推しのスーパードクター   作:衛地朱丸

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タイトル回収回です。


カルテ12:完璧で究極のスーパードクター

(ここが、富永先生が働いていた……。いや! 今は感慨に浸っている暇はない!!)

 ゴローは出血のショックと痛みで衰弱したかなを抱えたまま、Kの診療所の門戸を潜る。

「来たか!」

 するとそこでは、黒服に身を包んだ一人が出迎えてくれた。

「あなたが、K先生ですね」

 どことなく一也に似ている雰囲気と体格で、ゴローは目の前に居る医師こそが富永の師に当たるドクターKであると理解した。

「イシさんから容態は聞いている。CTを撮るぞ!」

「はい!」

 そうしてゴローは一人に案内されCT室へと赴く。

(オイオイ、CTってマジかよ!?)

 監督として役者の事故の責任はあると同行した五反田だったが、こんな片田舎の診療所にCTなんて高額の医療器具が存在しているのかよと驚愕するのだった。

「CTの結果、左前頭部に血腫が確認された」

「急性硬膜外血腫……!」

 一人の診断にゴローは冷や汗をかく。一般的な治療法は脳を大きく開頭し吸引管を脳内に挿入し、血腫を吸引する開頭血腫除去術だ。しかしこの術式は頭部に大きな痕を残す可能性もあり、彼女の女優業に支障を来す可能性があると。

「先生! 回診に出ている譲介くんが戻るまであと30分はかかります!!」

 CT室から出てオペの準備に入ろうとした最中、麻上より連絡を受ける一人。

「やむを得ん。手伝ってくれるな雨宮先生」

「もちろんです! ですが、お願いがあります!!」

「お願い?」

「はい。彼女は将来大女優になる子です! 可能な限り頭部に痕の残らない術式を施していただきたいです!!」

「ふっ。話に聞いていた通りの人だな貴方は」

「えっ?」

「以前天童寺さりなさんの手術を行った後だ。富永からの電話で君の名前が出て来た」

「!!」

「通話の中富永は語った。困難な手術で途中挫けそうになった。だが、手術中君が「サインはB~~♪」とB小町の歌詞を口ずさみ語った台詞が、オレの背中を押してくれたと」」

 

がんばれさりなちゃん! 君はB小町に入ってアイと並ぶアイドルになるんだろ!!

 

「君が患者に送ったエールによって富永の脳内にも術後の姿が浮かび、何としてでも助けなくてはと大いなる助力になったとな」

「富永先生……」

 ずっとずっと自分は富永先生を何も手伝えなかった、さりなちゃんに何もしてあげられなかったと思っていた。だけど自分の思いは確かに2人の励みになっていたと、若干涙ぐむゴローであった。

「雑談はここまでだ。直ちに術着に着替えオペを開始する!」

「はい!!」

 

 

「うぅあぁ……ママぁ……オレのせいでぇ……」

 その頃、アクアは診療所の待合室でアイに抱かれながら泣き崩れていた。

「ありがとうございます天童寺さん。場を作っていただいて」

 父親であるゴローが手術を行っている間子供たちは女性陣で面倒を見るとスタッフ一同に提言したまりなの計らいにより、アイは周囲に怪しまれることなくアクアを慰めてあげることが叶った。

「いいのよ、いいのよ。私はね、さりなが日々弱っていくのに耐えられなくて、段々と病室に顔を出さなくなっていった。娘が一番居て欲しい時に側に拒絶していた最低の母親だった。今更贖罪にはならないけど、アクアくんに同じ想いはさせたくないからね」

「お母さん……」

 アイがアクアに付きっきりになる間代わりにルビーの面倒を見ていたさりなは、感慨深く呟く。

「ねぇねぇ、さりなおねーちゃん? かなちゃん、だいじょうぶだよね?」

 目の前で血を流して倒れるかなを垣間見たルビーは自らも不安に駆られ、弱々しい声で訊ねる。

「ママ、あのこ、たすかるよね? かおにきず、のこったりしないよね?」

 一方のアクアも泣きじゃくりながらアイに聞く。

「大丈夫だよ! ほら、ママのお腹見て」

 2人を安心させるように、アイは衣装をたくし上げる。

「ママがね、アクアとルビーを産んだ時は、せんせにお腹を切ってもらったの。だけどね、全然手術痕が残ってないでしょ?」

「ホントだ……」

 アイの腹部をさすって驚くアクア。

「すっごーい! おとーさんって、そんなスゴいおいしゃさんだったのー!」

 ルビーもまたアイのお腹を見て驚嘆とする。

「うん! だってあなたたちの〝お父さん〟は……」

「そそっ! だって、せんせは……」

 アクアとルビーの問い掛けに応えるように呟き始めるアイとさりな。

 

