「よォ。久し振りだな。元気にしていたか譲介」
「……。何しに来たんです? あなたのことだから僕がK先生の所で息災にしているか様子を見に来たわけでもないでしょうし」
N県T村の診療所を訪れたTETSUに、譲介はやや冷ややかな視線を向ける。
「察しがいいじゃねぇか。実は俺は今ある患者を抱えているんだが、実に興味深いガキでな。一度お前に会わせてみたいと思ってな」
「それは村での回診より優先させてまで行くほどの価値がある患者だと?」
この人の患者となれば、普通の症例ではないことは察しが付く。K先生での勉学より優先度の高い案件かどうか、譲介は探りを入れてみることにした。
「ああ! お前のように母親に捨てられた孤児。しかも妊娠中だ」
「!!」
TETSUの言葉に譲介の心は揺れ動く。さっきTETSUはガキだと言っていた。つまりは未成年の出産であるということだ。
「成程。確かにそれは興味深い。赴いていいかK先生に許可を取ってきます」
そう言い譲介は踵を返す。
「……。そういう訳でいかにもあの人が抱えそうな患者なんですが」
「あいつのことだ。お前の心境に何かしらの変化をもたらすことを期待しているのだろう。今日は急患もいないし、別に行っても構わん」
「ありがとうございます」
そうして譲介は一瞥し、TETSUと共に廃院へと赴くのだった。
「む?」
TETSUの車が走り去ってからしばらくしてのことだった。診療所に一本の電話がかかってくる。
『久し振りK!』
「富永か! お前の方から連絡を寄越すとは珍しいな」
戦友からの久々の一報に、一人は柔らかい口調で応対する。
『実はかくかくしかじかそういう訳で、TETSUの現在の居場所について知らないッスかね?』
「TETSUか。今しがたいずこかへ譲介を連れて行った所だ。恐らく奴の患者はお前の話にあったアイだ。こちらから譲介に連絡しておく」
『ありがとうございます! 今回のお礼はまた会った時に』
そう言い富永は通話を切るのだった。
(そうか。さりなに雨宮。お前があの時助けた少女と、お前の背中を押してくれた医師か。雨宮は確かKAZUYAさんが助けた子だったな。であるならば会わせなければなるまい)
雨宮とTETSUの出会い。これは新たな変化を生み出しそうだと、一人は譲介のスマホにメッセージを送るのだった。
「お前の他に一也にも会わせてやりてぇ。連絡は付くか?」
一方その頃。移動中のTETSUは譲介に一也へのコンタクトを促す。
「お腹の子供たちの父親はあなたも知らないってことでしたよね。成程、意図が読めましたよ」
アイ本人ではなく双子の境遇を考えてのことだろう。そう察し、譲介は一也にメッセージを送ろうとする。
「!」
そんな時だった。ちょうど一人のメッセージが届く。
「くくく」
「どうした? 薄気味悪い笑み浮かべて」
「いえ。K先生からメッセージが来まして。『普段の診察はともかく、肝心の帝王切開は設備の整っていない廃院でやるのか』と指摘が」
「フンッ! その時はどこぞの病院を間借りでもすりゃ」
「K先生は富永総合病院を頼ればいいのではとアドバイスを」
「富永? ああ、何年か前までKの所にいた若造か。確かにあいつの病院なら打って付けだ」
TETSUは一人の助言を前向きに検討し、車を進める。
(やれやれ。何とか誤魔化せたかな)
一人からのメッセージはあくまで富永からゴローとさりながアイの居場所を探していると伝えられたこと、目的地に着き次第連絡して欲しいとだけ書かれているだけだった。
譲介はTETSUに秘密が暴露されないよう話をでっち上げたのだった。
(やれやれ。まさか16才のアイドルとは。普通の患者ではないと思ってはいたけど。それにしても、KAZUYAさんの患者か。くくく。確かにこれは会わせた方が面白そうだ!!)
いつも一方的に物事を進めるTETSUに一泡吹かせられると、譲介は内心ほくそ笑むのだった。
「アイ! お前の帝王切開を手伝ってもらう助手を連れて来たぜ!」
不敵な笑みを浮かべアイに譲介と一也を紹介するTETSU。
『……!』
診察台に腰掛けているアイの姿に二人はしばし言葉を失う。予め話には聞いていたが、未成年アイドルの妊娠姿がこれほど倫理に訴えかけるものなのかと。
「若いね~~。私と五才も違わない感じだからお医者さんの卵かな? 二人とも何か抱えてそうな雰囲気。特にそっちの子は……
「! 正解だ。確かに僕は君と同じ孤児だ」
指差されたことで譲介は観念するように自らの出自を告白する。
「やったー。正解! それでもう一人の卵さんはぁ。一見幸せそうだけど何か後ろめたいモノを隠してる。多分だけど、母子家庭じゃない?」
「! ああ、よく分かったね」
「うん。だって私も父親の顔知らないから。そこは私に似ているかと思ったけど……何だろ? もっと違う秘密を抱えてる感じもするなー」
(まったく、大したものだ。一瞬で僕たちの心を鷲掴みにした。あの人が入れ込むわけだ。間違いなく彼女は一流のアイドルだ)
たった一言交わしただけで相手の本質を捉えて自分のペースへと引き込む。ステージで多くの人を見続け魅了してきたからこそ出来る技だと、譲介は感心する。
「確かに手術は人手が欲しそうだけど身内で固めるとか、せんせぇも徹底してるねー。でも帝王切開だとここの衛生環境じゃリスクありそうだけど、その辺りもお知り合いの病院で密かにやるとか?」
「察しがいいな。富永総合病院という所でやる予定だ」
「えっ? それって……」
今まで笑顔を保ち続けていたアイの顔が僅かに曇りかかる。話には聞いている。さりなちゃんが入院していて奇跡の大手術を受けた病院だ。あんな光の塊のような病院が闇のお医者さんと繋がりがあるのは想定外だと。
(遅かれ早かれさりなちゃんは私を探し出すとは思ってたけど。予想より早くなりそう)
「さてと、顔合わせも済んだことだし、今日の診察は終わりだ」
「うん。ありがと、せんせぇ」
さりなちゃんと近いうちに鉢合わせることになる。その心構えしておこうと思いつつアイが立ち上がろうとした瞬間だった。
「アイ!」
廃院に響き渡る純粋で大きな叫び声。
「えっ!? もう!? それにまさか、隣にいる人って……」
アイはさりな本人よりも付き添っているゴローの姿に驚いた。
「嘘でしょ? 宮崎県だよね? なんで、来ちゃうのかなぁ……」
その瞬間アイは、人生初の困惑顔をするのだった。
原作では自然分娩という感じの描写でしたが、一也と譲介を絡ませる意味合いと富永総合病院を舞台としたかったので、帝王切開としました。
役者が揃ってきたところですが、アイの出産は3話先となります。