大地の裂け目からマイアに戻る道中、夜営でのことでした。
デュランとシャルロットが、焚火の前で意識を集中させているアンジェラを見守っていました。
アンジェラは杖を手に、魔法の要諦をひとつひとつ自分の中で確かめていきます。
そしてその全てを掌握できた時、
「ダイヤミサイル!」
アンジェラの周囲、大地から結晶化したマナが噴出して中空に飛び出してきたではありませんか!
「できた!」
土の魔法ダイヤミサイルの完成にアンジェラが飛び上がって喜びます。
これにデュランとシャルロットも歓声を上げます。
「おお! もうできるようになったのか!?」
「アンジェラしゃん、すっごいせーちょーでち!」
慣れない土の魔法に、アンジェラも疲弊した様子ですが清々しい破顔でふたりにピースサインです。
「わっひゃっひゃっ! お嬢ちゃんはスジがいいぞ! パスを通しただけであっちゅー間にできるようになったのう!」
アンジェラの隣で、ノームもぴょんぴょこ飛び回ってはやし立てます。
ウィル・オ・ウィスプの時と同じように、夜営に入ってすぐアンジェラはノームに体内の土のマナのパスを開いてもらいました。
それからいくらかのレクチャーで、食後すぐにダイヤミサイルの完成にまでこぎつけたのです!
「魔法ってのは精霊に教えてもらえれば、そんなにぽんぽん覚えられるものなのか?」
あまりにアンジェラの習得が早いため、デュランも小首をかしげます。
「アンジェラお嬢ちゃんは異例じゃのう。知識や手段は完璧に頭に入っていて、後は燃料が足りなかっただけのようじゃて」
「そーよ、私はお母様にプレゼントされた魔導書でずーっと勉強してきた上で、精霊に最後のひと押しをしてもらってるだけなんだからね!」
ノームとアンジェラに左右から言われて、デュランも「そういうものか」と考えを改めました。
「ねーねー、シャルロットもつちのまほーをつかえるようになるでち?」
それを見ていたシャルロットが、ちょっぴり羨ましそうにノームへ尋ねます。
ノームはシャルロットの周囲をぴょんぴょこと跳びまわってからこう言いました。
「ふーむ、シャルロットのお嬢ちゃんにも土の魔法の適性がある程度は持っているようじゃが、放出するタイプではないのう」
「そうなんでちか? じゃあ、どういうまほーならできるようになるでち?」
「そうじゃな、土のマナを留める魔法ができるようになれるかもしれん! 覚えれば武器に土のマナを付与して敵を攻撃することができるぞい!」
「おお! かっこいいでち!」
「それはオレも興味があるな」
これにはデュランも食指が動かされたようです。
ノームがデュランをじろじろと見渡して、うんうんと頷きます。
「うむ、オマエさんも修行をすれば覚えることができるかもしれん。その名もダイヤセイバー! どうじゃ、カッコいいじゃろ!」
「どうすればできるでち! どうすればできるでち!」
「まずは勉強じゃー! おぬしら、アンジェラお嬢ちゃんの知性を見習うといいぞい!」
「「げー」」
デュランとシャルロットが一様に苦虫を嚙み潰したような顔になります。
「シャ、シャルロットはやっぱりひかりのまほーがあるでちから……」
「オレも剣の素振りをしないとだな!」
そそくさとお勉強から逃げていくふたりに、アンジェラとノームが顔を見合わせて吹き出してしまいました。
アンジェラが土の魔法を覚えて、マイアへの帰路は快調そのものでした。
魔物を倒すことは、すっかり慣れてきたホーリーボールで威力は十分です。
しかし、光のマナだけでなく土のマナを操作する感覚が開き、多面的に魔法に対する理解が深まりました。
すると、ホーリーボールの精妙さも各段に向上したのです。
このまま全ての属性の精霊たちに出会い、全ての属性のマナのパスを開いてもらえれば!
きっとお母様にも認めてもらえる!
