お前も万魔殿最高と叫びなさい!   作:竹製手桶

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ゆるゆるやってる先生なので矛盾あったら脳内補正して下さい

【深町シヲ(☆1)の性能を評価するスレ】一部抜粋

「ストライカー枠。ノーマルスキル発動ごとに自分とスペシャルの火力強化するしパッシブスキルでスペシャルの火力上げるし、サブスキルの効果でそこそこ硬いしでタンク兼スペシャルを強化するサポーターなのは分かる」
「コンセプトは分かるがEXの内容が最大強化しても『次に発動するEXスキルのコストを3削減(1回)』だけなのはちょっと……。せめてバフもくれんか?」
「バグでEXスキルのバフ部分が消えてるって訳じゃないんだよな、公式に問い合わせても『仕様です(意訳)』としか返ってこないし。ウイやセイアはコスト半減+αだから出来ない訳じゃない。意図してこうなってる」

「熟達証書ショップの中で破格の低価格で売られてるけど初心者が星上げしたところで……なところはある」
「配布キャラのレートもシヲを見習ってほしいが、性能による差ですと言われたらギリギリ納得する自分もいる」

「ゲブラで使えるけどゲブラはそもそも編成難易度が高いって別の問題があってだな(白目)」
「装甲相性も良いし唯一とも言っていい使いどころさんけどギミック対応生徒入れるだけで手一杯なんや……」
「マコトを軸にしてケセドやるなら真っ先にお呼びがかかる。マコトの星上げが甘くてもシヲのバフである程度カバー出来るし装甲相性も悪くないから案外イケる。問題はシヲの心臓が持たなさそうなところだ」
「多凸要因としては優秀。大体のボスはストライカー軸の方が速くて強いのは言ってはならない」



14.理性決壊未遂事件

シャーレのオフィス。

 

普段のシヲはノックを三回し、声をかけてから静かに入室する。

だが、その日は違かった。ノックも何もなしに扉は開かれた。扉の向こうには激情を抑え込んだ表情の深町シヲがっている。

 

「……失礼します」

 

声は平静を取り繕っていた。しかし、並々ならぬ事情があることは目に明らかだった。

 

「シヲ、どうしたの?」

 

先生は彼女を刺激しないよう、穏やかな声色で尋ねる。しかし言葉を発さずとも異常事態なのは分かった。

 

――トリニティに関連する諸々のことを嫌うシヲだが、トリニティ総合学園の生徒の一人、鷲見セリナがいても退室の姿勢を見せないのである。

 

いつもならトリニティの生徒やそれに関連する生徒が視界に入るだけで眉をひそめ、可能であれば別室での作業やそもそも会わないように日程調整を行う彼女が。

 

「……先生、こちらをご覧いただけますか」

 

シヲは周りを確認してからアタッシュケースを丁重に開く。そこには愛銃『後始末』……ではなく別のものが入っていた。彼女の愛銃は背中のリュックへ雑に突っ込まれていた。暴発したらどうするつもりだったんだろうか。

 

「これは……、今週の『週刊万魔殿』?」

「はい。表紙を見て頂ければ分かる通り……。今月号は『羽沼マコト特集』です」

 

もう表紙から見てシヲ特攻じゃねぇか。先生の率直な感想はそれだった。

羽沼マコトのバストアップの写真と箔押し加工を大胆に使った表紙はシヲの愛銃を押し退けてアタッシュケースの中へ収まるのに充分だったらしい。

 

「正気で読める自信はありません」

「だろうね」

「万魔殿の支持者である以上、広報とも呼べる元宮さんが書かれた羽沼マコト像を受け止めるのは大切なことですが……!」

 

ぷるぷるとシヲの体が震える。こめかみから生えている彼女の軟質な角もうねうねと動いているような気がした。先生はSNSで流れてきた動くパンケーキもといパンちゃん(牛牧ジュリ作)の動画を密かに思い出していたが、口には出さなかった。

 

