およその話を終えて、謁見の間へ通じる通路に人の気配が多くなってきました。
城の状況や復旧の方針などについて、報告や相談をしたがる騎士たちの気配です。
リチャードが区切るように、
「ひとまず今日はフォルセナでゆっくりと休むがよい。バイゼルへ向かうのは、休息を取ってからにするのだ」
「はい、陛下」
こうして謁見の間から出ると、リチャードへ騎士たちが殺到してあれやこれやと報告を始めます。
分かった分かった、ひとりずつ報告せよ、となだめるリチャードを遠巻きに見ていると、
「おい、デュラン! 帰っていたんだな!」
「助かったぞデュラン!」
「クレリックのお嬢ちゃん、オレだよ、オレオレ! 助けてもらった騎士さ! 今夜ディナーに誘ってもいいかい!」
「英雄王様を助けてくれたんだって? 本当にありがとう!」
と、たくさんの騎士や傭兵たちに囲まれてしまいました。
「おお、久しぶりだな、皆。アルテナ相手、よく持ちこたじゃねぇか」
「へっ、魔法なんかに負けてちゃ騎士の名折れだ」
「アルテナ兵のかなりの人数も捕虜にしている。ヤツらにはたっぷりと尋問をしてやらねばな」
騎士のひとりの言葉に、アンジェラがぴくりと反応します。
それをデュランは視界の端に納めていました。
「……ほどほどにしておけよ。兵は兵だ。エライ連中がおかしなことをしてる、とばっちりかもしれないんだからな」
「分かってるよ、英雄王様からも丁重に扱えと念押しされてる」
デュランと騎士のやりとりに、アンジェラは複雑な感情の中に確かなあたたかさを感じずにはいられませんでした。
ほどほどの解放されて街へ戻る道すがら、練兵場を通りかかります。
ガーディアンSの残骸は片づけられたようですが、石畳や壁の修復はこれからのようです。
そのための打ち合わせを、さっそく集められた職人たちが騎士とやりとりしているようでした。
「あれ、ボン・ボヤジじゃないか!?」
そんな職人の中にずんぐりむっくりとした錬金術師の姿を見つけます。
その声に反応した男が、ぴょいんと跳び上がって主張しました。
「うんにゃ、ワイは弟のボン・ジュール! アニキの大砲を世に広めるために旅をしとるんや」
「ボン・ボヤジの弟!?」
「あの大砲を広める!?」
デュランとアンジェラがそろって声を上げます。
「なんや、知ってるんか?」
「知ってるもなにも、オレたちがあの大砲の利用者第一号だよ」
「あんさんたちがそうかいな! アニキ、ちょっと失敗したな~って申し訳なさそうにしとったで!」
「あのオヤジ……」
デュランとアンジェラ、シャルロットは何とも言えない顔になってしまいました。
「フォルセナにもいっちょ広めたりまっか! そう思って立ち寄ったらお城がえらいことになってると聞いてな。ワイも錬金術師、力になったろと思ってやってきたんや」
「そりゃありがてぇ」
「そしてあわよくば、お城に大砲を設置してキャノントラベルをフォルセナに根付かせたるんや!」
「設置できるのか?」
目を見開くデュランに対して、ボン・ジュールは自慢げに胸を張ります。
「ニトロの火薬の成分を解析し終えて、大砲の設計図もバッチリや。三日あればマイアでもバイゼルでもどこでも飛ばしたるよって」
「三日でバイゼルに!?」
デュランたちが驚きの声を上げます。
フォルセナからバイゼルまで三日で到着など、前代未聞のスピードです。
しかし大砲を体験したデュランたちには、それが偽りではないことが分かります。
「でもでも、ボン・ボヤジのやつ、フォルセナにとばしてくれるってはなしだったのに、モールベアこーげんにおっことされちゃったでちからね! しんよーならんでちよ!」
「でも、オイラ、ちゃんとフォルセナについたよ?」
憤慨するシャルロットに、ケヴィンがおそるおそるフォローを入れます。
「アニキもなんで失敗したか後からちゃんと把握してワイや従姉妹に教えてくれとる。風を読み違えてしもうたんや。もうヘマはせんよって! 信じておくんなはれ!」
ボン・ジュールの訴えに、デュランたちはお互いに顔を見合わせます。
それから苦笑ぎみに頷き合いました。