『私の推しのスーパードクターだから!!』

 

 そう2人同時に言葉を重ねるのだった。

「ぷっ!」

「あははっ!」

 意図せず台詞がハモってしまったことに笑い出すアイとさりな。

「なに、さりなちゃん。推しはともかくスーパードクターって」

「アイこそ。だってせんせ、さっきK先生のことスーパードクターって褒め称えてたじゃない。だからつい」

「そーそー。だけどさ、〝私たち〟にとっては」

『せんせこそが! なんだよね』

『……』

 そう笑いを交えながら談笑する2人の姿を見て、アクアとルビーの不安は徐々に取り除かれている。

 言葉にせずとも2人は理解した。

 

あなたたちの〝お父さん〟は最高のスーパードクター

 

だから安心して見守っていればいい

 

 と――。

 

 

「嘗て急性硬膜外血腫への処置は開頭血腫除去術が主流だった。だが……今は違う!!

 準備を整え手術室に入った一人がゴローに見せたのは、透明な筒と内視鏡であった。

「これは?」

「頭部に小口径の穴を空け、開口部よりシースと呼ばれる透明な筒を挿入し術野を確保。そして内視鏡と吸引管により血腫を除去する。これが内視鏡的血腫除去術だ!!」

「内視鏡的血腫除去術……!!」

 そんな最先端の医療技術を専門医でもないのに会得しているのかと、ゴローはゴクッとする。

「開頭及び内視鏡の操作は私が行う。雨宮先生は助手を頼む」

「はい!」

 そうしてかなの手術は始まる。

(凄い……。恐ろしく正確で無駄がなく早い。富永先生も常人離れしていたけど、それ以上だ……)

 まるでマエストロのような美しい手腕に、ゴローは息を飲んで助手に徹していた。

「血腫の除去完了! これより縫合に入る」

(なんて素晴らしいんだ……。こんな偉大な医者は世界に二人といない……。嗚呼、貴方こそ……誰もが目を奪われていく、完璧で究極のスーパードクター!!

 そうゴローは心の中で絶賛するのだった。

「最後の頭皮縫合は……雨宮先生に任せる!」

「えっ?」

 一人に見惚れている中突然呼びかけられ戸惑うゴロー。

「譲介から聞いている。君も埋没皮内縫合法を極めていると。オレにその腕前を見せて欲しい!」

「はい!」

 

 

「んんっ……」

 無事に手術を終え病室に移されたかなはゆっくりと目を覚ます。

「気が付いた? かなちゃん」

 覚醒したかなの側には、優しく呼びかけるゴローの姿が。病室内には容態を見守っていたアイやさりなの姿もあった。

「せんせ、かなは?」

「頭の中に血の塊があったんだけど、あちらにおられるK先生が除去してくれたんだよ」

 そう病室の奥の方に立つ一人を紹介するゴロー。

「はあ、ありがとうございます」

 そんな一人に対しかなは杓子定規な挨拶をする。

「そうだ! 頭の傷は?」

「大丈夫。今は包帯に巻かれているけど、傷痕が残らないようオレがしっかりと縫合したから」

「せんせが、やってくれたの?」

「ああ。約束しただろ? 君の顔には絶対傷を残さないって。だからこれで安心して大女優目指せるよ!」

 優しくかなの手を掴み太鼓判を押すゴロー。

「そうなの。ありがとせんせ……」

 かなは頬を赤らめ、少し俯く。

(!? イヤな予感がする……)

 かなの仕草を見て、さりなは確信した。もし自分が同じシチュエーションになったら、確実にあの台詞を言うと。

「あのね、せんせ?」

「なんだい、かなちゃん?」

 

け っ こ ん し て !