「この情報の洪水を受け止めるためには、冷静さを保てる環境が必要と判断しました」

「それで、シャーレに来たんだ」

 

シヲは深く頷いた。

 

「読んでいる最中に異常行動を取った場合、制止をお願いします」

「異常行動って?」

「机を叩く、立ち上がる、保存用を追加購入する、長文の感想を送信する等」

「もう半分はやる前提じゃない?」

「想定内です」

 

セリナが控えめに首を傾げる。

 

「えっと……。私は退席した方がよろしいでしょうか?」

「いえ」

 

即答。シヲは一切視線を逸らさない。

 

「もし私が意識を失ったり、心肺停止状態に陥った場合は然るべき処置をしていただきたく思います。救護騎士団である貴女がゲヘナの生徒を助けることは信条に反するかもしれませんが……」

「そんなことはありません!」

 

その言葉を聞いたセリナの救護精神に火がついた。

トリニティの情勢はさておき、少なくとも鷲見セリナという少女は怪我人を放っておけない優しい娘なのである。たとえそれがトリニティとは犬猿の仲であるゲヘナの生徒であっても。

 

「シャーレで心肺停止は流石に困るからね」

 

先生が軽く苦笑する。

 

「……その可能性は、否定できません」

 

シヲは真顔で言った。セリナは既に救護バッグを机の上に置いている。

 

「バイタルの確認は私が担当します! 深町さん、無理はなさらないでくださいね!」

「無理はしません。理性は保つ予定です」

 

角がぶるぶるしている。その予定はいつまで持つのだろうか……。

 

 

シヲは黒手袋を装着し、週刊万魔殿を手に取る。まるで貴重な文書を扱うようであった。祈るように目を閉じ、息を吸う。

 

「ところで……。今月号はいくつ貰ったの?」

「ここにある閲覧用、あとは保存用と予備用で計三冊です」

「………………足りそう?」

「今のところは」

 

増える前提の口ぶりだった。

 

手袋を着けた手が慎重にページを捲る。

一枚目は議長室の椅子に腰掛けたマコトの全身写真だ。*1

 

足を組み、自信に満ち溢れたカメラ目線。手には葡萄ジュースの入ったグラス、膝にはエンペラー・ライオンマル・ジュニア三世。マコトは猫アレルギーなので、この一瞬を切り取るために並々ならぬ努力が重ねられたことは容易に想像出来る。

 

シヲはそのページを見たまま暫く静止していた。頬を涙が伝っていた。この生徒、感涙を流すタイミングがバグっている。

 

「シヲ?」

「……呼吸を忘れていました」

「まずはゆっくり呼吸をしましょう」

「はい」

 

セリナに促され、シヲは停止しかけていた肺に空気を送り込む。頬の涙をハンカチで拭い、次のページへと手をかける。

 

次のページは、マコトのスタンスを説明するものだった。己の心に従い、欲を満たすためには何が必要なのか。普段は演説を聞かない者にも分かりやすく提示するものだった。

週刊万魔殿は万魔殿のアイドルである丹花イブキや流行りのものについて書くことも多いが、こういった特集も時折組んでいることがゲヘナにおける生徒会組織の刊行物であることを思い出させる。

 

「……素晴らしい。筆を取ったのが万魔殿の書記を務める元宮さんなだけあって、羽沼さんのスタンスをこの一頁に濃縮しています。校正者の方もきちんと仕事をしていらっしゃる。誤字脱字のたぐいはひとつもありません」

 

さらに次はマコト本人へのインタビュー記事。

 

『私は私の心に従うだけだ』

 

空気が変わる。シヲの指が震える。角がぴくりと揺れる。

 

「……」

「大丈夫ですか!?」

「問題ありません」

「脈拍が若干早いです!」

「想定内です」

「シヲ、それは何の想定?」

 

それでもページを捲る手はゆっくりと進む。時に息を詰まらせながら、それでも止まらない。

 

「……この受け答え」

 

シヲの視線がインタビュー記事の一文に固定される。

 

