二機のマシンゴーレムRが両手を前に突き出したかと思うと、
ドカーンッ!!
なんと、その拳が火を噴いて発射されたではありませんか!
先ほども荷台を吹き飛ばした空飛ぶ鉄拳、ロケットパンチです!
「ぬああ!?」
都合四発の拳をデュランは横っ飛びに躱し、アンジェラとシャルロットが抱き合って地に転がり、どうにかやり過ごします。
ロケットパンチはアルテナ兵たちが張った結界に着弾して爆発!
マシンゴーレムRたちは、新しい拳をにょきりと生やしながら前進してきます!
「クソッ、変な攻撃しやがって! これでも喰らえ!」
デュランが思い切り振りかぶった剣を、マシンゴーレムRの一機へ横一文字に叩きつけます!
ガギーン!
「硬ぇ!?」
しかし両断するつもりの攻撃は、そのボディに傷つけるだけにとどまってしまったのです!
「こいつ、ふざけたナリでなんて防御力だ!?」
「ふはは、フォルセナの剣士ではマシンゴーレムRの装甲を突破することなどできん!」
アルテナ兵の高笑いにカチンときたデュランは、剣を切っ先で握り直して再び剣を振りかぶりました!
「試してやるよ、突破できねぇか!」
「デュラン、危ない!」
意気込むデュランに、しかしアンジェラの悲鳴めいた叫びが届きます。
もう一機のマシンゴーレムが、デュランの横合いからロケットパンチ!
「クッ!?」
とっさに身を捻りましたが、拳が一発デュランの腹にぶち込まれ、大きく吹き飛ばされてしまいました!
内臓が破裂したかと思うほどの威力に、デュランの息が詰まります。
さらにそのまま吊り橋の外に放り出されて奈落の底に真っ逆さま!
……そうなるはずでしたが、アルテナ兵の結界のおかげで落下まではせずに済み、橋の端に転がり咳き込みます。
「ゲホッ、ゴホッ……なんて威力だ……!」
「ヒールライト!」
吊り橋の手すりを掴んで、立て直そうとしていたデュランにシャルロットが駆け寄り回復を施します。
「だいじょうぶでち!?」
「ああ、助かったぜ。だけど危険だからお前はできるだけ下がってろよ」
「あのさかさまソードをするんでちね! おててがきれても、すぐにかいふくするでち! おもいっきりやってちょ!」
「ありがとよ!」
剣を支えにデュランが立ち上がります。
ピーピーピピー
奇妙な電子音を鳴らしながらマシンゴーレムRたちがデュランを追い詰めようと接近してきます!
この奇妙な魔兵器はどうも動きが鈍いようです。
しかし非常に質量があり、攻撃力と防御力は一級品!
攻城などに有利な兵器と言えるでしょう。
「本当にフォルセナを落とすつもりなんだな!」
デュランが気合を入れたところで、
「ホーリーボール!」
マシンゴーレムRの一機へと、横合いから練りに練り上げられたホーリーボールが炸裂!
ホーリーボールが命中したマシンゴーレムは、あれほど重かったのに大きく二転、三転と吹き飛んでしまったのです!
見ればアンジェラが、凄絶なほどの顔つきで杖を構えていました。
悲愴さと焦燥と困惑と憤怒とやるせなさ。
あらゆる感情を詰め込んで、デュランにも負けない気合でアンジェラは叫びました。
「アルテナがフォルセナを侵攻するなんて、絶対にさせない!」
その言葉に、少なからずアルテナ兵たちにも感情の揺れが見えましたが、結界がほころぶことはありませんでした。
さて、デュランに向かっていたマシンゴーレムRでしたが、ホーリーボールを脅威に感じたのでしょうか。
標的をアンジェラにして拳を照準、ロケットパンチの構えに入ります。
「よそ見すんなよ! がら空きだぜ!」
そんなマシンゴーレムRへと、デュランが再び剣を横薙ぎに打ち込みます。
刃を握る、鍔の打ち込み!
ぶしゅと掌が裂ける感覚と共に、鍔をピッケルの如く打ち込む痛撃です!
ガゴンッ!
