推しのスーパードクター   作:衛地朱丸

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「俺が推すと言ったのは病室の中で苦しみにもがきながらも、目をキラキラにさせながらまっすぐ夢を見てた君の事だ」
「あの時の君は、アイよりずっと眩しかった」
嘘で塗り固められた笑顔より、純真無垢な笑顔の方が勝る。そんなゴローのさりなちゃんへの思いから、アイとは対極の存在であると描きました。


カルテ5:プラネタリウムと星の海

「バカバカバカ! アイのバカー!! どーしてなんにも言わないで居なくなっちゃったの!? 妊娠してたならヘンなお医者さんじゃなく、せんせーに頼めば良かったでしょ!?」

 アイの顔を見た瞬間、さりなは涙混じりの叫び声を上げる。

「あ~~あ。分かってないなぁ、さりなちゃんは。()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて許せた?」

 自分の気遣いが無碍にされてしまったことに、アイは若干ムッとして嫌味混じりで答える。

「うっ……くっ……」

 アイに図星を突かれたことに、さりなは言葉を紡ぐ。勢い任せで言ってしまったが、確かにそれは悔しくてたまらないと。

「成程。大方事情は飲み込めた。アイのグループメンバーか。しかしどうやってここを?」

「ククク。僕がK先生に伝えたんですよ」

 してやったりと笑みを浮かべて譲介が暴露する。

「テメェの仕業か譲介! 一体何の目的で!?」

「まあまあ落ち着いて。彼女は天童寺さりな。察しの通りB小町のメンバーの一人。そして付き添っている男性は、彼女の主治医雨宮吾郎」

「医者か!」

「ええ。そして彼はKAZUYA先生に助けられて産まれたそうですよ」

「なぁぁぁにぃぃぃっ! Kの野郎にだとぉぉぉぉっ!?」

 KAZUYAの名が出た瞬間、TETSUの顔が激しい形相に豹変する。

「!! あなたは、K先生のことを知ってるんですか!? 教えてください、あの人はどんな先生だったんですか!!」

 TETSUの尋常ならざる反応にただならぬ関係だったことを察したゴローは、必死に問い質そうとする。

「あの野郎との因縁を挙げたらキリがねぇ! 初めて会ったのは某国で俺が不死身のコールドトミー兵士を造ろうとしていた時! その後もドーピングに引っかからねぇ新型薬物造って試してた時にライバル選手のコーチとして現れてよぉ! いつもいつも俺の前に現れては妨害ばっかりしてくるヤな野郎だったぜ!!」

「あー。この感じ似てるなー」

 自分に対抗心見出しそうにするさりなちゃんソックリだと、アイはどこか嬉しそうだった。

「奴に勝ったことは一度もねぇ! いつかは負かしてやろうと思ってたのによぉ……勝手に死にやがって! 勝ち逃げして彼岸に渡りやがって!! 本当に許せねー!!」

「!? 待ってください! 亡くなった……。嘘でしょそんな……。屈強なスーパードクターだって聞いていましたよ、そんな素晴らしい人がどうして……」

 TETSUを通したKAZUYAの勇姿に心躍らせながら聞き入っていた中耳に入った訃報。あまりに想定外のことにゴローは取り乱してしまう。

「癌だとよ。覚えておけ小僧。どんな優れた医者でも病には勝てない場合があるってことを」

「はは……。そんな……。もう居ないだなんて……。一度でいいから会いたかったなぁ。そして『あの時あなたに助けられた子供です! あなたのような素晴らしい医者になりたくてずっとずっと背中を追い続けてました!!』って伝えたかったなぁ……」

 ほんの僅かな時間で構わなかった。自分を産んでくれたお礼を言いたかった。その細やかな願いが永遠に叶わなくなったことを悟り、ゴローは慟哭する。

「!……」

 寸での所で一也は口を紡ぐ。これだけ慕っていた人だ。自分がKAZUYAさんのクローンであることを伝えたい。しかし、悲しみに打ちひしがれている彼に今言うべきではないと。

(ケッ! 羨ましい野郎だぜ。顔も合わせたことねぇ癖に、命を助けられたと感謝し泣いてくれる男がいるなんてよぉ……)

 やっぱりテメェは偉大な医者だぜと、TETSUは亡きKAZUYAに賞賛を送るのだった。

「いいだろう。テメェをサブに任命してやる!」

 ゴローの動揺が鎮まったのを見計らってTETSUは提案する。

「サブ?」

「こう見えても俺は忙しくてねぇ。予定帝王切開日に組の抗争で組長が撃たれたから手術してくれと急患が入る可能性がなくもねぇ。さっきまでの会話から察するに専門は産婦人科だろ? 万が一のバックアップ要員にしてやるってんだよ!」

「俺が、アイの? 謹んで承ります!」

 ゴローは即断した。

「うーん。私の意見を聞かないで勝手に決めないでくれるかなぁ」

 医者同士で盛り上がって患者の意見を聞き入れないのかと苦言を呈するアイ。

「一度せんせーと二人きりで話し合っていいかなぁ」

「ああ。俺も一度君とちゃんと話してみたかったんだ」

 そうしてアイは廃院の屋上にゴローを招くのだった。

 

