「ッッ!?」
岩壁に叩きつけられたデュランは、声も出せずに歯を食いしばります。
体がバラバラになりそうなほどの衝撃!
呼吸もできず、剣も取り落として落下すれば、痛みに耐えて拳を握りしめるしかできません!
「ヒールライト!」
シャルロットが血相を変えて駆けよっては、急いで治癒の光を施します。
デュランは光の中で痛みが和らぐのを感じながら、這う這うの体剣を掴み膝立ちになります。
「ありがとよ、シャルロット……って、後ろ!」
デュランの治癒をするシャルロットの背後!
ジュエルイーターが大きな口を開けて、シャルロットにその長い舌を巻きつかせようとしているのです!
「あんたはこっちを見なさい!」
そんなジュエルイーターの横っ面を!
八発の光の弾丸が雨あられと叩きつけられました!
一発ずつの威力を落とし、手数でジュエルイーターの気を引こうとするアンジェラのホーリーボール連射!
それを煩わしそうにジュエルイーターが身を捩り、その隙にシャルロットがデュランの背後に退避します。
しかしなんということでしょう!
煩わしそうにしていたジュエルイーターが、ぶるぶると震えたかと思うと、
ずぼずぼずぼっ!
大地から煌めきが噴出します!
それは結晶化した大地のマナ!
さながらダイヤモンドの如き煌めきを放ち敵を穿つ、土の魔法ダイヤミサイルです!
「まさかダイヤミサイル!? もぐらなんかが、魔法を使えるの!?」
アンジェラが驚愕に声を上げます。
ジュエルイーターの頭上にまで上昇したダイヤミサイルは三発!
アンジェラへと急降下してくるではありませんか!
「クッ! ああ……!」
二発をかろうじて躱したアンジェラですが、最後のダイヤミサイルが深々とその脚に突き刺さってしまいました!
その衝撃と痛みに、アンジェラが転んで苦悶の表情を浮かべます!
「アンジェラ!」
「アンジェラしゃん!」
デュランが怒りのまま、ジュエルイーターへと飛び掛かります!
シャルロットが急いでアンジェラへと駆けつけてヒールライトを施します。
幸いジュエルイーターの魔法は威力が高くありません。
そしてアンジェラは魔法に対する耐性が高く、光の魔法に才覚があるシャルロットが治癒をするのです。
傷は綺麗に治るでしょう。
それでもデュランは、目の前でアンジェラが傷つくことに、はち切れんばかりの怒りがこみ上げずにはいられませんでした!
「おおおおお!!」
その眉間に切っ先を突き立てんとした跳躍!
先ほど剣でダメージを与え、流血させた箇所への攻撃でした。
ザクリッ!
しかしデュランが突き刺したのはジュエルイーターの腕!
ジュエルイーターは顔をかばうように両手を交差し、硬い防御でデュランの攻撃を防いでしまったのです!
「クッ!」
剣が突き刺さった腕をジュエルイーターが一振り!
それでデュランは振りほどかれ、地に叩きつけられます!
そんなデュラン上空へと、煌めきが地中から飛び出てきました。
ダイヤミサイル!
回転する三発の土のマナの結晶が今、仰向けのデュランに急降下してきます!
倒れた態勢で急降下してくるこの土の魔法に、デュランは対処ができません。
肉を穿たれる予感に、デュランの背筋が凍り付きます!
「さっせるもんですか!」
そんなダイヤミサイルへと、光の弾丸が精密な軌道で割り込んできました!
アンジェラのホーリーボールです!
まだ立てないアンジェラですが、地にへたり込みながらのホーリーボール!
ダイヤミサイルを見事に叩き落してしまったのです!
「いいかげんに、するでち!」
デュランが態勢を立て直そうとする間。
アンジェラとジュエルイーターが魔法の行使で過熱した脳をクールダウンさせたい間。
そんな間を縫うように。
シャルロットがフレイルを握りしめてジュエルイーターへと飛び掛かったのです!
小さな体で精いっぱいのジャンプ!
