この度めでたく『推しのスーパードクター』が同人誌になりました。
C108を皮切りに、他の即売会でも頒布予定となります。
連載作品の他、新規書き下ろし5編を含めた、計172Pの本となります。
告知も兼ねまして、書き下ろし3編を順次公開いたします。
今回は書き下ろし2編目になります。
概要は下記のようになります。
判型:B6
ページ数:172P
価格:1200円(イベント)、税込1600円(同人ショップ)
表紙絵挿絵:anじぇらさん(https://x.com/jeraART)
表紙装丁:ホログラムPP
挿絵枚数:3枚
■C108頒布情報
委託先サークル:北謳寮通信社(08/15南2ホールd26b)
■メロンブックス様、フロマージュ様委託先情報
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3763549
「そうか。故郷に帰る決心が付いたんだね」
「ええ。あの子たちも高学年になります。親が不在でも家でお留守番出来る年齢です。俺が父親の代わりをする必要もないでしょう。さりなちゃんの卒業に合わせて宮崎で開業医として再出発します」
アクアとルビーが小学五年生になるのを機に富永総合病院を去る決意を語るゴロー。
「気が付けば君がオレの所に赴任して十年近くになるのか。まさかKとT村で過ごした時間より君と一緒の方が長くなるとはね」
「ええ。龍太郎君も流石はK先生の直弟子なだけあり、目覚ましい成長振りです。俺が抜けても富永総合病院は十分やっていけるでしょう」
「彼の父である高品龍一先生も勤務医から小さな診療所を経て、今や総合病院の医院長だ。医者の家系でないのに自分の病院を持つのは大変だろう。だけど素晴らしい前例があるんだ。頑張れよ!」
そう富永は肩をポンと叩き、過ぎ去ろうとするゴローに最大限の賛辞を送るのだった。
「えっ!? 辞める!? ウソでしょそんな!?」
アクア伝いにゴローの退職を聞いたかなは愕然として、一心不乱にゴローの元に駆け付けようとプレイルームを去る。
「そっか。あの子知らないんだな。お前はどうすんだ?」
ゴローとアクアたちの関係を知らされていた龍太郎は、双子の今後に対して訊ねる。
「表向きは父さんの子供だからな。もうここには顔を出せないな」
「そっか。短い間だったけど、若い弟子が出来たみたいで楽しかったぜ。アイが真相を話さない限り、お前が医者を目指せば世間は雨宮先生の子として見る。親が偉大過ぎると何かと比較されて、しんどくなることもある。けど、まあアクアの場合顔似てないから大丈夫だろう」
自分の場合親と瓜二つなこともあり余計に偉大な高品院長のボンクラ息子として見られていたと、苦々しい思い出を語る龍太郎。
「それにしても、ここに来られなくなるのは痛手だな。医学の知識を直に学べたのに」
暇を見ては看護師や医師と言葉を交すことが出来、医者を目指す自分にとっては大いなる励みになった。その機会が失われてしまうのを残念がるアクア。
「心配すんなって! 親父の所で働いてる、もう一人のKが代わりに面倒見てくれるって。俺自身一度しか会ったことねーけど、奴なら快くお前に指導してくれるだろう。何せ、母親の腹ん中からお前を抱き上げてくれた当人だろ」
「そうだ。一也さんがいた。アドバイスありがと、高品先生。何十年先になるかはわかんねーけど、医者になったら絶対にアンタの所に顔出すよ!」
そうアクアは龍太郎と別れの挨拶を済ませるのだった。
「せんせ!! ヤダヤダー! 行っちゃヤダー!!」
一方その頃かなは、院内でゴローの姿を見かけるや否や背中にギュッと抱き付き白衣を涙で濡らす。
「かなちゃん! アクアたちから聞いたのかい?」
「うん! うん! 単に辞めるだけじゃなくて、宮崎なんて遠い所に行っちゃうんでしょ!? どうしてそんな辺境の地に行っちゃうの!? かなのこと、キライになったの!?」
一目惚れで初恋の人が二度と会えないような遠い地へ旅立ってしまう。その事実が受け入れられず、演技ではない本当の涙を流し続けるかな。
