お前も万魔殿最高と叫びなさい!   作:竹製手桶

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・最初期からの支援者
・演説のときは大体いる
・週刊万魔殿の購読者(たまに『保存用』も購入している)
・投票率3%ほどなのに毎回投票しに行ってる

認知されない筈が無いよね(政治家メンタル感)


3.偶然という名の大事件(主観)

シャーレのある建物の廊下は、昼休みの割に静かだった。先生が「大将のラーメンが食べたい。それが駄目ならせめてカップ麺食べたい」という思いつきで数人の生徒を連れて外出してからは閑散としている。

 

それでもまだ人はいる。深町シヲは書類の束を抱えながら歩いていた。

頭の中では今日のタスクと、昨夜聞き返した演説のフレーズが淡々と反芻されている。

 

——足音。

 

聞き慣れたリズム。

歩幅。

気配の重さ。

 

(来る……)

 

瞬間、シヲの血の気が引く。

 

(羽沼さんだ……)

 

曲がり角の向こうから聞こえる声。

力強く、よく通る、それでいて女性らしさを損なわない。聞き間違えようのない声。

一緒にいるのはおそらく棗イロハ。呆れたような声色で彼女の言う「シャーレの先生を籠絡する方法」の粗にツッコミを入れていた。

 

(直視は不可……撤退……!)

 

反射的に踵を返す。

進路変更。

最短距離で離脱を——

 

「深町?」

 

呼ばれた。

 

詰み。

 

シヲの動きが止まる。

逃げかけた体勢のまま、固まる。

 

ゆっくりと振り返る。

 

そこには羽沼マコトがいた。

いつも通りの余裕ある微笑み。整えられた姿勢。演説のときと同じ顔なのに、距離が近すぎる。

 

(近い……情報量が過剰……)

 

視線が合いそうになって、慌てて逸らす。

 

「ちょうどいい。先生はいるか?」

 

それが自分に宛てられた質問だと理解したシヲは茹だった脳を必死に動かして口を動かす。

 

「い、いえ……。外出中です……」

 

シヲの声がわずかに裏返る。

 

マコトは一歩近づく。

 

シヲの背中が、無意識に半歩引く。

 

(ダメ……近づかないで……)

(好き……無理……。顔、いや、存在が良すぎる……)

 

内心は嵐だが、表情は無に近い。

 

「いつも支援、感謝している。直接礼を言う機会がなかなか無くてな」

 

「……当然のことですので……」

 

シヲは目を合わせないまま、蚊の鳴くような声で答える。

 

「支援は、万魔殿の理念に対する合理的な選択です。個人的な感情は含まれていません」

 

言い切ったつもりだった。だが、その声はわずかに震えていた。

 

マコトは微かに目を細める。

 

「相変わらずだな、深町。お前はいつも“合理性”という言葉の陰に隠れる」

 

その言葉だけで、胸の奥が焼ける。

 

(やめてください……分析しないでください……)

 

棗イロハが肩をすくめた。

 

「はぁ……。シヲさん、少しはこっちを見て話してくれませんかね。いつもはそんなことしないでしょう」

「キキキ、私の威光が眩しいのだろう」

 

そう言いながらも、マコトの声音にはどこか愉しげな響きがあった。

再び視線が向けられる。同時にシヲの体がビクりと跳ねる。

 

「深町。私は、お前のような支援者を軽んじるつもりはない」

 

その言葉は、刃に等しかった。

 

(直撃……過剰評価……)

 

シヲは反射的に一歩下がる。

 

「……過分な評価です。私は、数ある支援者の一人に過ぎませんので……」

 

「それでもだ。お前は私の言葉に耳を傾けた。私がゲヘナの指導者であると思い、支援の意を示し、一票を投じた」

 

マコトの声が、静かに落ちる。

 

「私は、それを忘れない主義だ」

 

――限界。

 

シヲは深々と頭を下げる。

 

「失礼します……!」

 

彼女はほとんど逃げるように踵を返し、廊下の向こうへと足早に去っていった。それは敗走ではなく、生存のための撤退だった。

 

 

流石にラーメンを食べるためだけにアビドス近郊まで行ける時間は無かったため、エンジェル24でカップ麺や昼食を買って戻ってきた先生は目の前の生徒へ恐る恐る声をかける。

 

「シヲ?何かあったの……?」

「……先生がいらっしゃらない間に、万魔殿の方々がいらっしゃいました」

 

不在時の出来事を報告する深町シヲ。しかし彼女の声音は平静を装っているものの、身体の芯から力が抜け落ちているのが見て取れた。

処理中の書類を落とさないように抱え込んでいるが、指先はわずかに震えている。

先生は視線を落とし、慎重に言葉を選んだ。

 

「……何か、問題でも?」

「問題はありません。業務上、想定される範囲内の出来事です」

 

即答だった。だが、その声はどこか掠れている。

 

「……大丈夫?」

 

一拍の沈黙。

 

「問題ありません。……例の条約の後は慌ただしくなっていましたが、羽沼さんがご無事であることをこの目で確認できましたので」

 

髪も綺麗に戻っていらっしゃいました、と言って彼女は視線を逸らす。先生は眉をひそめる。

 

「それが安心する理由なの?」

「十分です」

 

短いが、決定的な返答だった。先生は溜息をつく。

 

「……君は、自分のことをもっと心配してもいいと思うよ」

 

主に情緒的な意味で。敬愛しているとはいえ学園のトップを見たらこうなる生徒は大丈夫なんだろうか。他の学園に、ここまで信仰じみた生徒はいただろうか……?と先生は若干不安になった。

 

「私の状態は、優先順位が低いので」

 

即答。

あまりにも即答。

 

(重い……というか、深い……)

 

その場の沈黙を破るように、シヲは小さく付け足す。

 

「ですが……。今の発言を録音出来なかったのは世界の損失だと思います。羽沼さんの支援者に対するスタンスが現れた発言は貴重です」

 

「そこかぁ……」

 

後に彼女はミレニアムサイエンススクールの生徒からボイスレコーダーをプレゼントされた……という噂がシャーレ内で囁かれている。

 




書きたいところは書いたので失踪します
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