新たに開かれた道は、炭坑のようにしっかりと木枠で補強がされたトンネルのようでした。
さらに地下深くへと降りていく階段まで整備されており、しっかりと人の手……ドワーフの手が加わっている様子です。
壁には間隔を空けてたいまつも配置されていますが、それでも薄暗くデュランたちは慎重に下っていきます。
アンジェラなどは杖を支えにして転ばぬように注意しながら進みます。
「足元を気をつけろよ」
「う~、こけちゃったらノンストップで下まで転がり落ちちゃいそうね」
「したまで、ぜんぜんみえないでち!」
どんどん深くに下りていくデュランたちですが、階段もやがて終わります。
「ここは……」
辿り着いた先には非常に広く空間が拓かれていたのです!
カンテラが方々に掲げられ、光量もばっちり。
これこそドワーフの村!
地下を掘り進めて整備されたらしい造りに、デュランたちが感心げに周囲を見渡します。
「地下深くに、こんな場所があったなんて……」
「あんれまぁ、人間だべさ!」
そんな一行に気づいたドワーフが声をかけてきました。
「入口の仕掛けを見破っただな? いや~大したもんだで。ここが、オラたちドワーフの村だべさ!」
「ひかりのくっせつ、おもしろかったでち!」
シャルロットの言葉に、ドワーフも上機嫌です。
「なんもねぇ所だども、ゆっくりしていくといいべ」
「いや、オレたちはニトロの火薬を探しに来たんだ。あんた、知らないか?」
「ニトロの火薬? そりゃ、道具屋のワッツが持ってるだべ」
「ワッツ?」
「この先を左に曲がると、大広間があるだよ。その、二階の一番奥が道具屋だべ」
「ありがとう、行ってみるよ」
こうしてデュランたちはドワーフたちの村を進んでいきました。
「おお、人間だべ」
「ほんとだべ」
「おーい人間、何しにきただ~」
「ちょっと買い物にな」
道中、飲み食いをしながらくつろぐドワーフなどにも声をかけられたり、陽気に歌いながらツルハシで岩を叩くドワーフなどを見かけます。
人間の世界の様式とまったく異なった居住空間を興味深く見聞しながら、やがてデュランたちは道具屋まで辿り着きます。
見たことないキノコや香草が吊るされており、カンテラや日用品などが並んだ一角。
「よう、ここが道具屋だよな? ワッツっているかい?」
デュランがカウンターにいるドワーフへと声をかけました。
「んだ、ここが道具屋だ。だけどワッツなら出かけちまっただよ。オラは店番だべ」
「ワッツはいねぇのか……けど、道具屋ならニトロの火薬ってのも売ってるんだよな?」
「ニトロの火薬? そりゃワッツが持ってるだ。あれはアイツの発明品だでな。ここにはねぇべさ」
「おいおい、それじゃあワッツはどこにいるんだよ!」
「んー、どーも最近は地下の様子がおかしいでな。そのことについて相談しに、ノーム様の社に行ったはずだべ」
「ノームがいるの!」
店番のドワーフの言葉に、大きな声と共にフェアリーが姿をあらわれました。
「うお!? 妖精だべ!?」
店番のドワーフがフェアリーに驚いたその時です。
ゴゴゴゴ!
ぐらぐらと地面が揺れ始めました!
大きな地震です!
