

 リースが獣人たちを食い止めながら、声を上げました。

 

 急いでケヴィンは大きく息を吸って、

 

「フォルセナ、行けーーーー!!!」

 

 ホークアイとリース、獣人たちは耳が潰れるかと思うほどの大音声!

 

「英雄王、会う! マナストーン! 探す! がんばって!!!!!」

 

 渾身の咆哮で、ケヴィン自身すら肩で息をするほどです。

 

 ふと。

 

 沖の向こう側、船から、

 

 ──必ず生きて

 

 ──フォルセナで

 

 そんな小さな、しかし確かな声が返ってきたのです!

 

 ケヴィンはそれに雄たけびを上げて応えれば、ホークアイとリースに加勢します。

 

「でも、これから、どうしよう!」

 

 獣人を殴り飛ばしながらケヴィンが困ったような顔になります。

 

「まずは脱出だ! 港から離れよう!」

 

「ジャドの外、出る?」

 

「ああ。でもおそらく門を開けていられないだろう。きっと途中で獣人たちに追いつかれて揉みつぶされる」

 

「では三階層ですね!」

 

 リースが獣人のひとりを海に叩き落しながら思い至ります。

 

 まずは第三階層。

 

 そこで潜入に使ったロープで脱出という絵図はリースにも思い至りました。

 

 そしてさらに、

 

「あっホークアイさん、もしかして!」

 

「お? リースも思いついたか?」

 

 もう一枚、脱出で使えるカードにリースが気づきます。

 

 ホークアイがにやりと笑い、ケヴィンがぽかんとしました。

 

「でも、このままじゃ……」

 

 とはいえ港から出る道を、獣人たちに防がれている状況。

 

 このまま圧し負けてしまってはどうしようもないとケヴィンが不安げな声になります。

 

「ふたりとも、出口までの道を覚えろ! しっかりと見るんだ! 獣人たちの頭を踏み越えてでも、進めよ!」

 

 そんなケヴィンに、ホークアイが懐から煙玉を取り出して見せます。

 

 手早く着火して、地面に叩きつければ!

 

 もうもうと煙が広がり、視界一面を埋め尽くしてしまったではありませんか!

 

「今だ! 突っ切るぞ!」

 

 ホークアイがしゃにむに駆けだしたのに、ケヴィンとリースも慌てて煙に突っ込みました!

 

 見えなくなった視界で、三人はほとんど勘で突っ切ってしまいました!

 

「ぷはっ! 出れた!」

 

「このまま階段を駆け上るんだ! 三階層まで走れ!」

 

 目を白黒させるケヴィンの背を押して、ホークアイが街の中央にそびえる階段を駆け上ります。

 

 遅れて獣人たちがそれを追いかけますが、三人は一足先に第三階層へと辿り着きます。

 

 そして隠していた熊手付きのロープを垂らして、脱出経路を作り出してしまいました!

 

「まずはケヴィンが下りるんだ!」

 

「う、うん!」

 

 最初にケヴィン、次にリースがロープを手繰ってジャドの外へと脱出していきます。

 

 獣人たちがやってくる音に焦燥しながら、最後にホークアイが城壁から身を乗り出してロープを伝って脱出です!

 

 ケヴィンとリースが地に到着した時、ホークアイは城壁の半ばほど。

 

 そして獣人たちは、そこでロープに辿り着きました!

 

 ぐいとロープが引っ張られたと同時に、ホークアイが城壁を蹴ってロープを手放します。

 

 高い位置から落下するホークアイを、

 

「ホークアイ!」

 

 ケヴィンがしっかりと受け止めます!

 

「サンキュー! さぁ、こっちだ!」

 

 こうしてホークアイが近くの森に走り出します。

 

「やっぱり!」

 

 その方向にリースが声を上げました。

 

 ホークアイが肩越しに振り返ってウィンクをします。

 

 そうして辿り着いたのは、そうです、あの大鷲たちの休んでいる場所!

 

 大鷲たちは夜も遅くにやってきた三人を鋭く睨んできました。

 

 ケヴィンが、そうか!と遅ればせながら理解します。

 

「ケヴィン、時間がない。こいつらに乗って逃げよう! どうすればいい?」

 

 ホークアイが大鷲たちの足の縄をダガーで切断しながらケヴィンを促します。

 

 大鷲は大きいとは言え、おそらく一人乗りでしょう。

 

 ぶっつけ本番でも、やるしかありません。

 

「ウウ、まずは、足を掴んで、ジャンプする! そうしたら、この子たちも飛んでくれる。それからは、足を引っ張ったり、体を傾けたりで、細かい指示、する」

 

「分かった、細かいことは空で教えてくれ!」

 

 ケヴィンが手慣れた様子で、ホークアイとリースもそれを見真似して。

 

 三人は大鷲を駆り、森から離陸してしまいました!