「分かった、信じるよ」
「おおきに!」
こうしてデュランたちは、リチャードに掛け合って大砲の設置を許可してもらえるように相談へ戻ります。
リチャードはこれを快諾。
むしろ城の修繕よりもボン・ジュールの大砲を優先するように差配してくれたのです。
こうして城から出て、デュランたちはフォルセナの街へとつながる大きな階段を下りていきます。
もう少しで日が落ちる頃合い。
街は方々がまだまだ片付いていない様子ですが、それも明るい活気にあふれていました。
住民たちも戦に対する心構えが備わっている者ばかりなので、前向きに後処理に勤しんているのがよく分かります。
「街の被害、思ったより、少ないみたいだね」
ケヴィンが感心気に周囲を見渡します。
「ああ、どうもアルテナは街を突っ切って城に攻めてきたらしい。街の被害は最小限だったよ」
「つよつよなきしやよーへーしゃんたちのふんとーもあってこそでち」
「そうだな」
シャルロットの言葉に、デュランが嬉しそうに笑いました。
「それにしても、えーゆーおーしゃんは、おはなしのわかるおーさまでちね! おしろより、ボン・ボヤジのたいほーをゆーせんしてくれるなんて!」
「世界の危機だもの、それくらいの融通は利かせてくれないとね」
「これでフォルセナをみっかもゆっくりできるでち! シャルロット、おふろはいりたいでちー」
「私はこの三日で、お父様を探したいわ」
「そういえば、アンジェラの目的はそうだったな」
アンジェラは両手を拳にしてふんふんと意気込んでいます。
ケヴィンがそんなアンジェラへ不思議そうに尋ねます。
「アンジェラのお父さん、フォルセナにいるの?」
「それが分からないのよ……だから探そうと思って」
「そこらへんも、ごーりゅーしたケヴィンしゃんはさっぱりでちからね。おしょくじでもしながら、おはなししたいでちね!」
「オイラ、肉、食べたい!」
きゃいきゃいと賑やかなアンジェラたちに対して、ひとりデュランだけが腕を組んでむっつりとしています。
「なによ、そんな顔して」
「いや、改めて考えると三日ってちょっと長くてな……」
「そうでち? おうちにかえってゆっくりしてるとあっとゆーまでちよ! シャルロットたちをしょーたいしてもいいんでちよ?」
「あっ! そうだ、デュランの妹にも会わせてよ。かわいいって自慢してたじゃない」
アンジェラの言葉にデュランがうつむきます。
「そ、それは勘弁してくれ! 旅立つときに決めたんだ、紅蓮の魔導師を倒すまで帰らないって。こんなに早く戻ると思ってなかったから、だから……」
アンジェラとシャルロット、そしてケヴィンが顔を見合わせます。
そして快く頷くのです。
「ウン、分かったよ!」
「ふーん、デュランしゃんもがんこもんでちね。でもデュランしゃんのけついなら、しかたないでちね!」
「でも残念ね。デュランのお部屋、見たかったのに。あー、ホントはエッチな本とかあって見せられないとか?」
「バ、バカヤロウ!? そんあモンあるわけ……」
顔を真っ赤にしているデュランに、三人が笑顔になっていると、
「あっ! やばい!」
「な、なによ、どうしたのよ? ちょっとデュラン!?」
急にデュランが明後日の方へ駆け出してしまいました。
あっという間に姿が消えたデュランに、何事かとアンジェラたちがいぶかしんでいると、小さな女の子が駆けてきました。
「あの、今デュランって!? お兄ちゃん、いませんでしたか!?」
「え? それじゃあ……」
「あんたしゃん、デュランしゃんのいもうとしゃん!?」
アンジェラたちが目を白黒させていると、さらに年配の女性もやってきます。
「ウェンディ、デュランはいたのかい?」
「ステラおばさん……」
小さな女の子は、悲しそうな顔で年配の女性に首を振ります。
「うう……デュラン、さっきまで、いた。でも、どっか、行っちゃった」
ケヴィンの言葉に、ふたりは困ったような顔になります。
「大方、まだ決着はついていないーってあたしたちに会わないつもりなんだろうねぇ、あの子はまったく」
「あの、あなたは……」