渾身の破甲衝は、マシンゴーレムのボディに穴を開けて大きくその身をのけぞらせます!
その拍子に、アンジェラに照準していたロケットパンチが明後日の方向へと飛んでいきました!
「もう一発!」
さらにデュランが破甲衝を重ねます。
掌に剣が食い込む感触と、衝突の衝撃で刃が骨にまで達する感覚。
その打ち込みで、マシンゴーレムの装甲が派手に砕けて、内部が露出してしまったではありませんか!
「馬鹿な!? 呪鍛合金の装甲だぞ!」
剣士の攻撃ではびくともしないとタカをくくっていたアルテナ兵たちがざわつきます。
それに気を良くしたデュランが吼え猛ります。
「大したことねぇな、呪鍛合金!」
「うそおっちゃい! けんをにぎれなくなるすんぜんのくせに! ヒールライト!」
シャルロットがデュランの掌へ重点を置いたヒールライトを施します。
刃を握り込む破甲衝は籠手をした騎士の剣技です。
素手でやれば掌を傷つけるのは必定。
フルメタルハガーに対しての破甲衝も、加減をした一手でした。
しかし今回はシャルロットの回復をアテにした全力の破甲衝。
それを二発!
いかな呪鍛合金と言えども、フォルセナの若手随一の剣士が決死で打ち込んだ連撃にはひとたまりもなかったようです。
「ホーリーボール!」
そんな破損した装甲の内部に、アンジェラが正確にホーリーボールを命中させます!
カッ!
装甲の内部で炸裂した聖なるエネルギーにより、マシンゴーレムRが煙を噴き上げて痙攣!
ボンッ! ボスンッ!
と内部が爆ぜたり焼ける音を立てて、ガクンと機動を停止させてしまいました!
「やったぜ!」
「デュランしゃんうしろ! うしろ!」
一機を倒したと確信したデュランでしたが、シャルロットが叫んで注意を促します。
見ればアンジェラのホーリーボールで吹き飛ばされたもう一機のマシンゴーレムRが持ち直しており、デュランを狙っているのです!
両腕をぐるんぐるんと縦に回転させて何かの準備をしているようでした。
「デュラン、ダメ! それは絶対に避けて! お願い!」
マシンゴーレムRの武装について、知識のあるアンジェラが悲鳴を上げました。
ドガンッ!
瞬間、マシンゴーレムRの肘部が開いて、二発のミサイルが発射されました!
回転するドリルが先端に備えられた必殺兵装、ドリルミサイルです!
「なっ……!? このぉ!」
アンジェラの悲鳴に不吉さを感じたデュランも、その火線から逃れようと大きく躱します。
しかし、なんとドリルミサイルはデュランを追尾するようにその軌道を転換してくるではありませんか!
人間の機敏さに完璧な追従はできないようで、デュランに直撃するコースはかろうじて一発。
しかし回避の動作をした体勢からすぐに身動きができないデュランは、下方から剣を跳ね上げてドリルミサイルを叩き逸らして処理しようとします。
「ダメ!」
アンジェラの叫びと、ドリル部分と接触した剣が、ギャリリッ!と音を立ててその回転力に弾かれた音が響いたのは同時!
そして、
ドガァンッ!
なんと剣と接触たミサイルが炸裂したのです!
剣を弾かれて、無防備ともいえるデュランに爆炎がモロに叩きつけられました!
「ぐあああああ!?」
「デュラン!」
「デュランしゃん!」
シャルロットが慌てて駆け寄り、ヒールライトを唱えます。
アンジェラも駆け寄ろうとしましたが、マシンゴーレムRがさらに不可解なモーションに移行して顔面が蒼白になります。
横にボディをぐるんぐるんと回転させて、再び何かの準備をしているのです。
「ホーリーボール!」
アンジェラがその阻止にホーリーボールを発射しますが、回転する呪鍛合金のボディが弾き飛ばしてしまいました!
「いけない! ふたりとも逃げて!」
アンジェラはそれがマシンゴーレムRの広域攻撃であり、ロケットランチャーの発射体勢だと知っていました。
都合八発を数える炸裂魔導弾の弾幕。
アンジェラ、シャルロット、そしてデュランをまとめて吹き飛ばすつもりなのです!