 

 大鷲の足に掴まり、ぶら下がった形。

 

 ぐいと引き上げられる感覚に身を任せて、三人は空へと飛び上がります。

 

 眼下では獣人たちが一足遅くやってきて、大鷲の縄を解こうとしているのが見えました。

 

 その間にも、三人の高度はみるみる上昇していきます。

 

「ホークアイ! 右! 右の足、引っ張る!」

 

「こ、こうか?」

 

「そう! あっ、今度は左の足!」

 

「あーもう!?」

 

 空の上でホークアイは慣れない大鷲に苦戦をしていました。

 

 それをケヴィンが横から細かく指示を出します。

 

 進路は西。

 

 ジャドからかなり距離を飛び、獣人たちの追撃はまだありません。

 

 もう振り切ったと見てもいい頃合い、ようやくホークアイが大鷲の指示に慣れてきました。

 

「ふぅん、ビーストキングダムはこうやって空を飛んでいるのか」

 

「うん、あんまり、大鷲の数、ない。だから獣人の、特に強いヤツの移動手段」

 

「ケヴィンもよく使っていたのか?」

 

「ウウ、オイラは、あんまり。オイラ、そもそも外に行かない。でも、この子たちと、空を飛ぶこと自体は、嫌いじゃない。この子たち、みんな、オイラの言うことは、聞いてくれる!」

 

 ケヴィンが夜空を気持ちよさそうにしているのを見て、ホークアイも悪くはないなと思いました。

 

 視界は良好。

 

 気持ちの良い夜空です。

 

 下を見るのだけは、背筋がぞくりとしましたが。

 

「リース、大鷲に指示するの、上手。やったこと、あった?」

 

 最後尾で大鷲を駆るリースに、ケヴィンが振り返って尋ねます。

 

 ホークアイにはつきっきりで指示をしていたケヴィンですが、リースはそれも必要なかったようで、そつなく大鷲を従えていたのです。

 

 獣人でもこうは上手くいかないもので、ケヴィンは内心驚いていました。

 

「いえ、初めてです。でもどうすればこの子が言う通りに飛んでくれるか、なんとなく分かるんです」

 

「すごいね! たぶんルガーより、上手!」

 

「リースは鳥の気持ちが分かるのか?」

 

「そういうわけじゃないんですが……」

 

 ホークアイの問いかけに、リース自身でも上手く言葉にしにくい感覚のようでした。

 

 少し悩むようにして、思ったことを口にします。

 

「たぶんこの子たちは、空に吹く風を読みながら飛んでいるんだと思います。そして、私も少なからず風を肌で感じようとするものですから、感覚が一致しているんだと思います」

 

 リースの答えにケヴィンとホークアイが顔を見合わせます。

 

 分からない感覚でした。

 

 でも、分かるような気がするのです。

 

「ちょっと、分かる。オイラも、月夜の森の機嫌、感じる時、ある。森の機嫌、悪い時、行かない方がいい道、分かる。そういう時は、その道の向こうで、獣の気が立ってたり、する」

 

「オレの場合は、砂漠の砂の流れかな。灼熱の砂漠は、流砂に足を取られることがある。運が悪けりゃ、そのまま砂におぼれちまうんだ」

 

「砂の流れを掴まないと、酷い目にあうんですね」

 

「そういうこと」

 

「みんな、それぞれの感覚、あって、面白い!」

 

 ケヴィンが嬉しそうにしているのを見ると、ホークアイとリースもなんだか和やかな気持ちになってきました。

 

「あれ?」

 

 ふと、リースが不思議そうな声を上げました。

 

 ケヴィンがきょとんとした顔になります。

 

「リース、どうしたの?」

 

「あの、月が……どんどん大きくなっていませんか?」

 

 三人が飛ぶ空の上、進むほどに月が大きくなっているのです!

 

 気のせいなどではありません!

 

 月が近づいてきているかのように、明らかに大きいのです!

 

「ウウ、これ、獣人の国では、普通。むしろ、まだ小さい」

 

 それにケヴィンが首を振ります。

 

「獣人たちの領土、月のマナ、満ちてる。だから、月、他の国よりも大きい。オイラも、ジャドに来て、月が小さくて、驚いた」

 

「そうか、じゃあもうここはビーストキングダムの領空なのか」

 

 ホークアイが眼下を見下ろします。

 

 地上は生い茂る森が広がっていました。

 

 獣の気配が満ちた、力強い森です。

 

「ここ、下りると、月夜の森。オイラとカールが、いつも一緒にいた、森」

 

 ケヴィンの言葉に哀しみのトーンが混ざります。

 

 カールを生き返らせるための旅が、偽りだったのですから。

 

 しかし今、ケヴィその偽りを乗り越えて進もうとしています。

 

 ホークアイもリースも、改めてこの少年の心の強さに尊敬の念を覚えました。

 

「もっと、ずっと西に飛んで、ビーストキングダム、越える。山を、越える。フォルセナにつくはず!」

 

