「そういう訳でして、この映画の美容整形監修を寺井院長に是非ともやっていただきたく」
寺井美容クリニックの応接室で交渉を続けるロン毛で無精ヒゲの男。彼の名は五反田泰志。それなりに腕の立つ映画監督である。
「もちろんOKよ! クリニックの宣伝にもなるし、何よりアナタみたいなイケオジの頼みは断れないわ」
五反田の容姿が好みだというのもあり寺井は即答する。
「ありがとうございます! ついでといっては何ですが、寺井院長にはもう一つ頼みがありまして」
「あら、何かしら?」
「先程お話しした通り、今回の映画は『自分の容姿にとことん自信の無い女が、なぜか山奥にある怪しい病院で整形を受ける』というあらすじなのですが。映画の雰囲気にピッタリな病院はご存じだったりします?」
映画の主舞台となる山奥の病院にはリアリティを出したいというのが五反田の意向であった。
「あらあら。そういうコトなら、とっておきの病院を紹介してアゲルわよ~~」
「……。そういう訳でして、寺井院長よりご紹介を受けた五反田と申す者です」
寺井に推薦され五反田が訪れたのは、N県T村の一人の診療所であった。
「……」
五反田から手渡された企画書を、一人はしかめっ面で読み上げる。
「あの、何かご不満な点でも?」
「ああ。先生数年前病院が舞台のドラマを見た際、『ICUは消灯などせぬ!!』と、現実と異なる描写に酷くお怒りでして」
故に医療描写に不備があれば引き受けないだろうと、診療所の看護師である麻上は事情を説明する。
「……。寺井院長が監修を務めるのなら抜かりはなかろう」
しかし、診療所を撮影に用いるというのは承服し難いと、断るのを前提で一応企画書を読み続ける一人。
「む! 主演:アイにさりなだと!!」
そんな中、主演女優の名前に目が止まり、一人は声を上げる。
「ご存じでしたか? 今回の目玉は今をときめくアイドルグループB小町のツートップ、アイとさりなのダブルヒロインでして」
「そうか。であるならば受けねばなるまい」
さりなは富永の岐路を、そしてアイは母を失った一也の傷心を癒やしてくれた礼がある。その二人が出るなら話は別だと、一人は一転して承諾する。
「ありがとうございます!」
アイドルの名を目にした瞬間引き受けるなんて。この先生見かけによらずムッツリスケベのロリコンなのかと思いつつ、五反田は感謝の意を伝える。
「但し! 撮影可能なのは診療所の外見と待合室のみ。病室や手術室は遠慮していただきたい」
「そりゃもちろん。オペシーンは当然スタジオセットで撮影しますんで」
病室はともかく、こんな山奥の診療所に手術室? 一人の発言に違和感を抱きつつも意向に従う五反田。
「えっ、映画の撮影ですってよイシさん! ひょっとして私たちもエキストラで銀幕デビューとか……」
映画の撮影に向けて今から美容用品揃えようかしらと、妙にはしゃぐ麻上。
「わしはそったなの、興味ねぇな」
一方のイシは、やや冷ややかな反応であった。
「んんっ? そこのおばあさん! 良かったら映画に出演してくれない?」
しかし、五反田の目に止まったのは麻上ではなくイシであった。
「わしか?」
「ええ! 映画の冒頭、ヒロインが村の入り口で気味の悪い孫を連れた老婆と出会うエピソードがあるんですが。そのイメージにピッタリで」
「わしゃあ演技なぞ出来んぞ」
「そこがいいんだよ! 余所者には出来ない素朴な村人の絵が欲しくて。出番も台詞も冒頭くらいなんで是非とも!!」
「それぐれぇなら、受げでもいいが」
脇役程度ならと五反田のオファーを受け入れるイシであった。
「オホホホホ! 良かったですねーイシさん!!」
一方の麻上は見向きもされなかったことが悔しくて、怒りを抑えた作り笑いをするのであった。
「それでね、せんせ。今度私アイと一緒に映画に出演することになったんだ!」
数日後。映画の主演の話が舞い込んださりなは、直接ゴローに伝えに富永総合病院を訪れる。自分が長らく入院していた病院なので、退院後も定期的に通院していても世間から怪しまれることは全くない。合法的にゴロー会いに行けるのは、さりなにとって多大なる恩恵だった。
「へぇ、映画の撮影か。それは楽しみだなー」
ライブの日程を合わせるのは難しいが、映画ならいつでも見に行けるなと、ゴローは好意的に受け止める。
「でねでねー。映画の撮影はN県T村っていう山奥の村で」
「N県T村だって!!」
その名が出た瞬間、ゴローの眉がピクッと動く。
「さりなちゃん」
「何、せんせ?」
「君のお母さんに会わせて欲しい! どうしても頼みたいことがあるんだ!!」
さりなの両手をぎゅっと掴み、真剣な眼差しで頼み込むゴロー。
(えっ? えっ? 待って! せんせ、距離近いよ……。お母さんにって、ひょっとして、ひょっとしてー!!)
私ももう19だ。ついに成人して結婚出来るようになった。私の映画デビューを機に、娘さんを僕にくださいって婚約の挨拶しにいくのー!? と、さりなは胸のドキドキが止まらなかった。
原作の「それが始まり」はアイは脇役だったのですが、B小町の人気が原作より高めな傾向にあるため、さりなちゃんと揃ってメインヒロインとなりました。
映画の前にアクアが監督と出会うフラグが消失したため、代わりにイシさんが映画出演という流れになりました。