聖剣伝説3 TRAILS of MANA   作:モティ

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第十二話「黒耀の剣」

 

「あっ! デュラン! よかった! ここ、フォルセナ?」

 

 頭を抑えているケヴィンをデュランが助け起こせば、空から落ちてきた野生児は破顔します。

 

 しかし国の存亡に関わる現状、デュランに余裕はありません。

 

「ああ、フォルセナだ。オマエも来てくれたんだな! それで今、アルテナに攻められてる! 英雄王様を助けに行きたいが、このデカブツが邪魔なんだ!」

 

 ケヴィンとの衝突で壁とぶつかって止まったガーディアンSが、再び動き出します。

 

 練兵場を一輪車で縦横無尽の高速移動!

 

 しかしケヴィンはそれにひるまず、戦意高揚、鼻息ふんふんです!

 

「分かった! こいつ、やっつければいいんだね!」

 

「だけど気をつけろ! 硬くて速くて……うおっと!?」

 

 デュランはしゃべっている途中、一輪車で高速移動するガーディアンSのハンマーを横っ飛びで躱します。

 

 さらにガーディアンSの勢いは止まらず、そのままケヴィンへハンマーを引っかけに一輪車が唸ります!

 

「ちぇいッ!」

 

 ケヴィンはそれを、跳んで躱して横蹴り!

 

 ガインッ!

 

 とそのボディに踵を叩き込んだのです!

 

「硬いっ!?」

 

 しかしケヴィンの蹴りでも、ちょっとへこむ程度で済む頑丈ボディ!

 

 シャルロットがそれを見て、ブルーザーを回復しながら声を上げます。

 

「まともにぶつかっちゃダメでち! もっとじゃくてんをビシバシするでち!」

 

「弱点!? どこ!?」

 

「~~~そんなのわかんないでちよ!」

 

 ケヴィンのもっともな疑問に、シャルロットがわたわたしながら首を振ります。

 

 しかしその言葉に、アンジェラがハッとします。

 

「ケヴィン! ガーディアンSの動きに、もう一度カウンターできる!?」

 

「できる! 速いけど、オイラ、ついてける!」

 

「車軸よ!」

 

 アンジェラが叫びます。

 

「しゃじく!?」

 

「回ってる車輪の、真ん中! そこを叩き壊すの!」

 

「わかった!」

 

 元気よく返事したのと、ガーディアンSが再びケヴィンへと襲い掛かって来たのはほとんど同時でした。

 

「ちぇりゃあああッ!」

 

 ケヴィンが紙一重でハンマーを躱し、むしろ懐に潜り込んで、

 

 バギィッ!

 

 なんと車輪の車軸を蹴りで圧し折ってしまったのです!

 

 重厚なボディに比べて、一輪車の部分は折りたたんで収納する機能上、どうしても強度が弱くなるのです!

 

 ケヴィンの一撃で大きくバランスを崩したガーディアンSは転倒!

 

 一輪車を収納して両足に切り替えようとしますが、粉砕された部分が引っかかって上手くいきません。

 

「ここよ!」

 

 そんなガーディアンSへと、アンジェラが高い位置から飛び降ります。

 

 掲げた杖を起点に、凝集された土のマナが燦然と輝いていました。

 

 それは、ガーディアンSの装甲をぶち破るため威力を臨界まで高めたダイヤミサイル!

 

 高速移動時には命中させようもないどころか、重すぎて飛ばすことすらままならない威力偏向の魔法運用!

 

 しかし倒れて動けなくなったガーディアンSになら、アンジェラごとぶつかって叩き込めるはず!

 

 そう勇んで高い位置からアンジェラごと飛び降り、炸裂せしめようとしたのです。

 

 それでもガーディアンSは一筋縄ではいきません!

 

 飛び込んで来たアンジェラへと、カウンターめいてハンマーが横殴りに跳ね上がって来たではありませんか!

 

「きゃっ!? 嘘!?」

 

「させっっ!!」

 

 そのハンマーを!

 

「るかよぉ!!」

 

 飛び込んで来た男が体を張って受け止めたのです!

 

 デュラン!

 

 体ごとぶつかってハンマーを止めた衝撃に目がくらむ思いをしながらデュランが叫びます!

