推しのスーパードクター   作:衛地朱丸

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「もしもアイの出産を行うのがゴローではなくドクターTETSUだったら?」
「で、同時期ゴローは何してるの?」辺りが1話のコンセプトです。
なお、タイトルはSDKリスペクトで「カルテ○○」としております。


カルテ1:闇医者

「ほら、いるでしょ? お金さえ払えばどんな依頼でも引き受けてくれる闇のお医者さん」

「いねぇよ」

 事務所で所属アイドルの星野アイから相談を持ちかけられた苺プロダクション代表取締役斉藤壱護は頭を抱える。肥満とは明らかに異なる腹部の膨らみに、何の相談かは概ね察せられた。

「相手の男は誰なんだ……」

「エヘヘ、内緒!」

「……ったく。妊娠してるかもってぇなら、んな存在もしねぇヤベェ医者探すより、もっと堅実で確実な手があんだろ。ほら、日本一の産婦人科医とも称される、さりなの……」

「それだけは絶対にダメ! 私のワガママに彼だけは巻き込みたくない」

「……!」

 さっきまでどこか絵空事のように軽いノリで話していたアイが、真剣な眼差しで拒否する。それは明るく振る舞ってはいるが、現状を把握し堅実に解決しようと心構えている証左でもあった。

「……。分かったよ、知り合いの芸能仲間に当たってみるが期待すんなよ」

 壱護はとうとう折れ、アイの期待に添うよう闇医者を探し出すことを承諾した。

「うん、頼りにしてるよ社長」

「え~~……はい……。マジかよ……」

 五人目に電話をかけた時だった。壱護が狐にでも摘ままれたかのような表情で絶句する。

「どうかした?」

「いたぜ、闇の医者が……」

「ホント?」

 壱護の回答を聞いた瞬間、アイの瞳はステージに立っている時のように輝き出す。

「どんな人?」

「ああ。その闇医者は反社とも繋がりがあると言われるクソヤベー奴なんだが、腕は確かって話だ」

「名前は?」

「闇医者だけあって本名は分からねぇ。だがこう呼ばれている。〝ドクターTETSU〟と――」

 

 

「すみません。連絡していた苺プロダクションの斉藤という者ですが」

『入りな』

 コンタクトを取りTETSUに指定されたのは、とある廃院だった。インターホン越しに話しかけると、威圧感のある男の声に招かれる。

「来たか」

 廃院の奥で待ち構えていたのは、特徴的な前髪で年老いてはいるものの体躯の良い男であった。

「面白い髪型!」

「オイ!」

 初対面の人間にいくらなんでも失礼だろと、壱護は必死に咎める。

「ククク。なかなかに肝の据わったメスガキだ。エコー検査するぞ」

 自分に一切物怖じしないアイの態度にTETSUは悪い気がせず、アイのお腹回りを見て部屋の片隅に案内しようとする。

「エコー検査って」

「表に出せねぇ事情抱えた奴が訊ねて来るのは日常茶飯事なんでね。引き取った廃院ではあるが一通りの検査は出来る設備は整ってある」

 軽いノリで話してはいるが、いくら廃院を流用しているとはいえ機材を揃えるには膨大な費用が必要なはず。一体どれだけの闇案件を抱えた医者なんだと、壱護はゴクッと唾を飲み込む。

「20週、双子だ」

『双子……』

 TETSUから検査結果を見せられたアイと壱護はしばし呆然とする。

(ったく、コイツのようにガキ孕んじまったガキの相手するのは珍しくねぇが、いい気分じゃねぇぜ)

 次の一言は決まっている。「金はいくらでも出す。誰にも悟られないよう堕ろして欲しい」だ。20週なんて中絶可能な時期のケースは稀だが、大概は法律で禁じられている22週を経過している案件だ。

 そういった患者を相手する場合、TETSUは表向きは中絶したと語り、その実赤ん坊は無事に出産させ、口止め料を含めた多額の報奨金と共に馴染みの孤児院に預けるよう手筈を整えている。

 助けるとは言え、産まれた子供に一生親の顔を知らぬままの人生を歩ませてしまうことには負い目を感じているTETSUではあった。

「で、いつ堕ろす?」

「ううん逆。何が何でも産みたい!」

「!!」

 まるで一等星のように煌めくアイの眩い瞳の輝きを目の当たりにし、TETSUの心は光で満たされ始める。

「マジかよアイ! 俺はてっきりお前が中絶したいんだと……」

「アイドルは続ける。母親にもなる。ずっとずっと秘密を隠して育て続けたいから、誰にも知られずに産ませてくれる闇のお医者さんが必要だったんだ」

「ククク……今までテメェのようなガキは何人も見て来たが……そんな自信満々の笑みで産みたい言う奴は初めてだぜ!」

「初めてかぁ。光栄だなー。双子っていうから帝王切開になりそうだけど、お腹の傷はアイドルにとって致命傷。当然せんせーは一切の傷痕を残さずに手術できるよね?」

「朝飯前だぜ!!」

 こうしてアイの思惑通りに事は進み出産する流れとなった。

「それでドクターTETSU、報酬の方は」

 壱護は腹を括り、マネジメントの話をし出す。

「一割だ」

「一割?」

「今後アイがアイドルとして活動を続ける中、生まれてくるガキ共が成人するまでの間稼いだ額の一割だ。無論、事務所の手数料等抜く前の金額からだ!」

「今すぐ大金払えってんじゃないなら、私にもなんとかなりそう」

「アイドルと母親の二足の草鞋履くんだろ? だったら途中リタイヤは絶対に認めねぇ。ガキ共が独り立ちするまで必死に歌い踊り続けて、キッチリ完済しろ!」

「もちろんそのつもりだよー。私はドーム公演するスーパーアイドルになるから、せんせーも高級マンションとかに住めるようになると思うよ」

「ククク! そいつは楽しみだ!!」

 こうしてアイは出産を迎えるまでTETSUの元へ秘密裏に通うこととなったのだった。

 

 

 一方同じ頃。ここは宮崎県の片田舎にある病院。そこの病室の一角での出来事。

「……次に見ていただきたいのが、富永総合病院において二ヶ月前富永院長自らが執刀された……」

「先生。なんで患者の病室で他院の研修用DVD流してるんですか。普通に営業妨害ですよ」

 看護婦にツッコミを入れられる若き医師。彼の名は雨宮吾郎。壱護も言及した日本一とも称される産婦人科医である。

「まあ、先生の評判を聞きつけてウチの産婦人科医は予約で一杯ですから大目に見られているんでしょうけど」

「いや、俺がどうやってそんな腕の立つ医者になったんですかって聞かれたからさ。俺の話するより富永院長の腕前をじかに見てもらった方が」

「富永先生。先生が研修医で勤めていた病院の院長ですよね。あの奇跡の執刀医で有名な」

「そう! あの難病の退形成性星細胞腫の少女を救ったスーパードクター!! 俺はその少女の主治医でね。通常の医師じゃ到底執刀不能で、俺も当時の院長であった富永先生の父親に迫ったもんなんだけど。その時出会ったんだ、富永先生に……」

 そうしてゴローは語り始めるのだった。富永との邂逅を。




当初は施設育ち繋がりでアイを譲介と絡ませようとしましたが、K2の時系列的に譲介がTETSUとの同居を止めた後なので、二人の邂逅は後にずらした感じとなります。
また、壱護の台詞からも分かるように、さりなちゃん生存ルートです。何故原作と違いゴローがアイのDVDではなく富永総合病院のDVD流しているのかは、次回をお楽しみに。
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