推しのスーパードクター   作:衛地朱丸

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突発的に思い付いたエピソード第二弾です。


カルテ9:母との決別

「せんせぇってさぁ、この子たちのお父さん探してたんだよね? なんで私のお母さんまで?」

 TETSUの車で居場所へと向かう最中、アイは疑問をぶつける。

「お前の関係者シラミ潰ししてたら、たまたま見つけただけだよ」

 偶然を装うTETSUではあったが、その実平行して捜索していたのであった。

「この人顔に似合わずお人好しなんですよ。僕の母親も頼みもしないのに見つけてくれたし」

 アイが母親とどう向き合うのか興味があり同行した譲介が軽快な声で語る。

「顔に似合わずは余計だ!」

「へぇ~~。譲介くんは、ちゃんとお母さんと決着付けられた?」

「ええ。母は他の男と再婚していて異父弟を授かってしました。その弟が胆道閉鎖症を患っていて、僕が生体肝移植のドナーになりました」

「うわぁ、重いなぁ。肝心のお母さんとはちゃんと会えたの?」

「いえ。ただ僕はずっと母に捨てられたとばかり思ってました。だけど、思い直して置き去った場所に戻ろうとした矢先交通事故に遭い、そのまま生き別れとなった。母の愛は間違いなくあった。その事実を知れただけで十分です」

「そっかぁ。ちゃんと心の整理は付けられたんだね。私もちゃんと聞かないと!」

 今更親子の関係を修復しようなどとは露ほどにも思わない。けど、何故釈放された後自分を迎えに来なかったのか、その真相は問い質さなければと。

「じー」

 移動している最中だった。アイと譲介の間に挟まって腰掛けてるルビーが、ジッと譲介の顔を見つめる。

「ど、どうしたんだいルビーちゃん?」

 変な顔でもしてしまったのかと恐る恐る訊ねる譲介。

「イケメン! だっこー!!」

 どうやらお気に入りの顔だったらしく、ルビーは本人の了承を得ず膝上に乗っかる。

「ちょっと!? アイさん! ルビーちゃんを!!」

「いいんじゃない? 産まれて初めてルビー抱いたのは譲介くんなんだから」

「誤解を招く表現はやめてください!」

 確かにお腹の中から抱き上げたのは他ならぬ自分だが、第三者が勘違いするような物言いはと苦言を呈する譲介。

「なんだかなつかし~~」

 本能的に覚えているのだろう。まるで極上のソファーに座ったかのようにルビーは上機嫌だ。

 

 

「着いたぜ」

 TETSUに案内されたのは、田舎にある築数十年は経っている古びた木造家屋であった。

「へぇ。こんなオンボロアバラ小屋に十数年住んでるんだ~~。私と二人暮らしで男連れ込んでた時は見栄張って立派なマンション住んでたクセに」

 車が到着するや否や、アイは皮肉たっぷりの評価をする。

「こんにちは~~あゆみさぁん!」

 アイはわざとらしい明るい声で実母の名を叫ぶ。

「聞かない声だねぇ。保険のセールスならお断りだよ!」

 厄介な客が来たから追っ払おうと、渋々軒先に顔を出すあゆみ。

「!? アンタは!?」

 忘れたくても忘れられない娘の顔を前に、あゆみは狐にでも摘ままれた顔をする。

「ここって確かおばあちゃんの家だよね? ちっちゃい頃何回かしか来てないから、私一人じゃ見つけられなかったなー」

「なっ、何しに来たんだい!?」

 突然現れた娘とどう接したらいいか分からず、ただただ戸惑うばかりのあゆみ。

「安心して。別に実家のような安心感も抱かない所に帰省しに来たわけじゃないから。たった一、理由を聞きに来ただけ」

「理由?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 首を45度傾け、絶えず星のように輝いていたアイの瞳が、ブラックホールのような深淵に染まる。