 

「やれ!! アンジェラ!!」

 

「えーーい!」

 

 こうして、ガーディアンSへと極大ダイヤミサイルが、隕星めいて突き刺さったのです!

 

 ズガシャアーーーーンッ!!

 

 その一撃はすさまじく、最高品質の呪鍛ボディを貫き内部をズタズタに粉砕してしまったではありませんか!

 

 ボディ内部で小さな炸裂音が連続して、痙攣じみてガーディアンSがうごめきます。

 

 やがて、ハンマーを地に落とし、その機能を完全にダウンさせたのでした!

 

「勝った……!」

 

 その場の誰もが、大きく息を吐き出しました。

 

 最も後にやってきて、まだまだ元気なケヴィンがむんっと勝利のポーズをします。

 

「やった!」

 

 それにデュランが笑いかけます。

 

「助かったぜ、ケヴィン。大した動体視力だ」

 

「へへ、オイラ、目も耳も自信、ある!」

 

 デュランが拳を差し出すと、ケヴィンも拳をぶつけてにっかりと笑います。

 

「積もる話もあるが……今は急いでるんだ。早く英雄王様のところに──…」

 

 デュランが練兵場から進もうとした時です。

 

 奥の院からがしゃんがしゃんと重々しい音があふれ出て来るではありませんか!

 

 見れば、マシンゴーレムやユニコーンヘッドなどが続々とやってくるのです!

 

「チィッ! 急いでるってのに」

 

 デュランたちが改めて武器を構えたその時です。

 

「待て待て待てい!」

 

 魔法生物たちとデュランたちの間に、何人もの男たちがなだれ込んできます!

 

 ブルーザーを筆頭に、シャルロットが回復して回った騎士たちです!

 

「ここはオレたちが引き受けた!」

 

「デュラン! お前たちは英雄王様のところへ!」

 

「こっちはオレたちが抑える!」

 

「そっちのお嬢ちゃん、回復ありがとうな!」

 

「みんな……!」

 

 こうして迫りくる魔法生物たちをブルーザーたちが抑え、デュランたちは先に進んでいきました。

 

 荒らされた城の中を進みながら、アンジェラがデュランの後ろについて小さな声を零します。

 

「その、さっきはありがと」

 

「え?」

 

「さっきのハンマーのことよ。守ってくれたこと、ありがと」

 

「ああ。連携してるんだ。助け合いだろ」

 

 快活に笑うデュランですが、アンジェラの顔は晴れません。

 

「それでも、アルテナの兵器が暴れたるんだもの。後ろめたくはなるわ」

 

「へっ、確かにフォルセナをメチャクチャにしてくれてるのは気に食わねぇな」

 

「……」

 

「だけど、アンジェラという女は、フォルセナを守るために個人的に力を貸してくれてるんだ。感謝してもしたりねぇよ」

 

「……ふんだ」

 

 デュランの心の中ではアルテナに対する厳しい気持ちと、アンジェラに対するあたたかな気持ちが両立していました。

 

 そしてアンジェラの心はフォルセナに対する罪悪感と、アルテナに対する悲しみに溢れていました。

 

 だからこそ。

 

 フォルセナの人間であるデュランからかけられる感謝の言葉に、どうしようもなく救われる気持ちが灯ります。

 

 そんなふたりのやり取りを、後方から眺めてシャルロットとケヴィンは顔を見合わせます。

 

 さて。

 

 フォルセナの最奥、謁見の間ではフォルセナを治める英雄王リチャードが非常に危機的な状況に陥っていました。

 

 近衛兵たちが累々と倒れ伏し、ある者は凍り付き、ある者は焼け焦げているのです。

 

 リチャードも疲弊し、剣を支えに膝で立っている状態。

 

 しかも、その身を呪縛の魔法陣で拘束されてしまっているのです!

 

「ふっ、手こずらせてくれた」

 

 英雄王リチャードを見下ろし、手をかざす者こそ紅蓮の魔導師!

 

「ぐぅ……!」

 

 リチャードはどうにか魔法陣から逃れようとしますが、紅蓮の魔導師は手に力を込めて呪縛を強めます。

 

 その拘束力には、リチャードも苦悶の表情を浮かべるしかできません!

