急降下してくる邪眼の伯爵に、大鷲を駆ってケヴィンが前に出ます。
そして、再び大鷲から離れて自ら空に飛び出したではありませんか!
またこちらに攻撃を加えて、自由落下するところを大鷲に拾わせる気か。
そう考えた邪眼の伯爵は、すいと機動を変えてケヴィンをやり過ごそうとします。
空に身を放り出せば、そこからの軌道修正は不可能。
馬鹿な野生児に付き合っているヒマなどないと言わんばかりの機動です!
「お願い!」
しかしどうしたことでしょう!
ケヴィンの一声と共に大鷲がその肩を掴んだではありませんか!
ケヴィンが大鷲に掴まるのではなく、大鷲がケヴィンを掴んでくれる格好!
こうして両手が空いたケヴィンは、大鷲に運んでもらう形で邪眼の伯爵へと横合いから拳を叩き込みます!
「やぁ!」
「なに!?」
さしもの邪眼の伯爵もこんな戦い方は想定していなかったのか、咄嗟に両腕でその拳を防ぎます。
大鷲はさらに羽ばたき、上手くポジションを調整。
ケヴィンが理想的な間合いと勢いで、綺麗な蹴りを邪眼の伯爵へと打ち込みます!
「調子に乗るなよ!」
しかし邪眼の伯爵は、この蹴りを軽々と掴んで止めてしまいました!
ギヂリ!
足を掴む手に力がこもれば、ケヴィンが呻き声を漏らします。
怪物的なパワー!
このままでは足が折れてしまう!
「やめなさい、邪眼の伯爵!」
それを食い止めようと、声を張り上げながらリースが飛翔してきます。
横合いからぶつかるように邪眼の伯爵へと槍を突き出す構えです!
「ふっ、そちらから出向いてくれるとはな!」
邪眼の伯爵は喜色を浮かべ、もはや興味のないと言わんばかりにケヴィンを思い切り下方へと放り投げます。
なんともないような所作だというのに、ケヴィンと大鷲がまとめて大きく急降下!
なんとか立て直せた時には、邪眼の伯爵から遥か下方まで落ちてしまっていました。
こうして手が空いた邪眼の伯爵は、リースを迎え入れるように両手を広げます。
「おっと、お姫様よりも先にオレの相手が先だぜ!」
しかしリースよりも先に、邪眼の伯爵の眼前にホークアイが上昇してきたではありませんか!
すれ違うように、邪眼の伯爵の眼前をくらますように。
大鷲が躍り出ては、その脚に掴まるホークアイが邪眼の伯爵の胸元を蹴り上げます。
舌打ちをしながら、すいと少しだけ後退して蹴りをやり過ごそうとした邪眼の伯爵ですが、
スパッ!
なんと服の胸元が切れて、死人のような肌があらわになってしまったではありませんか!
見れば、ホークアイはつま先にダガーを括り付けて蹴りの距離と殺傷力を稼いでいたのです!
さらに上昇しながら逃れるホークアイが、ぺろりと舌を出して邪眼の伯爵を小馬鹿にします。
「貴様ァッ!」
「邪眼の伯爵!」
激昂する邪眼の伯爵でしたが、さらに上昇するホークアイの向こう側にリースが現れます!
体ごとぶつかりに来る槍!
「ちぃっ!」
身を捻る邪眼の伯爵ですが、その脇腹に槍が入りました!
ぎぢィっ!
しかしなんということでしょう!
リースの手に返る手応えは、まるで鋼に突き入れたような感触!
服も破れており、多少なりともダメージはあるでしょう。
しかし、多少。
見ればホークアイがダガーで斬り裂いた部分も、肌に跡が残る程度で斬れてはいないではありませんか!
なんたる強靭な肉体!
ガシッ!
邪眼の伯爵が槍を片手で掴めば、リースが押しても引いてもびくともしなくなりました。
そして邪眼の伯爵のもう片方の手が大きく振るわれたのです!
ザシュッ!
それだけで、なんとリースの大鷲が片翼を断たれてしまいました!
大きな悲鳴を上げて大鷲が墜落してしまいます。
それに伴ってリースも落下しかけますが、邪眼の伯爵が素早くリースの腰に腕を回して引き寄せます。
「ようやく迎えることができましたな、リース王女」
「いや! 離して!」
もしも素直に離されれば落下する現状。
しかし落ちてしまうかもしれない恐怖を嫌悪感が上回りました。
邪眼の伯爵の腕の中で暴れるリースですが、その顔がキスをしそうなほどに近づき、
「動くな」
邪眼の伯爵の赤い瞳が爛と輝きました。
するとどうしたことでしょう!