「!?」

 それは捨てられた身からすれば当然の質問だった。しかし、当のあゆみは即座に答えられなかった。

「私がいると家に男を連れ込めないから?」

「そっ、そうだよ! まだ10にもなってないのにアンタのお父さんになるかもしれなかった人に色目使ってさ! 鬱陶しくて仕方なかったよ!!」

 違う。色目を使ったのは男の方で、アイは何もしていない。けど、娘に嫉妬していたとは口が裂けても言えず、売り言葉に買い言葉で罵詈雑言をぶつけてしまうあゆみ。

「ふーん。私がウザかったから、ね。お縄になって無理矢理離ればなれになって清々したってコト?」

「そうだよ!」

「分かった分かった。お母さんは私を愛してなかった。改めてそれが分かっただけで十分。さよな……」

 プイッと振り向き踵を返そうとするアイだったが、わざとらしく踏み留まる。

「あーそうそう。もう一つ用があったんだぁ」

 振り返り、わざとらしい演技がかった顔で呟くアイ。

「何だい? この期に及んで」

「じゃーん☆」

 玄関の横に身体を退け、隠れるように控えていたアクアとルビーを見せるアイ。

「まさか!?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その事実をちゃあんと伝えないと思ってね」

「アンタまだ20にもなってないだろ!? なのにもうこんな大きな子を!!」

「3歳だよー。立派に育ったでしょ?」

「父親は誰なんだい!?」

「えー。一度も私を父親に会わせたことないお母さんに、それ言う資格ある?」

「!?」

「あー。もうおばあちゃんだった。メンゴメンゴ横槍メンゴ♪」

「アンタって子は!!」

 アイの畳みかけるような挑発に堪忍袋の尾が切れたあゆみは、思いっきりビンタしようと手を振りかざそうとする。

「……!」

 しかしまっすぐと天に向けて上げたところで、あゆみはピタッと手を止める。

「どうしたの? 昔みたいに殴らないの?」

「なっ、殴れるわけないでしょ……」

「どうして?」

「だってまた殴っちまったら、今度こそアンタとの親子関係は破談だよ! 思いがけず娘と再会出来たってのに、もう手放すのはご免だよ!!」

「もう二度と私を傷付けたくないから。それがお母さんの本心なんだね」

 やっと聞けた。心の奥底にしまい込まれていた、母の本当の気持ちを。憎くて妬ましくて。それでもお腹を痛めて産んだ子供への愛は完全に捨て切れずにいた。刑務所に収監されて窃盗の罪は償えたけど、愛娘への贖罪までは出来なかったんだね。そう憐れむアイの顔は、もう母親への憎悪は無くなっていた。

「ほらほら。アクアにルビー。ちゃんとおばあちゃんに挨拶しないと」

 2人の背中トンと押し、挨拶を促すアイ。

『はーい。さよならクソババア!!』

 これからおばあちゃんに会いに行く。私が挨拶してって言ったら、思ったことをそのまま口にするんだよと二人に伝えていたアイ。

 アクアとルビーは子供心に最低な人間だと思い、実祖母に向かって揃ってアッカンベーするのだった。

「てへぺろ☆」

 そして子供たちに合わせるように、アイも目元を指で挟む込むような顔をして舌を出す。

「!!」

 その顔を見て、あゆみはハッとした。この子はこんなにも憎たらしくも愛おしい顔をするのかと。

 クソババア。口論の果てに子が母親に向かって叫ぶ常套句だ。

 思えば一方的に虐待するばかりで、一度も対等な立場で言い争ったこともなかった。これが最初で最後の本気の親子喧嘩だ。

 それはあり得たかもしれない未来。盆や正月に娘が孫たちを連れて帰省し、はしゃいでこっぴどく怒られる孫たちを微笑ましく見守る。そんな有り触れた日常でさえ自分は永遠に手に入れられないのだ。全ては我が子を抱き締め母としての愛情を与えられてあげられなかった己の罪と罰なのだ。

「二度と来るんじゃないよクソガキども!!」

 そう叫ぶあゆみの顔は、悔いや蟠りを洗い流した涙で溢れていた。

 

 

「あースッキリした!!」

 帰りの車中、言いたいことを言い切ったアイは満足げだった。

「僕のようにはいかなかったようだけど、それでも納得のいく形でケリを付けられたんですね」

「うん! 私のお母さんも君のお母さんほどじゃなかったけど、私への愛を捨て切れずにいた。それが分かっただけで十分」

 もう一生涯会うことはないだろう。いや、会う必要は無いだろう。ちゃんと精算出来たんだからと、アイの顔は清々しい笑顔で満たされていた。

「せんせぇもありがとー。お礼に私の子供たちにじぃじと呼ばれる権利を与えようぞ~~♪」

『ありがとぉ、じぃじ!』

「やめろ!!」

「もう還暦間近なんだから、観念して認めたらどうです? じぃじ」

「譲介! テメェまで!!」

 皆のおちょくる態度を煩わしく思いつつも、TETSUは心のどこかで悪くないと思っていた。

 ついぞお袋には兄さんとの再会も果たせず孫の顔を見せることも出来なかった。もしも授かった子供が成長して嫁をもらって孫を連れ出してきたら、きっとこんな感じなんだろうなと。

 

 

「調子はどうだい? ドクターTETSU」

 数日後。TETSUは都内の高級バーである男と酒を交わしていた。

「いやぁしかし。芸能界の裏に通じた者で君の名を知らない者はいない。大手プロダクション社長や大物ディレクターほど畏れをなし、君の名を出した瞬間顔面蒼白になるというのに。命知らずな者もいるもんだねー」

 どこは含みのある話をする男の名は鏑木勝也。インターネットTV局所属のプロデューサーである。

「斉藤社長に君のことを紹介したのは僕だからねー。一定の責任は感じているよ」

 アイと関連のあった人物の資料を洗いざらい出せ。鏑木はTETSUの要望に素直に応じ、渋る相手にはTETSU本人や関係のある反社の名を出しては脅し、せっせとかき集めて定期的にTETSUに提供していたのだ。

「アンタには感謝してる。お陰でホシは掴めたぜ!」

「へぇ。流石だね。口外は当然しないから僕にだけ教えてくれない?」

 それくらいの見返りはあっても当然だろうと、鏑木はTETSUの耳元に囁く。

カミキヒカル

「!!」

 その名を出されて鏑木は冷や汗をかく。自分が大学時代所属していた『劇団ララライ』。そこの天才的とさえ言われた子だ。しかし彼は確かアイくんの一つ下。そんな彼がと。

「で、どうするんだい? 報復するのかね?」

「ククク。これでもオレは医者なんでね。医者らしい制裁を加えてやるぜ!!」




原作ではアイは実母との再会は叶わなかったのですが。元々探す気も無かったとは思うのですが、母親の居場所を知らなかったのではないかと思い書きました。
結局は決別になるのですが、原作よりは救いのある結末かなと。

さて、いよいよラスボスの登場ですが、原作だとアクアが辿り着くまで十数年かかりましたが、TETSUは裏社会に通じているので3年で掴んだという。
どういう制裁をするのかは今後のお楽しみということで。
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