しかしシャルロットはデュランの治癒で動けず、デュランもドリルミサイルのダメージで動けません。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
アンジェラは頭が過熱して、視界すら揺らぐような焦燥感に苛まれました。
ふたりを死なせたくない。
どうすればいいの。
なんでアルテナ兵が私を殺そうと。
私は何か悪いことをしたのだろうか。
死にたくない。
お母様。
お母様。
お母様!
焦燥感の中、すがるように母を想う気持ちが、アンジェラの中で爆ぜました。
「濡れ衣を着せられたまま死ぬなんて、絶対にイヤよ! アイツらも、絶対に死なせたくない!」
それは、もしかすると初めて抱く母親に対する反抗心、反発心、反骨心だったかもしれません。
マシンゴーレムRが回転を急停止。
赤い炸裂弾が八個、アンジェラとデュランとシャルロットを巻き込む弾幕として発射されました。
「うわああああああああああ!」
頭がおかしくなりそうな魔法処理の負荷で鼻血と血涙を流しながら、才能と豊富な魔力量で強引にホーリーボールを展開!
咆哮と共に必要最小限の威力を灯したホーリーボールが八個、衛星のようにアンジェラの周囲に生まれました!
「行って!」
ホーリーボールとロケットランチャー。
八と八の弾丸が、両者のちょうど中間でぶつかり合って炸裂!
ロケットランチャーはその威力を無為に散らして、光と音と熱と煙となってしまったのです!
「ああああああああああ!」
そうしてできた煙幕の向こうから、杖を振りかぶったアンジェラががむしゃらに突っ込んできました!
その杖には、ありったけの魔力を込めた太陽のようなホーリーボール!
ロケットランチャー発射によるクールタイムで無防備だったマシンゴーレムRの脳天に、アンジェラは思い切りそれを振り下ろしました!
メギギギッ!
さしもの呪鍛合金とやらも、アンジェラの魔法に対する抗力は高くないようでした。
頭部が胴部にまでめり込んでしまうほどの損壊!
「や、やった!」
そう思ったアンジェラですが、
ガッ!
マシンゴーレムRが、アンジェラへと拳を差し向けました!
超至近距離ロケットパンチの発射体勢!
もしもこれが発射されれば、アンジェラの細身では骨も砕ける致命傷は必至!
踏み込み過ぎた!
血の気が引くアンジェラの隣を、フォルセナの若き風が通り過ぎます。
「寝てろ、オモチャの兵隊!」
シャルロットの回復を受けたデュランが、轟然と駆けつけたのです!
そしてその頭部へと渾身の一太刀を振り下ろしました!
ガゴォォンッ!!
マシンゴーレムRの頭部は、この一撃で完全に粉砕!
ぷすんぷすんと煙を上げたかと思うと、動きを停止させてしまったのです!
「ば、馬鹿な!?」
アルテナ兵たちに、信じられないといった戦慄が走ります。
「さぁ、自慢の魔兵器は御覧の通りだ! 次はお前らが来るか!」
いまだ結界を維持されている状況ではありますが、デュランが剣を肩に担ぐように構えて凄みました。
その内実、デュランたちまだ多勢のアルテナ兵たちに不利と言わざるを得ない状況です。
それでも気迫でアルテナ兵たちを圧倒していました。
そんなアルテナ兵へにらみを利かせていたデュランですが、ふと足元から焦げた匂いが立ち上ってくるのに気づきました。
見れば、マシンゴーレムRから煙が上がっており、橋が焦げているではありませんか!
異様なまでに過熱しているのです!
「うっ、ヤバイ! 総員退避!」
それを見たアルテナ兵たちが、結界の維持を速やかに解いて逃げ出します。
「な、なんだ!?」
「逃げてデュラン! 爆発する!」
まずい状況だと直感するけど事情が分からないデュランですが、アンジェラが上げた声にぎょっとします!
そしてへたりこんでしまっているアンジェラを抱えて、マシンゴーレムRから離れるように走り出しました!