リースの体が石になってしまったように動かなくなってしまったのです!
ローラントでもリースを拘束せしめた、邪眼の伯爵の赤き瞳の邪視の効果!
「ふふふ、いい子だ」
「ッ!?」
唇をわななかせることしかできず、しゃべることができなくなったリースは混乱に陥ります。
「恐れことはない。私はあなたを愛してやろうというのだ。永久に可愛がって差し上げる……十三人目の花嫁としてな」
邪眼の伯爵の言葉は甘く優しいものでした。
その瞳はずっと手に入れたかった宝石を手に入れた好事家のようにうっとりとしています。
「我々の計画にエリオット王子が必要と予言され、秘密裏にローラントへ足を運んだ。その時にあなたを見初めたのだ。あなたほどに美しい人間は見たことがない! 世界を滅ぼすままに、あなたの美貌を失うのは大いなる損失である。ゆえに私がめとってやろうというのだ」
「ッ……ッ!?」
邪眼の伯爵の言葉は独善極まりないものでした。
しかしそれ以上に、炎上したローラントと生き別れた弟の名にリースが強い反応を示します。
特にエリオットと最後に別れてしまったのは、この男も大きな要因なのです。
怒りと憎しみが、リースの中に改めて膨れ上がります。
「エリ……どこ……!」
溢れる感情が零れるように、リースの唇が微かな言葉を紡ぎます。
これには邪眼の伯爵もほうと感嘆しました。
「私の邪視を受けて言葉を紡げるとは、大したものだ」
邪眼の伯爵が愛しむようにリースの頬を撫で、マントの内側にいっそう深く抱き寄せます。
「エリオット王子は捜索中だよ、リース王女。我々もエリオット王子を必ず見つけてねばならぬのだ。それはあなたにとっても良い話だろう? だから……」
ギラリと邪眼の伯爵が、その視線をリースから外します。
上方からホークアイが、下方からケヴィンが再びやってくるからです!
「あの羽虫どもを落としてから、招待しよう、我らが城へ!」
「リースを返せ、このヘンタイ!」
「ウウ、リース、嫌がってる! 離せ!」
ばさり。
邪眼の伯爵がマントを翻せば、天に地に怒声をほとばしらせました!
「下賤なゴミどもが! 近づくでないわ!」
するとどうしたことでしょう!
その怒声はまるで脳を直接的に揺さぶるように、ケヴィンとホークアイと、そして大鷲たちに響き渡ったのです!
「がはっ!?」
「ぐぇっ!?」
全方位に放射されたそれはサイコウェーブ!
思念波を叩きつけ、相手の精神そのものにダメージを与える凶悪な技です!
大鷲を掴んでいられなくなったホークアイは、わけも分からず邪眼の伯爵とリースのすぐそばをあえなく落下!
ホークアイの大鷲は、前後不覚で我を失ったように空を漂い始めました!
ケヴィンの大鷲も、半分失神してしまったような状態に陥ります。
その拍子にケヴィンを掴んでいられなくなったのですが、
「んがっ!」
気合で手を伸ばしたケヴィンが、大鷲の足を掴んでなんとか落下を免れます。
しかし大鷲が言うことを聞いてくれず、まるで見当違いの方向に飛んでいくではありませんか!
「ダメ! 戻って! ぐええ……」
脳がガンガンと痛み、揺れる視界でケヴィンが叫んでも大鷲は遠のくばかり。
「ふん、蛮族を落とし損ねたか。まぁよい」
本気のサイコウェーブであればふたりを即死させることもできました。
しかしなんたる非道か!
それをしなかったのは、自ら落下するふたりをあざ笑おうという魂胆だったのです!
ひとしきりの満足をした邪眼の伯爵はリースに視線を落とします。
「さぁリース王女、これで……」
がづん!
そんな邪眼の伯爵の鼻っ柱に、なんと身動きできないはずのリースが頭突きをしたではありませんか!
邪視はまだ解けていないというのに、仲間をやられたリースの怒りが体を突き動かしたのです。
しかしそこまででした。
リースは再び身動きが取れなくなってしまったのです。
一方で邪眼の伯爵からすれば、リースの力ない頭突きなど子供がじゃれてきたようなもの。
「ふっ、じゃじゃ馬め。少し躾けねばならんようだ。リース王女、あなたには我が牙で夜の眷属になっていただこう」
邪眼の伯爵が唇を三日月の形に吊り上げれば、ぎらりと牙が覗きます。
そのままリースの白い首筋に噛みつこうとした時です!