「そうじゃない。君のことは嫌いじゃないよ。ここで会う度アクアとルビーのお姉さん代わりをしてくれたことは感謝してる。アクアは不意に君を傷付けてしまった心傷を同じ時を過ごすことで払拭出来ただろうし。ルビーだって子役の君から演技示指導受けて、アイドルになるステップの大きな励みとなっただろうし。子供たちを良くしてくれて今まで本当にありがとう、かなちゃん」
二人の父親であるという世間体を意識しつつ、かなの頭を優しく撫でながら数年分の感謝を伝えるゴロー。
「でも、でもぉ!」
嫌いじゃないと語ってくれたのは嬉しい。だけど、〝好き〟だとの言葉は結局導き出せなかった。
分かっている。ゴローの心には既にさりながいて、それは絶対に誰にも引き剥がせない完璧で究極の絆だと。
そう心のどこかで理解していても初恋を諦めることは出来ず、必死に抗い続けてきた。だけど、今の間柄が終わってしまえば失恋に他ならないと、腑に落ちず泣きじゃくるかな。
「いいかないかなちゃん? 君は子役として多くの人々に笑顔と希望を与えている。だけど、テレビやネットでエールを届けられる女優と違って、医者の助けられる人は自分の手の届く範囲内に限られる。都心には富永先生や高品先生のような立派なお医者さんは沢山いる。だけど、地方に行けば行くほど優秀な医師の数は限られる。だからねかなちゃん、俺は少しでも生まれ故郷の医療の一助になりたいんだ」
それがドクターKに命を救われた自分の生涯を投じる使命だと、熱くかなに語りかけるゴロー。
「でも、でもぉ!」
やっぱりせんせは素敵な人だ。こんないい人とはもう二度と出会うことは叶わないだろう。だからこそ、この初恋は終わらせたくなくて、かなは必死に寄りすがる。
「大丈夫だよかなちゃん。君は大女優になるんだろ? 今後も俺は君が活躍するドラマや舞台は欠かさず見続けるよ。君が女優の道を歩み続ける限りは、俺たちの絆が途切れることは決してないよ。君もまた、俺にとっての【推しの子】だから――」
例え遠くに行って離れ離れになってもずっとずっと推し続けると宣言するゴロー。
「せんせ……。うっ……」
告白とも受け取れるゴローの言葉を聞いたかなはスゥっと泣き止み、自らの袖で涙を拭う。
「じゃあ約束して! かなが女優を諦めない限り永遠に推すって!!」
そう自らの右小指をゴローに差し出すかな。
「うん。約束だよ」
そうゴローは満面の笑みで指切りするのであった。
「みんなー! 今日は私たちの卒業ライブに来てくれて、本当にありがとー!」
年が明けた二月十四日バレンタイン当日。日本武道館において、アイとさりなのB小町卒業ライブが盛大に催された。
「私
ステージで卒業後の進路を語るさりな。
天宮サリーとは、さりなの芸名だ。本名をベースに魔法少女っぽさを意識したというのが表向きの理由だが……真意はゴローの苗字に自分の苗字をフュージョンさせるという、是が非でも結婚するというクソデカ愛情を発端としていたのだ。
「サインは~~B! この挨拶も今日で最後か。私はサリーと違い卒業後はソロアイドルとして活動を続けます! 生涯現役をモットーに、アイの活躍はまだまだ続くよー! みんなー! 一生涯推してねー!!」
一方のアイはグループ活動から離脱するだけでアイドル継続を宣言する。
「生涯現役ってあと何年続ける気だよ。還暦過ぎたババアになっても続けるってんなら絶縁すんぞ……」
最前列でステージを見守っていたアクアは、パフォーマンスであることは承知の上で、若干引き気味であった。
「しょうがい? 意味はよくわかんないけど、ママはまだステージに立ち続ける。よーし! 私だって!!」
いつかはアイドルになりアイの側に並び立つことを夢見るルビーであった。
「うわぁぁぁん! 良がっっだねぇざりなちゃぁぁぁん!!」
一方のゴローは完全に情緒が崩壊していた。夢にまで見たB小町所属となり、アイとツートップとなった。そして一緒に卒業。完璧で究極のグランドフィナーレを迎えたと。十数年に及ぶ軌跡が走馬灯の様に脳内を駆け巡るのだった。
「私たちがいなくなってもB小町は大丈夫。なんてったって新進気鋭のニューフェイスが加わってくれたから!」