アンジェラは、アルテナがフォルセナを侵攻している焦燥感を上回ってしまうほどに、そんな期待感が膨らむのを抑えきれませんでした。
「張り切ってるなぁ」
そんな背中を見て、デュランがつぶやきます。
「もうアンジェラしゃんひとりでもいいじゃないかっていきおいでモンスターをけちらしてくれてラクチンでちね」
「……危なっかしいんだよ、そういうの。オレも気を配るが、何かあったらシャルもアンジェラのフォローを頼むぜ」
デュランが難しい表情でいると、シャルロットはにや~っとした顔です。
「な、なんだよキモチ悪ぃな」
「こんなびしょーじょをつかまえてキモチわりーとはしつれーな! ちょーっとデュランしゃんが、アンジェラしゃんのきづかいがこまやかでアツアツなのがおもしろかっただけでち」
「またそれか」
シャルロットの物言いに、デュランが嘆息します。
「お~い、なに話してるのよ! 早く行きましょ~!」
ホーリーボールで魔物たちを一掃したアンジェラが、遠巻きに手を振ります。
「へいへい」
デュランとシャルロットがそれに追いつき……
そして再びマイアへと戻ってきたのでした。
さっそくデュランたちは街の東部に居を構えるボン・ボヤジの館へと足を運びます。
「おーい、ボンのオヤジ! ニトロの火薬を取って来たぞ!」
どんどんと館の扉を叩くと、ほどなくボン・ボヤジが現れます。
「君たちゃ誰だ?」
「またかよ!?」
流石に二度も同じ下りが繰り返され、デュランたちはがくりと脱力します。
「人にニトロの火薬を取って来るように言っておいて、忘れちまうとは随分じゃねぇか!」
「おおっ! そうじゃったそうじゃった! いや、忘れたことなどなかったぞ!」
慌ててボン・ボヤジが取り繕いますが、すぐにその両手が頭を抱えます。
「……で、えー、その火薬が、何でしたっけ?」
シャキーンッ!
これにはデュランも剣を抜き放ってしまいました!
「わー! ま、待ちたまえ! そ、そうじゃった! あれじゃな? ワシの『大砲2号君』の!」
「めちゃくちゃテキトーななまえになってるでち」
もはやシャルロットも呆れた眼差しです。
デュランも同じ気持ちで剣を納めました。
「それで、火薬は?」
デュランがニトロの火薬を取り出すと、ボン・ボヤジが飛び上がって受け取ります!
「おほー! こいつじゃ! これで『ウルトラゴージャスターボキャノン2号』が発射できる! 君たち! 先に裏庭で待っていなさい! ワシもすぐに行くから!」
どたどたとニトロの火薬を手に、ボン・ボヤジが奥へと引っ込んでいきます。
それを見送って、デュランたちは何度目かの裏庭へと足を踏み入れるのでした。
そこには人を発射するのに十分な大きさの、たいへん立派な大砲が鎮座しています。
デュランがそれを見上げながら、不安そうな声を漏らします。
「今さらだけど、本当に大丈夫かよあのオヤジの発明品で」
「ほかにてだてがないとはいえ、シャルロットもほんとーにこれでいいのかとおもってきたでち」
しかしアンジェラただひとりが首を振ります。
「そこは大丈夫だと思うわ。この大砲、魔法技術の粋を集めたと言っていい出来栄えだもの」
外装を見渡し、ハッチを勝手に開けながらアンジェラがそう言います。
「アルテナでも魔法と機械を融合させる技術を発達させてるの。大地の裂け目で見たでしょ、マシンゴーレムR」
「ああ、確かにこの大砲はあのゴーレムの雰囲気に似てるな」
「だから私が見た限りだけど、アルテナと遜色ない技術で造られてるわ。ただ火薬で吹っ飛ばすなんて雑な技術じゃ断じてないの。風のマナや火のマナをすっごくバランスよく組み立てられてる。風の力で発射される人を守って、火の力で運ぶんだわ」
おそらくノームに土のマナのパスを通してもらったおかげでもあるのでしょう。
いっそう魔法技術に対する造詣や視野が深くなったアンジェラの言葉に、デュランとシャルロットは感心しきりです。
「あのオヤジ、適当なだけじゃないんだな」
「アンジェラしゃんがどんどんまほーつかいとして、たのもしくなっていくでちね!」
「私自身も驚いてるわよ。魔法が扱えるようになると、どんどん見える景色が変わってくる……お母様が見ている世界に、ちょっとずつ近づけてるみたい」
そんな風に語るアンジェラの顔は、なんとも言えぬ面持ちでした。
さて、そうこう話をしているとボン・ボヤジが駆けてきます。
そして手の中のニトロの火薬を大砲にセットして、砲口を北北西に回します。
さっきまですっかり忘れていたくせに、なかなかこなれた手際です。
「さぁ! ついに完成した『ウルトラゴージャスターボキャノン2号』の撃ち初めじゃ!」
ボン・ボヤジが人差し指を舐めて掲げます。
「風よ~し! 方向よ~し! フォルセナにバッチリ飛ばしてやるぞ! 準備はいいかね?」
デュランたちが顔を見合わせて、意を決したように頷きます。
「ああ、それじゃあ頼むよ」
「よし! ではハッチからの中に入りたまえ!」
言われるがまま、デュランたちが大砲の中に入ると、がっちゃんとハッチが閉じられます。
三人が入っても少しばかり猶予がある造りで、ぎゅうぎゅうに詰められた感じはしませんでした。
外ではボン・ボヤジが砲口を微調整して、
「ではいくぞ! 3! 2! 1!」
いよいよカウントダウンに入ります。
アンジェラ自身、大丈夫とは言いましたが、それでも緊張をしている様子でした。
ぎゅっと、シャルロットと手をつないでいます。
「……発射ぁ!」
ドカーンッ!