「……そうは、させない!」
リースの胸元から淡やかな輝きが零れました。
姿を現したフェアリーは、ずっとリースの内側で溜めていた光のマナを邪眼の伯爵に叩きつけます!
リースと邪眼の伯爵の間で、かっと輝きが炸裂しました!
「ぐあああああ!」
その強烈な光は、邪眼の伯爵にてきめんな効果を表しました。
邪眼の伯爵の胸元が焼けただれ、リースを手放してしまったのです!
リースが落下し始めます。
邪眼の伯爵から離れたと同時、邪視が解かれたリースは懸命に手を伸ばします。
渾身の光を放ったフェアリー。
力を使い果たして意識を失っているのか、フェアリーもぐったりと落下を開始しているのです!
伸ばす指先がなんとかフェアリーに触れると、リースの内側に戻ってきてくれました。
「フェアリー、フェアリーだいじょうぶ!?」
しかしフェアリーに呼びかけても、心の中で応答はありません。
リースの内に返ってきてはいるのです。
しかしその存在感は今にも消え入りそうなほど弱々しいと言わざるを得ませんでした。
「フェアリーだと!? クッ、厄介なモノ……おっ!?」
邪眼の伯爵が焼けただれた胸を押さえながら、いまだ明滅する視界でリースを探そうとして、
ガクンッ
と体勢を崩しました!
強烈な負荷!
何かに、引っ張られている!?
見ればその右足に、なんとロープが絡みついているではありませんか!
「これは魔法のロープ!? まさか!」
ロープの先にいたのは、なんとホークアイ!
そうです、それはジャドでくすねてきた魔法のロープでした!
ホークアイは落下中、痛む頭で魔法のロープを伸ばし、墜落寸前で邪眼の伯爵の足を掴むことに成功!
さらに邪眼の伯爵に向かって、どんどんホークアイが上昇してくるではありませんか!
おまけに上昇の途中、ホークアイは片腕にリースをキャッチ!
「ホークアイさん!」
「だいじょうぶか、リース!」
そのままの勢いで、邪眼の伯爵と上下が入れ替わります。
入れ替わる、まさにその瞬間!
ホークアイが邪眼の伯爵を蹴り飛ばして大きく空に逃れました。
「がっ!?」
そして空中で魔法のロープをしならせて操作すれば、先端が邪眼の伯爵から離れ、未だにふらふらと漂っていたホークアイの大鷲に巻き付きます!
こうしてなんとか空中を移動する術を取り戻したホークアイですが、
がくん!
そのまま大鷲はどんどん高度を落としていくではありませんか!
大鷲はもともとふたりを満足に運べません。
しかもいまだにサイコウェーブのダメージで不安定なのですから、なおさら高度が落ちるスピードは速まります。
かくいうホークアイも、まだ頭がガンガンと痛んでいました。
それでも必死にロープを手繰り、リースを手放さないように片腕に力を込めます。
「く、くっくっくっ……こうまでコケにされるとはな」
それを見下ろしながら、邪眼の伯爵が焼けただれた胸元を抑えて忍び笑いを漏らします。
下等生物と侮っていた者たちにこうまでしてやられたのです。
つい笑いが漏れずにはいられませんでした。
そして、忍び笑いが途絶えた時、その形相は鬼面となりホークアイを睨みつけました!
「盗っ人が! 貴様は百の肉片に刻んで苦しめて殺す!」
邪眼の伯爵が飛翔すれば、地上に落ちていく大鷲へどんどん近づいてきます!
焦燥の中でホークアイは状況を見渡しました。
迫る邪眼の伯爵と、明後日の方角に飛んでいくケヴィン。
そして落ちてゆく自分とリース。
ホークアイが決断をします。
「ケヴィン!」
ホークアイは、己の声の響きにすら痛む頭をこらえて叫びます。
「オマエだけでも先に行け! フォルセナに行くんだ! オレたちは必ず逃げのびる!」
どんどん遠ざかるケヴィンが、その声にびっくりしているのがなんとか見えました。
そして、ぐっとホークアイの意を汲んだ顔も。
「必ずまた会おう! だからオマエは、先にフォルセナへ……」
がさがさがさ!
言葉の途中で、ホークアイは木々の茂みに突っ込んでいきました。
大鷲からロープで垂れ下がった状態。
まずはホークアイたちが木々に突っ込み、それからすぐに大鷲も森に落ちていきます。
不時着ではありますが、自由落下で森に激突するよりもはるかにマシな状況でした。
もちろんノーダメージとはいきませんが、死にはしない落下でホークアイとリースが地に激突!
