「アンタには分かんないでしょ!? 単に自信が無いからって何ともない顔切り刻んで造ってもらったアンタには!! 私の顔の傷はここの医者じゃ治せないほど深いの! こんな顔じゃ、もう誰も愛してくれない……」
画面で激しくヒロインを問い詰めるのは、さりなが演じる村の農家の娘。当初の脚本では自分に自信のない女性が整形を受け美人顔になる。しかし、村で出逢った純朴な女性と出会い、本当の美しさを知る……という話であった。
しかし、かなの手術にインスパイアを受けた五反田が脚本を書き直し、村の娘が顔に通常の医者では元に戻せない深い傷を負ってしまったという展開になった。
「そんなことはない!」
そんな時だった。診療所の病室に現れたのは、長身のマント姿の男だった。
「誰!?」
「Kだ! この病院の整形外科医では手に負えんと助けを求められてな。オレの手にかかれば、君は絶対元の顔に戻る!!」
「……。いやぁ、撮影の時は気にならなかったんだけど、改めて通して見るとインパクトスゴいね! どー見てもお医者さんじゃなくて世紀末救世主だもの」
主演作である「それが始まり」の試写会を見終え、アイが素直な感想を述べる。
「監督がお母さんに頼み込んで、急遽著名なローマ人顔俳優のスケジュール確保しただけあって絵になってるなー。下手したら、私たちより話題になりそう」
良くも悪くもネタになって盛り上がるだろうなと、映画の出来に満足するさりな。
「……でさ、いつまでせんせの膝の上に乗っかってんの!?」
試写会の間、かなはずっとゴローの膝の上で鑑賞していた。いい加減降りなさいと喚くさりな。
「あら? 子どもが大人に抱っこしてもらえるのは当然の権利なんですけど? にっしてもアンタ、ヘッタクソな演技ねー。棒読みに毛が生えた程度じゃない? かなの方が断然上回ってるわ」
「ぐぬぬ……!」
かなの指摘は正論で、さりなの演技は辛うじて見られるレベルだった。もっとも、その素人振りが純朴な田舎娘のイメージには合致しており、五反田の期待に応えたとは言える。
「だけど……」
「だけど?」
「ケガしてベッドで慟哭を上げる演技は心が揺さぶられた。絶対に助からないって底無き深い絶望と悲しみは、神懸かっていたわ」
そこに至るまでの演技と比べて人が変わったかのような迫真振りは、流石のかなも素直に賞賛するしかなかった。
「ふふん! こちとらアンタが生まれてから今に至るまでよりもずっと長く病院生活してるの! 年季が違うのよ、年季が!!」
「いやそこ、張り合うとこ?」
マウント取る点じゃないんだけどなと苦笑するゴローであった。
「……。麻上くん、一つ聞いてもいいかね?」
試写会にはロケ地協力者ということで、T村の診療所の面々も招待されていた。映画を見終え周囲の感想を耳にした一人は、ボソッと麻上に訊ねる。
「何でしょうか先生?」
「病院にマント姿というのは、そこまで違和感のあるものなのかね」
関係者の感想の大半は、マント姿の医者のインパクトだった。Kの一族は裏表関係なくマント姿が基本であり、自分も父も外出の折は常に羽織っていた。己にとっての日常が周囲には奇天烈なものに映っており、一人は確かめざるを得なかった。
「え、えーと、それは。私たちは見慣れてますが……」
麻上が言葉を濁すほどに、一人の出で立ちは浮世離れしていたのであった。
公開された映画は関係者の予想通りK登場シーンが話題を呼んだ。K役の俳優はポスターにも掲載されておらずチョイ役扱いだったため、初見インパクト抜群でネタバレ禁止の注目映画と話題に上がった。無論B小町双璧の初主演、完璧な演技のアイと素朴ながら負傷シーンの爆発力のさりなも評価され、B小町の人気もうなぎ登り。ついにはドーム公演が決定したのだった。
「で問題は、センターを誰にするかだ。アイは最有力候補だが、さりなも捨て難い」
壱護は事務所にアイとさりなを呼び込み、どちらがセンターに相応しいか打ち合わせの場を設けていた。
「うーん。私とさりなちゃんどっちかとかじゃなく、私たちが背中合わせになって2人でセンターってのもどうかなー」
「おっ、それはナイスアイディアだな。一案として採用しておくぜ」
『……次のニュースです。朝ドラで主演経験のある俳優の姫川愛梨さんに不倫が発覚しました。同じく俳優で夫の上原清十郎さんが妻の人間関係に不審を抱き、息子のDNA鑑定を行った結果判明したそうです』
そんな中、テレビでは芸能ニュースのトップで不倫報道が報じられていた。
「まーたこの手の話かよ。相変わらず尽きねぇなー」
芸能界ではありきたりで特段驚く話題でもないと聞き流す壱護。
『上原さん! 奥さんの不倫に対してコメントは!』
『当然許せませんよ! しかしながら血は繋がっていないとはいえ、息子は今まで愛情注いで育て上げてきました。息子は責任持って俺が引き取ります! そのためにも離婚後法廷で親権を争います!!