シャルロットと合流して、黄金の街道側の対岸へと辿り着くかどうかというタイミング。
ドガァァァンッ!!
マシンゴーレムRがとんでもない爆発を起こしたのです!
その爆風でデュランが大きく背中を圧されて、熱風で火傷しそうなほどでした。
デュランたちはギリギリに対岸に辿り着きましたが、振り返って愕然とします!
「は、橋が!?」
なんと大地の裂け目にかかっていた吊り橋が崩壊して落ちてしまったので!
「嘘だろ……」
さしものデュランも、苦労してマシンゴーレムRを倒した結果がこれでは呆然とするしかありません。
対岸を見れば、アルテナ兵たちが迅速に先に進んでおり、ほどなく誰もいなくなってしまいました。
アンジェラもひときわ悲愴な顔で座り込んで吊り橋の残骸を見つめています。
「みんな……ごめん……ごめんね……私のせいで……」
わななく唇でアンジェラはか細い謝罪を繰り返します。
闘いの中で奮起していたアンジェラですが、心の底ではガラスが軋むような悲鳴を上げているのがよく分かりました。
「……ふん、本当だぜ! まったくアルテナって国はロクでもねえ国だ!」
「な、何よ! あんたなんか、橋といっしょに落っこっちゃえば、よかったのに!」
デュランのぶっきらぼうな物言いに、アンジェラが食って掛かります。
立ち上がったアンジェラがデュランに掴みかかりますが、しかしその瞳に安心を見て取りました。
自分の国が悪く言われてもそうやって怒る元気があるならまだ大丈夫だ。
そんなデュランの意思を瞳越しに汲み取って、アンジェラは赤くなるやらバツが悪くなるやら。
ふんっとそっぽ向くばかりです。
「おやおや、ちわゲンカでちか……みっともないでちね」
「「違う!」わ!」
突っ込まれてもどこ吹く風のシャルロットが小首をかしげます。
「でも、なんでアルテナさんがこんなところにいたんでちかね?」
「そりゃお前、フォルセナを落とすために来たんだろう」
「アルテナさんのもくてきはマナストーンなんじゃないんでち? フォルセナにマナストーンってあるんでちか?」
あれ、とデュランの思考が止まりました。
確かにアンジェラの話から汲み取るに、アルテナの目的がマナストーンの解放なのは間違いないでしょう。
ならばフォルセナを攻める理由はなんでしょうか。
しかしデュランは紅蓮の魔導師が、いつでもフォルセナを落とせると嘲笑されたのも覚えています。
目的と手段がつながらない気がしました。
「……英雄王さん」
ぽつりとアンジェラがつぶやきます。
「マナストーンについて、英雄王さんが知ってるならそれ無理矢理にでも聞き出すために強硬手段を取ったのかも」
考えたくもないけど、そんな語尾がデュランとシャルロットに聞こえます。
アンジェラはさらに続けます。
「そうでなくても、マナストーンが大きな国の管轄内にあるのは想像できるわ。フォルセナを攻めている間に、マナストーンの守りが薄くなるんじゃないかしら」
「な、なるほど」
冷静なアンジェラの分析にデュランがこくこくと頷きます。
「でもでも、それならなおさらはやくフォルセナにいかなくちゃ!」
「そうなんだが……」
シャルロットの慌てた様子に、デュランもどうしたものかと頭をかきます。
「あっそうだ! おい、フェアリー! 滝の洞窟の時みたいに、オレたちを飛ばせないのか?」
それからデュランが自分の胸板をごつごつと叩くと、燐光を伴ってフェアリーが姿をあらわします。
しかしフェアリーは難しい顔で首を振りました。
「ダメなの、あの時は豊富なマナが近くにあったからみんなを飛ばせたんだけど、ここじゃ無理みたい」
デュランが、ううむと唸りながら大地の裂け目を見つめます。
「それじゃあもう、吊り橋が直るまでフォルセナに行く手段はないってのかよ……」
あっ、とシャルロットが声を上げます。
「ありまちた! フォルセナへいくほーほー!」
「なに!? どうするんだ?」
デュランの言葉にシャルロットが答えます。
「スーパーキャノンマークツーでち!」