ごろごろと転がり、ホークアイとリースは支え合ってなんとか立ち上がります。
必ず逃げのびると言ったホークアイですが、勝算はほとんどないと言えました。
可能性があるとすれば森に紛れて、隠密に徹するしかありません。
それも、邪眼の伯爵にどれだけ通じるか。
「逃すか、雑魚め……!」
邪眼の伯爵はぐんぐんと森へ迫りながら、その赤い瞳にホークアイを正確に捉えていました。
このまま上空から一撃でその頭蓋を砕いてやる!
そう狙いを定めた時でした。
「う……!?」
邪眼の伯爵が突然、急降下の軌道を捻じ曲げて跳ね飛びます。
まるでそれは、緊急の危機に直面した兎が驚愕に跳び上がるような。
貴人としてふるまいに気を使う邪眼の伯爵にとっては、あり得べからざる有様ではありませんか!
しかし直感したのです。
あのまま森に突入していれば、殺されていたと。
それほどに凄絶な殺気が邪眼の伯爵に突き刺さったのです!
「ど、どこだ! 何者だ!」
赤い瞳を瞠目し、狼狽して邪眼の伯爵がさらに高度を上げて周囲を見渡します。
直感の裏付けたる殺気を探る視線。
しかしそこは、静かな夜空。
何も遮るものがない世界で──…邪眼の伯爵は、しかしひとつだけ夜の世界を圧倒するものを見出します。
遠巻きにそびえたつ、月へと屹立した塔。
月読の塔。
その頂上にいる誰かが、邪眼の伯爵を見下ろしているのです!
普通の人間ならば、顔も確認できない距離。
おそらく大声を上げても聞こえないほど離れているというのに。
塔から邪眼の伯爵を睨みつけている人物の視線は何よりも雄弁でした。
──…森に踏み入らば、殺す
「くっ……ぬう……」
まるで邪眼で睨みつけられたように。
邪眼の伯爵その人が身動きできずにいました。
この視線を無視して森に分け入れば、あの盗っ人は一瞬で葬り去ることができるでしょう。
しかしリースを抱きかかえ……いいえ、リースを抱きかかえずとも、あの視線の主から逃げのびられる未来は絶無。
邪眼の伯爵をして、そう確信させる殺気でした。
「ちぃ……いいだろう……ここは、出直してやる……」
マントを翻し、邪眼の伯爵が森から離れるように高度をさらに上げていきます。
一瞥だけ森を見下ろせば、すでにホークアイとリースを見失ってしまいました。
邪眼の伯爵は震える唇を噛み締めて、憎々し気に月読の塔を睨みつけて、やがて身を退いて行きました。
さて、月夜の森に不時着をしたホークアイとリースは慎重に、そしておそるおそる移動をしていました。
「……追って、こない……?」
ふたりとも、邪眼の伯爵には補足されていたと認識していました。
もうとっくに襲い掛かられていてもいい頃合い。
しかしまったく音沙汰の無い状況にホークアイが訝しげです。
「行った、のか?」
ホークアイは膝立ちで隠れていた岩場から顔を出し、周囲を見渡します。
シーフとしての警戒を最大限にしても、やはり邪眼の伯爵の禍々しい気配はありません。
あれほどリースに執着し、ホークアイからコケにされたというのに。
プライドの高そうなあの男が素直に退くとは思えませんでした。
何か不確定な要素が生じたのでしょうか?