「前に出て来て、MEMちょー!」
「どもどもー。いやーメンバーになってまだ二年も経ってない駆け出しなんだけど。後輩として憧れのB小町で二人歌い踊れたのは、最上級の幸福でした。二人が抜けた穴を埋めるどころか前方後円墳造るくらい盛り上げて、センター目指しまーす!」
アイとさりなに呼ばれ、メムはステージに上がり抱負を語る。
過労で倒れ富永総合病院に入院したメムの母親は、担当医だったゴローに身の上話をし、アイドルを目指している娘がいる旨を語った。するとゴローからB小町の新メンバー募集中の話を聞き、オーディションに合格し加入したのであった。
「そういう訳で、今日は将来の予行練習を兼ねて、MEMちょセンターで歌うよー♪」
「ヒッ、ヒエー! 偉大なお二方両サイドに歌うのはー!!」
アイに促され戸惑うメム。無論シナリオ通りの台詞なのだが、畏れ多いと思っているのは本心であった。
「それじゃあ歌うよー! サインはB!!」
そうしてさりなが曲名を宣言し、卒業ライブは佳境を迎えるのであった。
「ふぅ。引き継ぎの資料作成、まだまだかかりそうだな」
卒業ライブが幕を閉じた数日後。ゴローは深夜遅くまで残務処理に当たっていた。
「ん? アイからメッセージ。珍しいな」
そんな時だった。アイから富永総合病院に向かっている連絡がゴローの元へと届く。
「こんばんはー。元気にしてる、せんせ」
「ああ。極力病院に顔を出さないよう努めている君が訪れるなんて。何か話でも」
「うん。どうしてもせんせに伝えておきたいことがあって。屋上いいかな?」
「ああ」
そうして二人は一緒に屋上へと向かう。
「うーん。懐かしいなぁ。こうしてせんせと屋上で話すのも十年振りかー」
「そうだね。思えば数奇な巡り合わせだったな。さりなちゃんと一緒に君の行方を捜したら、俺が出産の担当医になって。そして二人の父親代わり」
「迷惑だった?」
「いや。ただ、正直不安はあった」
「不安?」
「ああ。俺は父親の顔を知らない。密かに俺を自宅で産もうとした母はドクターKに助けられた。そんなだから母は一切父親の名を口にせず、会わせようともしなかった。別に父親に会いたいだなんて、これっぽちも思ったことはないし、ドクターKの背中を追うのが代替になった。そんな俺に、父親の真似事が出来るのかって」
「そうなんだ。私と同じだったんだね……」
静かに頷き、ゴローに背中を見せるように星空に目を向けるアイ。
「私の母も、どこぞの誰かと寝た時に私を孕んだ。母との仲も良くなくて、家族なんて要らないなんて思ってさえいた。そんな中私はアクアとルビーを授かって母親になれたんだけど、あの子の父親は自らの子を殺そうとする親失格の人だった。私は母親は出来るけど、父親の代わりは無理。どんな存在かさえ知らなかったんだから」
「そうだったんだね。俺は、二人の父親を上手くやれていただろうか?」
「あははっ。今更心配することかなぁ。この十年、せんせがアクアとルビーと血の繋がりのない赤の他人だって疑った人、誰一人としていなかったよ? それはあの子たちが心から慕っていたからだけじゃなく、せんせが精一杯父親を務めてくれたからだよ。胸を張っていいよ。あなたは紛れもなくアクアとルビーのお父さんなんだって」
そう振り返り、満面の笑みを向けるアイ。
「ありがとう。でもその役目も、後ちょっとで終わるなぁ」
自分で決めたこととはいえ、少々寂しさを抱くゴロー。
「何言ってるのせんせ? まだまだだよ」
「えっ」
「確かに富永総合病院に預ける名目での役目は終わったよ。だけど授業参観や運動会に卒業式。父親やってもらうイベントは、まだまだいっぱい控えてる。二人が成人するまで続けてくれなきゃ困るよ」
「てっきり君は卒業と同時に二人のことを明かすとばかり」
「ドクターTETSUが求めてきた報酬は、『成人するまでの間稼いだ額の一割』。私はそれを二人が大人になるまで秘密を隠し続けてアイドルを続けろって受け取った。もちろん、実際産んでくれたのはせんせ。TETSUは報酬は要らないって言ってくれたんだけど、その約束が私は絆だと思っているから。お金は頑なに受け取ってくれないから代わりに二人の将来のお金にって毎月一割ずつ貯金してるし、正体も明かさないって心に決めてるんだ」