「あたしはステラ。デュランを小さい頃から面倒見てるおばさ。こっちはウェンディ。デュランの妹だよ。騎士様から聞いてるよ、デュランが仲間と一緒にかけつけてくれたって。あんたたちがそうなのかい?」
「ええ、私はアンジェラ」
「シャルロットでち」
「オイラ、ケヴィン」
「そうかい、そうかい」
ステラの眼差しは、息子の友達を喜ぶような優しいまなざしでした。
そんなステラに、アンジェラが言いにくそうにデュランの決意を伝えます。
「デュランは、紅蓮の魔導師を倒すまでは家に帰れないって」
「分かっているよ。旅の目的を果たせていないって、戻ってこないんだろうね。変なところでガンコだからねぇ、あの子は」
アンジェラとステラの会話に、ウェンディがぎゅっとスカートを握りしめて悲しそうな顔をします。
「お兄ちゃん、まだわたしに会いたくないんだ」
「そうじゃないよ、ウェンディ。ああ、まったく面倒だねぇ、男ってのは」
「うう……ゴメンなさい」
ウェンディの頭を撫でるステラの言葉に、その場でただひとりの男であるケヴィンがつい謝りました。
それに他の女性がみんな破顔してしまいます。
「あんたを責めてるわけじゃないさ。ねぇ、どうだいうちに寄っていかないかい? フォルセナを救ってくれた英雄様たちにごちそうさせておくれよ」
「いいの!?」
「あら、いいのかしら?」
「へへーん、けついしているのはデュランしゃんなんでちから! シャルロットたちにはかんけいないでーち」
アンジェラはそれもそうかと一瞬で納得します。
「あの子のことも、聞かせて欲しいのよ。元気にやってるかい?」
「だれよりもげんきでちよ。たよりになるけんしでち!」
「みんなを必死で守ってくれて、傷つくことを恐れず強い敵にも立ち向かってくれるわ」
シャルロットたちの口から語られるデュランに、ステラが嬉しそうに何度も頷きます。
「これまでのくなんのたびじと、デュランしゃんのかつやくをきかせてあげるでち!」
シャルロットが目線の近いウェンディへとにっこりと笑います。
その天真爛漫な笑みに、ウェンディも安心するのか、少し表情が和らぎました。
「かわりにデュランしゃんの、ちっちゃいころのはなしにきかせてほしいでち!」
「あっ、それいいわね!」
こうしてわいわいとアンジェラたちはデュランの家へとお邪魔する運びとなったのです。
それを、建物の裏で聞いていたデュランが溜息を吐き出します。
「あいつら……」
「もう、素直じゃないわね」
ふわり、と。
そんなデュランの目の前にフェアリーが現れて、両手を腰にひっつけてお怒りのポーズです。
デュランはぷいっとそっぽを向いて唇をとんがらせます。
「オ、オレだってわかってんだよ……」
「……うん、デュランの気持ち、わかるよ……」
口では叱りつけますが、フェアリーもデュランの裡に触れて、その心情をよく分かっています。
今回の事件では強敵を退けてフォルセナを救ったように見えます。
しかし土のマナストーンは解放され、紅蓮の魔導師と黒曜の騎士にあしらわれているのです。
敵の都合でたまたま助かった。
そんな己の未熟をまざまざと見せつけられた結果に、デュランもやるせなさを感じていました。
だからこその、初志の決意を改めて固めずにはいられませんでした。
「……ゴメンね」
そんなデュランに、フェアリーが哀し気に言葉を落とします。
「なんでフェアリーが謝るんだよ?」
「黒耀の騎士が剣を振り下ろす前に、私も飛び出してかばおうとしたわ……」
「ああ、オレの力が足りないばかりに……」
「違うの!」
ひときわ強い語調でフェアリーが声を荒げます。
その目には、溢れるほどの慚愧。
デュランは眉をひそめます。
「あの時、迷ってしまったの……本当は私に残っている少ないマナでも、爆発させるように撃ち込むができた」
「そんな……でも、そんなことをしたら」
「うん、ただでさえ人間界で存在を維持する力が……もっと弱くなってしまう」
「だったらそんなこと……」
しなかった今回は、たまたま生き延びることができました。
でも次は?
次の次は?
そもそも本当に、次なんてあるのか?