 

「クックックッ、気を緩めては振りほどかれかねないな。流石は英雄王。しかし魔法で動きを封じられてしまっては、どうすることもできないだろう」

 

「……アルテナの紅蓮の魔導師よ」

 

 それでもなお、威厳を損なわぬ声でリチャードが紅蓮の魔導師を睨みつけます。

 

「なぜヴァルダは……理の女王はフォルセナを攻める?」

 

「世界中のマナストーン占領のため、フォルセナが邪魔になる。その前に先手を打って潰せとご命令だ」

 

 さらに紅蓮の魔導師がリチャードへ冷笑しながら言葉を続けます。

 

「いつまでも、過去にはこだわらないと申されていた」

 

「……そうか。残念だ」

 

「聞きたいことはそれだけか?」

 

「……」

 

 リチャードは、未だ覇気衰えぬ眼差しで紅蓮の魔導師と、そして周囲を見渡します。

 

 その沈黙を、諦観と受け取った紅蓮の魔導師が、片手に強力な炎の魔法を展開し始めます。

 

「よかろう。では死ね!」

 

「待て!」

 

 そんな謁見の間へと、鋭い声と共に飛び込んでくる者がいました。

 

 デュラン!

 

 誰よりも速く熱く駆け抜けてきたデュランが、紅蓮の魔導師を剣で一閃!

 

 さしもの紅蓮の魔導師も、この介入には緊急回避をせずにはいられませんでした。

 

 スゥ

 

 と、赤い残影を残す魔法の転移で剣を躱してしまったのです!

 

 大きく距離を取り、赤い外套を翻して目を細めます。

 

「ほう? 貴様はいつぞやの」

 

「会いたかったぜ、紅蓮の魔導師! オレと勝負をしろ!」

 

 闘志爛々のデュランに対して、紅蓮の魔導師は失笑をするばかりです。

 

 さて、さらにアンジェラとシャルロット、そしてケヴィンも謁見の間に飛び込んできました。

 

 そこでアンジェラを目の当たりにした紅蓮の魔導師は、驚きの表情を浮かべずにはいられませんでした。

 

「これはこれはアンジェラ王女、こんな所でお目に描かれるとは思ってもみませんでしたな」

 

「フランマ! どうして……どうしてフォルセナを攻めるの!」

 

「おやおや、敵国で魔導師の本名をつまびらかにするなど、御法度をなさる」

 

 紅蓮の魔導師がアンジェラを鼻で嗤い飛ばします。

 

「フォルセナを攻める理由など、理の女王の御心以外にありますまい」

 

「そんな……」

 

 アンジェラの心が動揺してうつむいた瞬間。

 

 ずいとデュランがそれをかばうように前に出ます。

 

「これ以上、好き勝手はさせねぇ」

 

「あの夜、私に無様な敗北をした貴様では無理だ」

 

「まだオマエに及んでいるつもりはない。それでも、こうも国荒らされて黙ってられねぇ。それに……仲間もいるんだ!」

 

 デュランの言葉に勇気づけられ、アンジェラが顔を上げました。

 

 シャルロットとケヴィンも闘志満々です!

 

 それを見て紅蓮の魔導師が、両手を広げて強力な炎を生み出しました。

 

「面白い」

 

 今のデュランたちでは手に負えない、明らかに格の違う威力の炎!

 

 しかしそれの熱風に誰もひるまず武器を構えて退く気を見せません!

 

 紅蓮の魔導師がにやりと笑いました。

 

「ならばここで全員を灰に──…」

 

「その意気や良し!」

 

 しかし、その炎よりもなお猛々しい怒声が、高らかに謁見の間に響き渡ったではありませんか!

 

 そう、英雄王リチャードの声です!

 

「デュランよ、そしてその仲間たちよ! フォルセナのために紅蓮の脅威に立ち向かわんとする義勇、王として感に堪えぬ!」

 

 バギンッ!

 

 なんと英雄王リチャードが呪縛の魔法陣を振りほどき、漲る気力で立ち上がったではありませんか!

 

 デュランたちに意識が向いてしまったことで拘束が緩み、脱出することが叶ったのです!

 

「ぬうん!」

 

 さらにリチャードが、その片手を紅蓮の魔導師へと力強く差し向けます。

 

 瞬間、清廉なる白き魔法陣が紅蓮の魔導師を拘束!