「……。君は辛くないのない? あと八年も母親として表に出れなくて」
「そりゃね、思うところはあるよ。小学校の入学式は見たかったし、授業参観でルビーのママ若すぎないって言われたいとか。コソコソ隠れてるんじゃなくて、お天道様の元でお母さんしたいなーって。だけど、」
「だけど?」
「だけど、子供は産む、アイドルも続ける。それがアクアとルビーを産もうとした時心に決めたことだから。その大切な最初の一歩を無下にしたくないから――」
まっすぐとゴローを見つめるアイの瞳はどこか寂しげで。だけど芯の太い決意を感じさせるものだった。
「それが伝えたかったことかい?」
「そそ。今までありがと、これからもよろしくねって」
伝えたいことは全て話したと言わんばかりに、先んじて屋上を後にしようとするアイ。
「あっ、そうそう。肝心のお礼を渡すの忘れてた」
「お礼だなんてそんなの」
何も要らないと断ろうとするゴローだったが。
「これが私の、精一杯の気持ち――」
振り返り、アイはおもむろにゴローの頬にキスする。
「えっ?」
一瞬何が起きたのか分からず戸惑うゴロー。
「どうだった? 今をときめく元B小町ツートップ星野アイの、究極のファンサ! これ以上のサプライズはないでしょ?」
「いや、あの、その……」
ドッキリにしてはやり過ぎではと慌てふためくゴロー。
「なかなかの名演技だったでしょ? 今日のことは二人だけの秘密だよ? せんせ」
そう言い残し、スタスタとアイは屋上を後にするのだった。
「……。あー。えーと。しっ、仕事!!」
確かにさりなちゃんには言えないなと思いつつ、ゴローは事務室へと戻るのであった。
(ふふっ。せんせってば、いい年して顔真っ赤にしちゃって。カワイイなー)
一人静かに富永総合病院を後にするアイ。一見平静を装っていたが、その心はときめいていた。
(初めて会った時、壱護社長は言ってくれたなぁ。皆愛してるって言っている内に、嘘が本当になるって……。アイドルは嘘の愛を本当にするのがお仕事。私のせんせに対する想いは本物。だからこそ……)
「せんせへの愛は、嘘じゃなきゃいけない――」
と――。
「さよなら。アクアにルビー」
出発当日、ゴローは別れを告げにアイの家を訪れていた。空港ロビーで見送りたいというアクアの要望はあったが、万が一の身バレを防ぐため、軒先での離別となった。
『うん、さよならお父さん』
そうしてアクアとルビーは声を合わせてゴローを見送るのだった。
「行っちゃった。血はつながっていないけど、ぽっかりと心に穴が空いたような、そんな気もち……」
二度と会えないわけではない。だけど生まれてこの方、毎日のように眺めていた顔が見られなくなることに、ルビーは寂しさを感じた。
「ううっ。さよなら、さよなら……」
一方のアクアは、必死に堪えるしかめっ面で手を振り続けていた。
「アクア。泣きたい時は泣いていいんだよ」
アクアの心境を察し、アイは静かに促す。
「泣がない。俺は男だから、泣がない……」
嗚咽混じりの声になりながらも、アクアは必死に涙を堰き止めていた。
「意地っ張りだなぁアクアは。じゃあモノマネやってみようか?」
そんな時、唐突にアイは突拍子もない提案をする。
「モノマネ?」
「そそっ。10秒で泣ける天才子役の。アクアは演技力ないから、かなちゃんよりずっと時間かかっちゃうかな?」
「ぞんなごどない! 俺だったら五秒で……。うっ、うっく……お父さ……うわぁぁぁん!!」
あくまでモノマネ、本当の涙じゃない。その提案が意固地な心を破り、アクアは堰を切ったように大粒の涙を流し出す。
「アクアの泣き虫……。もう少しガマ……うわぁぁぁん……」
そしてアクアに釣られるようにルビーも泣き出すのだった。
(まるで永遠の別れかのような涙。本当に慕われているんだね、せんせ。こうまで二人に愛されてるんだから、また絶対来てよね!)
