推しのスーパードクター   作:衛地朱丸

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サブタイトルは「鎌倉殿の13人」の最終回です。


カルテ14:報いの時

「ここが奴等の別荘か!」

 TETSUは軽井沢のとあるコテージに訪れていた。

「騒々しいな。ククク! 読み通りだな!!」

 TETSUはニヤリと嗤い、ドアを蹴破りコテージへと不法侵入するのだった。

「よくも! よくも今まで騙してたな!! 殺してやる!!」

「ぐっ……がっ……」

 コテージの中では憤怒の表情で姫川の首を絞めている上原の姿があった。

「そこまでにしておきな!」

 そんな中TETSUが仲介に入り上原の腕を掴む。

「!? 誰だお前!?」

「〝托卵〟の秘密を知る者、とでも言っておけばいいか」

 そう言いバサリとDNA鑑定結果を2人の前にばら撒くTETSU。

「鑑定書!? お前医者か?」

 まさか妻の不倫を探っていた者がいたのかと、戸惑い手を緩める上原。

「ゲホッ! ケホッ! あぅ……」

 締め上げから解放されるものの書類が何を差し締めているのか察し青ざめる姫川。

「『星野愛久愛海と上原大輝は同一の生物学的父親を持つ異母兄弟である可能性が高い』だと!? あいつ、まさか!?」

「察しの通りだ。カミキヒカルの子は他にもいる!」

「アイツの名を言うなぁぁぁっ! 可愛い後輩だと思って育て上げてたってのに、俺を裏切るようなマネしやがって!!」

「上原さんよォ。アンタの気持ちは痛いほど分かる。親しくしていた後輩に最愛だったはずの妻を寝取られた。いや、正確には手を出したのはアバズレの方か。いずれにせよ殺したいほど憎むのは正当な権利だ。だがよぉ!」

 上原の襟元をグッと掴み顔を寄せるTETSU。

「例え血は繋がっていなくとも、今まで育て上げてきた息子への愛情は本物だろうが! 子を残して夫婦共々彼岸に渡ろうなんざ、オレが決して許さねぇ!!」

「うぅ……ううう……あああああっ!!」

 上原の頭の中には大輝と過ごした日々が走馬灯のように蘇り、慟哭を上げながらガクッと膝を付く。

「もしも息子への愛情が残っているのなら、法廷で親権でも争うんだな」

 そう呟き姫川の方を見るTETSU。

「ケホッ! ケホッ! 助けてくれたのは感謝するけど、何のつもりよ! 大輝は私とヒカルの子よ! 清十郎なんかに!!」

「テメェが本当に可愛がりたいのはカミキの方だろ? ガキを手元から離れちまった愛玩物を繋ぎ止めておくための鎖だと思ってたんじゃねぇのか?」

「うっ……」

「ククク。安心しな! テメェの願いはオレがちゃんと叶えてやる。だから協力しやがれ!!」

 

 

(マズイマズイマズイマズイ! どうして死ななかったんだ!?)

 TETSUが上原の別荘に突入し不倫発覚のニュースが流れた夜、カミキは追い詰められていた。

 上原先輩に姫川さんに犯され子どもを孕ませてしまった真実を伝え、心中を促すのが当初の目的だった。そうすることで自分に辿り着けないようにする算段だったが、計画は狂いマスコミに報じられたことで、反って自分への包囲網が強まってしまった。

(クソッ! リョースケが失敗してから何もかも歯車が狂い始めた!!)

 アイが自分と別れたのは子どもが出来たから。だからお腹の子供さえ諦めれば戻ってきてくれる。そう思い、B小町のアンチサイトで実行犯を探していた。

(だが! アイが帝王切開する日を境に音信不通になった! 死んだニュースも聞かない。秘密裏に消されたに違いない! まさかドクターTETSUがこうまで手強かっただなんて……)

 リョースケの襲撃が失敗に終わって数ヶ月後、カミキの耳にはある噂が流れ始めた。どうやらドクターTETSUと呼ばれる芸能界の裏事情に精通している闇医者が、鏑木Pを使い星野アイの関係者の情報をかき集めていると。

 その話を聞いて、カミキは悪寒に駆られた。目的は間違いなく、リョースケを操り殺人を教唆した自分への復讐にある。何とか対策を講じて自分へ辿り着かないようにしたかったが、TETSUの闇ネットワークには到底太刀打ち出来なかった。

 焦燥感に駆られたカミキは、せめて自分が出来る範囲で証拠隠滅を計ろうと、上原に白状し姫川諸共消し去ろうとしていたのだった。

「! 愛梨さんから!!」

 そんな時だった。カミキのスマホに姫川からのメッセージが届く。

「『マスコミには沈黙を貫いているが、貴方との関係がどこから露呈されるか分からない。一度会って相談したい』だって」

 カミキはチャンスだと思った。愛梨さんと会い言葉巧みに心中を促し、自分だけ助かるよう画策する。これで少なくとも1人は消せると。

(方法は何がいい? 練炭を使って上手く吸わないようにするか? ともかく会って彼女の心を僕の虜にするのが先だ!)