そして思い切り振りかぶったフレイルを、見事にジュエルイーターの眉間に叩き込んだではありませんか!
シャルロット自身は小さく軽いですが、フレイルの重みは武器として痛烈です!
これにはたまらずジュエルイーターが、身を悶えさせて両手で地面を叩いて暴れ狂います!
「うわわわ! もぐらしゃん、ぷんぷんでち!」
「ちょっと!? またメチャクチャやって!」
その拍子に天井から岩がごろごろと落ちてきては、シャルロットもアンジェラも必死で逃げ回るしかありません!
しかしデュランだけは!
大きな落石を恐れずに果敢に駆けだしたのです!
ジュエルイーターはシャルロットのフレイルで脳が揺れて意識があいまいな状態に陥っていました。
だからとにかくひたすらに暴れるしかありません。
そう見抜いたデュランは、これを好機と見たのです!
そんなデュランの鬼気に反応してか、おぼつかない動きながらジュエルイーターが地をかき上げるような動きをしました。
岩石を掬い上げるようにして、デュランへと投げつけてきたのです!
揺れた脳でまともな照準などできないはずが、岩石はデュランの肩をしたたかに打ちました!
それでも!
「うおおおおお!!」
裂帛の気合と共に、デュランはその前進を止めません!
逆手に剣を握りしめ、思い切り振りかぶった跳躍!
そして、ジュエルイーターの眉間へと深々と刃を突き立てたのです!
ジュエルイーターは悲鳴にならぬ悲鳴を上げて、大きく痙攣を繰り返し……
ずしんと体が地に落ちたかと思えば、内から幾条もの閃光をほとばしらせ──……音と熱を伴わない大爆発をしてしまったではありませんか!
「か、勝った……」
肩を抑え、デュランが深く息を吐き出します。
痛む体を押しながら剣を拾い上げていると、
「デュランしゃーん! だいじょうぶでちか!」
シャルロットがてちてち駆けつけては、ヒールライトを肩に背中にと施してくれます。
「ああ、だいじょうぶだ。お前も、よくあのタイミングであいつをぶん殴ってくれたな。かっこよかったぜ」
「でへへ、シャルロットだってかいふくだけじゃないんでちよ!」
「私の足の傷も、ありがとう」
アンジェラも治癒した足でしっかり歩けるようです。
ふたりに歩み寄って、一息をつきます。
それでもデュランはアンジェラの足に視線を巡らせ気遣います。
「足、だいじょうぶなのか?」
「ええ、シャルの治療ですっかり」
「そうか。女を傷つけさせるなんて……オレもまだまだ修行が足りないな。ダイヤミサイルを叩き落してくれたの、助かったぜ」
デュランの言葉に、アンジェラが満足そうに破顔します。
そんなひと段落をしていると、がらがらと積み上がった岩石が崩されました。
ワッツが、塞がった入り口をこじ開けてくれたのです!
「お~い! みんな無事かい!?」
「ああ、なんとかな」
デュランが力なく手を挙げると、ワッツが驚いたように周囲を見渡します。
「おめぇたち、ジュエルイーターをやっつけちまっただか!」
「シャルロットのかれーなわざで、ぴよぴよさせてやったでち! なんなんでちか、あのもぐらしゃんは!」
「このトンネルの入り口、大地の裂け目は宝石の谷という別名でも呼ばれているだ。そこで千年に一度、世界に異変が起きる時に生まれるという、伝説の地底獣だがや!」
ワッツは深刻な顔で首を振ります。
「ジュエルイーターは出るし、ノーム様は行方不明だし……いったい世界はどうなっちまうんだ……」
「へっくしょい!」
そこに突然くしゃみをする声と共に、とんがり帽子をかぶった、豊かなヒゲの小人が降ってきたではありませんか!
