「何とかならないんですか! この病院の施設なら出来ないことないでしょ!?」
日に日にさりなの体調が弱まり刻一刻と死が近付く中、ゴローは必死に訴える。
「うむ、しかしだな……」
院長である富永進太郎は言葉を濁し、なかなか首を縦に振ろうとしない。
「難関手術で誰にも執刀出来ない! そう言いたいのは分かってます! だけど彼なら、ドクターKなら絶対に!!」
「! 君は知っているのかね、K先生のことを」
「はい! 俺と母の命を救ってくれたのが、他ならぬK先生ですから!」
そうしてゴローは語り始める。Kのことを。
「母は俺を身籠もっていたことを親に隠してて、自宅で産気付いて意識を失いそうになったと聞いています。そんな時、偶然彼が通りかかったそうなんです」
病院までは持たないと思ったKはその場で緊急処置を行い、母子とも健在で無事に出産。二人を近くの病院に預け立ち去ったとのことだ。
「朦朧とした意識の中で、母も顔をよく覚えていないんだそうです。だけど、特徴的なマントを背負った筋肉質な男であったことはおぼろげながら記憶していて。後に病院の方から聞かされたそうなんです。彼こそが伝説の名医と称される、スーパードクターKだって……」
そうしてゴローは母子家庭で父親の顔を知らないまま育てられた。そして自分を救ってくれたKのように産まれて来る子供たちの手ほどきをしたいと、産婦人科医を志すようになった。
「院長こそK先生を知っているのなら、今すぐに呼んでください! 彼なら!!」
「いや、Kの手を借りなくても出来るよ」
「そんな時だったんだよ。富永先生が帰って来たのは……」
富永院長の実子、富永研太。無医村で自ら志願して医者を務めている話はゴローも聞いていた。初めて会う彼が自信満々に答えることに、ゴローは不安を抱かずにはいられなかった。
「だけど、富永先生はやってのけた。K先生の腕を借りるまでもなく、自らの手で……」
助手として手術に立ち会っていたゴローは、その高水準な執刀技術にただただ舌を巻くばかりだった。
「富永先生、本当にありがとうございました! さりなちゃんの命を救ってくれて!!」
無事手術を終えた後、ゴローは富永に深々と感謝のお辞儀をする。
「難手術だったけどね。君のサポートもあって何とかなったよ」
「そんな! 俺はただただ見ているだけしか出来なくて。さりなちゃんの主治医だってのに何にも出来なくて……」
富永の素晴らしさに心打たれる反面、ゴローは自らの未熟さに挫けそうになっていた。
「そんなことはないさ。君が側で支え続けていたからこそ、さりなちゃんは現世に踏み止まれていた。彼女が生きるのを諦めていたらオレは間に合わなかったかもしれない。雨宮先生、君は立派に務めを果たしたんだよ」
「富永先生……。なれますか? 俺も、あなたみたいな立派な医者に」
「はは。オレはそんな大した医者じゃないよ。Kに比べたら全然。だけど……」
「だけど?」
「大切なのは人を救いたいっていう意思だ。技術なんてのは後からいくらでも付いてくる。オレがそうだったようにさ。だからなれるさ、君も絶対に!!」
「せんせぇ……」
ポンと頭に手を当てて励ましくれる富永の胸に抱かれるように、ゴローは感涙したのであった。
「その後富永先生は病院に戻られて。その後の数ヶ月だったけど先生の指導を受けられて幸福な日々だったなぁ。俺が研修医を終えてしばらくしてから院長なったんだけど、あの腕ならあの若さで院長務められるのも納得だよ」
「成程。BLですね!」
「男の純粋な憧れをそういう風に表現するの、やめてくれないかなぁ」
話を聞いていた看護婦の腐った心が火照ったことに、ゴローは辟易とするしかなかった。
「それにしても、研修医を務めていた病院の跡取り息子が恩人の知り合いだなんて。偶然が過ぎますね」
「いや、聞いた話では、俺を助けてくれたK先生と富永先生の恩師であるK先生は別人らしい。Kってのは類い希なる医療技術を持った医者の家系の愛称みたいでさ」
そんな雲上人には到底なれない。だけど富永先生のようにはと、ゴローは時間を見つけては医療文献を漁り、富永から送られてくる研修医向けのDVDを見ながら研鑽を重ねていたのだった。
「さて昼休みも終わりだ。仕事に戻ろっと。ん?」
病室を後にし診察室に戻ろうとした最中、ゴローのスマホの着信音が鳴る。
「さりなちゃんからか。今日の活動報告かな?」
退院後のさりなは、憧れだったアイドルの道を目指し、苺プロダクションでアイと同じグループのB小町の所属ユニットとしてデビューを果たした。当初はグループを構成する一要員に過ぎなかったが、富永先生の手術が医療ドキュメンタリー番組で取り上げられ、難病を乗り越えた奇跡の子当人だと知れ渡ってからは一躍名の知られる存在となっていた。
ゴローはさりなと今でも交流を続けており、定期的にメールを交わし、時には電話で愚痴を聞いたりもしていた。
「君がトップアイドルを目指すように、俺もいつかはスーパードクターに……!?」
さりなから送られてきたメッセージを見て、ゴローは血相を変える。
「すみません! 急用が出来たんで2、3日休みます!!」
中途退勤するほどまでにゴローは焦りを感じていた。さりなからのメッセージには、たった一文書かれているだけだった。
せんせ、助けて
と。
クロスオーバー物書く時、両作品のタイトルを合わせるのはよくやるのですが。当初は「Kの子」にしようと思ってました。
ただ、申し子的な文脈は含められると思いつつ違和感あるなとも思い、逆に「推しのスーパードクター」になりました。
ゴローがアイドルを推す代わりにスーパードクターな面々を推すというコンセプトなので、こちらの方がしっくりくるなと。
さりなちゃんをK2キャラを救うというのは他の方も書いているのですが、ゴローの母親まで遡るのはあまりないのではないかと。
そんなタイミング良く現れるのかってツッコまれそうですけど、例のカラスをゴローの母親が助けたから、転生の代わりに宮崎訪れてたK先生を呼び寄せたとかそんな感じです。