 愛梨さんの僕への執着は尋常じゃない。だからこそ心中の話には乗ってくれるだろうと確信し、カミキは待ち合わせ場所の喫茶店へと赴くのだった。

 

 

「えっと、待ち合わせの席はあそこか。愛梨さんお待たせ!」

 喫茶店へと赴き、指定された席の前で笑顔で挨拶するカミキ。

「よォ。遅かったじゃねぇかクソガキ!」

「!?」

 だが、席で待ち構えていたのはTETSUで、戦慄を覚えるカミキ。

「まさかドクターTETSU!?」

 どうやってこの場所を!? いやまずは逃げなきゃと踵を返そうとするカミキ。

「えっ!?」

 だが気が付いた時には周囲を黒服の男共に囲まれていた。

「ククク。逃げようたって無駄だぜ。この喫茶店はオレが世話になってる組の経営でよ。今の時間は組関係者しか店にはいねぇ」

「なっ……」

 一見何の変哲も無い従業員や一般客に至るまで全てがと驚愕するカミキ。

「どっ、どうやって愛梨さんのスマホを手に入れたんだ!?」

「持ってねぇよ。オレは単にカミキのヤローを指定された場所に案内しろと指示を送っただけだ」

「!?」

 つまりは、上原先輩の心中が未遂に終わったのは裏でTETSUが暗躍していたからなのではと、たじろぐカミキ。

「とっくにテメェが黒幕だってのには気付いてた。だが、予定帝王切開日なんてピンポイントなタイミングを狙ってくるような慎重な野郎だ。だから関連人物の動向も探りながら機を伺っていたのさ! テメェが焦って尻尾出すタイミングをな!!」

「ここまで手の込んだことをして、僕に復讐するつもりか!?」

「いや。数年前オレの襲撃を扇動したことは別に恨んじゃいねぇ。だが、テメェが実の子を間接的に殺めようとしたことは許せん! キッチリと反省してもらうぜ!!」

 不敵な笑みを浮かばせながら立ち上がり、指をポキポキと鳴らしながらカミキへとにじり寄るTETSU。

「ぼっ、僕を殺すのか!? アンタ医者だろ!? 医者が殺人だなんて……」

「安心しな! オレは闇医者だ!!」

「ぐふっ!?」

 TETSUにみぞおちを蹴られ、カミキは意識を失うのだった。

 

 

「ここは?」

 目覚めたカミキの目に映るのは、アイの診断を行っていた廃院であった。

「よォ。寝心地はどうだったクソガキ」

「ぼっ、僕に何かしたのか!?」

「ああ。オレが若かった頃、某国の王様に頼まれてコールドトミー手術を行ったことがあってだな。そいつを施させると、痛みを一切感じない身体になってな。お前に同じことをした!」

「なっ、なんだって!?」

 ハッとして身体を見渡すと、確かに背中には包帯が巻かれていた。

「コールドトミーを施されるとな、痛みだけじゃなく次第に心も無くすんだぜ。ククク。散々他人の心を弄んだテメェに相応しい末路だと思わねぇか!」

「嘘だ! 嘘に決まっている!!」

 しかしあまりに突拍子もない話で、カミキはTETSUの虚言だと訴える。

「ほう? だったらその手の甲はなんだ?」

「えっ? あれっ?」

 カミキは左手の違和感に気付いた。まるで何かに引っかかっているようで上げられない。

「なっ……なあぁぁっ!?」

 すると左手にはいつの間にかナイフが突き刺さっており、シーツが血で染まり始めていた。

「誰が、誰がこんなことを……」

 よくよく見ると、そのナイフはベッドの下より伸びている手に支えられていた。息を飲み覗き込もうとする。

「カミキぃぃぃっ! よくも俺をハメやがったなぁぁぁっ!!」

「うわぁぁぁぁっ!?」

 すると、ベッドの下より生気の無い顔色をしたリョースケが這い上がって来た。

「東京湾の底は冷たかったぜぇ。テメェも同じ目に遭わせてやるよ!!」

「まっ、まさっ、リョースケ! やっぱり死んで!? だったらこれは夢? だけど違和感はあって現実? でもだったら、本当に痛みが……」

「さあ、一緒に水底へ沈もうぜぇぇぇ!!」

「ぎゃああー!?」

 ぬめりとした手が顔に近付き、夢か現実かの判断が付かなくなったカミキは錯乱し意識を失うのであった。

 