 

 ゴローの手をぎゅっと握り星のように輝く瞳でゴローに告白するかなであった。

「あ゛ーっ! や゛っばりぃいぃぃっ!!」

 かなの告白を目撃した瞬間、さりなはアイドルにあるまじき奇声を発する。

「いやぁ、あのぉ……」

 何か物凄く既視感のある状況だなと困惑するゴロー。

「ダメダメダメェェェッ! せんせはね、私と結婚するの!!」

 ゴローとかなの間に割って入ろうとするさりな。

「ふ~~ん。いつ?」

「う゛っ!? さっ、30手前までには……」

 自分自身は今すぐにだが、母親とゴローの手前渋々と時期をぼかすさりな。

「あっそ。でもさー、アンタ10年後ぐらいにはババアじゃん。それに比べてかなは恋するJC!」

 女としての質は着実に自分の方が上になるとドヤ顔するかな。

「ヤダーッ! やっばり今すぐげっこんじようよぉせんせぇ~~!!」

「いや、10年経っても婚姻可能年齢には届かないから」

 マジレスするゴローであったが、涙目で腕にしがみ付くさりなの耳には届かなかった。

「モテモテだね、センセ」

 状況を微笑ましく見守るアイであったが、心の中では別のことを考えていた。

(あ~~あ。未就学児に嫉妬するなんて。独占欲強いなぁ、さりなちゃん)

 子供の告白程度でせんせの心が揺らぐはずない。ゴローのさりなに対する愛は、決して誰にも断ち切れない絶対的なもの。だから安心して私もアクアとルビーを預けられるんだと。

「さてと、〝アクアくん〟だっけ? かなちゃんに伝えることあるんじゃない?」

 あくまで見知らぬお姉さん設定を遵守しつつ、アクアの背中をポンと押すアイ。

「うん……!」

 アクアは決心してかなに近付く。

「あのっ、かなちゃん」

「あら? アンタは」

「ごめんなさい! オレがイタズラしたせいで、おおケガさせちゃって……」

 そう深々と謝罪するアクア。

「そこまで誠心誠意謝らなくっていいわよ。悪意があったわけじゃないんだし。ガキのイタズラにいちいち目くじら立てるほど、かな子供じゃないし」

「もう、おこってない?」

「当たり前よ。代わりに色々と得られるものがあったし」

「えっ?」

「痛み、死の恐怖。そして愛! たった数時間の間に、私は役者にとって必要なあれこれを体感できた! まさにケガの功名ってヤツね!!」

 結果として役者人生にプラスになったと、誇らしげな顔でアクアを許すかなであった。

「スゴいや、お医者さんって……」

 もしも傷が残ってしまったらかなは決して許さず、自分は生涯罪を負って生きることになっただろう。でも、おとーさんのお陰で全部上手くいった。医者というのはこれ程までのことが出来るのかと、アクアの胸には憧れが芽吹き始めた。

「そう言えばアンタ、なんて名前だっけ?」

 せんせの子供だから覚えていて損はないと訊ねるかな。

「アクア! 愛久愛海!!」

「えっ!?」

 こんなに素敵な先生なのにネーミングセンスは壊滅的なのと、ゴローとアクアの顔をキョロキョロと見比べるかなであった。

(何だよ、何だよ! これが、現実だって言うのかよ!?)

 山奥にある最新設備の整った診療所に、世界レベルの凄腕ドクター。一部始終を見ていた五反田は、自分の脚本が完全に負けていると降参する。

「アイ、さりな! 2人には申し訳ねぇが、撮影は少々延期する! こんなすげぇモン見せられて、今のままで映画撮れっか!!」

 急遽脚本を書き直しクオリティアップに努めると宣言する五反田であった。




「ゴローとK先生が邂逅する」という、作中におけるクライマックスな回ですね。
最新の「だが……今は違う!!」の台詞と共に最新医療技術を施すという、K2序盤の王道的な展開という形に描きました。
そしてかなの方はゴローとフラグ立てつつ、実はアクアともフラグ立てているという。原作における外見も中身も好きになるとかそんな感じです。

さて、一応最終回までの下書きは書き終えました。残り4話となります。ペースは今まで通り2日に1話となりますので、残り話数楽しんでいただければと思います。
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