商品が棚から転がり、店番のドワーフもカウンターに隠れます。
「きゃっ!」
アンジェラとシャルロットはお互いに抱きしめ合って支え合い、デュランはそんなふたりとフェアリーを守ろうと警戒します。
地震はすぐに収まりましたが、店番のドワーフは溜息を吐き出しました。
「ま~た地震だべ」
「また? 地震、多いのか?」
「最近、妙に地震や地鳴りが多いだよ。ワッツがノーム様の社に行ったのも、このことについてだべ」
「きっとマナの減少が関係してるんだわ! みんな、ノームは土を司る八精霊のひとりなの。ここに住んでいたのね!」
「そいつはいいや。ワッツと一緒に見つけて、仲間に加わってもらおう!」
思いがけず旅の目的のひとりの情報が手に入り、デュランたちも俄然やる気が湧いてきます。
「ノーム様を仲間に?」
目をぱちぱちさせている店番にデュランが詰めよります。
「なぁおい、そのノームの社ってどこにあるんだ?」
「あ、ああ。ちょっと待つだよ。絵で説明してやるべ」
店番のドワーフが地面にガリガリと図を描きながら道を示します。
「広場を出て、左手に進んでいくといいべ。奥の方にトンネルが続いておってな、道なりに進んでいくとノーム様の社があるんだべ。だどもオマエら、ノーム様に失礼のないようにするだよ!」
「わかったでち。ありがとさんでちよ!」
「おー! だけんど、トンネルの奥はモンスターがウヨウヨしとるけぇ、アイテムでも買うてけ! そんなわけで、いらっしゃいませー!」
「ちゃっかりしてるわね!」
流石にそのまま店を出るのも忍びなく、デュランたちはいくつか道具の補充を済ませて来た道を戻ります。
教えられた道を進んでいくと、やがてトンネルの奥へ続く道に出ます。
しかしすぐに行き止まりに出くわしてしまいました。
数人のドワーフたちがたむろして、岩肌を触ったり何かを仕込んでいる様子でした。
「どうなってるんだ? この先がトンネルじゃないのか?」
「おお、人間でねぇか! んだ、こっから先はトンネルだども、さっきの地震で落盤があってよ。塞がっちまっただよ」
「なんてこった!?」
デュランたちが愕然としているのに比べて、ドワーフたちはあっけらかんとしたものです。
「なんだべ、この先に行きたいだか?」
「ああ、オレたちはワッツに用があるんだよ。この先にいるって聞いたんだが……」
「ふ~ん、それじゃあほれ、今ここさ開けてやっから!」
「え?」
言うが早いか、ドワーフたちがツルハシを手に、落盤を叩き始めました。
「掘ってくれるのはありがたいんだが、それじゃ日が暮れちま……」
デュランが困ったような顔をしたその時です!
ドカーンッ!
突如、落盤が派手に爆発して岩が粉々に飛び散ってしまいました!
「どわぁ!?」
その爆風に巻き込まれて、デュランたちも吹き飛びます!
先ほど落盤を触っていたのは火薬を仕込んでいたのでしょう。
それをツルハシで着火して開通するというドワーフの荒業に、デュランも語気を荒げます。
「何しやがる!?」
「なーんだ、だらしねぇヤツらだな! んだば、開いたでよ、先に行くといいべ」
「むぐ……」
だらしないと言われると、確かに呆けて油断していたとデュランが黙り込んでしまいます。
言ったドワーフは爆風を眼前で浴びたのにけろりとしているのですから、兜を脱ぐばかりでした。
代わりにぷりぷりと怒り出したのは、煤で顔を汚したアンジェラです。
「ちょっと、あんたたちいつも開通作業をしてるの!?」
「んだ。いっつもこうだべ」
「危険よ、危険! なんで爆発なんてさせるのよ!」
「だども、これがドワーフ流だべ。文句があるならもっぺん塞ぐだか?」
「~~いいわよ! もう! 行くわよ!」
アンジェラが行き場のない怒りを飲み込んでずんずんと進んでいきます。
デュランとシャルロットもそれに続きました。
「なるほど、ずっと岩を掘り続けているから爆発にも耐えられる見事な筋肉がついているんだな」
道中、デュランは言い込められたのも忘れて感心気です。
「デュランしゃんはあんなふーにきんにくモリモリなりたいんでち?」
「今でも十分筋肉じゃないのよ」
「いや、爆発に耐えられる筋肉と剣を使う筋肉は違うんだ。でもあの足腰の粘りは見習いたいぜ」
揶揄されたデュランは、生真面目な返答です。
アンジェラとシャルロットが顔を見合わせます。