 

「これは!?」

 

 さっきとはまったく立場が逆転してしまった紅蓮の魔導師が、魔法陣に締め上げられて声を荒げます。

 

「しかし若き戦士たちよ、まずはワシに反撃の見せ場を譲ってもらおうか!」

 

「陛下の魔法陣斬だ!」

 

 デュランがその技に歓声を上げると同時。

 

 リチャードが剣を高らかに掲げて跳躍、紅蓮の魔導師へと大上段の斬閃を振り下ろしたのです!

 

 さしもの紅蓮の魔導師も、この拘束と英雄王渾身の剣を組み合わせたコンビネーションには明確な焦りを見せていました。

 

 上手くすれば一撃必殺!

 

 そうでなくとも大ダメージは確実と言えるほど綺麗に極まった魔法陣斬は、

 

 ガギィン!

 

 しかし、硬質な音に遮られてしまったのです!

 

「むう!?」

 

 リチャードの剣を受け止めたのは、黒耀の剣。

 

 果たしていつそこに現れたのか。

 

 紅蓮の魔導師をかばうように黒耀の騎士が魔法陣斬を受け止めていたのです!

 

「何者だ……!?」

 

 警戒して大きく退いたリチャードと、黒耀の騎士が対峙します。

 

 張り詰めた空気は、達人同士の剣気に満たされて息も詰まるほどです。

 

 ひとり、紅蓮の魔導師だけが魔法陣の拘束を解いて安堵の息を零します。

 

「流石は英雄王か。油断も隙もない……助かったぞ、黒耀の騎士」

 

「……土のマナストーンは解放した。フォルセナは落とせなかったようだが、撤退するぞ」

 

「なに!?」

 

 黒耀の騎士が紅蓮の魔導師に投げかけた言葉を聞いて、その場にいた誰もが驚愕しました。

 

「しまった、二面作戦……マナストーンが本命か!」

 

 リチャードがいち早く状況を察します。

 

 つまりフォルセナへ注意を引きつけ、宝石の谷ドリアンにある土のマナストーンこそが真の狙いだったのです!

 

「宝石の谷に配置していた白銀騎士団は……」

 

「……」

 

 黒耀の騎士は答えません。

 

 しかしその威容な圧力に、おそらく配置されていた騎士団が無事ではないことを察してリチャードの表情が険しくなります。

 

「陛下」

 

 そんなリチャードの傍らにデュランが進み出ました。

 

「……逸るなよ。あやつ、ただ者ではないぞ」

 

 リチャードが黒耀の騎士から視線を外さないまま、デュランに言いました。

 

 確実にデュランが叶う相手ではありません。

 

 万全のリチャードでも互角に戦えるかどうか。

 

 それほどの腕前を感じさせるほどに、黒耀の騎士から迸る剣気は強烈でした。

 

 アンジェラも、シャルロットも、ケヴィンも。

 

 その不気味な武威に圧されるように前に出ることが叶いません。

 

 しかしデュランだけが、歩を進めることができました。

 

 圧倒的な力量差は確かに感じるのです。

 

 しかしそれでもなお……何故だか、黒耀の騎士へと踏み出せる。

 

 踏み出さなければならない。

 

 そんな気持ちがデュランの心の奥から湧いてくるのです。

 

「いえ、ここはオレが魁を。少しでも隙を作ります。陛下はその隙に……」

 

「デュラン!」

 

 リチャードの厳しい声が、むしろデュランの背を押すように。

 

 矢のようにデュランが黒耀の騎士へと踏み込みます。

 

 正々堂々たる真っ向からの剣。

 

 フォルセナ流剣術における、基本にして奥義ともいえる剣筋でした。

 

「……お前、デュランか……」

 

 不気味なほどに静かなたたずまいだった黒耀の騎士が、声を零しました。

 

 黒曜石のように温度のない、無機質な声。

 

 だというのに。

 

 黒耀の騎士に微かな動揺が生まれた。

 

 なぜかデュランには、そんな気がしてなりませんでした。

 

 ガギィンッ!

 

 デュランの剣が届くより早く。

 

 黒耀の剣がまるで稲妻のように翻りました。

 

 そしてデュランの剣を……デュランの父、ロキのブロンズソードを。

 

 半ばで断ち折ってしまったのです。

 

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