 ケヴィンの表現はざっくりとしたものですが、間違ってはいませんでした。

 

 進路は西のまま、どんどん大きくなってゆく満月にホークアイとリースは息を飲みます。

 

「あれはなんでしょう?」

 

 ふとリースが、はっきりと姿を認識できるようになってきた塔を指します。

 

 月に届かんばかりの高い、高い塔でした。

 

「あれ、月読の塔。獣人たちの、先祖、眠る場所」

 

「大切な場所なんですね」

 

「ウン、あんまり、近づいちゃ、ダメ。神聖な場所なんだ」

 

 ホークアイとリースがほう、とビーストキングダムの名所に感嘆します。

 

 しかし、やはり何と言っても月の大きさと美しさが目を引きました。

 

「綺麗ですね……」

 

 リースがぼんやりとつぶやいた時。

 

 その満月に小さな黒い影が染み出てきたように見えました。

 

 染みが、ばさりと翼を広げて飛翔してきます。

 

 鳥でしょうか?

 

 いいえ……

 

「あれ、は!?」

 

 黒い染みが接近してくるにつれて、その輪郭が鮮明になってきます。

 

 月光を背に、翼のようにマントを広げた姿。

 

 人の姿をした、人ならざるモノ!

 

 それは貴族の身なりをした、赤い瞳の男だったのです!

 

「あれはまさか!?」

 

 ホークアイとリースが目を見開いて驚愕します!

 

 ふたりにはその男の顔に見覚えがあったのです。

 

 イザベラと共謀して呪香の受け渡しをしていた男!

 

 ローラント陥落時、リースの前に立ちふさがった男!

 

「邪眼の伯爵!」

 

「おお、リース王女。ようやく見つけたぞ、私の花嫁!」

 

 邪眼の伯爵は、ばさりとマントを広げてリースの大鷲の上を取ります。

 

 リースが細かに大鷲に指示を与えますが、振り切ることができません!

 

 邪眼の伯爵がうっそりとリースの顔に手を伸ばそうとして、

 

「オマエ! オマエの呪香のせいでナバールが!」

 

 ホークアイが大鷲を駆り、邪眼の伯爵を急襲!

 

 背後から突っ込んで蹴り込もうとしたその動きは、しかし邪眼の伯爵にするりと躱されてしまいました。

 

 まるで空を泳ぐように距離を取り、邪眼の伯爵が赤い瞳を興味なさげにホークアイへと定めます。

 

「ふん、あの盗人どものひとりか。ああ、抜け出した雑魚がいたと聞いたな。貴様がそうであるか」

 

「貴様ぁ!」

 

 大鷲を旋回させて、ホークアイが怒りのままに再度突撃を敢行します。

 

「あなたは、ローラントとナバールをめちゃくちゃにして! いったい何がしたいと言うの!」

 

 リースもその呼吸に合わせて挟み撃ちをしようとします!

 

 ホークアイは片手で大鷲にぶら下がりもう片方の手でダガーを。

 

 リースもまた、片手でぶら下がって、もう片方の手の槍で邪眼の伯爵を攻める軌道!

 

 しかし邪眼の伯爵はホークアイの突撃を軽やかに躱し、リースの槍も鮮やかな身ごなしでやり過ごしてしまいました。

 

 大鷲をして捉え切れぬ機動力です!

 

「いいともリース王女、全てを教えてあげよう。だから私についてきたまえ。悪いようにはせぬとも、ローラントにいた頃以上の栄華を約束しよう」

 

 さらにリースに並走しながら、ねっとりとした猫なで声を投げかけてくる余裕!

 

 リースは咄嗟に槍を突き出しますが、邪眼の伯爵は穂の根元を掴んで止めてしまいました。

 

 そして強い力でぐいとリースを引き込もうとして、

 

「やめろ! オマエ!」

 

 パッと放して距離を取ります。

 

 邪眼の伯爵が一拍前にいた空間を、ケヴィンの飛び蹴りがゴウと通り過ぎてゆきます。

 

 なんと大鷲から自分で飛び出して繰り出した蹴りでした!

 

 それを躱されて自由落下し始めるケヴィンが指笛をひとつ。

 

 大鷲が飛んできて、ケヴィンはその足を掴んで再び上昇してきます。

 

「オマエ、ホークアイと、リースの故郷、壊した! 許せない!」

 

「蛮族め」

 

 邪眼の伯爵が高い位置から赤い瞳で睥睨します。

 

 ケヴィンに合流して、ホークアイとリースもまた、邪眼の伯爵へと険しい視線を返します。

 

「生意気な目をする。リース王女だけをさらって済ませてやろうと思っていたが、気が変わった」

 

 マントを翻して、邪眼の伯爵が急降下をしてきます!

 

「男ふたりは地に叩き落してから、リース王女をいただいてゆく!」

 

 

 

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