 

「名演技だったぜリョースケ!」

 カミキが沈黙するや否やパチパチと手を叩くTETSU。

「ハハッ! ザマーみやがれカミキぃぃぃっ! テメェのせいで俺はヤクザの子飼いになって二度とシャバの空気を吸えなくなっちまった! 復讐出来て清々したぜ!!」

 東京湾でスキューバダイビングとは頭を冷やせという意味合いでしかなく、不意打ちとはいえオレに一撃加えたのは見込みがあるとTETSUに助言を受けた若頭に腕を買われ、反社の鉄砲玉として仕立て上げられていたのであった。

「なかなかの猿芝居でしたなTETSU」

 TETSUに従い舞台を整え状況を見守っていた若頭が声をかける。

「オゥ、ご苦労だった。プロ顔負けのメイキング技術だったぜ」

 舞台演出を整える最後のピースだったと賞賛するTETSU。

「いやいや。TETSUの方こそ大したモンですよ。まさか局部麻酔でコールドトミーを装うとは」

「ククク。いいか、よく覚えておくんだな小僧。嘘ってのはな100%のブラフじゃダメなんだよ。数割の真実(ガチ)を交えつつ、いかに(フェイク)本当(マジ)に見せるかの演出が肝心なんだよ!!」

 カミキを貶めるためのTETSUの虚実は以下のようであった。

 

■真

・TETSUの指示による姫川からカミキへの伝言

・喫茶店が反社の経営であること

・若りし頃のコールドトミー手術とその効能

・東京湾でスキューバダイビングさせられたリョースケによる刺突

 

■嘘

・喫茶店の一般客は組関係者ではなくカタギ

・コールドトミー手術ではなく、手甲部への局部麻酔

 

 話のおおよそ3分の2は真実であり、それらが決め手のコールドトミーが虚位であることを見事にコーディングし、カミキを追い詰めることに成功したのだった。

「ってぇ、聞こえちゃいねぇか」

「しかし、コイツの処遇はどうするんですTETSU。使い道のあったリョースケと違い、こんなメンタルがイカレちまった奴は箸にも棒にもならねぇ。山か海に捨てるしか」

「ククク。その点は心配ねぇ。コイツの介護人はちゃんと見定めてるぜ!!」

 

 

「……。以上が、事の顛末だ」

「ふーん。成程ねぇ。せんせぇの話で、今彼がどこでお世話になってるか分かっちゃったかなぁ」

 軒先で事の一部始終を聞き、アイは静かに頷く。

「察しがいいな。会おうと思えば会えんことはないが、どうする?」

「ううん、会わない。だって、我が子を亡き者にしようとする父親なんて有り得ないもの」

 自分もせんせも父親の顔は知らない。だけど、産まれてくる子供に危害を加えるようなことはしなかった。彼は間接的とはいえ禁忌を犯した。だからその時点で復縁は完全に途絶えたと。

「それにね、あの子たちには血の繋がった父親はもう必要ない。だって……」

「こんにちはー。アクアとルビーを迎えに来たよー。って、ドクターTETSUじゃないですか? あなたもアイに何か用が?」

 TETSUの背中より聞こえるゴローの声。

『あっ、おとーさんだ、おとーさんだ!!』

 その声を聞くや否や、とてとてと支度を整えたアクアとルビーが軒先に姿を現した。

「おっ! もう準備出来てたか。じゃあ2人を連れて先にドームに行ってるんで」

「うん。またねせんせ」

 そうアクアとルビーを引率するゴローに偽りのない笑顔を向けるアイ。

(そう――。だってあの子たちにはこんなにも愛情を注いでくれる〝父親〟がいるんだもの。だからさようなら、ヒカル――)




当初は本当にコールドトミー手術を行う展開だったのですが、原作の末路を鑑みて「カミキは嘘によって倒されるべき」だと思ったので、装ったとなりました。

この物語はアイとTETSUが出会ったことから始まったので、その元凶となったものとの決着により終焉を迎えるという形ですね。

残り2話はラスボス戦後のエピローグという感じになります。最後までお付き合いくださいませ。
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