『他者の評価はどうでもいい。私は私の心に従うだけだ』

 

「……これは誤解されやすい表現です」

 

彼女は低く、静かに言う。そこに足されるべき言葉を探るようにページの字を撫でた。

 

「羽沼さんは他者を軽んじているのではありません。評価軸にしないというだけで、見ていないわけではありません」

 

先生は少し目を細める。

 

「……詳しいね」

「当然です」

 

シヲは迷うことなく答えた。

 

「羽沼さんは見ています。少なくとも、ゲヘナで起きてることは、全部。だから、私の声も……」

 

そこで言葉が途切れる。セリナは誰に宛てた訳でもない言葉に敢えて何も返さない。彼女はシヲの傍らで脈拍を確認していた。

 

「少し上がっていますが安定しています」

「医療報告やめて」

 

 

やがて、最後のページ。特集の締めの一文。

 

『羽沼マコトは、これからも自らの欲望に正直であり続ける』

 

シヲの指が止まる。角の震えが、すっと収まる。

彼女の脳が週刊万魔殿の全てを咀嚼し終えた頃には日が傾いていた。

 

「……先生」

 

先生が不意に呼ばれる。シヲの真っ直ぐな目が、先生を撃ち抜く。

 

「あなたは、この特集を読んで………。羽沼さんを、どう思いましたか」

 

試すようでいて、縋るようでもある声。先生は少し考える。

 

「……強い人だと思った」

 

シヲは瞬きをする。

 

「自分の心に従うのは、簡単じゃないからね」

 

先生の静かな言葉を聞いて、彼女の角がゆるやかに下がる。

 

「……ならば、この特集は成功と言えます」

 

小さく頷く。ほんの一瞬だけ、視線が写真に戻る。

雑誌を丁寧に閉じる。深く、息を吐く。

 

「鷲見さんも、ありがとうございました」

 

不意に名を呼ばれ、セリナはぱちりと瞬く。

 

「え? あ、いえ、私は何も……」

「いえ。万が一に備えて頂いたこと、感謝します」

 

丁寧に、頭を下げる。トリニティの生徒に礼を述べるなど、普段の彼女からは考えられない行為だった。

セリナは少し驚いた顔をし、それから柔らかく微笑む。

 

「シヲさんが倒れなくてよかったです」

「……倒れる可能性はありました」

「否定しないんだ」

 

先生が呆れ半分に言うと、シヲは真面目に頷く。

シヲは慎重に読了した雑誌をアタッシュケースに戻す。その動作は無駄がない。愛銃は相変わらずリュックの中である。おそらく自宅にある週刊万魔殿専用棚に収まるまでリュックがホルスターとなるだろう。

 

立ち上がる前にシヲは一瞬だけ止まる。

 

「先生」

 

その声は凪いだ海のように静かだった。

 

「あなたは……、羽沼さんの敵ではありませんね?」

 

空気が張る。セリナが小さく息を飲む。

先生は迷わず答えた。

 

「敵になる予定はないよ」

 

ほんの僅かだけ、シヲの肩の力が抜ける。

 

「……それなら、問題ありません」

 

扉へ向かう。だが、手をかけたところで、止まる。振り返らないまま、ぽつり。

 

「私は……、羽沼さんの隣に立ちたいとは思っていません」

 

セリナが目を丸くする。

 

「……え?」

「月の隣に並ぶ雲は、月を隠します」

 

静かな声。

 

「私は、光を遮る存在になりたくありません」

「せめて……。その光が曇らぬよう、周囲を払う役であれば十分です」

 

重い。重すぎる。それを聞いた先生は少しだけ困ったように笑う。

 

「それ、本当にマコトは望んでると思う?」

 

沈黙。角が、ぴくりと揺れる。

シヲは振り返った。その目には、ほんの一瞬だけ年相応の揺らぎがある。

 

「……分かりません。ですが、私の心はそれを望んでいます」

 

*1
所持済先生に分かりやすく言えば、メモリアルロビーのワンシーンである。

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