瞬間!
デュランたち三人に爆発的な圧力がかかります!
同時に、その圧力から身を守る風の力が施された感覚も!
「うおおおおおおおおおおお!?」
風の守りの中で、デュランは高速で上昇して、そして放物線を描いて落下する感覚に陥ります。
反射的に身を丸めましたが、そのせいかぐるぐると高速回転し続けて、
ズシーンッ!
やがて背中から地面に落ちてしまいました!
しかしその衝撃は、想像よりもはるかに小さいものでした。
身を守っていた風の力が、最後に大きな抗力となってデュランたちを押し上げ、叩きつけられる威力と拮抗。
躓いて転んでしまった程度の痛みで、デュランたちを地面へと横たえたのです!
「す、すげぇ……」
ぐるぐると高速回転していた感覚を余韻に残しながら、仰向けのデュランは呆然と呟きます。
ゆっくりと身を起こすと、アンジェラとシャルロットも無事でした。
改めて周囲を見渡すと、そこは地面に穴がたくさん開いている平原ではありませんか!
「アレ!? ここはモールベアの高原じゃねえか! さてはあのオヤジ、失敗しやがったな!」
立ち上がったデュランが憤慨すれば、アンジェラとシャルロットもぎょっとします。
「まさかフォルセナまで歩いて行かなきゃダメなの!?」
「びぇ! あのオヤジ~つぎにあったらもんくをいってやるでち!」
「ったく……急いでるってのに! いや、だがここからならそこまで離れてねぇ。仕方ない、フォルセナまで歩いていくぞ、ふたりとも」
こうしてデュランたちはモールベア高原を北上していくことになります。
幸い、デュランも見知った場所に落ちたようで、フォルセナまで遠くはありません。
日が暮れるまでには確実にフォルセナへ入ることができる距離でした。
しかし慣れたデュランに比べて、アンジェラとシャルロットは穴がぼこぼこと開いた平原に足が取られます。
「きゃっ!」
転んでしまいそうになるアンジェラをデュランが支えると、アンジェラはデュランにしがみつきながら文句を言います。
「大丈夫かよ?」
「なによここ! 穴ぼこだらけじゃない!」
「ここはモールベアの群生地なんだよ。あいつら、地下につながる穴をぼこぼこ開けやがるんだ」
「たすけてでち~」
シャルロットにいたっては下半身がずっぽりとハマってしまうことも。
そして道中に魔物たちも襲い掛かってきます。
モールベアはもちろんのこと、さらには女性の形をした蜂の魔物ギャルビーも空からデュランたちを狙ってきます。
魔物の脅威はさしたるものでありませんでした。
モールベアはそもそもデュランの相手にならず、ダイヤミサイルを覚えたアンジェラにギャルビーでは太刀打ちできません。
やがて日が傾いてきた頃合い、フォルセナの城壁が見えてきました。
しかしデュランたちはやっと目的地が見えたことによる安堵よりも、緊張に身がこわばる思いに陥ってしまいました。
フォルセナの城内から。
煙が上がっているのです。
そして遠目からでも、城門の付近も異常がうかがえました。
デュランは隣のアンジェラが息を飲み、顔から血の気が引くのを感じました。
「……急ぐぞ」
デュランが低い声で声をかけ、移動の速度をはやめます。
そして。
デュランたちはフォルセナへと辿り着いたのです。