しかしホークアイにもリースにもそれを把握する術はありませんでした。
「リース、だいじょうぶか?」
ホークアイが視線を巡らせれば、近くに座っているリースが、胸元に手を当てて懸命にフェリーに呼びかけていました。
ホークアイの呼びかけも、リース本人ではなく、フェアリーの安否をリースに尋ねている言葉です。
「ダメ、全然反応してくれない……いつもは眠っていてもそこにいる感覚はあるのに……その存在感がとても弱っているんです」
リースが不安げに首を振ります。
ホークアイの顔も険しいものになりますが、しかし対処する方法など分かろうはずがありません。
ふたりが隠れながら顔を見合わせていると、森の遠くから吼え声が聞こえてきました。
獣が、うごめいている。
もしかすると落ちた大鷲が襲われているのかもしれません。
獣たちの牙を思い、ぶるりとふたりとも身を震わせると、ホークアイが立ち上がります。
「今はとにかく動こう。移動するんだ」
「そう、ですね……」
「存在感が弱いってことは、まだきっと生きているさ。リース、まずは君が生き延びないと」
「はい」
リースもまた槍を手に立ち上がります。
ふたりは非常に慎重な足取りで森を移動し始めました。
「邪眼の伯爵」
移動しながら、ホークアイがつぶやきます。
「何者なんだ、あいつは?」
「分かりません。ただ、なんとなく真にローラントを焼いた者たちのひとり……そんな印象を受けました」
「真にローラントを焼いた者たち、か」
ローラントはナバール盗賊団によって焼かれました。
しかしその裏にはイザベラという女の暗躍があり、真実ではありません。
そのイザベラと通じていた邪眼の伯爵も、ローラント滅亡を企てた一味なのでしょう。
そう、一味。
ホークアイは彼らに組織的な動きを感じずにはいられませんでした。
それこそが真にローラントを焼いた者たち。
ホークアイとリースの、宿敵。
「あの男、本当はエリオットが必要だったみたいなんです。ローラントを滅ぼしたのは、そのための手段だったように聞こえました……」
「エリオット……確か、リースの弟の?」
「はい。まだこのくらいの大きさの弟なのですが……」
このくらいの男の子なんです、とリースが手で身長を示します。
「でもローラントが滅ぼされた時に逃げ出して……行方不明なんです」
「……そっか」
ホークアイが痛ましい顔で応えます。
「この旅でさ」
しかし、後ろを歩くリースへ振り返り、努めて明るく笑いかけました。
「きっと見つかるよ、エリオット王子も」
「そう、だといいですね……」
その笑顔に、リースも柔らかく応えました。
お互いが強がりの慰めだと自覚しているやり取りでした。
それでも。
強がり、慰めがなければ圧し潰されてしまいそうなほどに重い運命でした。
「おっと?」
さて、森を進んでいたふたりですが、やがて拓けた場所に出ます。
森が切り開かれた場所。
そしてそこに鎮座する、石造りの巨大な塔を目の当たりにしたのです!
「これって……」
「月読の塔?」
上空から見下ろしていた時には小さく感じましたが、眼前に据えるとまったく違いました。
威圧的にすら感じるほどに重々しく厳かな、天を衝くような見事な塔です。
「……ここって」
ホークアイとリースが見惚れるように塔を見上げていると、リースの内側から弱々しくフェアリーが姿を現します。
「フェアリー! だいじょうぶなの?」
リースとホークアイが心底ひと安心した顔になります。
しかしフェアリーのはばたきはか細く、今にも消えてしまいそうではありませんか!
リースが両手を広げてやるとそこにフェアリーがぺたりと座り込みます。
「……ありがとう、リース。……ごめんね、ぶつける力を練るのに、時間がかかって助けるのが遅くなって……」
「そんなことないわ、あなたのおかげで邪眼の伯爵から逃れられたんだもの。ありがとう、フェアリー」
リースとフェアリーが見つめ合い、にっこりと微笑み合いました。
それからフェアリーが、塔を見上げます。
「……ここに月のマナストーンがあるわ」
「ええ!?」
ホークアイとリースが異口同音に驚きの声を上げました!
「じゃあ、月の精霊も?」
「きっと、いるはずよ……」
「命からがら逃げてきたってのに、辿り着いたのが目的のひとつだったなんて! これもマナの女神様のお導きってヤツかもな!」
ホークアイが喜び勇んで塔へと入ろうとした時です。
「……待って! 何か来る!」
フェアリーが声を上げて上空を見上げました。
ふたりも遅れてその気配を察知して空を見上げ、ホークアイが大きく飛びのきます!
瞬間!
ズガァンッ!!
上空から落下してきた何かが、ホークアイの眼前に着地しました!
「なっ……!?」
それは、人。
いいえ、獣人です。
威厳あるたてがみのような髪をした、筋骨隆々の男!
「貴様が今代でフェアリーに選ばれた者か」
男は遥か上空から落下してきたであろうに、こともなげにしゃべりはじめリースを睨みつけてきます。
ホークアイもリースも身動きができませんでした。
男の威圧感、王者としての貫禄。
邪眼の伯爵をすら凌ぐ格から放たれるオーラに圧倒されてしまったのです!
そして直感しました。
邪眼の伯爵はきっと、この男の気配を察知して退いたのだと!
「あな……たは……?」
かろうじてリースが、気力を震わせて問いかけます。
それだけができる全てでした。
男はふんと鼻を鳴らしてリースたちを見下ろします。
「獣人王、ビーストキングダムを統べる者だ。状況を聞かせてもらうぞ、聖剣の勇者とフェアリーよ」