「誰だ! ワシの噂話をしとるのは!」
「あっ! ノーム様! ご無事だったんですか!?」
「当たり前じゃ! 見ての通りぴんぴんしておるわい! いつものように昼寝をしていたら、いつの間にかジュエルイーターに巣穴まで運ばれちまったようじゃのう」
空中をぴょんぴょこと飛び跳ねながらワッツにふんぞり返ります。
そして周囲を見渡し、
「いやぁ、もう少し寝とったら、ヤツに食われとったかもしれんのう。わっひゃっひゃっ!」
豪快に笑い声をあげました。
「そんな~笑い事じゃないですよ!」
「ノームさん、私たちに力を貸して!」
ワッツが困った顔をしているとなり、デュランの内側からフェアリーがあらわれます。
「ほほー! カワイコちゃんのお出ましじゃ! わひゃひゃ!」
「お願い、聖域へのトビラを開くため、ノームさんたちの力が必要なの!」
ノームがフェアリーと同じ高さに高度を調整すると、いっそうぴょんぴょこと跳ねる勢いが増したようです。
「うしし、わしゃカワイコちゃんの頼み事は断れないタチでの。よかろう! ドーンと任せなされ!」
ノームが自分の胸を力強く叩きます。
こうしてデュランたちは土の精霊ノームの力を手に入れたのです!
「あ、あんたらノーム様を仲間にしちまっただか!? こりゃたまげただ!」
それを見て驚いたのはワッツです。
なんともバツが悪い顔でニトロの火薬を取り出します。
「そんなすげーお方とはつゆ知らず、先ほどはシツレイしただ。ホレ、ニトロの火薬は差し上げますだ」
「あっ、そうだ! ニトロの火薬!」
すっかり忘れていた当初の目的に、デュランたちも声を上げます!
アンジェラが道中で手に入れたゴブリンたちのお宝を引っ張り出しては、ワッツへと差し出します。
「これで5000ルクくらいになると思うんだけど」
「いーや、お金はいただけません。バチが当たるだよ」
これにはデュランたちも顔を見合わせました。
「わひゃひゃ! もらっておけ、もらっておけ! 世界を救うために必要としておるんじゃろう? タダでとーぜんじゃ!」
ノームの言葉も後押しして、デュランは少しばかり申し訳ない気持ちでニトロの火薬を受け取ります。
「ありがとうな、ワッツ」
「やっとニトロの火薬が手に入ったわね! 早くボン・ボヤジのところに戻らないと、手遅れになる!」
アンジェラの言葉に、デュランも頷きます。
大地の裂け目とマイアを何度も往復してしまい、ずいぶんと時間を喰いました。
フォルセナは無事なのか。
アルテナはどこまで侵攻しているのか。
故国どうしの軋轢に、デュランとアンジェラの気持ちは昂らずにはいられませんでした。
「どうしただか? なんだかお急ぎのようで? んだば、地上までオラの魔法のロープで送ってさし上げますだよ」
言いながらワッツがバックパックから束ねられたロープを取り出します。
「ほれ、ジュエルイーターが散々暴れたでな、天井に穴が開いているべ。あそこからする~っと上に昇っていきゃ、すぐに大地の裂け目まで戻れるだよ」
「ありがてぇ! こりゃかなり時間を短縮できるぜ!」
デュランたちがロープを掴むと、ひとりでにするすると立ち上がり、どんどん高度を上げていきます。
「んだば、おたっしゃで~! ノーム様をよろしくお願いしますだ~」
ワッツの見送りを受けながら、デュランたちは深い地底からどんどん上昇していきます。
やがて、ドワーフの村に通じる通路の入り口まで辿り着けば、女神像まで目と鼻の先の場所へと降り立つことができたのです。
「戻って来たぜ、地上」
「ドワーフしゃんたちは、あんなちかでよくくらせるもんでち」
「私はあそこでの生活はちょっと無理ね」
大地の裂け目へ通じる洞窟内は、日の光こそ入ってきませんが大量の風が通ります。
それだけでデュランたちは、密閉されたトンネルの中よりも清々しい気持ちになります。
「さぁ、急いでマイアに戻るぜ!」
こうしてデュランたちは、再び黄金街道を戻り、マイアを目指すのでした。