そう心の中で呟くアイの瞳も、うっすらと涙で濡れていたのだった。
「わぁ~~! 離陸したぁ~~! どんどん町が離れてく~~!!」
宮崎へと向けた飛行機が羽田を飛び立つや否や、さりなは子供のようにはしゃぐ。
「遠征ライブの時何回か乗ったことあるだろ?」
「そうだけど。でもでも九州でライブって言えば福岡だから、宮崎は一度も行く機会がなくって。はぁ~~。やっとせんせの故郷に行ける~~!!」
隣に座るゴローに、さりなは無垢な笑顔を向けながら喋り続ける。
「ご両親と当面会えなくなるのは寂しくない?」
「全然! 入院していた時、まったく顔出してくれなかった時に比べれば」
「そう、だったね……」
日に日に弱まっていくさりなを拒絶するあまり、容態が悪化するに従い両親は徐々に見舞いの間隔が空いていった。もしも助かる術がなかったら、今生の別れの時でさえ姿を現さなかったのではと、ゴローはあり得たかもしれない結末に悪寒を抱く。
「それにしても、これで一安心」
「何か心配事でも?」
「有馬かなよ! あのメスガキったら事ある度にせんせに色目使ってさ! これでもう怯えなくて済むと思うと清々するわ」
「あはは。かなちゃんはまだ子供なんだし、杞憂だって」
「せんせ、全然分かってない!!」
ムキになってゴローに反論するさりな。
「あの子はもう、私とせんせが出会った年なんだよ! しかも恋心を抱いたのは四歳の時! 私より全然小さい頃より、ずっとずっと想いを抱き続けてた! 私はもうアイドルとしても女としてのピークも迎えようとしていた時、あの子はどんどん演技にも磨きがかかって少女としての魅力も増していった。あと五年もすればせんせを寝取られんじゃないかって心配で……」
「確かに。演技力が洗練されていってるのは肌で感じている。五年後には間違いなく大女優の一歩手前にはなってるだろうさ。その成長を見るのが楽しみで、推してる子の一人であるのは間違いない」
「ほら!!」
「だけどさ。『推しの子が愛する人であるとは限らない』。俺の心の中ではずっとずっとさりなちゃんが一番星だった」
「せんせ……。じゃあ証拠見せて!!」
「証拠?」
「うん! 今からキスして!!」
顔を真っ赤にしながらも覚悟を決め、しっかりとゴローと視線を合わせるさりな。
「ええー! まだ飛んでる途中だって。そういうのは二人きりの時に……」
「心の底から愛してるのなら、場所なんか関係ないでしょ!!」
「それはそうかもだけど心の準備が。少し考えさせて」
「分かった。準備が出来たら声かけて!」
さりなは少々不服な表情で、ぷいっと窓の方に顔を逸らす。
(落ち着け、落ち着けゴロー。ここは公共の場だ。もし万が一前後左右の席に芸能記者が座っていたら、一巻の終わりだぞ!?)
芸能界を去った今のさりなは元アイドルの一般人に過ぎず、現役アイドルと比べてスクープ性は著しく欠ける。第一まりなは広告会社勤務継続中で以前より役職が上で、そういったゴシップ記事はあっさりと闇に葬れる。
心配事は何一つないはずなのだが、ゴローは緊張のあまり否定的な根拠ばかり模索するのだった。
「よ、ようし! や、やるぞー!! さりなちゃん!!」
二十分ほど経過し、ようやく決心の着いたゴローは覚悟を決めてさりなの方に顔を向ける。
「すぅー。すぅー」
するとさりなは待ちくたびれて眠りに就いていた。
「さりなちゃん。素敵な笑顔だね……」
当直時、ゴローは欠かさず就寝後のさりなの顔をコッソリ見に行っていた。日に日に弱っていき、この純粋無垢な寝顔が永遠に見られなくなるのでは? そんな恐怖と不安を抱きながらも、また明日も笑顔を向けてくれることを願い続ける日々だった。
「こんなに安心して君の寝顔を見られる日が来るだなんて、夢にも思わなかった。ゆっくりとお休みさりなちゃん。安心して。俺は君を絶対に手放さない。ずっとずっと側に居てあげるから……」
そうゴローは慈愛に満ちた顔で優しくさりなを全身で覆い尽くすように、そっと抱き上げるのだった。
連載当時は完結を優先して3人のヒロインのゴローに対する想いの結末を書いていなかったと思い、その辺りを補完する話となります。
原作を読めばゴローの愛がさりな以外のヒロインに行くはずがないと理解出来るので、アイとかなはどう対応するか。
アイは最初会った段階でゴローが心変わりするはずがないと察したからこそ、あくまで子供たちに愛情を注いで欲しいとの距離感を保っていた。
ただ、10年も実の子のように可愛がってくれたゴローに何も抱かないはずがなく。愛情を嘘として伝える。
対しかなは子供なので負けるもんかってさりなに噛み付く。
そして原作はかなからアクアに対して心の中で「アンタの推しの子になってやる」。だから今作ではゴローからかなに直接伝える。
また、「永遠に推す」は、原作のゴローが肌身離さず身に付けていた「アイ永遠推し」のキーホルダーから。
その約束は祝福であり、そして同時に呪いであると。
さて、公開する書き下ろしは次回で最後になります。今までとは趣向が異なる話になりますので、楽しみにしていてください。