デュランが黙り込みます。
「でも……私はここで死ぬわけにいかない。そう思うと……」
フェアリーの悲愴なまでの決意がデュランにはひしひし伝わってきました。
ごつ、デュランが後頭部を建物の壁に押し付けます。
少しばかり、沈黙がふたりに下りました。
「……オレたちはまだまだ力不足だな」
「……そうね」
「オレが、みんなを守らねぇと。そう思っていたんだ。だけど……」
がりがりとデュランが頭をひっかき、観念したように笑います。
「オレも守られてばっかりだ」
リチャードに、フェアリーに。
この旅の中でアンジェラやシャルロットにも。
飛んできたケヴィンにも、ガーディアンSとの戦いでさっそく助けられて。
たくさんの助けを、もらっている。
「もっと強く、ならなきゃダメだな。オレたちみんな」
「うん……」
うっし、とデュランが立ち上がります。
「そのためにも、ちゃんと食わないとな」
「私には、はちみつドリンクをちょっとだけ舐めさせてね」
「オレにはあれ甘すぎるんだけどなぁ」
そうして酒場までやってくると、たむろしていた者たちがわっとデュランに押し寄せてきました。
「デュランじゃないか!」
「よく帰ってきてくれたな!」
「その子がフェアリーか!」
「かわいいな!」
「一杯奢るぜ、デュラン!」
もう何度目か、フォルセナの顔見知りから帰還を歓迎されてデュランは苦笑します。
あれよあれよと大テーブルの一角に座らされ、酒を注がれ、みんなからもみくちゃにされるのです。
フェアリーも屈強な騎士や傭兵からちやほやされました。
さてそんなデュランの元に、いかつい男がやってきてがしっと肩を組んできます。
「ようデュラン、城では助かったぜ」
「あ、ああ……えぇっと……」
デュランが返答に窮します。
というのも、その厳めしい強面に見覚えが無かったからです。
「オマエ、誰だ?」
「なにー!? オレだ、オレ! ブルーザーだ!」
「ああ、ブルーザー! そんな顔だったのか!」
そのやり取りに、周囲の者たちが大爆笑です。
会う時のブルーザーは完全鎧を着こなして、顔も兜で隠れていました。
デュランが素顔を見たのは今日が初めてなのです。
「オマエ、このやろう~!」
「悪かったって、痛い痛い!」
ブルーザーの締め付けを脱出して、デュランはその盃に己の盃をぶつけます。
「練兵場での共闘、頼もしかったぜ。古式旋風剣だっけ? 大した威力だよ」
「へっ、本当はオマエにお見舞いしてやるつもりだったんだけどな」
嬉しそうにふたりが盃を空にします。
「オレも負けてられねぇな。もっと強くならなきゃと、さっき改めて思ってたところなんだ」
「なにを! ならオレはもっと、もっと強くなってやるからな!」
ブルーザーが張り合うのに、周囲の騎士や傭兵たちも同調して声を上げます。
「オレもだ」
「今回のことで、もっと修行が要るなと思ったよ」
「オレたちも負けてないぜ!」
「今度こそ、オレたちだけでもフォルセナを守れるように頑張るぜ!」
「おお、勇ましい声が聞こえるな。それでこそ、フォルセナの戦士たちだ」
そんな熱を帯びた酒場に、嬉しそうな声がさらに加わります。
「え、英雄王様!?」
なんと酒場の扉をくぐってやってきたのは、フォルセナの王リチャードその人ではありませんか!
お付きの騎士を伴って、嬉し気に大テーブルまでやってきます。
その場の誰もがかしこまるのを、リチャードは手で制しました。
「よせよせ、堅苦しい。ここは楽しく愉快に飲む場所であろう」
「し、しかしどうしてこのような場所に……」
「街の被害状況を確認だ。その途中、力強い言葉が聞こえてな」
戸惑う傭兵のひとりに、リチャードはヒゲをしごきながらにっかりと笑いかけます。
そして、好き放題注文されて余っていた盃を手にしてそれを掲げます。
「フォルセナの勇敢なる戦士たちよ! このたびは諸君らの奮闘によりフォルセナの街を、民を守ることができた。このリチャード、諸君らを誇りに思う! 今は戦い抜いた体を休め、大いに飲み、大いに喰らおうではないか!」
そして盃を煽り、その場のみんなも勝鬨のような歓声をあげて己の盃を干すのです!
「デュラン、ブルーザー。おぬしらも飲め飲め、今日は国庫から支払ってやるぞ!」
「は、はい!」
リチャードが気安くデュランとブルーザーの近くに座って笑いかけます。
しかし若いふたりは恐縮してかちこちです。
「まったく、そう固くなるなと言うておるに」
そんな若者に、リチャードが苦笑しながらもう一杯、酒を煽ってぽつりぽつりと話し始めます。
「ワシも昔は仲間たちと酒場でバカ騒ぎをしたものだ。今宵くらいは、それを思い出して飲みたくなった」
「竜帝との戦いですね?」
「それもある。十二年前……十九年前……ワシもいくつもの戦いを駆け巡ったものよ」
おお、そうだ、とリチャードが思い出したように声を上げます。
「デュランよ、おぬしロキの剣を折られてしまったな」
「はい、私の力不足のせいで……」
「なに、あの黒耀の騎士相手では、ワシの剣も危なかっただろう。それにおぬしのレベルでは、もうあの剣は物足りなくなっていたはずだ。ワシが昔、旅で使っていた剣をやろう」
「よ、よろしいんですか!?」
デュランが思わず立ち上がります。
「ふっふっふっ、ちと古いがな。まがいなりにも王族が使っていたのだ、一級品だぞ」
デュランは言葉もなく喜びに震えるばかりです。
「くそ~デュランばっかり!」
「そう言うなブルーザー。おぬしの活躍も聞いておる。古式旋風剣を習得したそうだな? 大したものよ」
リチャードが酒瓶をブルーザーに差し出します。
ブルーザーはこれ以上ないほどに恐縮して固まってしまいましたが、リチャードが強引にその盃に酒を注ぎます。
王様に、それもフォルセナの英雄王に酒を注がれるとは!