「あんたほんとに戦いにかけては馬鹿真面目よね」
「シャルロットはわかんないでち」
ね~とアンジェラとシャルロットが声を合わせます。
そんな風に話していると、トンネルのあちこちに採掘の作業道具が散見されるようになってきました。
居住するための空間から、仕事をするための現場という雰囲気です。
何に使うのだろうか、と興味深く眺めながら歩を進めていると、看板も立てかかっていました。
「崩落注意、ウカツに攻撃すると危ねぇだよ……ですって」
アンジェラが読み上げると、デュランが周囲を見渡します。
がっしりと木枠で天井を支えて、広さも十分。
「オレの剣で崩落するなんてことはないと思うが……」
「私もホーリーボールの操作に慣れてきたし、そんなヘマはしないわ」
(う~ん、いやなよかんがするでち)
シャルロットは思い浮かんだ言葉を飲み込みます。
さて、そんなトンネルの行く手には、コウモリの魔物バットムや、トゲの生えた巨大なモグラの魔物モールベアが何匹も待ち受けていました。
「なんでちかあのトゲトゲ!」
「モールベアだ。近所によく出てきたから相手は慣れてる。オレに任せな。アンジェラはバットムを頼むぜ」
「分かったわ!」
デュランの故郷フォルセナを南下してすぐにモールベア高原があります。
その名の通りモールベアの群生する地帯のため、デュランはモールベアの相手はお手の物。
デュランはあっという間にモールベアを制圧してしまいました。
一方アンジェラも空を飛び、牙を突き立てるタイミングをうかがうバットムをホーリーボールで精密に射抜きます。
あっという間に魔物たちを蹴散らして、こともなげです。
やがてトンネルの奥、拓いた場所に出ました。
岩を彫って造られた祭壇と、その両脇に篝火が焚かれた厳かな場所でした。
ノームが座す神聖な場所であり、ドワーフたちにとっても大切な祭壇だというのが一目で分かりました。
デュランたちはその祭壇の前で、何かを探しているドワーフを見つけます。
「おーい、あんたがワッツか?」
ドワーフがデュランたちを振り返ると、大きく頷きます。
「んだ! いかにもオラがワッツだ! 珍しいべな、人間がこんなところにいるなんて」
「ああ、オレたちはニトロの火薬を手に入れるためここまで来たんだ。あんたが持ってるんだろう?」
「ニトロの火薬? ああ、それならホレ、ここにあるだよ」
ワッツがバックパックから取り出したのは、まんまるい球状の火薬玉でした。
デュランたちの目が輝きますが、ワッツがにやりと笑います。
「もちろんタダでとは言わねぇべ? 5000ルクでどうだべ?」
「5000ルク!?」
その金額にデュランたちが大きな声を上げます。
「お、おいお前ら今いくらある?」
デュランがアンジェラとシャルロットと顔を突き合わせてルクを勘定します。
三人合わせて1000ルクちょっと。
とてもではないが足りません。
「あ、あ~すまん、そこまで持ち合わせてなくて。もっと安くなったりしねぇか?」
「んふふふ! おめぇ、ショーバイじょーずだな! しょうがねぇ、3000ルクにまけといてやるだ! どうだ、お買い得だべ!」
「も、もうひとこえ!」
「おっと、オラも生活がかかってるだよ! 2500ルクでどうだべ!」
などと、シャルロットとワッツで交渉が始まろうとした時です。
ゴゴゴゴゴ!
再び地震が起きて、周囲が揺れ動いたのです!
今回の地震は長いようで、デュランたちが膝を衝いてかばいあう横で、ワッツが神妙な顔で唸ります。
「おお! そうだった、そうだった! 最近どーも地震やら地鳴りが多くて心配してきてみたら、ノーム様がいらっしゃらねぇんだ! えれぇこっちゃ!」
そしてニトロの火薬を仕舞い込んで、奥の方へと駆けていくではありませんか!
「オラはノーム様を探しに洞窟をさらに奥へ進むだ! おめぇら、ここは危ないでよ! 早く戻るといいべ!」
「あっ、ちょっと待てよ!」
デュランも立ち上がって追いかけようとしますが、地震の揺れでバランスを崩して転んでしまいました。
ワッツの方は慣れたように、揺れの中でもすいすいと走り去ってしまいました!
やがて地震が収まって、ようやくデュランたちが立ち上がります。
「クソッ、行っちまった」
「ワッツさんを追いかけて、もう一度交渉しましょう!」
こうしてデュランたちは、ワッツを追いかけて洞窟の奥へと進んでいくのです。