好きなキャラの二次創作が無いなら作ればいいってばっちゃが言ってた
ゲヘナ学園の一角は、今日も混沌としていた。
まずここに温泉が湧きそうだと当たりをつけた温泉開発部。
敷地内にクソデカい穴を開けようとするなと動員された風紀委員。
そして――その騒動の中心に立つ、一人の少女。
「ここは羽沼マコト像の建設予定地ですが?」
静かな声だった。
だがその言葉の裏には、妙な圧があった。
選挙では毎回羽沼マコトに投票。
入学直後から演説があればそこへ訪れ、週刊万魔殿を定期購読し続ける筋金入りの羽沼派。
深町シヲは、有機的なフォルムのサブマシンガンを構えたまま動かなかった。
彼女の背後には、マコト像の建立を名目に動員された、
「校庭を掘削する許可は下りていません。そして――ここは羽沼マコトの未来を記念する土地です」
温泉開発部の一人が鼻で笑った。
「まだ何も成し遂げてねぇ狸の像なんか作ってどうすんだよ」
次の瞬間、銃声が鳴った。
乾いた連射音は、威嚇というよりも呻き声に近かった。
弾丸は足元の地面を正確に穿ち、誰にも当たらない。だがその音は、確実に心臓の奥を撃ち抜く類のものだった。
「……発言を訂正してください」
淡々とした声。
けれど、その声は震えていた。
「羽沼マコトは、まだ偉業を達成していないだけです。これから成し遂げます。だから像を建てるのは
撃鉄にかけた指が、わずかに強く引き絞られる。
「それともあなたは――彼女の未来を否定するつもりですか?」
誰も答えなかった。
答えられなかった。
彼女から放たれるプレッシャーはまるで肺の中を満たす水のようだった。水中に沈められたかのように、自然と呼吸が重苦しくなる。
「掘削も、建築も。風紀委員として一切許可していないのだけど」
そんな中に現れたのは、空崎ヒナだった。
正論。事実。規則。
その全てを背負った暴の象徴。
シヲは視線を向ける。
「理解しています。ですので――今は計画段階です」
ヒナの眉がわずかに動く。
「……銃を構える理由にはならない」
「万魔殿の支援者が脅迫を受けています。万魔殿を侮辱する発言を受けています。建設予定地が不当に侵害されています」
まるで分解した銃のパーツを並べて確認するように、彼女は告げる。
「十分な理由です」
乾いた言葉だった。だが、その奥には奇妙な熱がこもっていた。
ヒナは一歩踏み出す。
「深町シヲ。あなたの行為は、学園規則に明確に違反しているわ」
「承知しています」
即答だった。迷いも、逡巡もない。
「それでも私は、ここを譲れません」
サブマシンガンの銃口が、わずかに持ち上がる。狙いが定まらないのではない。感情の揺れが、照準に滲んでいた。
それは狙いではなく、言葉にならなかった声だった。
「規則よりも優先すべきものがあると?」
ヒナの問いに、シヲは一拍置いて答えた。
「あります」
そして、静かに言い切る。
「羽沼マコトの未来です」
その場の空気が凍りついた。ヒナの視線が、わずかに鋭くなる。
空崎ヒナが出張ってきたことで撤退を決めた温泉開発部とは反対に、シヲは動こうとしない。
退却という字を、どこかに置き忘れたままのようだった。
ヒナは静かに告げる。
「深町シヲ。このまま抵抗を続けるなら、実力で制圧するわ」
「構いません」
即答だった。
勝てるとは思っていない。だが――退くという選択肢も、最初から存在していなかった。
サブマシンガンの引き金にかけられた指が、わずかに震える。
それは恐怖ではない。喪失への怯えに近い揺れだった。
「私は、羽沼マコトの未来を否定されるくらいなら――ここで止められても構いません」
短く鳴った銃声は、警告ではなく、
堪えきれなかった悲鳴の残響のようだった。
ヒナは悟る。
これは治安案件ではない。
思想でも、政治でもない。
信仰の問題だ。
そしてこの少女の名前は、深町シヲ。
選ばれないと知りながら、
それでも誰かの未来を守ることを選んだ女である。
■
とはいえ、キヴォトス屈指の実力者であるヒナになす術もなく。
事実、シヲとヒナが交戦(一方的な暴力の押し付けとも言う)している間に万魔殿の支持者は撤退することが出来た。ご丁寧に建設予定地の看板も綺麗さっぱり撤去されている。
「反省文と謹慎が妥当でしょうか」
反省しているのか、していないのか。よく分からない態度のまま、深町シヲは淡々と告げた。
地面に伏せさせられ、背中を押さえつけられているにもかかわらず、声は落ち着いていた。痛みも、屈辱も、彼女の表情にはほとんど浮かばない。
ヒナは視線を落とす。
「……あなた、今回の件を失敗だとは思っていないのね」
「はい」
即答だった。
「万魔殿の支援者は全員撤退しました。建設予定地の看板も回収済みです。目的は達成されています」
ヒナの眉が、かすかにひそめられる。
「つまり――自分が制圧されたことは、問題ではないと?」
「問題ではありません」
その声音には、揺らぎがなかった。
「私は像だけを守りたかったわけではありません。羽沼マコトの名を信じた人々を守りたかっただけです」
風紀委員の一人が小さく息を呑む。
「彼女の未来を信じた人々が、傷付けられることの方が……。私にとっては、よほど耐え難いので」
ヒナは、ほんのわずかに目を伏せる。
「……本当に、厄介な子ね」
言葉とは裏腹に、そこには微かな疲労と――困惑が滲んでいた。
■
その後、保健室。包帯を巻かれながら、シヲはぼんやりと天井を見つめていた。
カーテン越しに、控えめな足音。
「……深町さん」
万魔殿の支援者だった生徒が、そっと顔を覗かせる。
「さっきは……ありがとうございました」
小さな、しかし確かな感謝。
シヲの表情が、ほんのわずかにほどける。
「どうかお気になさらず」
柔らかい声だった。
「私達は……志を共にする同士なのですから」
生徒の胸が、静かに熱を帯びる。
「羽沼マコトを信じる人間が、傷付けられるのは好みではありません。あなた方が無事であれば、それで十分です」
その目には、どこか誇りにも似た狂気が宿っていた。