ここ悪の組織じゃね?ヤバ 作:駆け出し旅人
「いやぁ、噂通りに期待以上の強さだ」
と、俺に新しく出来た友人が地面にぶっ倒れたまま言った。
「そりゃどうも。ったく、いきなり喧嘩ふっかけてきやがって。何がしたかったんだ」
「言っただろ? 戦ってみたかったのさ」
いつの間にやらカッコいい甲冑を脱いで、元通りの爽やかイケメンフェイスを晒していた彼、タルタリヤは痛そうに頭を押さえる。
俺がぶっ叩いて出来たたんこぶが腫れ上がっていた。
「あぁ、そう。満足したか?」
「まあね。負けたのは残念だけど、そこは伸び代があるってことさ」
タルタリヤは地面に座ったまま、にっと笑ってこちらを見上げてくる。つい今しがたボコられたくせにずいぶんと楽しそうだった。
それからその場で立ち上がろうとしてふらつく。
「おっと。まだ足にきてるな」
「大丈夫か?」
「平気さ」
「ならもうちょい強めにしばいとくべきだったか」
「ああもうダメ! 死にそう! ……くっ、あはは」
本当に楽しそうな奴だ。
怪我を治すくらいのことは俺にもできるが、やっても面倒そうだからこのままにしておいてやろう。
「そういえば、君、冒険者協会以外でなにかの組織に所属してたりする?」
「うん? どうした唐突に。別にしてないぞ」
この剣と魔法のファンタジー世界に異世界転生してから、早十数年。
クソほど治安の悪いこの世界だったが、それでも俺の厨二心をくすぐるには十分だった。
いつの間にか持っていた、神の目とかいう魔法を使うためのアイテムと共に、心躍る冒険者生活を……悲しいかな一人で送っていた。
「へぇ、そうかいそうかい。なるほどね」
「なんだよ、気色悪いな」
「おいおい酷いなぁ。これから素晴らしい提案をしてやろうっていうのに」
「鬼になれ、みたいな?」
「なんで鬼が出てきたのかはわからないけれど、まあいいや。君、ファデュイに来ないかい?」
「ファデュイ?」
ファデュイというと、確かスネージナヤとかいう国の軍隊だったか。
軽く話を聞いたところでは、科学技術的なサムシングが発展していそうな国ということで、興味を失っていたのだけれど、まさかこんなところで関わることになるとは。
「勧誘されてるのか、今」
「そうだよ。戦ってみて分かったけれど、君と俺はよく似てる」
「そんなにチャラいつもりはなかったんだけどな」
「戦うのを楽しんでただろう? 普段は振るう機会の無い強大な力を振るえて心が躍っただろう?」
「そんなことないとは……言えないな。確かにその通りだ。ここ最近で一番楽しい時間だった」
そこまで派手な戦いをした経験が少ないのもあるが、それにしたってタルタリヤは強い相手だった。
「だろう。きっと君の性に合っていると思うよ」
「……ちょっと考えておくよ」
「是非そうしてくれ。もしファデュイに入りたくなったらいつでも言ってくれよ。女皇に推薦してあげるからさ」
「推薦って……おいおいどうやってだよ」
「うん? あれ、もしかして気づいてなかったのかい? タルタリヤって名乗ったはずなんだけどな」
変なことを言い出すタルタリヤ。俺は首を傾げて。
「なんだ? お偉いさんだってのか? そのノリで」
「そうだよ。俺はファデュイ執行官第十一位『
「それはそれは。失礼いたしました『公子』様」
恭しく礼をしてみせる。
「てことは俺に絡んできたのはスカウトのためってことか」
「いや? 戦ってみたいが本題だけど」
「上の人間が戦おうとするなよ」
「執行官は実力主義だからね」
「なんだ。ただの兵士長じゃないか」
「まあそうともいえるかもしれないな」
からからとタルタリヤは笑う。
俺は頭を掻いて。
「ともあれ、今はそこまで興味もわかないな。悪いが断らせてもらう」
「そうかい。そりゃあ残念だ、あ〜あ、今日はちょっといいところで飯食ってから帰るかな。君も来るだろう? 奢るよ」
「俺は断ったんだからご機嫌取りは……いや、それでけっこう金持ちだったりするのか?」
「どうだろう、給料なら俺はまだまだ執行官になってから日が浅いけど、これくらい貰ってるね」
「なるほどね」
タルタリヤから金額を聞いた俺は、彼の肩に手を置く。
「是非ファデュイに推薦してくれ」
「思ったより現金な奴だね君は」