 

「うーん。やっぱり都会じゃ星空はよく見えないなぁ」

 街明かりに照らされいくつかの一等星が僅かに輝く夜空をバックに、アイは両手を広げて呟く。

「どうして受けちゃったの? 絶対にさりなちゃん怒っちゃうよ?」

 自分の警告はせんせの耳にも届いたはずなのにと、アイは後ろ向きで顔だけ振り向きゴローに訊ねる。

「それは君がさりなちゃんの命の恩人だからだよ!」

 そう言い、ゴローは深々とアイに頭を下げる。

「せんせ?」

「ありがとう! さりなちゃんは君に憧れて君ようなアイドルになりたいと夢見ていたらこそ、病に抗って生き続けることが出来た!! さりなちゃんの生きる糧になってくれて本当にありがとう!!」

 K先生には伝えられなかった。だけどアイにはずっとずっと言いたかった感謝の言葉をやっと伝えられたと、ゴローの心の蟠りは一つ解消した。

「あくまでさりなちゃんの、ね。せんせ、一言目、二言目にはさりなちゃんだよね」

 今まで自分を推してくたファンは何十人、何百人といる。誰も彼もが私の輝きに目を奪われて応援してくれた。だから初めてだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(これが〝愛される〟てコトなんだね。あ~~あ。本当に……)

 

うらやましいなぁ

 

 そうアイは無自覚的に心の中で呟くのだった。

 

 

「私が命の恩人? それは勘違いじゃないかなぁ」

 確かに私は彼女の生きる意味の一つだったかもしれない。だけどさりなちゃんを本当に支え生きる意味を与えてくれたのはせんせだよと、アイは言いたげだった。

「確かに。デビューしてからのさりなちゃんからのメッセージは、君への愚痴で満たされている。憧れだった存在に拒絶されてるって」

「そういう意味じゃないんだけどなー」

 せんせこそが一番大切な人だってことに当人が酷く無自覚だ。流石にさりなちゃんが可哀想だなと同情するアイだった。

「だけどね。さりなちゃんを通して聞く話を読み取ると、どうにも俺には君が嫌っているようには見えない。さりなちゃんは私のようなタイプのアイドルには決してなれない。そう言いたいんじゃないかって」

「そういうところは察しがいいんだねせんせ」

 ハァと溜息を吐き、アイは観念するようにゴローの方に身体を向ける。

「せんせ! 私はね、プラネタリウムなんだよ! 春の星座に冬の星座、銀河系の果てまで何でもござれ! お好みの星空をハイどーぞ!! 星空に星図だって描けちゃうし、何だったら物語だって映せちゃうよ!! 空調の効いた部屋で心地よい座イスと癒やされる音楽を奏でて、造り物の星空で人々を魅了する。そんな言葉通りの偶像(アイドル)!!」

 そう軽いステップを踏みながら自分が何者であるかを披露するアイ。

「対してさりなちゃんは本当の星空。こんな夜景塗れの都会じゃ全然映えないつまらない存在。だけど……」

「だけど?」

「都心から離れて苦労して山に登って、何にもない山頂で見る星空。人工の明かりが一切のない宵闇の夜空を照らす壮大な星の海を目の当たりにした感動には、プラネタリウムじゃ絶対に敵わない!!」

「巧みな技で造られた偶像ではなく、実像をありのままに映し出した君とは真逆のアイドル。その可能性をさりなちゃんは秘めてるってこと?」

「そそっ。今はまだ都会の一番星。だけどいつかは満点の星空でも決して色褪せない一等星(シリウス)に彼女はなれる! だからね、嘘に嘘を重ねた私のようなアイドルを目指しちゃいけない」

「……。辛いことだね。さりなちゃんは君に憧れて君のようになりたくってアイドルになったのに、君の背中を追いかけるのが誤った道だなんて」

「うん。私は世界で一番のプラネタリウムだからね! どんなに私を追いかけたって二番煎じでパクりなプラネタリウムにしかならないよ」

「これは手厳しい」

「だからね、私はさりなちゃんが自分を目標にすることを全力で阻止する。嫌われたっていい、蔑まされたっていい。あなたじゃ絶対プラネタリウムにはなれないって分からせたい。口で言ったって嫌味にしか聞こえない。だからさりなちゃん自身が自分で気付けるようになるまで、私はヒドイ先輩を演じ続けるんだ」

「……。心から可愛い後輩だって思ってるんだね、さりなちゃんを」

 さりなちゃんの話の中に垣間見えたアイの優しさの正体がやっと分かってゴローは安堵した。

「今のこと、せんせも絶対にさりなちゃんに言っちゃダメだよ」

「分かってるさ。君の予定帝王切開日には必ず来るから。それじゃ」

 そうしてゴローは一瞥し、来たる日に備えて宮崎へと帰るのだった。




ゴローとアイが病院の屋上で語り合うのは原作リスペクトですね。同じようなシチュエーションでも意味合いが全く異なるという。
原作ではゴローがアイを一番星だと例えましたが、アイがさりなちゃんこそが一番星だと。

さて次回は読む人にとって「そう来たかー」、「やっぱそうなるかー」と二分する展開になるかと思いますので、お楽しみに。
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