ブルーザーの頭は喜びで真っ白です!
「そろそろおぬしの鎧も、力量に応じたレベルアップが必要となろう。城にとっておきがある。使ってはくれぬかな?」
「本当ですか!? もももも、もちろんです!」
「ふたりには特に期待をしておるのだ。よりいっそう、励んでもらいたい。若き戦士たちよ!」
「「はい!」」
リチャードがデュランとブルーザーの肩を叩き、ふたりは心からの返事をします。
「英雄王様」
そんなリチャードの元にフェアリーもやってきます。
「おお、フェアリー」
リチャードはフェアリーをじっと見つめて、感慨深げな息をつきました。
「やはり似ておるな、ワシと共に戦ってくれたフェアリーと。とても」
「フェアリーは、その使命のために全員が姉妹のようなものですから」
「そうか……そうだな」
「マナの剣にオレを導くって使命だろう?」
デュランが会話に入って小首をかしげますが、フェアリーがあいまいに微笑みます。
「それもあるけど……他にもフェアリーは、役目があるのよ」
先ほど言っていた、黒耀の騎士に己の命を使ってもいいかどうか。
それはマナの聖域に導く使命のためと思っていたデュランですが、どうもそれだけではないようです。
リチャードもフェアリーの言葉に強い語調で同意します。
「そうだ、フェアリーには非常に大きな使命がある。デュランよ、フェアリーをしっかりと支え、守り抜いてやってくれ」
「はい、もちろんです」
デュランの返事に、リチャードが満足そうに頷きました。
己ではできなかったからこそ。
デュランには。
そんなリチャードの思いを、デュラン強く感じ、そしてそれに応じたいと心から思いました。
「デュランよ。ロキの子であるお前がフェアリーを伴って帰って来た時、ワシは運命を感じずにはいられなかった」
そして、感情がこもった言葉をデュランに送るのです。
「どうか、マナの剣を抜く使命、立派に果たしてくるのだぞ」
「はい!」
リチャードが満足そうに微笑み、それから、話題を変えるように語調を急転換をしました。
「それで、あー……おぬしらのこれまでの旅の話を聞かせてくれぬか?」
「それはもちろんです」
うぉっほん、とリチャードが咳ばらいをひとつ。
「特にその、あれだ。アンジェラ王女なのだが……どうだ、よい子か?」
「え? ええ。そうですね、よい子……う~ん……よい子かな? 自分勝手というか、なんか気が強いというか」
「でもアンジェラは、責任感が強いよ」
「繊細なくせに強がるんだもんなぁ」
「デュランに似てるところがあるよね」
「そうか~? でも、オヤジがフォルセナ人かもしれねぇからな。もしかしたらそういう血なのかも」
「な!?」
デュランとフェアリーの話に、リチャードが慌てたように声を上げました。
デュランがきょとんとしますが、ああ、と言葉を続けます。
「アンジェラ王女には父親がいないそうなのですが、それがどうもフォルセナの人間らしくて……大砲が設置される三日も、父親を探すぞって張り切っていますよ」
「な、なに!? そ、それはまことか!?」
急に慌てだしたリチャードが、平静を取り戻そうと盃を飲み干します。
「そ、それは難儀であろう。フォルセナも広い。それを三日では……」
「そうですね。陛下のお力を借りることができれば、楽になると思うのですが……」
「いや、しかしワシも後処理がな」
「そうですよね」
デュランとフェアリーが、ちょっぴり残念そうな顔をしました。
リチャードはさらに酒量を増やして首を振ります。
「その、なんだ。アンジェラ王女には、必ずや! 平和になった折、必ずや! ワシから連絡をいたすと伝えてくれ。くれぐれも、今回はその……父親探しには力を入れずともよいと伝えるのだ」
「え? まぁ、そうですね……まずは世界の危機です」
「うむ、そうだ! さぁ、飲むぞデュラン! 浴びるように飲め!」
こうしてリチャードと、フォルセナの仲間たちと。
とても豪放磊落な夜をデュランは過ごします。
大砲の完成まで三日。
デュランたちとその仲間たちは、フォルセナでおのおのひとときの安らぎを。
そして、話は若き砂漠の盗賊と、風の王女の冒険へ流転します。