『対する姫川さんは取材には応じず沈黙を貫いております。関係者の話では未成年との淫行に及んだ末の妊娠との噂もあり、青少年保護育成条例に違反してるのではとの……』
「かー! 年下の子どもに手ぇ出してたとか、救いようのねー淫売(ビッチ)だな」
「けど、上原さん偉いなぁ。全く血が繋がっていないのに、今までの愛情を否定せずに子どもと向き合おうとするなんて」
まるでせんせみたいだと感心するアイ。
「そういや上原と姫川って、お前がワークショップで世話になった」
「そーそー。上原さんは面倒見のいい人だったなー」
(待てよ!)
さり気ない会話の中、壱護はある気付きを得た。姫川の不倫相手は未成年の可能性もある。確かワークショップにはアイの一つ年下の子役も参加していたはずだ。
「まさか! お前の……!!」
「でさー。ドームの衣装なんだけど……」
アイを問い質そうとするも華麗にスルーされた壱護。アクアとルビーの父親は、姫川の不倫相手なのでは? そう思いかけたが、心の中にしまっておくことにした。
「いい? 2人とも。今日はドーム公演当日で忙しくてミヤえもん迎えに来れないから、代わりにせんせに来てもらうことになったよ」
ドーム公演当日。アイはアクアとルビーをゴローに預けてから家を出る予定でいた。
「あっ、せんせ来たかな」
そんな時インターホンが鳴り、アイは玄関の扉を開ける。
「よォ。久し振りだな星野アイ」
軒先に姿を現したのはTETSUであった。
「久し振りだねせんせぇ」
「ったく、ドアチェーンくらい付けろっての。万一ストーカーにでも襲われたらどうするつもりだ? アイドルのクセに不用心だな」
「これって防犯用なの? 施設では教えてくれたなったなー」
「もっともKの野郎だったら余裕で引き千切っただろうが」
「前々から思ってるんだけど、ホントにお医者さんなのかなぁ」
映画でのK先生もなかなかのインパクトだったけど、実際はフィクションより規格外だと思うアイであった。
「ところで連絡もなしに自宅に来るだなんて何の用?」
「今日はドーム公演だって聞いてな。サプライズってヤツだ」
そう言いTETSUは青い薔薇の花束をアイへと贈る。
「わー、キレイ」
「青い薔薇の花言葉は『夢が叶う』。ドーム公演を前にしたお前にはピッタリだろ?」
「せんせぇって意外とロマンチストー」
満面の笑みで花束を受け取るアイ。
「あれっ?」
受け取った瞬間、花束の中からボタボタとある物が落ちた。
「これはスマホ? 誰のかなぁ」
それも中に入っていたのは2、3個で、キョトンとするアイ。
「テメェの旦那のだよ。
「相変わらず抜け目ないね、せんせぇ。本題はそっち?」
「ああ! 双子のクソ親父とはキッチリケリ着けてきたからよ! 事後報告だ!!」
原作の上原夫妻の心中は「ドーム公演の打ち合わせ中」と壱護が言っている一方、カミキの回想ではアイが身籠もっている時期と原作でも時期にズレが生じているので、前者を採用した形ですね。
そんなこんなで心中ではなく不倫発覚となっているのは……誰が裏で暗躍していたかは察せられると思いますので、次回を楽しみにしていてください。